バスの中で、子どもがはしゃぎすぎてヒヤッとしたことはありませんか?

 今回は、そんな場面で思わず「なるほど」と感じてしまう注意のしかたを目撃したエピソードをご紹介しましょう。

車内に広がるヒヤッとする空気

 ある日の仕事帰り、原田佳苗さん(仮名・32歳)は、いつものように路線バスに乗っていました。

「いつものように、つり革につかまりながら揺られていると、後部座席からやたら元気すぎる声が聞こえてきたんですよね」

 振り返ると、小学校低学年くらいの男の子が、靴のまま座席に上がり「うわー! ジャンプ! 見て見てー!」と、ぴょんぴょんと飛び跳ねていました。


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「男の子は手すりを叩いて、笑って、またジャンプ、とすごいテンションで。近くの人が困った顔で『危ないよ』と声をかけても、全く聞く耳を持たない感じでした」

 その様子に、車内には少しずつ緊張した空気が流れ始めていました。バスは揺れますし、急停車することもあります。転倒すれば大きなケガにつながりかねません。

 佳苗さんが「これはさすがに……」と一歩踏み出そうとした、その瞬間でした。

年上の男の子が見せた意外な行動

「ふと前方の座席から小学校高学年ぐらいの男の子が立ち上がり、その子の前まで歩いてきたんですよね」

 年上の男の子は怒るでもなく落ち着いた様子で、騒いでいる子の目線に合わせるようにして、ゆっくり声をかけました。

「それさ、“バスのステージ”やってるの?」

「え?」と、騒いでいた子の動きがピタリと止まったそう。

 おそらく「バスのステージ」という有名なゲームは存在しません。けれど高学年の男の子は、この場をあえてゲームに見立てることで、相手の興味を引きつけようとしたのです。

ゲームオーバーという言葉で伝えた危険

「高学年の子が『だったら、ジャンプするとゲームオーバーのやつだよ』と真っ直ぐに見つめると、騒いでいた子の表情が一変したんですよ」

 騒いでいた子は目を真ん丸にして「え、なにそれ?」と食いついてきたそう。

 高学年男子は、あくまで真顔のまま「急に止まったらドーンってなって、はい終了。しかもコンティニューなし」と説明を続けます。

バスで暴れ回る小さな子を「叱らないで静かにさせた」少年の凄技とは? そして車内に笑顔が広がった
※画像はイメージです
 バスはいつ揺れるか分かりません。立ったりジャンプしたりしていれば、バランスを崩して転倒、怪我をしてしまう……つまりゲームオーバー。
子どもにも分かりやすい形で、「危ない行動」を自然に伝えているように聞こえました。

「すると周囲から、フフッと小さな笑いが漏れたんですよね」

 空気が少し和らぎます。説教ではなく、あくまで遊びの延長のようなやり取り。それが、場の緊張を和らげていきました。

少年が導いた、笑顔の結末

「騒いでいた男の子が『えー?』と考えこんでしまうと、その様子を見た高学年男子が少しだけ口元をゆるめて『でもちゃんと座ってたら、ぜったい最後までクリアできるよ』と、彼を見つめながら伝えたんですよ」

 ちゃんと座っていれば安全に目的地まで行ける。それをゲームクリアという形で伝えることで、行動のゴールを分かりやすく伝えたのです。

「すると騒いでいた子は、少し迷ったあとゆっくりと座席に座り直し『じゃあ座る』と大人しくなったんですよね」

 あれほどはしゃいでいたのが嘘のように、静かに座り直すと、高学年の男の子は「それに、その方がかっこいいしね」と軽くうなずいたそう。

 そして彼は、何事もなかったかのように自分の席へ戻っていきました。

「私は思わずその背中を目で追ってしまいました。怒るでもなく、押さえつけるでもなく、でもちゃんと騒ぐ子を静かにさせ着席させた凄技に、なんだか胸を打たれてしまったんですよね」

 車内には、どこかほっとした空気が流れていたそう。

 後ろの方からは「説明うまいなぁ……」「大人より大人だね」そんな声が聞こえてきて笑顔が広がり、佳苗さんもつい大きく頷いてしまいました。

「見ず知らずの男の子に、頭ごなしに叱るのではなく、相手の世界に寄り添いながら伝えることの重要性を教わりました。
そして、その方がより相手の心に響くし、周りも笑顔になれるということも」と微笑む佳苗さんなのでした。

<文・イラスト/鈴木詩子>

【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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