2026年5月31日、イギリスのチェスター動物園は、ケニア南西部に位置するマサイ・マウの森で「マウンテンボンゴ」の姿が確認されたと発表した。
マウンテンボンゴはケニア固有のレイヨウで、この地域では5年以上にわたって確かな生息の記録がなく、姿を消した可能性も指摘されていた。
だがその姿がカメラで複数確認されたことで、この森に今も個体群が生き残っている可能性が浮上した。
マウンテンボンゴをめぐっては、近年、飼育個体の再導入計画も進められており、今回の発見はその成果を占う上でも重要な出来事となっている。
トレイルカメラに映った希少種「マウンテンボンゴ」
今回公開された画像は、2025年から行われてきた調査の中で、マサイ・マウの森に設置されたトレイルカメラで撮影されたものだという。
チェスター動物園によると、そこには年老いたオスとみられる個体に加え、若いオスとメスの姿も写っていた。
マサイ・マウはマサイマラ国立保護区の北東に隣接する森林地帯で、保護区を流れるマラ川などの水源でもある重要な森だ。
この森ではこれまで5年以上にわたり、マウンテンボンゴの野生個体の確実な目撃例はなく、地域絶滅したのではないかと懸念されていた。
そのため彼らの野生での生息地は、ナイロビの北に位置するアバーデア山脈の狭い範囲にまで縮小してしまったとする見方が大きくなっていた。
ところが今回、アバーデア山地から約200km離れたマサイ・マウで、彼らの姿が再び、しかも複数確認されたのだ。
保全関係者にとって、これは思いがけない喜びだった。絶滅したと思われていた場所で、まだ彼らが生息していたことがわかったのである。
「幻のレイヨウ」マウンテンボンゴ
マウンテンボンゴ(学名:Tragelaphus eurycerus isaaci)は「ケニアボンゴ」とも呼ばれるレイヨウ(ウシ科の動物)の仲間である。
赤褐色の体に白い縦じまを持ち、長くねじれた角を伸ばす、アフリカ最大級の森林性レイヨウである。レッドリストでは、絶滅危惧IA類に分類されている。
彼らは非常に慎重な性格で、森の奥でひっそり暮らしている。
保全関係者でさえ、その個体数や行動を把握するには、足跡や糞、カメラトラップの映像に頼らなければならなかったのだ。
2018年に確認されたものと同じ個体の可能性
イギリス北西部チェシャー州にあるチェスター動物園[https://www.chesterzoo.org/]は、長年にわたりマウンテンボンゴの保全繁殖に関わってきた。
また、ケニアでは保全団体「マウンテン・ボンゴ・プロジェクト[https://mountainbongo.org/](MBP)」も、現地レンジャーと協力しながら野生個体の調査や生息地の保全を続けている。
今回、トレイルカメラに捉えられたこの年配のオスは、2018年にMBP諮問委員会のメンバーであり、チェスター動物園の保全担当者トンマーゾ・サンドリ博士によって、初めて特定された個体とみられている。
つまり、彼らは突然別の場所からマサイ・マウにやって来たのではなく、2018年以前に生息していた個体群が、今も同じ場所で生きている可能性が出てきたのだ。
サンドリ博士本人も、今回の確認を大きな出来事として受け止めており、次のように説明している。
これは非常に大きなニュースです。アバーデアと違い、マサイ・マウは国立公園ではありません。ボンゴの再出現は、この地域のより広い保護強化に組織の関心を向けさせるかもしれません
また、MBPの運営責任者オスカー・ダイアー氏も、この「再発見」についてこう語っている。
写真を初めて見た時、キャンプの興奮は信じられないほどでした。この画像は、ケニアでも特に近づきにくい森林の1つで、現地のレンジャーたちが何年も重ねてきた努力の成果です
野生下での生息数が頭打ちな理由
ただし、喜んでばかりはいられない。チェスター動物園などが2025年に行った高性能カメラによる調査では、アバーデア山脈で確認された野生のマウンテンボンゴは、28頭にとどまった。
ケニア野生生物公社(KWS)[https://kws.go.ke/]によると、2019年の野生個体数は96頭、国内で保護下にある個体数は77頭とされていた。
しかし、レンジャーの目撃情報も踏まえても、現在の野生個体数は100頭未満、アバーデア山脈に限ると最大でも40頭未満である可能性が高いという。
なぜ(野生の)個体数が増えないのか、はっきりとした理由を特定するのは困難です。調査によると、彼らが生息域を拡大できる可能性のある場所はまだ存在しています。
おそらく個体数が非常に少ないため、自然な捕食レベルによって、個体数が抑制されているのでしょう。
つまり、個体数は安定しているものの、その規模は小さく、高齢化が進んでいるということです
飼育下で育てた個体を再導入する計画が進行中
では保護下ではどうかというと、現在、約900頭のマウンテンボンゴが、チェスター動物園をはじめとする海外の保全動物園や、ケニア国内の保護区などで飼育されているという。
2022年にはマウント・ケニア野生生物保護協会(MKWC)[https://mountkenyawildlifeconservancy.org/]によって、マウント・ケニア森林保護区内にマウンテンボンゴ専用の野生保護区「マウィング・マウンテンボンゴ・サンクチュアリ」が開設された。
2026年5月には、2004年にアメリカから戻された18頭の子孫を中心に、保護下にある個体数は102頭に増えたと報じられている。
2026年4月、もうひとつの大きな動きがあった。欧州の動物園で繁殖されたオスのマウンテンボンゴ4頭が、チェコからケニアへ移送されたのである。
これはチェスター動物園とヨーロッパ動物園・水族館協会 (EAZA)[https://www.eaza.net/]、そしてKWSやMKWCなどが関わる国際的な保全計画の一部として行われたものだ。
4頭の名前はそれぞれマウエ、フィッツ、クドゥ、ボン64という。彼らはチェコのドゥブール・クラーロヴェー動物園で検疫を受けた後、飛行機でケニヤに到着。
その後彼らはMKWCに移送され、現地での繁殖計画に加わるため、環境への順化が進められている。
今後は4頭をメスとペアリングさせ、繁殖につなげる計画だという。成功すれば、彼らはマウント・ケニアの個体群を支える重要な存在になるだろう。
今回の「再発見」が将来の保全に持つ意味
チェスター動物園の哺乳類部門責任者、ニック・デイヴィス博士によると、欧州各地の動物園では、健康で遺伝的に強い個体群が維持されているという。
また、MKWCの代表を務めるロバート・アルホ博士は、4頭の導入を重要な一歩と位置付けている。
これらのオスは、私たちの野生復帰プログラムにおいて非常に重要な役割を担っています。
遺伝的価値の高いオスの導入は、繁殖体制を強化し、個体数の増加を早め、ケニアの森林で長期的な回復を支えられるだけの個体群を築く上で、不可欠な役割を果たします
アルホ博士同時に、今回確認されたマサイ・マウの個体群も、マウンテンボンゴの保全にとって重要な意味を持っていると話している。
マサイ・マウの個体群は、マウンテンボンゴにとって重要な遺伝子プールであり、彼らの長期的な保全にとって極めて重要です
MBPの運営責任者オスカー・ダイアー氏も、次のように付け加える。
マウンテンボンゴは、まだ絶滅の危機にあるわけではありません。しかし、そのためには私たちが力を合わせて行動する必要があります。
各組織間の連携は希望をもたらし、知識や保護活動、粘り強い取り組みが、現場での実際の成果に結びつき始めています。
継続的な支援があれば、野生のボンゴがこれからもケニアの森で生き続けられるようにできるはずです
MBPのそもそもの目標は、今後50年で個体数を750頭まで増やすことだという。
この活動が成功すれば、いずれは野生のマウンテンボンゴの個体数の、劇的な増加につながる希望も出てくるのではないだろうか。
References: Bongos are back! Rare antelopes return to forest habitat[https://www.chesterzoo.org/news/bongos-are-back-rare-antelopes-return-to-forest-habitat]











