2022年2月、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した。戦火が広がるなか、人間だけでなく野生動物たちの行動も大きく変わっていた。
ドイツ・フライブルク大学の国際研究チームが、侵攻前後の2021年から2022年にかけて、野生動物保護区となったチェルノブイリに設置した自動撮影カメラの映像を分析した。
すると、戦闘が激しくなるにつれてアカシカやノロジカ、キツネなど複数の哺乳類が夜間の活動を大幅に減らしていたことが判明した。
戦争が野生動物の行動を変えることを科学的に証明したのは世界初だ。
この研究成果は『Science[https://www.science.org/doi/10.1126/science.aed1493]』誌(2026年6月18日付)に掲載された。
人がいなくなったチェルノブイリで暮らす野生動物たち
1986年、ウクライナ北部、首都キーウの北約90kmに位置するチェルノブイリ原子力発電所で大規模な爆発事故が起きた。
周辺約2,600平方km(東京都の約12倍)の地域は立入禁止区域に指定され、人間の居住と自由な立ち入りが禁止された。
皮肉にも、人間がいなくなったこの土地に多種多様な野生動物が住み着き、生物多様性に富んだ場所となった。
オオカミやヘラジカ、ヒグマ、ユーラシアオオヤマネコといった大型動物が闊歩し、人間の目を気にする必要がなくなったアカシカやノロジカ、キツネなどは、昼夜を問わず自由に行動できるようになっていた。
事故からちょうど30年目の2016年、この場所は野生動物保護区に指定され、絶滅危惧種のヨーロッパバイソンや現存する唯一の野生馬であるモウコノウマ(プシバルスキーウマ)も保護目的で再導入された。
ロシアの軍事侵攻が野生動物の楽園を戦場に変えた
2022年2月24日、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始し、ロシア軍はチェルノブイリ立入禁止区域に侵入した。
同年4月1日まで36日間にわたって占領が続くなか、軍の車列が走り回り、砲撃や空爆が絶え間なく続いた。
40年近くにわたって野生動物の楽園だった場所が、突然戦場へと変わった。
研究チームは、侵攻前から設置していた自動撮影カメラ(赤外線センサーで動物が近づくと自動的に撮影する装置)31台のデータを、ウクライナ軍が地雷を除去して区域を確保した後に回収し、2021年の同時期の映像と比較分析した。
戦闘が激しくなるほど動物たちは夜に動けなくなった
分析の対象となったのはアカシカ、ノロジカ、ヘラジカ、キツネ、イノシシなど11種の哺乳類だ。
研究チームは占領中の戦闘の激しさを、軍の車列移動・実弾射撃・空爆・砲撃などを0から10の段階で数値化し、動物の行動パターンと照らし合わせた。
本来これらの動物は、人間の存在を避けるために夜間に活発に行動する傾向がある。
研究チームも当初は、戦争中はさらに夜行性が強まると予測していた。
ところが結果は逆で、戦闘が激しくなるにつれて複数の動物種が夜間の活動を大幅に減らしていた。
砲撃や爆撃、車両の移動音といった、動物たちがこれまでに経験したことのない激しい刺激が昼夜を問わず続いたことで、いつ動けばいいかの判断が難しくなり、夜間の行動を控えるようになったと研究チームは分析している。
戦争が野生動物の行動パターンを変えることを科学的に証明したのは、今回が世界初だ。
戦争は生態系も変える
今回の観察データは2022年のものだ。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は2026年現在も続いており、戦闘はさらに激化している。
野生動物たちへの影響が今どこまで広がっているのかは、まだ誰にもわからない。
人間の活動が生物の行動に影響を与えることは、戦争に限った話ではない。
道路の建設、農地の拡大、都市化など、人間が環境を変えるたびに野生動物はその影響を受けながら生きている。
今回の研究はその普遍的な事実を、戦争という極限状況があらためて証明した形となる。
References: doi.org/10.1126/science.aed1493[https://www.science.org/doi/10.1126/science.aed1493] / Wildlife in Chornobyl is changing its behaviour during Russian invasion – University of Freiburg[https://uni-freiburg.de/en/wildlife-in-chornobyl-is-changing-its-behaviour-during-russian-invasion/]











