イギリスで環境保護活動を行っている人々が、不法投棄されたゴミや堆積物、下水にまみれ、死の川となっていた川の清掃を行った。
川はきれいになり、野生の生き物たちも戻ってきた。
無償で大量のゴミを集め、自腹で重機まで導入して川底を浚ったボランティア活動だったが、「許可をとっていなかった」ことが問題だったようだ。
事前の調査や許可なく川底の泥を掘り返したことで、洪水の危険や生態系の破壊なども指摘され、擁護派と反対派の間で大きな議論を呼ぶ結果となった。
ゴミに覆われた川をボランティアがきれいにした結果
イングランドのエセックス州からロンドン東部へと流れるローディング川の支流、オルダーズ・ブルックの川辺は、かつては豊かな自然が広がっていた。
だが今では、不法投棄された無数のゴミや泥状の堆積物で埋まり、水の流れが大きく阻害されていた。
自然保護活動を行っている弁護士のポール・パウルズランド氏(40)は、その様子について次のように説明している。
厚さ約60cmもの巨大なゴミの絨毯が、川の表面を完全に覆い尽くしていました。(清掃前は)水面が一切見えず、完全にゴミの絨毯と化していたため、その上を歩くことができたほどだったんです
清掃前の川は、水深がわずか10cm程度しかなく、残りの部分はすべて悪臭を放つ不快な汚泥とゴミで埋まっていた。
水流が完全に遮断されていたため、水中には酸素が行き届かず、魚さえ住めない「泥の溝」と化していたのだ。
2026年2月、この状況を見かねたボランティア団体、「リバー・ローディング・トラスト[https://riverrodingtrust.org.uk/](The River Roding Trust)」が立ち上がり、オルダーズ・ブルックとその周辺の大掃除を敢行した。
人力では太刀打ちできない汚泥と不法投棄に対処するため、彼らは1000ポンド(約21万円)の費用を自腹で支払い、小型の重機をレンタルして現場に投入した。
彼らは合計で10日間の清掃活動を行い、泥まみれになりながら、ゴミや木の枝、泥などの堆積物を取り除いた。その量はゴミ袋250袋以上にのぼったという。
ゴミの中からは散弾銃やこじ開けられた金庫、数百本におよぶ薬物用の注射器など、犯罪に関係すると思われる廃棄物も見つかったそうだ。
パウルズランド氏はこの活動で、約250mの区間を清掃したと説明している。
環境庁から法律違反であるとの通知が届く
だが、その後思いもかけぬ展開がパウルズランド氏らを待っていた。イギリス環境庁(EA)により、この清掃活動についての調査が行われることになったのだ。
その結果、河川内での作業に必要な許可を取得していなかった可能性があるとして、環境許可規則に違反した疑いがあることが通知された。
同氏は当局から、刑事訴追の可能性を示されたことを明らかにしている。
環境庁が問題視したのは、彼らが重機を使って川底の泥を許可なく掘り返し、それを川のすぐ脇にある洪水調節区域に許可なく放置した行為である。
この区域は増水時に水を逃がして周辺への氾濫を防ぐ緩衝地帯であり、ここに大量の土砂を積み上げると、本来の洪水調節機能が低下して、予期せぬ氾濫を引き起こすリスクが高まる可能性があるのだ。
また、河川内での土砂や植生の除去は水の流れを変え、生態系に予期せぬ影響を及ぼすことがあるため、必要な許可を取得したうえで実施すべきだとしている。
イギリスの法律では、こうした違反は警告や罰金の対象となるほか、重大なケースでは最大2年の禁錮刑が科される可能性がある。
ただし環境庁は、地域住民による環境改善活動そのものは支持するとしており、SNSで次のように説明している。
私たちは地域コミュニティの皆様が地元の環境を改善しようとされる取り組みを強く支持しています。
その一方で、そうした活動が環境に意図せぬ悪影響を及ぼすことがないよう、土地所有者と協力して確認していくことは私たちの責任でもあります。
現在、ローディング川で行われたいくつかの無許可の活動について調査を進めていますが、現時点ではまだ何の決定(起訴など)も下されておりません
背景にあるイギリスの深刻な河川の汚染問題
ローディング川流域では、ロンドン周辺に水道・下水サービスを提供する英国最大の水道会社、テムズ・ウォーターによる下水の放流[https://www.afpbb.com/articles/-/3471204]が大きな問題となっていた。
この会社は、大雨などで下水処理施設の容量を超えると、未処理の生下水をそのまま河川に放流するという暴挙を、何年もの間、合法・違法問わず日常的に繰り返してきたのである。
その放流量は年間で数百万リットルから数十億リットルにものぼり、ローディング川も大きな被害を受けていた。支流であるオルダーズ・ブルックも例外ではない。
川底に泥などが堆積すること自体は自然な現象だが、オルダーズ・ブルックでは長年の不法投棄や都市化、そして上記の下水汚染なども重なり、状況が悪化した可能性が指摘されている。
パウルズランド氏らはテムズ・ウォーターの問題を含め、当局に改善を求めてきたものの十分な対応がなされなかったと主張し、それが今回のボランティアによる清掃活動につながったとしている。
擁護する声とともに、ネット上では冷静な議論も
今回の環境庁からの通知に対し、パウルズランド氏は自身のXアカウント[https://x.com/paulpowlesland]で怒りと不満を爆発させた。
朗報です! ローディング川で横行してきた環境犯罪を何十年も放置してきた環境庁が、ついに重い腰を上げて行動を起こしてくれました。
悪い知らせもあります。環境庁の矛先は、、ローディング川に何十億リットルもの下水を不法に垂れ流しているテムズ・ウォーター社でもなければ、川岸に何千トンものゴミを不法投棄した犯罪者たちでもありません。
許可なく川を再生させたという理由で、私たちリバー・ローディング・トラストに向けられているのです
そのポストに綴られた皮肉に満ちた言葉は、またたく間にネット上で拡散され、大きな反応を呼ぶこととなった。
- 連中が怒っているのは、君が彼らの無能さを暴いてしまったからだね
- イギリス環境庁(EA)が彼らを追及しているのは相手にしやすいからだし、自分たちの無能さをさらされたから。下水を垂れ流している水道会社や、ゴミを捨てる犯罪者たちを追わないのは、そっちの方が大変だからだ
- 「明確に許可されたこと以外はすべて禁止」。それが、この50年で出来上がったイングランドだ。
私が若かった頃の「明確に禁止されていないことは何でもできる」イングランドではなくなってしまった- EAは君を雇うべきだよ。行政は君と協力すべきだ。イギリスを美しくしているんだから。本当に素晴らしい。これからも頑張ってほしい
- ゴミを拾うだけなら許可なんて一切いらない。環境庁には何の言い分もないだろう。いったい彼らは予算を何に使っているんだ?
- 身内が長年EAで働いてたけど、環境を守りたいという思いで入った経験豊富な職員たちが、次々と魂のない「ロボット」のような職員に置き換えられていくのを見て退職したよ
- 自治体には生物多様性を守る義務もある。こんなことを自発的なボランティア団体に任せきりにしていた方が問題なんだ
- 環境庁がちゃんと仕事をしていれば、市民が自分たちで動いて、代わりに清掃する必要なんてなかったんだよ
一方で、ネット上では冷静な議論も行われていた。
- 行政機関の仕事を市民団体が代わりにやり始めると、国家や行政の正当性が損なわれる。だから、行政が彼らを攻撃するのは、組織の自己防衛として当然の反応なんだ
- それは見当違いだし、今回の件を誤解している。この人は重機を使って大規模な作業を行った。結果的により多くの問題を生み出していた可能性が十分ある。
だからこそ許可制度が必要なんだ。今は調査段階であって、起訴は考えられる選択肢の一つにすぎない- 信じられない! 川を掃除するのにどんな許可を買えばいいんだ?
- 一般論として言えば、川を浚うなら、いや、どんな生態系であれ手を加えるなら、いくつかの許可を取得したうえで事前調査を行うべきだろう
- 公平を期すなら、本来は許可を持った人たちが定期的に川や運河を浚渫すべきなのに、それをやっていなかったのが問題なんだけどね
- 川を浚って流れを変えてしまったことで、周辺の住宅が洪水の危険にさらされた可能性はある。彼らは単に「ゴミを拾った」だけじゃない。適切に処分する限り、ゴミ拾いそのものに反対する人はほとんどいないだろう
- 善意からにせよ、人や生態系に長期的な悪影響を与えかねない行為が発生すると、官僚たちは「どうすれば防げるか」と考える。結果として、こうした活動を遅らせる許可や監督の制度が整えられる。すべては、こういう勝手な行動を取る人がいるからだよ
- 川から有毒な産業廃棄物を掘り出すことが、なぜ環境に悪いのか説明してくれない? 彼は以前から政府に対策を求め続けていた。それなのに政府は、汚染した側をかばうことばかりしていたんでしょ?
- 川を浚渫すると堆積物が舞い上がり、栄養塩が放出されて藻類の異常繁殖を引き起こし、水生生物を窒息させる可能性がある。また、重金属は堆積物に結びついているため、それも再び拡散され、生物濃縮によって食物連鎖全体に影響を及ぼす。
さらに、川底の生物や植物もかき乱され、その個体群が回復するまでに何年もかかったり、回復できなかったりすることもある。加えて、川底をかき回すことで流れそのものが変わり、川全体の生態系が損なわれることもある。
多くの水生生物は水流の強さに非常に敏感だからだ。これは単なる官僚主義ではない。知識のない人が善意でかえって大きな害を及ぼすのを防ぐためなんだ。
私はこの分野で働いていて、汚染現場の浄化を仕事にしている。正直、あなたは何もわかっていない
清掃後、川辺には生き物たちの姿が戻ってきた
パウルズランド氏は6月になって、清掃した区間について「見事に回復しつつある」と述べており、野生生物が戻ってきたとしている。
清掃によってごみや泥、繁茂した植物が取り除かれたことで、水の流れが回復。魚やトンボ、サギなどの生き物が再び見られるようになったそうだ。
とはいえ、問題が解決したわけではない。ローディング川では今も下水放流や不法投棄が続いており、流域全体としては依然として深刻な汚染問題を抱えている。
今回環境が改善したのは、あくまでもパウルズランド氏やボランティアが清掃した約250mの区間に限られるのだ。
清掃を終えた河川のエリアは、本当に美しく蘇りつつあり、野生動物たちも戻ってきています。それなのに、私たちは起訴の脅しを受けているのです。これこそが、現在の環境庁が抱える問題の核心を突いているように思えます
パウルズランド氏は現在、川辺に繁茂する日本からきた外来種、イタドリとの格闘に苦戦しているそうだ。
イタドリは現在、イギリスでは大問題になっていて、庭に生えでもしたら家が売れなくなるくらい深刻な問題に発展しているらしい。
本家の日本から、何かいい知恵が提供できたら喜んでもらえるかもしれないな。
【追記】(2026/07/04)
世論の反発を受け、環境庁が起訴を取り下げ
その後、事態は大きく動いた。
イギリスのテレビ局チャンネル4(Channel 4 News)がボランティアへの起訴の脅しを報道すると、世論が一気に反発した。
下水を垂れ流す大企業を放置しながら、川をきれいにした市民を狙い撃ちにするのはおかしいという声が、政治的な立場を超えて国内外から集まった。
批判の高まりを受け、環境庁はパウルズランド氏らへの起訴の方針を取り下げた。
ただし完全な不問ではなく、起訴の代わりに「警告」を出す形での決着となった。
パウルズランド氏は自身のXアカウント[https://x.com/paulpowlesland/status/2070292152052277750]で、これを「まっとうな結果」だとしながらも、話はこれで終わりではないと語っている。
ローディング川とその支流は今も放置されたままで、違法な下水の排出といった環境犯罪を止める計画すら立てられていないからだ。
そこでパウルズランド氏は環境庁のトップとの面会を求め、2つの要求を出すとしている。
1つは、環境庁が持つ起訴の権限を本来の目的のために使い、テムズ・ウォーターに対して違法な下水排出を数十年ではなく数年で解決する詳細な計画を求めること。
もう1つは、ローディング川を試験的な事例として、環境庁が草の根で活動する川の守り手たちと対立するのではなく協力する仕組みを作ることだ。
パウルズランド氏は、この要求が受け入れられることを望んでおり、川の再生に本当に必要な取り組みはこれからだと訴えている。
References: ‘The Roding is sacred and has rights’: the hammer-wielding barrister fighting for London’s forgotten river | Rivers | The Guardian[https://www.theguardian.com/environment/2022/dec/05/river-roding-barrister-paul-powlesland-london-polluters-footpaths] / Volunteer Under Investigation for Cleaning Polluted River Without a License, Faces Two Years in Prison[https://futurism.com/science-energy/volunteer-investigation-cleaning-polluted-river-prison]











