気が散るのを防ぎ、集中力を維持する働きを持つ脳の神経細胞が、数億年前から脊椎動物に存在していた。
米ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームがマウスの脳幹の神経細胞(ニューロン)を調べて発見したものだ。
この細胞は競合する情報の中から最も重要なものだけを選び取る「フィルター」として機能しており、魚や鳥など脊椎動物全体に共通して存在する。
同様の神経細胞がヒトにも存在する可能性があり、ADHDや自閉スペクトラム症の新たな治療法開発に役立つかもしれない。
この研究成果は『Nature Communications[https://www.nature.com/articles/s41467-026-72340-9]』誌(2026年4月28日付)に掲載された。
注意力の制御は前頭前皮質だけではなかった
人間を含む動物は、周囲にあふれる無数の情報の中から今最も重要なものだけを選び取りながら生きている。
騒がしい部屋での会話に集中したり、人混みの中で友人の顔を見つけたりする能力がその例だ。
長年、科学者たちはこの注意力の制御を担うのは主に「前頭前皮質(ぜんとうぜんひしつ)」だと考えてきた。
前頭前皮質は額の裏側にある大脳の領域で、思考・判断・計画といった高度な認知機能を担う。人間や霊長類で特に発達している部位だ。
だが、前頭前皮質が高度に発達していない魚や鳥も、注意を集中させる能力を持っている。
そこで米ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームは脳幹(のうかん)に目を付けた。
脳幹は中枢神経系を構成する器官グループで、大脳の下に位置し、呼吸や心拍など生命維持機能を担う、進化の歴史において非常に古い領域だ。
研究チームは脳幹に存在する、情報を伝達する神経細胞(ニューロン)に注目した。
集中力を維持する神経細胞は数億年前から存在する
マイソア博士らはかつて鳥・カエル・カメを対象に脳幹の神経回路を研究しており、他の神経細胞の活動を抑えるブレーキ役の神経細胞が存在することがわかっていた。
この神経細胞(抑制性ニューロン)は競合する情報の中から最も重要なものだけを選び取り、それ以外の気を散らしてしまうような情報を遮断するフィルターとして機能している。
そこで今回、哺乳類であるマウスを使って同様の神経細胞、抑制性ニューロンが存在するかどうかを検証した。
その結果、マウスの脳幹にも抑制性ニューロンが存在することが確認され、進化的に古い脳幹の領域が集中する能力を担っていることが特定された。
神経細胞の働きを止めるとマウスの集中力が失われた
研究チームはマウスに、人間の注意力テストに近い課題を与えた。
スクリーン正面に表示された情報に正しく反応し、横から現れる気を散らし、刺激を無視できたときに報酬が得られる仕組みだ。マウスはこの課題を問題なくこなしていた。
次に研究チームが抑制性ニューロンを一時的に無効化した。すると、マウスは極めて気が散りやすくなった。
視覚や運動機能には異常がないことは実験で確認されており、低下したのは余計な情報を遮断し、最も重要な情報に注意を向ける能力だけだった。
翌日に抑制性ニューロンの働きを再び戻すと、同じマウスが強い気を散らす刺激を無視できるようになった。
ADHDや自閉スペクトラム症の治療法開発に役立つ可能性
選択的に注意を向ける能力の困難は、ADHD(注意欠如・多動症)や自閉スペクトラム症(ASD)と深く関連している。
ADHDの特徴のひとつは、少しの刺激で注意力が散漫になってしまうことだ。フィルターとして働く神経細胞を無効化したマウスに起きた現象と一致する。
これまでの研究で、同様の神経細胞がヒトにも存在する可能性は高いという。
研究チームは今後、ADHDやASDを持つ人々においてこの神経細胞の活動を調べ、機能に差異があるかどうかを検証する予定だ。
もし機能の差異が見つかれば、その仕組みに直接働きかける治療法や薬の開発につながることが期待される。
まとめ
この研究でわかったこと
- 気が散るのを防ぎ集中力を維持する神経細胞(抑制性ニューロン)が、数億年前から脊椎動物の脳幹に存在していた
- この神経細胞は魚・鳥・カエル・カメ・哺乳類など脊椎動物全体に共通して存在する
- この神経細胞の働きを止めると、気が散りやすくなり集中力だけが失われた
身近な例に例えるなら?
うるさい教室の中で先生の声だけに集中できるのは、この神経細胞が余計な音を脳でブロックしているからだ。この神経細胞が働かなくなると、周りのおしゃべりや物音が気になって先生の話に集中できなくなる。まだわかっていないこと(今後の課題)
- 同様の神経細胞がヒトにも存在するかどうかはまだ確認されていない
References: Scientists discover ancient neurons that control attention | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1132691] / DOI.10.1038/s41467-026-72340-9[https://www.nature.com/articles/s41467-026-72340-9]











