地球外知的生命体、エイリアンが地球に降り立ち、そのままこの星でしばらく暮らすことになったとしたら、何を食べるのだろう?
米バレンシア大学栄養学教授のホセ・ミゲル・ソリアーノ・デル・カスティージョ氏は、今のところはエイリアンの存在を示す科学的証拠はないとしたうえで、体重や体温調節の仕組みを仮定すれば必要なエネルギー量は生物学の手法で計算できるとすると説明した。
あくまでも姿の異なるいくつかのエイリアン種ごとに、地球で口にできるものを推理する思考仮説であるが、ちょっと胸躍るテーマである。
地球に来たエイリアンは何を食べる?
アメリカでは2026年6月、スティーヴン・スピルバーグ監督の新作映画『ディスクロージャー・デイ』が公開された。日本での公開は2026年10月1日予定だ。
エイリアンの存在が人類に明かされるという作品で、今から待ち遠しいのだが、もし本当にエイリアンが地球にやってきたら何を食べるのだろうか。
ただし、地球外知的生命体が地球を訪れたことを示す科学的な証拠は、現時点では存在しない。
アメリカ航空宇宙局(NASA)は、未確認異常現象(UAP)が地球外文明のテクノロジーであることを裏付けるデータはないと表明している。
アメリカ国防総省も、地球外のテクノロジーや活動を示す検証可能な証拠は見つかっていないとしている。
生物学である程度の仮説は導き出せる
それでも、生物学を使えば、架空の生物でもあってもある程度の条件で仮説を出すことは可能だ。
エイリアンの体重はどれくらいか、よく動き回るのか、体温を一定に保つのか、酸素を吸って呼吸するのか、脳は大きいのか、地球に似た重力の中で暮らしているのかといったなのだ。
こうした条件をいくつか仮定すれば、その生物が生きていくために最低限必要なエネルギー量を計算することができる。
地球外ということばは、文字どおりには地球の外という意味にすぎない。
その意味でとらえれば、地球の外で長期間生活した経験を持つ人間、宇宙飛行士も地球外の存在の一例といえる。
宇宙飛行士の経験はエイリアンの食生活を直接教えてくれるわけではないが、地球を離れると人間の食のあり方そのものが変わることを示している。
無重力の環境では食欲や味覚、筋肉量、骨の健康状態、水分バランス、消費エネルギーのすべてが変化するのだ。
体重と基礎代謝量
エイリアンということば自体は、生物学上の分類ではない。
小さな宇宙人のステレオタイプ「リトルグリーンマン」や「グレイ」、ヒト型爬虫類のレプティリアン、背の高いヒューマノイド、機械のような非有機的な知性体といった姿は、UFOにまつわる伝承やフィクションが生み出したイメージであり、動物学の分類とは関係がない。
それでも科学には、生物の代謝を推定するための方法がある。
陸上の動物では、安静にしていても生きているだけで消費する最低限のエネルギー、基礎代謝量は、体重が重くなるほど大きくなる。
ただしその増え方は体重に比例しない。
体重1gあたりで比べると、ネズミは多くのエネルギーを消費するが、ゾウは総量こそ多いものの、体重1gあたりの消費量はずっと少ない。
体が大きくなるほど必要なエネルギーの総量は増えるが、体重1kgあたりのコストはむしろ割安になっていく。
バレンシア大学栄養学教授のソリアーノ・デル・カスティージョ氏は、この考え方を仮定上の生物に当てはめて概算を示している。
哺乳類や鳥類に近い温血の生物だと仮定した場合、体重約30kgなら安静時に1日約900kcal、体重約70kgなら成人の基礎代謝量に近い約1,700kcal、体重約150kgなら1日3,000kcal以上が必要になるという計算だ。
これらの数値はあくまで著者による概算で、呼吸や体温維持、組織の修復、体液の循環、神経系の活動といった最低限の機能を保つためのエネルギーにすぎない。
歩く、走る、穴を掘る、飛ぶ、あるいは牛を求めて惑星を半周するといった行動をとるなら、必要なエネルギーは安静時の量よりもさらに大きくなる。
4種のエイリアンの食事量
この物差しを使えば、SFでおなじみの4つの空想上の姿について、それぞれの代謝を見積もることができる。
細身の体と大きな頭、少ない筋肉量が特徴のリトルグリーンマン、あるいはグレイと呼ばれるタイプは、体重が25kgから40kgほどと推測される。
温血で活発、かつ大きな脳を持つ生物だと仮定すると、基礎代謝量は1日800kcalから1,100kcalの範囲になる。
人間の場合、脳は安静時に消費するエネルギーのおよそ5分の1を使うといわれている。
このタイプの脳が人間よりもはるかに大きいなら、よほど効率のよい体のしくみや技術的な補助を備えていない限り、高エネルギーの食料を絶えず必要とすることになる。
レプティリアンのようなタイプは、計算がより難しい。
生理機能が本物の爬虫類に近ければ、体外の熱に頼って体温を保つ外温性、いわゆる変温動物にあたるため、体温維持にあまりエネルギーを使わずに済む。
その場合、体重100kgの生物でも、十分暖かい場所で暮らしているなら、同じ体重の哺乳類より必要な食料は少なくて済む可能性がある。
一方、知能を持ち、二足歩行で筋肉質、しかも活発に狩りをする生物だとすれば、消費エネルギーは人間と同程度かそれ以上に跳ね上がる。
自らの体内で熱をつくり出す内温性の場合、体重150kgなら安静時でも1日3,000kcal、体を動かせばさらに多くのエネルギーが必要になる。
体重80kgから100kgほどの、背の高いヒューマノイド型は最も想像しやすいパターンだ。
生理機能が人間に近いと仮定すると、安静時で1日1,900kcalから2,300kcal、活動時には2,500kcalから4,000kcalが必要になる。
宇宙での活動を考えるなら、宇宙服や宇宙船、地球とは異なる重力、体内にすむ微生物の集まりである腸内細菌叢、水分補給、ストレスへの適応といった要素も関わってくる。
4つ目の可能性として考えられるのが、人工知能や、生物と機械が組み合わさった存在、あるいは人工的につくられた体を持つポスト生物学的な存在だ。
この場合、必要になるのはタンパク質や脂質、炭水化物ではなく、電気や熱、化学燃料、あるいは核エネルギーになる。
ロボットの姿をしたエイリアンなら、米やパスタを食べる必要はなく、バッテリーを充電するだけで済むことになる。
地球の食べ物は、エイリアンの体に合うのか
訪問者が炭素と水を基盤とする、地球の生物と似た化学的な体を持っていた場合、地球はいくらか危うさをともなう食卓を提供することになる。
液体の水や塩分、有機炭素、糖類、脂質、アミノ酸、ミネラルは存在するが、同時に毒物や病原体、アレルゲン、体に合わない分子も存在するからだ。
地球のタンパク質は、消化のしくみが異なるアミノ酸を使う生物にとっては役に立たない可能性がある。
地球の糖類も、代謝のしくみが違えば処理できないかもしれない。
地球の細菌は、エイリアンの体に壊滅的な打撃を与えるかもしれないし、まったく感染しないかもしれない。
この最後の可能性を描いたのが、H・G・ウェルズが1898年に発表したSF小説『宇宙戦争』である。
作中では、地球に侵略してきた火星人は人類の武器ではなく、進化的な防御手段を持たない地球の微生物によって滅ぼされる。
宇宙人にとって必要なエネルギー源は?
地球外生命を研究する天文生物学の分野では、生命に必要な要素はエネルギー源、液体の媒体、適した化学元素の3つだと考えられている。
ただしそれは、宇宙のすべての生物が同じ食生活を送るという意味ではない。
地球でも、コアラはほぼユーカリだけを食べて生き、ウシは草にふくまれるセルロースを消化するために特有の腸内細菌叢を必要とする。
食生活を決めるのは、必要なエネルギーの量だけではない。
生化学的な相性や微生物叢のありかた、そして進化の積み重ねが深く関わっている。
エイリアンが地球にやってくるとしても、求めているのは人間にとっての食べ物ではなく、水や窒素、リン、鉄、塩分、脂質、微生物のかたまり、あるいは単純な有機分子といった原材料である可能性がある。
家畜のウシを連れ去るという定番のイメージも、宇宙的な悪意としてではなく、栄養分を採取するための行動として読み替えることができるかもしれない。
もっとも、連れ去られるウシにとっては、その違いに意味はないのだが。
エイリアンの存在が確認されたら専門の栄養士が必要
栄養学が扱っているのは、単なる食品のリストではなく、生き物とそれを取り巻く環境との間で交わされるエネルギーのやり取りである。
食べるという行為は、エネルギーを得ること、体をつくること、老廃物を出すこと、そして中毒を避けることという、いくつもの課題を解決する営みだ。
人間の社会では、管理栄養士や栄養士が、この科学を実際の健康アドバイスへと置き換える役割を担っている。
エネルギーの摂取量やタンパク質、微量栄養素、水分補給、生活習慣を、一人ひとりの事情に合わせて調整するのが仕事だ。
人は数値としてのカロリーだけを食べているわけではなく、それぞれが属する文化や腸内細菌叢、健康状態、年齢、経済状況、そしてこれまでの人生の積み重ねという文脈の中で食事をしている。
もし将来、地球外の生物と接触することがあれば、外交官や言語学者、技術者に加えて、新たな専門家が必要になる。
その生物がどんな分子を受けつけるのか、どれほどのエネルギーを必要とするのか、何が毒になり、どんな微生物を宿しているのか、そして地球の生態系を壊さずにどんな資源を使えるのかを見きわめる、エイリアン栄養士とでも呼ぶべき専門家だ。
そもそもエイリアンが地球に来る目的は?
もしエイリアンが本当にこの星にたどり着くことがあったとしても、何かを奪いに来るのでも、人類を征服しに来るのでもないかもしれない。
ただ、もっとおいしいものを食べに来るだけなのかもしれない。
そしてエイリアンが本当に地球の食を理解したいと思うなら、最後にもうひとつ、地球ならではの教訓を学ぶ必要がある。
食べるという行為は、ここではエネルギーを摂取することにとどまらず、誰かと時間を分かち合うことでもあるのだ。
まあとにかく、映画『ディスクロージャー・デイ』の公開を待つことにしよう、そうしよう。
References: If aliens landed on Earth tomorrow, what would they eat?[https://theconversation.com/if-aliens-landed-on-earth-tomorrow-what-would-they-eat-285318]











