過疎ではないが大手未満、彼女は“中堅”配信者だ。生き方を認めてくれなかった母親。
自らを主張をしない“優等生”の妹。拭いされない承認欲求と闘いながら、自室でひとりもがく日々。ドネーションで生きてく彼女たちが遭遇する深い深い地獄と、その先に見えてくる本当の希望とは?配信者の果穂はゲーム実況でそこそこの人気を集め、承認欲求を満たしている。独り暮らしの自由を謳歌しながら、完全な経済的余裕を手に入れたわけでもなく、生活の不安とは常に背中合わせの日々だ。独立後も口うるさく干渉してくる母親、性格の違う優等生の妹・いちごといった家族との関係は、いまだに頭の痛いプレッシャーであり続けている。ノンバイナリーのいとこ・累との気のおけない交流、ハンサムなフリーターの恋人との関係など、いくばくかの潤いによって彼女の生活は支えられていた……はずだった。
読み切り作品『名前のつかない日常』『漫画学習のすゝめ』で注目を集めた作者の最新作は、承認欲求に取りつかれた現代人の肖像を描く問題作。動画配信によって世間の注目と経済的安定を両立させようと努力する主人公・果穂の姿は、まさに現代日本の「ある典型」的な若者像といえるだろう。もちろん、それが若者のすべてではない。果穂をとりまく妹のいちご、いとこの累といった登場人物もまた、それぞれに自分に正直な生き方を模索しながら、寂しさや欠落を抱える「時代の子」たちだ。彼女たちは果穂のエネルギッシュな生き方に憧れを抱き、同時にその孤独で苛烈な生きざまをなんとなく気にかけながら、その背中を追いかけるかのようにも見える。
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外面の良さを保ちつつ、内面ではシャープな毒舌がとめどなく溢れ、見知らぬ他人にはおいそれと「地頭の良さ」を晒さない。
セルフプロデュース&セルフディフェンス能力に長けた主人公の生きざまに、共感や憧れを抱く読者もいることだろう。だが、その用心深さや、鋼の鎧のごとき自己肯定感は、筋金入りの自己卑下や自己嫌悪と表裏一体でもある……。そんな屈折もまた現代の読者にとっては、おおいに共感をさそうだろう。
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性格はまったく異なるが、同じ八重歯の持ち主である果穂といちごの屈折した姉妹関係。性差に捉われない生き方を実践しながら、いまだに気まずい家族関係を引きずる累の葛藤など、リアリティと繊細さに溢れた人物描写のディテールが魅力的だ。ちなみに男はどいつもこいつも薄っぺらで浅く、それもまた実にリアル(物語上のつまらなさとは同義ではなく、むしろ読者の怒りや痛々しさを十二分にかき立てながら読ませる)。屈託のない笑顔の裏側に、何層もの思考を秘めた「女たちのドラマ」のほうが、圧倒的に読者のハートを鷲掴みにする。
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もともとは読み切り作品として、性格の異なる女性同士のドラマを1話完結で描く予定だったというが、連載作品として再始動した結果、2020年代の現代劇としての強度と広がりを何倍ものスケールで獲得した。「家族」「ジェンダー」「承認欲求」といった現代的なテーマを、それぞれ結びつけつつ掘り下げていく本作の展開は、まさにいま現在進行形で生き方に迷う現代人に大きな示唆を与えるだろうし、後世にも「あの時代のリアル」を描いた貴重な史料として伝わることだろう。
繊細さと的確さにあふれた画力にも、全編目を奪われる。アングル・構図・カット運びなども映像的に巧みで、なおかつ過剰に技巧的なうるささも感じさせない。あえてクドくならない程度に「手放す」バランス感覚といえようか。
キャラクターの描き分け(時代の変化、成長による変化も含む)にも、深い人間洞察力と、描き手の愛情が宿っている。
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孤独や迷走、あるいは不意打ちの落とし穴がそこらじゅうに散りばめられた城砦――そんな現代の日常生活で生きのびるヒントを、本作は読者それぞれが「まだ道を選べるあいだに」授けてくれる。それだけの力を持った作品だ。
いくばくか~承認の渇求~(1)
著 : たかうま 創
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岡本敦史
ライター、ときどき編集。1980年東京都生まれ。雑誌や書籍のほか、映画のパンフレット、映像ソフトのブックレットなどにも多数参加。電車とバスが好き。