【エッセイ連載】「伊藤美来のmoi!」第27回目:選ばれたメ...の画像はこちら >>

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声優アーティスト・伊藤美来が日常で感じたことを切り取り、私らしく文章にしていくエッセイ連載「伊藤美来のmoi!」。

「初めましての方や応援してくれている方にも、表面的な私だけではなく自分の頭の中を見てもらう気持ちで書いていきたい。

“伊藤美来”がどんな人間か知ってほしい」。
そんなオモイを込めて言葉を綴っていきます。

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あまり声を大にして言ってこなかったが、私はメガネが大好きだ。おしゃれにメガネを取り入れる人やこだわりをもっている人を見ると素敵だなと思うし、そもそもメガネ自体に魅力を感じている。フレームを選び、自分の視力に合わせてレンズをカスタマイズする。今はブルーライトカットやUVカット仕様など選べる項目も増えていて、自分に合わせたこの世に1つしかない自分だけのもの感が好きなのだ。
私のメガネデビューは、中学1年生の時だった。当時、入学して数ヵ月で急激に目が悪くなった。ゲームも1日2時間を守っていたし、テレビもソファに座って遠くから観ていたのに。次第に黒板の文字がぼやけだし、それ母に伝えると「メガネを買いに行こう」と近くのくショッピングセンターに入っているメガネ屋さんに連れて行ってくれた。いつも店の前を通り過ぎるたびに、綺麗に陳列しているフレームや奥にあるアーケードゲームみたいな機械を近くで見てみたいと思っていた。子供だけでは踏み入れられない憧れの場所。

いざ入店してみると、種類の多さに慄いた。どこを見渡してもメガネメガネ……。ジュエリーショップに来たかのようで、メガネたちが形も色も違う輝く宝石に見えていた。前日に家で一応のイメージはしてきた。形は丸で、色はピンクか黒、顔より少し大きいのがいい。でもそんな想像はまったく役に立たなかった。この数多のキラキラの中から1つ、自分が気に入るかつ顔にぴったりなメガネを選ばなくてはならない。気になったものはその場で試着させてくれるという。これまで生きてきて、こんなに選択肢を与えられたことなどなく、とにかく迷った。あれも着けてみたい、こっちのほうが私の顔には合ってるかも、と鏡の前から動かなかった。痺れを切らしたお母さんは「下で夕飯の買い物してくるね、また戻ってくるから」と店を出た。戻ってくるまでに決めておいて、という意味だろう。
実際は2時間ほど悩んでいたのだが、感覚では1日中悩んでいたようだった。最終的にブラウンのフレームに裏がピンクになっているものと、ホワイトに近いシアーグレーのフレームのものの二択に絞った。ブラウンのメガネは、自分でも似合っていると確信がもてるくらい私の顔にピッタリだった。しかしどうしてもグレーが気になった。透明感の中に濃いグレーがマーブル柄にさりげなく施されている。知的な印象を受けるこのフレームは、大理石のように美しかった。他人にも自分にも違和感を与えないのがブラウン。似合うかは微妙だがずっと見ていても飽きないグレー。悩んでいたら、タイムリミットであるお母さんが戻ってきた。
結局私はその日に決められず、一度家に帰った。自分の部屋にこもり、今日の記憶を頼りにとにかく考えた。教室でメガネをかける想像をしてみた。
やっぱりグレーだと個性が強すぎてクラスで何か言われるかも。ブラウンのほうが女の子って感じだしシンプルにかわいい……。うん、ブラウンだな。と心に決め、次の日もう一度メガネ屋に足を運んだ。昨日と同じ店員さんが対応してくれて、来るなり迷っていた2つのメガネをトレーに並べて持ってきてくれた。メガネを決めるとそのまま視力を測ってお母さんに支払いを済ませてもらい、数時間後、出来上がったものを受け取った。大袈裟だと思われるだろうが、なんだか家族が増えたみたいな気分だった。初めてのメガネは、グレーにした。昨夜あんなに時間を設けたうえでブラウンにしようと決めて行ったのに。やっぱり、欲しいのはグレーだったのだ。2つ並べられた時、自然と先にグレーを手に取っていた。そして自分だけのこの宝石を持って帰りたいと、これをかけて生活をしたいと思った。
次の日、授業中に買ったメガネをかけると、想像通り「そのメガネ渋っ!なんでそれにしたの?」と質問された。いつもだったら、それなりに傷ついて学校でかけるのはやめようと思うだろうが、不思議なことに私はお構いなしに学校で毎日それをかけた。何を言われようが自分でたくさん考えたから間違いない、私はこれが好きだと思えた。
最近、何においても決断するスピードが速くなった気がする。大人になって時間に追われることが増えたのはしょうがないとして、こんな感じかなと大体の目星がつけられるようになり、見え方を考えたらこれだろうと安牌を選ぶ技術が高くなった。もちろん社会人として悪いことではない……と思う。今の私ならものの10分ほどでブラウンのメガネを選んだに違いない。しかしあの日、悩んで迷ったあの時間があったから、選んだメガネに対する確固たる自信が生まれていた。結局グレーのメガネはすぐに度が合わなくなり使えなくなり、いつの間になくなっていた。最近また視力が落ちた。新しくメガネを買いに行くなら、次は特別お気に入りのメガネを探したい。何日かかってもいい。
どれだけ迷ってもいい。日頃の速さを忘れ、自分が身に着けるものくらいには、たくさんの時間を使って。

基本プライベートや家でしかメガネをかけない。
ほんとはずーっとメガネがいい。
メガネ女子になりたい。

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