弁護士同士が火花散らす 注目の付審判の内幕

取り調べで発せられた検事の怒声は、熱心な捜査の行き過ぎか、それとも処罰されるべき犯罪か…

現職検事の取り調べが罪になるか問われた異例の裁判。裁判所の決定により、ふだんは容疑者を守る立場にある刑事弁護士が“検察官役”を務めるという「付審判」の法廷です。

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検察組織全体の問題」として厳しく追及する検察側(指定弁護士)に対し、現職検事の弁護側は「行き過ぎた言動があったとしても、それが刑法上の『陵虐』にあたるかは厳格に判断されるべきだ」と真っ向から反論しています。

今後の警察・検察の取り調べの在り方を左右する法廷で、弁護士同士の火花が散っています。
(MBS司法担当 柳瀬良太)

刑事弁護士が“検察官役”に 前代未聞の「付審判」で起きた初公判の波乱

大阪地検特捜部が捜査した事件で、被告の田渕大輔検事(54)が容疑者の取り調べで机をたたき、怒鳴りつけたなどとして「特別公務員暴行陵虐」の罪に問われている今回の裁判。

検察が一度「不起訴」にした事案に対し、裁判所が「刑事裁判を開くべき」と判断した付審判では、身内である検察に有罪立証をさせるのは適切ではないため、裁判所が、検察官役となる「指定弁護士」を選任することになっています。

「検察なめんなよ!」法廷に響いた記録映像の怒声 特捜検事の取り調べは犯罪か、熱心な捜査の行き過ぎか 刑事弁護のプロ同士が激突する「付審判」日本の取り調べの分水嶺に【付審判ルポ】
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今回、裁判所が選任したのは、大阪弁護士会で刑事弁護委員会の委員長などを歴任してきた、山口昌之弁護士、高山巌弁護士、宇野裕明弁護士という歴戦の3人です。

しかし、そんな3人の弁護士たちにとっても検察官役は初めての経験です。

刑事弁護のプロが刑事弁護のプロを追及

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2024年の秋に選任されてから約1年9か月。山口弁護士らは検察関係者など数十人に事情を聞き、公判の準備を進めてきました。「証拠一つ作るのも慣れていない。ルールや難しさがあった」そう本音を漏らしたこともありました。

3人とも、ふだんは容疑者を守る立場にあります。慣れない「追及側」の立場ゆえか、初公判では起訴状にあたる「公訴事実」の読み上げの際、肝心の「罪名及び罰条」を言い忘れる一幕もありました。

弁護団もまた「刑事弁護のプロ」

対する田渕検事の弁護団を率いるのもまた、大阪の刑事弁護委員会の委員長を務めたことのある重鎮・森直也弁護士です。

指定弁護士の読み上げの直後、田渕検事の弁護側はすかさず、公訴事実の記載内容の一部を明確にするよう指定弁護士に「求釈明」を求めるなど、刑事弁護のプロが刑事弁護のプロを追及するという、のっけから波乱含みの展開となりました。

恫喝映像を見ても「問題なし」?検察官役弁護士が突いた検察の“問題の根幹”

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検察官役を務める指定弁護士が初公判の冒頭陳述や証拠調べで強調したのは、田渕検事個人の暴走だけでなく、それを許した「検察組織全体の問題」でした。

法廷では、取り調べの録音・録画をチェックした当時の特捜部副部長や公判部の検事の供述調書が読み上げられました。そこでは、田渕検事の恫喝的な取り調べ映像を当時確認していたにもかかわらず、「熱心に取り調べをしているなという感じ」「度を超えた厳しさではなく、問題になるとは全く思っていなかった」などと擁護する言葉が並んでいました。

指定弁護士は、こうした録音・録画という客観的な証拠があったにもかかわらず、検事正らを交えた起訴の決定会議で「映像を見てみよう」という提案すら出なかった事実を指摘しました。身内の不祥事に対する甘さや、組織のチェック機能の不全こそが問題の根幹だと厳しく非難しました。

「不適正=犯罪」ではない 弁護側は組織論をけん制

こうした追及に対し、田渕検事の弁護側は、あくまで冷静な「法律論」で防戦の構えを見せています。

確かに、机を叩くなどの行為は検察の内部監察でも「不適正」と認定されました。しかし、弁護側は「不適切な取り調べと言ってもその程度には濃淡がある」と指摘。道義的に批判されるべき不適切な行為と、刑罰を科されるべき「犯罪」は別次元の問題だと主張しています。

弁護側は、刑法に定められた「特別公務員暴行陵虐罪」という重い罪が成立するかどうかは世間の感情論に流されることなく法的に厳格に解釈されなければならないと訴え、検察官役の指定弁護士が強調する「組織論」をけん制しています。

真っ向対立する証拠評価

この見解の違いは、7月15日に開かれた第2回公判でも真っ向からぶつかり合いました。

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証拠映像の再生

検察官役の指定弁護士側は、田渕検事が「私の監視の道具」と自ら録音・録画の存在を認識しながらも、机を激しく叩き、「起訴ですよ、確実に」「大罪人」などと威圧的な取り調べを行っていた事実を立証するため、約1時間15分にわたって実際の映像を法廷に流しました。

弁護側の反論

弁護側は公判終了後の会見で、証拠の評価に異議を唱えました。法廷で再生された映像は、長時間の取り調べの「ほんの一部を切り取ったもの」に過ぎないというのです。

大声を出すに至った前後の文脈や、怒鳴った後に普通に会話をしている様子など、取り調べの“全体像”を見なければ、相手を陵虐する意図があったかは判断できないと真っ向から反論しました。

警察・検察の取り調べはどう変わるのか

検察官役の指定弁護士は「裁判所がこの行為を犯罪と判断するかどうかが大きなポイント。裁判所の判断によって今後の警察や検察の捜査の在り方に相当大きな影響がある」と今回の裁判の意義を主張しました。

一方、弁護側は、この裁判が今後の捜査実務に与える影響の大きさを強く危惧しています。

もし、録音・録画下で行われた今回のような追及の手法が直ちに「犯罪(陵虐)」であると司法に断じられれば、現場の捜査官は過度に萎縮し、真実を引き出すための適法な追及すら困難になりかねない、という主張です。

弁護側は「今回の裁判は、今後の警察・検察の取り調べの在り方を決める分水嶺になる」と訴え、安易な処罰感情を持ち込むことに警鐘を鳴らしています。

「検察なめんなよ!」法廷に響いた記録映像の怒声 特捜検事の取り調べは犯罪か、熱心な捜査の行き過ぎか 刑事弁護のプロ同士が激突する「付審判」日本の取り調べの分水嶺に【付審判ルポ】
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2つの正義が衝突 裁判は第3回公判へ

組織の隠蔽体質を暴き、違法な取り調べを断罪しようとする指定弁護士。捜査の萎縮を危惧し、法の厳格な適用を求める弁護団。

それぞれの正義が激しく衝突する歴史的な裁判は、当時の主任検事の証人尋問が行われる8月24日の第3回公判へと続きます。

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