対談は、二宮和也の「今回の2026年のアジア大会は、池江さんの中でどう位置付けていますか」という問いかけから始まった。池江選手にとって、2026年のアジア大会は2018年ジャカルタ大会、2023年杭州大会に続く3回目の出場となる。最後になるかもしれない今大会に懸ける思いを、こう言葉にした。「もしかしたらまだ出ているかもしれないのですが、最後のアジア大会になるかなと思っているので、結果を出して最後終わりたいという気持ちもあります」
二宮が「自国開催であるということについては池江さんにとっていかがですか」と率直に尋ねると、返ってきたのは池江選手ならではの答えだった。「正直、自国開催ということよりも、『アジア大会』という名称の方が自分の気持ち的にはぐっとくるところがあります」たくさんの日本の観客が会場に駆けつけることについても、思いを寄せる。
「今回の試合を見て少しでも面白いと思ってもらって、1人1人よく見たら泳ぎも全然違うとか、そういうちょっとしたことも楽しんでいただけたら。私もその雰囲気を楽しめたらいいなと思っています」その言葉を受け、二宮は「我々も応援させていただきます」と力強くエールを送った。
池江選手が過去2度のアジア大会を振り返る時、対照的な2つの記憶が浮かび上がる。1つは2018年ジャカルタ大会。自己最多となる金メダル6個を含む8個のメダルを獲得し、大会MVPに輝いた快挙の裏には、本人も気づいていなかったプレッシャーがあったという。
「レースが終わって最後の6個目の金メダルを取った直後、応援に来てくれていた家族の顔を見た瞬間に大泣きしてしまって。
「0.1秒差でも、最後の10メートルくらいで勝ち負けはなんとなくわかるんです。自分の泳いでいる時の余力と、隣の選手の必死感みたいなものが伝わってくる。『絶対勝つ』というか、『いける』というかどちらの気持ちもあったと思いますが」
「すごいね。普通だと『勝てる』と自分の中に刷り込ませて挑むイメージがある』と二宮が驚くと、池江選手は当時の心境をこう総括した。「本当に勝つか負けるかは、実力の問題ではなかったんですよね。実際中国の選手がどう思っていたかはわからないですが、あのレースは気持ちでどちらが勝てるかの試合だったと私は勝手に思っています」
一方、前回2023年の杭州大会は「恥ずかしい」気持ちだったと振り返る。前回大会でのMVP獲得と8個のメダル獲得により注目度が高まる中、個人種目での結果は50mバタフライで3位のメダル1個にとどまった。
「結果、メダル1個、3位。正直それがあの時のベストで、それ以上の結果はなかったと思いますが、あの時はこれだけ注目されていたのに恥ずかしいという気持ちしかなかったです」二宮が「病気になって闘病生活をしていく中で、水泳というのはどういったポジションにあったのか」と切り込むと、池江選手は言葉を選びながら当時の心境を語り始めた。
「水泳のことだけを考えていたわけではないですが、考えていなかったわけでもない。
意外にも、本人が語るのは“泳げるようになってからの苦しさ”だ。「泳げるようになった時の方が、正直精神的にきつかった。日本で1位だったし、世界ランキングもちょうど1位になった時の病気だったので。自分がダントツで1位というのが当たり前でしたが、泳ぎ始めた時、楽に泳いでも勝てるはずなのに、それもできなくて、自分の思うようなタイムが出ないもどかしさがすごくあった。毎日毎日、練習帰りに1人で車を運転しながら、泣きながら家に帰っていました」
話は池江選手の日常にも広がっていき、彼女が中学時代から続けてきた生活へと及ぶ。「基本、月・火・水は朝・午後の2部練で、木・金・土は1回。プラスウエイトトレーニングを週2~4回入れる感じです。休みは基本、日曜日だけです」学生時代はプライベートな時間がほとんどなかったという池江選手の言葉に、二宮は思わず「大変じゃん」と声を漏らした。
「高校の時は朝練習に行って、そのまま学校に行って帰ってきて午後練をして、次の日また朝練に行って…プライベートの時間は、学生の時は特になかったです」
「オフは何をするの?」「推し活的なものは?」――畳みかけるように尋ねる二宮に、池江選手は自称“インドア派”で、いわゆる推し活の経験もないと明かした。
話題はオフの過ごし方へ。
「それならもっと大変だ。でも遠征先で飲めるわけないよね」と二宮が実感を込めて返すと、場は和やかな空気に包まれた。続けて小さい頃の夢を尋ねると、返ってきたのは意外な答えだった。「小さい頃の夢は、刑事になることでした。刑事ドラマやサスペンスが大好きで、警察官ってかっこいいなと思っていて。今でもかっこいいなって思いますし、最近またなってみたいと思い始めたりしています」
厳しい練習と長い闘病を経てきた池江選手だが、対談の最後には、ふと素顔がにじむ一幕があった。「私、「虹」がめちゃくちゃ好きで。」と二宮和也のソロ楽曲について思いを語ると、「もっと大きな声で言ってもらいたい」と二宮が茶目っ気たっぷりに返した。すると池江選手はさらに本音をこぼした。「涙が出てくるんですよね。
予想外の告白に、二宮は間髪入れずに「歌いに行きますよ」と声を上げた。これまで語られてきた強さの先に見えたのは、1曲の歌に涙し、未来の幸せを夢見る、等身大の池江璃花子の姿だった。対談は終始笑顔に包まれ、幕を閉じた。
3回目、そして自身にとって最後になるかもしれないアジア大会。「結果を出して終わりたい」と語り、「虹」に涙しながら未来への夢も明かした池江選手。二宮和也が引き出したその人間味あふれる姿とともに、自国開催の大舞台での挑戦に期待だ。

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