※本稿は、荒木健太郎『すごすぎる天気の図鑑 防災の超図鑑』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■天気は「雲」が決めている
「モクモクした雲に乗って空を飛んでみたいな」と、誰もが一度は想像したことがあるのではないでしょうか? 残念ながら私たちは雲に乗ることはできませんが、雲の不思議を科学的に解き明かすことはできます。
雲は無数の水や氷のつぶが集まって空に浮かんでいるものです。つぶは空気中の水蒸気(気体の水)が液体の水や固体の氷になったもの。空気中にある目に見えないほど小さなチリ(エアロゾル)が芯(凝結核)となって発生します。
つぶの大きさ(半径)はわずか0.01mmで、髪の毛の太さ(断面)の5分の1程度。この小さなつぶは毎秒数mm~数cmの速さで落ちるのですが、空にはもっと速い上昇気流(上向きの空気の流れ)がたくさんあるので、雲は空に浮かんでいられるのです。
雲は、さまざまな形で空に現れて青空に表情を与えたり、空に厚く広がって雨や雪をもたらしたりします。いわば、空に浮かぶ雲が天気を決めていると言っても過言ではありません。
現代は、空を見上げて天気のことを考える機会が減っているのではないでしょうか? スマートフォンで受け取れる気象情報と合わせて、ときには雲を眺め、天気の予測や防災に役立ててほしいと思っています。
■細かく分けると400種類以上になる
雲は実にさまざまな姿かたちをしています。
大きく分類すると、雲の姿かたちや現れる空の高さによって10種に分けられます(十種雲形)。さらに、細かく分けると400種類以上にもなります。
すべてを覚えるのは大変ですが、雲の性格や、雨や雪の有無は雲の名前に使われている漢字で判別できるものがあります。
〈ここがポイント〉
「積」がつく雲は、モクモクしていて上に成長する元気な雲
「層」がつく雲は、横に広がるおとなしい雲
「乱」がつく雲は、天気を乱して雨や雪を降らせる雲
災害をもたらす典型的な雲は「積乱雲」です。
雷を伴うため雷雲ともいい、土砂降りの雷雨のほか、竜巻などの突風や雹をもたらします。集中豪雨の原因となる線状降水帯や、南海上で発生する台風も、積乱雲が多数集まり発生する現象です。
積乱雲によりもたらされる雨は、古くから「夕立」や、急に降り出す雨を意味する「驟雨(しゅうう)」、「通り雨」という名で知られてきましたが、近年は災害をもたらす局地的な大雨が増えています。
■「入道雲」とは何が違うのか
青空が突然暗くなって土砂降りの雷雨に見舞われたら、積乱雲のしわざです。
夏には高度15km以上にもなる積乱雲は、横方向の広がりが数km~十数kmと狭く、寿命も30分~1時間と短いため、積乱雲がやってくると天気が急変するのです。
積乱雲の一生を見てみましょう。
まず、低い空の暖かく湿った空気が、冷たい空気や山などに持ち上げられて、積雲が生まれます。積雲がある高さを超えると、ひとりで上昇できるようになり、モクモクした入道雲(雄大積雲)へと発達します。
さらに雷を伴うか、雲の頭が平らになり上部に髪の毛のようなすじの構造が見られるようになると、積乱雲と名乗れるようになります。
そのころに雲の中に生まれた下降気流が上昇気流を打ち消してしまい、積乱雲は衰弱していきます。下降気流はやがて地面に達して周囲に広がり、別の暖かく湿った空気を持ち上げて、次の積乱雲の発生へとつながります。
通常は一つの積乱雲につき数十mm程度の雨量(降水量)の雨を降らせますが、積乱雲が世代交代を繰り返したり、暖かく湿った空気が山にぶつかり続けたりすることで雨量が多くなることがあります。
天気予報などで、「雨量100mm(ミリ)」と聞いても、その雨の降り方やもたらされる影響はイメージしにくいかもしれません。
雨量とは、降ってきた雨が流れ去らずたまった場合の水の深さのこと。「1時間に100mmの雨」とは、1時間で10cmの深さの水がたまるということです。
例えば、1平方メートルの広さに10cmの水がたまった場合の重さは100kgにもなります。つまり1時間に100mmの雨は、体重100kgの小柄な力士が1平方メートルあたり1時間に1人落ちてくるのと同じなのです。実際の雨は、1平方メートルだけに降るわけではなく、もっと広範囲に降ります。
そのため、1時間という短時間のうちにこのような多量の雨が降ると、その水は一気に低地に流れ込んで道路が冠水したり、土に浸み込んで土砂災害が発生したりするおそれがあるのです。
■天気の急変を知らせる“空のサイン2つ”
1時間降水量の日本歴代1位は、千葉県香取(1999年10月27日)と、長崎県長浦岳(1982年7月23日)で、共に153mmを記録しています。
また、1時間に50mm以上の「非常に激しい雨」や1時間に80mm以上の「猛烈な雨」の発生頻度は増えており、地球温暖化が原因と考えられています。
〈ここがポイント〉
気象庁では雨の強さと降り方により、雨の呼び方を使い分けて情報を発表している
天気の急変をもたらす積乱雲ですが、現在の天気予報の技術でもまだ、発生する時間や場所を正確に予測するのは難しいです。
しかし、雲や空、風の変化から天気を予測する「観天望気(かんてんぼうき)」を知って、天気が急変しそうなとき、気象情報とあわせて使えば、特に積乱雲による急な雷雨でずぶ濡れになることがなくなります。
くわしくは『もっとすごすぎる天気の図鑑』や『すごすぎる天気の図鑑 防災の超図鑑』で解説していますが、ここでは積乱雲の登場の前触れになる雲を挙げます。
まずは天気が急変する可能性を少し前に教えてくれる雲から。これらの雲を見かけたら、近くに積乱雲がやってきて、雷雨に見舞われる可能性があります。
【頭巾雲】
積乱雲になる前の雄大積雲(入道雲)の上部に、帽子のような見た目の雲「頭巾雲」が現れることがあります。雲の中の上昇気流が強いときに現れるため、入道雲は、この頭巾を突き抜けて発達し、積乱雲まで成長することがあります。
【かなとこ雲】
夏には高度15km以上にもなる積乱雲。積乱雲の上部が平らになっているのは、雲が発達できる限界の高さに達しているためです。この横に広がった部分を、かなとこ雲といいます。
このほかにも、かなとこ雲が上空の風に流されて広がった「濃密巻雲(のうみつけんうん)」や、かなとこ雲や濃密巻雲の底にコブ状の「乳房雲(ちぶさぐも)」が現れることもあります。
■積乱雲がすぐそばにある“サイン2つ”
続いて、天気の急変の直前に現れる雲や現象について紹介しましょう。
【棚雲】
積乱雲の下にできる雲で、壁のような姿で迫ってきます。この雲のすぐ背後に積乱雲があるため、見かけたら即避難する必要があります。
【雨柱】
積乱雲の下で激しく降る局地的な雨は、遠くから見ると、柱のように見えます。
そのほか、竜巻発生の直前に現れる「漏斗雲(ろうとぐも)」も危険を知らせてくれています。「雷鳴」が聞こえる場合は落雷の危険があります。このような雲や現象に出会ったら、安全な建物などに避難しましょう。
■飛行機雲が残ると雨が降る…“言い伝え”の検証結果
積乱雲の観天望気以外にも、「山が笠をかぶると雨」「猫が顔を洗ったら雨」といった古くからの天気の言い伝えもあります。中にはあやしげなものもあったので、その根拠と信頼性を検証してみました。
【観天望気の信頼性】
◎=信頼できる
◯=けっこう信頼できる
△=あまり信頼できない
×=信頼できない
?=どちらともいえない
雲や空の観天望気
1.太陽や月の周りに光の輪(ハロ)がかかると雨→◯
意味と理由:低気圧や前線が西から近づいているとき、うす雲(巻層雲)が広がってから天気がくずれる。
2.山が笠をかぶると雨→◎
意味と理由:空気が湿っているときに山を越える気流で雲ができる。富士山の笠雲は日本海に低気圧があるときに発生しやすく、科学的根拠あり。
3.飛行機雲が残ると雨→◯
意味と理由:飛行機雲のできる高い空が湿っているため、西から天気がくずれる。上空が湿っているかどうかの目安になる。ただし必ずしも雨になるわけではない。
4.飛行機雲が消えると晴れ→◯
意味と理由:飛行機雲のできる高い空が乾燥しているため。上記と同じく上空の湿り具合の目安になる。確実ではないので天気予報を確認する。
雲や空に関する観天望気は、科学的に信頼できるものが多いことがわかりました。雲の姿や状態、動きなどが上空の大気の状態や風の流れを反映しているため、天気の変化と結びつきやすいことが理由だと考えられます。
一方、生物の行動に関する観天望気は、どうでしょう。
生物の行動の観天望気
・アマガエルが鳴くと雨→×
・スズメが早朝からさえずると晴れ→×
・クモが巣を張れば雨が降らない→×
・トンビが高く飛ぶと晴れ、低く飛ぶと雨→△
・ツバメが低く飛ぶと雨→×
・ネコが顔を洗うと雨→×
・アリの行列を見たら雨→×
・カマキリが高いところに卵を生んだ年は大雪→×
こちらは、科学的根拠が不十分でほぼ信頼できませんでした。
観天望気は、積乱雲の登場や、天気の崩れるサインとなる空模様の変化など、天気予報や気象情報と合わせて使うと効果的です。そして、常日頃から空を見ることや、気象情報を取ることが習慣になっていくと、それが自然と防災につながっていきます。ぜひ、楽しみながら空や雲を眺めてみてください。
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荒木 健太郎(あらき・けんたろう)
雲研究者、気象庁気象研究所主任研究官、学術博士
1984年生まれ。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために災害をもたらす雲のしくみを研究している。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修、NHK『おかえりモネ』気象資料提供。著書に『雲を愛する技術』(光文社)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、『せきらんうんのいっしょう』(ジャムハウス)など多数。
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(雲研究者、気象庁気象研究所主任研究官、学術博士 荒木 健太郎)

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