健康でいるためにはどうすれば良いのか。岐阜大学名誉教授で循環器専門医の湊口信也さんは「カリウムが豊富な食材は、血圧を下げるだけでなく、脳卒中や心血管疾患、さらには死亡リスク全体を下げることが研究で示されている」という――。
(第1回)
※本稿は、湊口信也『果物野菜で100歳を生きる』(さくら舎)の一部を再編集したものです。
■果物・野菜を食べると血圧が下がるしくみ
果物野菜の摂取が血圧を低下させるしくみの一つとして考えられているのは、果物野菜がカリウムを多く含むことです※1。摂取した果物野菜からカリウムが吸収されて血液中にカリウムが入りますが、血中カリウム濃度が増加すると、体は細胞の中にカリウムを取り込みます。
※1 Mente A et al. Urinary potassium is a clinically useful test to detect a poor quality diet. J Nutr 139: 743-749, 2009
その際、細胞内のカリウムが増加すると細胞内のナトリウムがナトリウム-カリウム交換作用によって細胞内から血液中にナトリウムが放出されます。血液中のナトリウム濃度が増えると腎臓でのナトリウムの再吸収が抑制され、尿中へのナトリウムの放出とともに利尿により血圧が下がります。
腎臓でナトリウムとカリウムの調節を行っているのは、ナトリウム-クロライド交換輸送体というイオン輸送体であり、ナトリウム-クロライド交換輸送体が活性化するとナトリウムを体にため込み血圧が上昇し、逆にナトリウム-クロライド交換輸送体の働きを抑えるとナトリウムが体外に出ていくことで血圧低下が認められます。
また、ナトリウム-クロライド交換輸送体の働きが抑えられると、尿中にカリウムをたくさん排泄することができます。カリウムをたくさん摂取すると、尿中にカリウムを排泄するためにナトリウム-クロライド交換輸送体の働きが抑えられ、その結果、ナトリウムの再吸収が抑制され、結果としてナトリウムが排泄されることから、血圧が低下します。
■高血圧を撃退するカリウムが豊富な食材
つまり、果物野菜摂取によってカリウムを摂取すると、体内のナトリウムを体外に排泄するため、減塩と同じ効果が得られ血圧を低下させることができると考えられています。また、カリウムには交感神経の活動を抑制する働きがあります。
交感神経が亢進すると血圧が上昇しますが、交感神経が抑制されると副交感神経が優位になり、心拍数が下がり、血管が拡張して血圧が低下していきます。
カリウムは果物野菜、海藻類などに豊富に存在するため、生で食べられるものは生で、調理する際は煮物であれば煮汁ごと食べるようにすることがおすすめです。
カリウムの含有量が特に多い果物は、アボカド、キウイフルーツ、バナナ、露地メロン、さくらんぼ、リンゴ、ナシ、柿などです。
また、乾燥させた果物でも、きはだ(実)、くこ(実)、乾燥あんず、乾燥バナナ、ドライマンゴーなどはカリウムが豊富です。野菜は、パセリ、ブロッコリー、ホウレン草、えだまめ、春菊、ニンジンなどが挙げられます。
また、乾燥させた野菜でも、干しずいき、切り干しダイコン、ドライトマト、干しわらび、干し唐辛子などもカリウムが豊富です。高血圧管理・治療ガイドライン2025には、高血圧症の非薬物治療として、果物野菜を摂取すると血圧が低下することが記載されていますが、これら果物野菜を摂取すれば降圧をはかることができることになります。
■脳心腎疾患・全死亡リスクも低下させるワケ
果物野菜を多く食べると健康に良いというのは、一般によく知られていることであると思いますが、具体的にどのような効用があるのかについてはあまり知られていないと思います。ここでは、果物野菜摂取が実際に脳心腎疾患や全死亡リスクを低下させることができるという臨床研究の結果について述べたいと思います。
果物野菜にはカリウムが多く含まれています。また、1日尿中カリウム排泄量の一番多くを占めている食物は野菜であり、次いで果物であるとの報告がなされています※1。したがって、1日尿中カリウム排泄量の測定値を、果物野菜の摂取量の指標とみなすことができると報告されています※1。
カナダのマックマスター大学のO’Donnell MJらは、大規模臨床試験を行って、心血管病あるいは糖尿病の患者2万8880人を対象として平均56カ月間経過観察した結果、1日尿中カリウム排泄量が少ない患者では脳卒中の発症リスクが増加することを報告しています※2、図表1。
※2 O’Donnell MJ et al. Urinary sodium and potassium excretion and risk of cardiovascular events. JAMA 306: 22292238, 2011
また、O’Donnell Mらは、17カ国の10万1945人の一般人を平均3.7年間経過観察した結果、1日尿中カリウム排泄量が少ない場合には心血管疾患の発症リスクが増加し、様々な原因による全死亡も増加したことを報告しております※3、図表2。

※3 O’Donnell M et al. Urinary sodium and potassium excretion, mortality, and cardiovascular events. N Eng J Med 371: 612-623, 2014
■血圧が正常でも病気になる人の特徴
さらに、米国ハーバード大学のMa Yらは、1万709人の健常者の1日尿中カリウム排泄量を測定して平均8.8年間経過観察した結果、1日尿中カリウム排泄量と心血管病リスクが逆相関し、1日尿中カリウム排泄量の増加は心血管病リスクの低下を示し、1日尿中カリウム排泄量の低下が心血管病リスクの増加を示したと報告しています※4、図表3。
※4 Ma Y et al. Multiple 24-Hour Urinary Sodium and Potassium and Cardiovascular Disease. N Eng J Med 386: 252263, 2021
著者らが、NOBUNAGA研究※5において登録された3669名のうち、登録されてから少なくとも6カ月後のデータが得られた3210例を解析の対象としてデータを解析した結果、1日尿中カリウム排泄量が少ない患者では、脳心腎疾患の発生率が有意に高かったです※図表4-A。さらに、1日尿中カリウム排泄量が少ない患者では、全死亡率が有意に高かったです※図表4-B。
※5 Minatoguchi S, NOBUNAGA investigators. Lower urinary potassium excretion was associated with higher risk of cerebro-cardiovascular- and renal events in patients with hypertension under treatment with anti-hypertensive drugs. J Cardiol 80: 537-544, 2022
本研究では、対象者全員が降圧薬によって治療されており、収縮期血圧と拡張期血圧が平均で135/77mmHg前後にきちんとコントロールされていたのですが、このように血圧がコントロールされている状態であっても1日尿中カリウム排泄量がより少ない場合には脳心腎疾患、全死亡率が有意に増加したという結果は、カリウムにはナトリウムを排泄して血圧を下げる効果だけではなく、脳心腎に対する直接的な臓器保護効果があることを意味しています。
■カリウム不足で脳心腎疾患リスクは3.2倍に
この研究の評価項目は、脳血管疾患、心血管疾患、腎疾患(透析に至る腎臓病)の複合評価項目と全死亡であったため、これら脳心腎疾患と全死亡のリスクを減らすためには、果物野菜を多く摂取し、1日尿中カリウム排泄量を増加させればよいということになります。
具体的に述べますと、本研究での1日尿中カリウム排泄量の平均値は1日あたり1.6gであったのですが、脳心腎疾患のリスクは1日尿中カリウム排泄量が1.2gに低下した場合には2.3倍になり、1.0gに低下した場合には3.2倍に増加していました。
また、全死亡のリスクは、1日尿中カリウム排泄量が1.4gに低下した場合には1.4倍に増加し、1.2gに低下した場合には1.9倍に増加し、1.0gに低下した場合には2.3倍に増加していました。さらに詳しく述べますと、脳心腎疾患は61名であり、その内訳は心血管疾患29名、脳血管疾患24名、腎疾患(透析に至った腎疾患)8名でした。
全死亡は110名であり、脳心腎疾患による死亡は33名、脳心腎疾患以外の死亡は77名で、その中でも癌による死亡が36名、肺炎による死亡が17名と特に多かったことが特筆されます。
■果物・野菜で防げるのは心臓病だけじゃない
このように、1日尿中カリウム排泄量を指標として果物野菜摂取を見ると、果物野菜摂取量が少ない場合には、脳心腎疾患以外に、癌、肺炎による死亡が多くなるという結果から、果物野菜摂取の健康効果は脳心腎疾患の予防にとどまらず、癌や肺炎などのより多くの疾患を予防できると考えられます。
我々は、NOBUNAGA研究の論文発表を2022年に行ったのですが、時期を同じくして同年に、オランダのアムステルダム大学のWouda RDらにより、2万5639例の参加者について1993年から1997年まで登録されて、2013年まで経過観察されたEPIC‐Norfolk研究の結果がヨーロッパで報告されています。
それによると、1日尿中カリウム排泄量を低値群、中等値群、高値群の3群に分けて解析したところ、1日尿中カリウム排泄量が低値群に比べて高値群では統計学的に有意に心血管疾患の発生率が低値であったと報告されています※6。
つまり、果物野菜をたくさん食べていた群は心血管疾患の発症リスクが低かったのです。
彼らは、カリウムにはナトリウムを排泄する作用に加えて、心臓を保護する別の作用があると推察しています※6。
※6 Wouda RD et al. Sex-specific associations between potassium intake, blood pressure, and cardiovascular outcomes: EPIC-Norfolk study. Eur Heart J 43: 2867-2875, 2022

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湊口 信也(みなとぐち・しんや)

岐阜大学名誉教授、岐阜市民病院心不全センター長(特別診療顧問)

1952年、和歌山県に生まれる。医学博士。1978年に岐阜大学医学部医学科を卒業し、1983年に岐阜大学大学院医学研究科博士課程を修了する。1988年に岐阜大学医学部助手(第二内科)を務め、1989年にオ−ストラリア、メルボルン大学医学部(Pharmacology)に留学。2007年に岐阜大学大学院医学研究科循環病態学/呼吸病態学(第二内科)教授、2012年に岐阜大学大学院医学系研究科副研究科長、2016年に岐阜大学大学院医学系研究科研究科長・医学部長を務める。2018年以降は岐阜大学名誉教授および岐阜市民病院心不全センター長(特別診療顧問)として勤務している。主な資格は循環器専門医、内科認定医、内科専門医(総合内科専門医)、高血圧専門医、産業医、心臓リハビリテーション指導士、循環器上級指導医(FJCS),心臓病上級臨床医(FJCC)などがある。受賞歴は2003年にBest of Scientific Session AHA(アメリカ心臓協会)賞、2017年度岐阜医学賞などがある。

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(岐阜大学名誉教授、岐阜市民病院心不全センター長(特別診療顧問) 湊口 信也)
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