■85%が見抜けなかったフェイク情報
フェイク情報に騙されるのは「一部の騙されやすい人」だと思ってはいないだろうか。
実際にはそうではない。
私がGoogle Japanの支援を受けて行っている研究プロジェクトでは、2019年から継続的にフェイク情報に関する調査を行ってきた。2024年に発表した調査では、2022年から2023年にかけて日本で実際に広く拡散した15件のフェイク情報をもとに、人々がどのように受け止め、広めているのかを詳しく分析した。
その結果は驚くべきものだった(図表1・図表2)。
まず明らかになったのは、多くの人がフェイク情報を見抜けていないという事実である。
調査対象から、少なくとも一度は該当するフェイク情報を見聞きした3700人を抽出し、正誤をどう判断しているかを尋ねた。結果、「これは誤りだ」と適切に判断できた人はわずか15%程度にとどまった。逆に「正しい」と信じていた人は半数を超え、残りは判断を留保していた。
ここで見逃せないのは、この傾向が特定の層に限られていなかったことだ。若者に限らず、中高年層でも同様の割合で誤情報を信じており、年齢による差はほとんど見られなかった。
つまり「自分は大人だから大丈夫」「日頃からニュースを見ているから騙されない」といった自信は根拠に乏しい。
■真偽を錯覚させる「いいね」の同調圧力
では、なぜ多くの人が誤りを誤りと見抜けないのか。本書『嘘で満ちていく社会 データで読み解くフェイク時代の構造』で前述したように、怒りや不安といった感情に揺さぶられやすいこと、そしてアルゴリズムによって似た情報ばかりが表示されるネットの仕組みも大きな要因である。
だがそれだけではない。
まず、「ソーシャルプルーフ(社会的証明)」だ。SNS上で何千もの「いいね」が付きシェアされた投稿を目にすると、私たちは「これだけ支持されているなら事実に違いない」と思い込みやすい。中身を吟味するよりも、数字の大きさそのものが信頼の裏付けに見えてしまう。群衆の同調圧力が虚偽を真実のように錯覚させるのである。
もう一つは、訂正情報の遅れである。フェイク情報が拡散してからファクトチェックや訂正記事が広まるまでには時間差がある。その間に多くの人は最初の情報を信じ込み、印象が記憶に残る。先に紹介した「継続影響効果」のように、訂正を見ても最初の誤解が消えにくい。
つまり、訂正はどうしてもフェイク情報の後塵を拝してしまうのだ。
■写真や動画の「らしさ」の強度
さらに、「らしさ」の力である。ニュースサイト風のレイアウト、専門家を思わせる肩書、統計らしき数字やグラフ。こうした体裁が整っているだけで、人は内容の真偽を疑わなくなる。
特に写真や動画は強力で、過去の災害映像が「最新の被害」として拡散されたとき、多くの人が疑いなく受け入れてしまった。映像の持つ「証拠らしさ」は、論理よりも直感で信じ込ませる。
私たちは誰もが、社会的な支持の雰囲気や拡散のスピード、権威を装う表現といった要因によって、事実と虚偽を取り違えてしまう危険にさらされている。研究で明らかになった「15%しか見抜けなかった」という数字は、それを雄弁に物語っている。
フェイク情報は、気づかぬうちに私たちの思考を侵食する。日々SNSを眺めているだけで、知らず知らずのうちに真実と嘘の境界が曖昧になり、気がつけば誤情報を前提に話をしていることすらあるのだ。
だからこそ、フェイク情報は一部の人ではなく「多くの人」が騙される現実の問題として、社会全体で向き合うべき課題なのである。
■最も多かったフェイクの拡散手段と相手
フェイク情報はどのように広がっていくのだろうか。
私の研究では、フェイク情報を目にした後で「誰かに広めた」と答えた人は全体の6人に1人程度にのぼった。その中で、最も多かった拡散の手段は何か。意外にも、それは日常の会話だったのである(図表3)。
拡散者の約半分は、家族や友人、知人との直接のやり取りを通じてフェイク情報を伝えていた。
たとえば夕食の食卓で「今日こんなニュースを見たよ」と話題にする。聞いた家族はさらに職場や学校で友人に伝える。そこで広まった噂がSNSで再生産されて拡散していく。フェイク情報はネット空間に閉じているのではなく、現実の生活の場と往復しながら広がり続けるのだ。
ここで重要なのは、人々が「誰の言葉を最も信じるか」という点である。
■「悪意なき拡散」を生む張本人
同調査では、家族や友人、知人など身近な人からの情報は、新聞やテレビといった既存メディアと同程度に信頼されていた。
人は「近しい誰か」の声に耳を傾けやすい。専門家でも記者でもない、多くコミュニケーションをしている人の言葉に強い説得力が宿ってしまうのである。
この現象は「悪意なき拡散」を生む。本人は何の疑いもなく良かれと思って情報を伝えている。だが、もしその情報が誤りであれば、結果的にフェイク情報の伝播に加担することになる。
善意であれ無自覚であれ、その影響力は小さくない。むしろ親しい人同士のやり取りだからこそ、受け手は疑わずに受け入れてしまう。
考えてみれば、私たちの日常は会話の積み重ねでできている。通勤電車での雑談、職場の休憩室でのひと言、地域の集まりや学校での親同士の会話。そうした場にフェイク情報が紛れ込むと、あっという間に「みんなが知っている話」に変わってしまう。
■社会の“誤解”を形づくる温床とは
しかも会話によって伝えられた情報は、SNS上の文字よりも「生きた体験」として心に残りやすい。信頼の回路を通って浸透するからこそ厄介なのである。
現代は、インターネットだけでなくオフラインの場を介してもフェイク情報が増幅される時代だ。ネットと現実を往復することで、噂はより強固になり、訂正はますます追いつかなくなる。
つまりフェイク情報の拡散源は「無数のシェアマーク」だけでなく、「私たち自身の口」でもある。
この現実を直視するとき、問題は単なるSNSの機能にとどまらないことが分かる。
私たちが信じ、語り合うその場その場が、フェイクの温床にもなり得るのだ。食卓から広がる一言が、やがて社会全体の誤解を形づくる――そこに現代の情報環境の恐ろしさが凝縮されているのである。
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山口 真一(やまぐち・しんいち)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授
1986年生まれ。博士(経済学・慶應義塾大学)。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授。専門は計量経済学、ネットメディア論、情報経済論等。NHKや日本経済新聞などのメディアにも多数出演・掲載。主な著作に『炎上で世論はつくられる』(ちくま新書)、『スマホを持たせる前に親子で読む本』(時事通信)、『ソーシャルメディア解体全書』(勁草書房)、『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社)、『なぜ、それは儲かるのか』(草思社)、『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)、『ソーシャルメディア解体全書』『ネット炎上の研究』(共著、勁草書房)などがある。
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(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授 山口 真一)

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