―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

歌手、俳優で役割は「泥くさい中年の代弁者」。でも、本当にそれでいいのか? いやいや、まだてっぺんを取ることも諦めちゃいない。
勝手に決めつけてくれるなよ。よー、そこの若いのも、老いたのも、女も子どもも。歌うたい「竹原ピストル」の50歳の決意、聞いてくれよ。
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もう一回、勝負する時なんじゃないの?

 シンガー・ソングライター、竹原ピストルは今年50歳を迎える。地方巡業のアンダーグラウンドから音楽シーンの天下取りを狙い続けている男が40代最後に発表したニューアルバムのタイトルは、(※1)『FIRST CRY!!』。その意は“産声”。「原点回帰ではなく、今の自分でもう一度ファーストアルバムを」と意気込む男の左手にはファーストミット。竹原ピストル。歌うたい、己の宿命を悟る「知命」の境地に達した男は齢(よわい)五十を前にしても、その天命に抗う。

――今回の撮影で座りのミット姿がベテラン捕手然とした雰囲気だと思ったら、中学時代はキャッチャーだったそうですね。

竹原:そうなんですよ。当時バッテリーを組んでたエースとは仲はよかったけど、すげー気難しいヤツでしてね。もうほんと冗談じゃねえやと思って「俺はもう個人競技がいい!」つってやめました。


――ピストルさんといえば、楽曲も含め(※2)ボクシングのイメージが強いですが、今回のアルバムはジャケットからして野球です。

竹原:これも縁みたいなものがありまして、ちょうど3年前に知り合いの方から「今度、泉口友汰(いずぐちゆうた)って選手が巨人に入るから応援してやってよ」と飲み屋で聞いて、「おー、じゃあチェックしよう」って野球を見始めたらハマってしまって。球場で何げないキャッチボールを見ても、この人が投げたボールは人生の何億球目なんだろう……と勝手に想像しては熱くなっちゃって。

「もう一回ここから勝負する時なんじゃないの?」竹原ピストルが語る、50歳を目前にした現在地
エッジな人々
――アルバムの1曲目「ばっちこ~い!!」は、野球界でもなかなかの死語になっていますが、改めてピストルさんが使うと、突き刺さる言葉になりますね。

竹原:あ、ばっちこい世代ですね(笑)。これはちょうど野球を見始めたところに、(※3)BCリーグ20周年のテーマソングとして曲のオファーをいただいて。失礼ながら僕はBCリーグのことを知らなくて。でも「応援してくれる人がいるから戦える」ことは、僕が歌うたいとしても身に覚えのある感覚なので親身に思いながら「夢かもしんないけど、今更でも今からでもやってやろうぜ」という内容で提出したんです。その後に再起を目指す選手たちのリーグだと知って。まったくのラッキーパンチです。「なんだこの野球流れ、こんなことあんのか」となりました。

30歳や40歳とは全然違う、逆算をし始める50歳

――今回のアルバムのアーティスト写真でもスコアボードの5回の前に立つ写真がありました。これは50歳になる暗喩(あんゆ)ですか?

竹原:これも恐ろしいことにまったくの偶然で。
ただ、今、僕は49歳で「あー俺、50歳になんのか!」って考えが自分でもびっくりするぐらいあるんです。これって30歳や40歳になる時と全然違って。もちろん今の自分の歌が一番いいって揺るぎなく思ってますけど、そうやって音楽活動できるのはあとどれだけなんだろうと……ふとカウントダウン方式で考える自分がいて。そんな時、「もう一回ここから勝負する時なんじゃないの?」という気持ちになったんです。

「もう一回ここから勝負する時なんじゃないの?」竹原ピストルが語る、50歳を目前にした現在地
ふとカウントダウン方式で、考える自分がいて
――やっぱり終わりを考えざるを得ないというか。そこからの逆算で、これやっとかなきゃ、あれやっとかなきゃ、と。

竹原:そうそう。逆算すると「今からじゃ間に合わねえわ」ってことが出てくるじゃないですか。でも、振り返ると、先に目標を設定してそこから逆算して達成したことより、今やるべきことを一生懸命当たり前にやり続けていたら、後ろに大きな足跡がついていたパターンのほうがはるかに多い。先のことをウダウダ考えるより、今できることを全力でやっていくしかない。腹くくんなきゃいけねえって年にはなったのかなって。同世代の皆さんはどうですか?

――体力の衰えを感じ、会社や家庭で置かれる立場の中で老害と呼ばれながら若い頃のガツガツした自分を取り戻したい、という声はすごく聞きますね。


竹原:僕も「売れてやるぜ、ゼッタイ天下取ってやるからな」みたいな気持ちは自分でも恥ずかしいほど変わんないですね。「これができなくなっちゃった」みたいなことは、ないことはないけど、それ以上にできることのほうが増えてます。“できる限り自分を客観視した上で”言えるのは、歌詞の精度とクオリティがどんどん上がってきていると思えるし、歌もやっぱり良くなっていると思えます。

大先輩からの言葉「歌は50歳からだよ」

――今の時代、言葉をこんなに真正面から信じてる歌手って珍しい気がします。

竹原:言葉に真摯に向き合っているとすれば、それは書くのがめちゃくちゃ好きだからじゃないですかね。こっちのほうが美しいな、こうなったら楽しいなって楽しみながら書いている部分だけは自慢かもしれないです。(※4)野狐禅っていうユニットを組んでいた頃に顕著だった“僕がこう歌うからこそ僕なんだ”という自分らしさを勝手に決めつけていたものは年々薄まってきて、今は完全になくなったと言い切れます。お題をもらって言葉を考えることも好きですし、何も考えずに韻を踏み倒すような言葉遊びも好き。今回入っているちょっと政治的なワードも、変に取る人もいるだろうなと思いつつ、“しかし意味はない”みたいな。そういう自由度がすごく高くなっている気がします。

「もう一回ここから勝負する時なんじゃないの?」竹原ピストルが語る、50歳を目前にした現在地
自分らしさを決めつけていたものは、完全になくなった
――確かに収録曲(※5)「オオセンチコガネ」「宇治川釣り日和」などは、趣味の曲なのに、不思議と意味があるように聞こえます。

竹原:あれもポコンと浮かんできたもので、「コガネ」の意味なんて糞虫なのに宝石みたいにキレイだなって(笑)。
でも昆虫観察は、何かの本で「人と比べることはナンセンス」と読んで納得していて。虫ってただ生きて、食べて、増えて死んでいく。僕にはそんな悟りの境地のような生き方はできないから、見てると憧れとともに自分の小ざかしさやグダグダ考えてる部分が浮き彫りになる。「ゼッタイ歌で天下取ってやる」って揺るぎない気持ちで生きてるつもりでも、ものの2、3年前のことで「なんて俺は馬鹿だったんだ」って後悔の連続です。もし、いつかその憑き物が取れた時、その先の俺は昆虫みたいな歌を歌いそうじゃないすか?(笑)

――50歳って、“諦め始める年齢〟でもあるじゃないですか。でもピストルさん、まだ全然諦めてない。覚悟を感じます。

竹原:そうですね。今回のアルバム制作でも実感した瞬間があって。「これは最高のアルバムになる!」と確信したレコーディングの山場に、ふと昔とある先輩ミュージシャンが「歌は50歳からだよ」と話してくれたことを思い出したんですよ。「あたりまえの歌」という楽曲は、当初は韻を踏み倒すヘンテコな歌詞を書いてたけど、「あー俺ももうすぐ50だな」ってハッと思って。最終的に“死んだらもう歌えなくなるから、死ぬまで歌い続けよう”っていう強い言葉をフックにした曲を作りました。


――その先輩の言葉の真意は、見えてきているのですか。

竹原:実は俺、歌のコツをちょっと掴んできたというか。“こういうことだったらいいな”と思うものが一昨年ぐらいから出てきているんです。端的に言えば力抜いて、無理くり感情を込めることもなく、気持ちよーく、楽しーく、ただやりたいように歌えばいいんだと。前はライブでも「この部分は感情を込めてガツンと言わなきゃダメなんだ」と歌ってたことも、変に演じようとせず、作詞と同じく“これが竹原ピストルのイメージじゃないか”って考えていたことがまったくなくなって。こう歌いたいんだから、これでいいじゃないのって自由さが出てきたんです。ただ、ライブのお客さんは多分変わってないと感じてると思います。コイツ、相変わらずヘタクソだなと(笑)。

「もう一回ここから勝負する時なんじゃないの?」竹原ピストルが語る、50歳を目前にした現在地
“絶対にいつかゴールはある”と信じます
――演じない、ありのままの自分を出せることに俳優業から得た影響もあるんでしょうか。

竹原:昔はまったく切り分けていて、相互作用もないと思っていたんですけどね。でも、歌の中の僕と私自身は完全に一致する人間ではないんです。ただ歌っている時は歌の主人公になりきっているので、結果的にお芝居の仕事をするよりずっと以前から、歌の中で大なり小なり演じていたような気はします。


――50歳前と言えば、松本人志さんが(※6)『さや侍』にピストルさんを抜擢した年頃と同じです。舞台挨拶では「(後進への手助けを)竹原君がまた誰かにやってもらえれば」とありましたが、ご予定は?

竹原:ありません。やっぱり僕は自分のことしか考えてないです。僕が売れなくて何の意味があるんだ!というのが本音中の本音なので、人のことを考えている余裕は全然ないですね。

――すごい。正直ですね。

竹原:やっぱり、現状、自分で自分を認められていないですから。「オマエ、これすげえライブだよ、合格だ、素晴らしい」って思ったことは一度もないし、もうこれ以上の曲はできないだろうっていう歌を書いたこともないから、この先「よくやった。竹原ピストルは完成した」って思えるようになった時は、なんらかのケリがつくのでしょうし、人に何かを言ったり助けたりする余裕も出てくるのかもですが。

――完成するんですか? 虫になってしまうかもしれませんよ。

竹原:完成を前提にやらないと。「こういうものは一生かけても完成しない」って達観していたら多分何も達成できないので、“絶対にいつかゴールはある”と信じます。そのほうが道のりは楽しいじゃないですか。

【Takehara Pistol】
1976年、千葉県生まれ。ユニット「野狐禅」で’03年にメジャーデビューし、’09年の解散後はソロへ。むき出しの言葉と熱い歌声で支持を集め、’17年「よー、そこの若いの」で紅白出場。俳優としても、映画『永い言い訳』など演技面で高く評価される

(※1)『FIRST CRY!!』
5月27日発売の竹原ピストル8枚目のアルバム。7月からは5か月をかけ、47都道府県を巡る、全国ツアーの開催が決定している

「もう一回ここから勝負する時なんじゃないの?」竹原ピストルが語る、50歳を目前にした現在地
エッジな人々
(※2)ボクシングのイメージ
拓大紅陵高校ではボクシング部の副主将を務め、道都大時代には全日本選手権に2度出場した経歴を持つ

(※3)BCリーグ
’06年設立の独立リーグ。ドラフト会議にかからなかった選手や中退など訳ありの選手たちが、NPBを目指し再起を図る地域密着のリーグ

(※4)野狐禅(やこぜん)
1999年結成。キーボードの濱埜宏哉(はまのひろちか)と竹原の編成で、むき出しの言葉を武器に青春の焦燥や生きることへの執念を歌った。’09年解散

(※5)オオセンチコガネ
動物の糞や死骸を餌にしながら“糞の中、しかし宝石のように輝く”ことが特徴の糞虫。「センチ」は便所を意味する“雪隠”に由来するともされる

(※6)『さや侍』
’11年公開、松本人志監督第3作。完成披露会見で俳優・竹原和生(竹原の本名)を抜擢した理由に松本は「才能のある人間が認められるべきだ」と語った

取材・文/村瀬秀信 撮影/コウ ユウシエン

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エッジな人々


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