「日々の生活の中で、感謝する余裕なんてない」

そんな風に感じている方にこそ知ってほしいのが、実は日本一「感謝の言葉」が飛び交う場所、甲子園球場に集まる阪神ファンの習慣です。

一見、激しい応援のイメージが強い彼らですが、実はグラウンドを神業で整備する裏方さんに「ありがとう」と声をかけ、時にはライバル球団からのメッセージに涙し、ファン同士で感謝を伝え合う「感謝のプロ」という一面を持っています。


こうした「感謝」のやり取りは、単なるマナーではありません。最新の研究では、感謝の気持ちを持つことで「睡眠の質が上がる」「ストレスやうつの症状が改善する」といった、驚くべきメンタルへの効果が明らかになっています。

マーケッターの牛窪恵さんが阪神ファンの行動から紐解く「幸福度を高める感謝の法則」を分析。明日からすぐに実践できる「ご機嫌な毎日」を送るためのメソッドをご紹介します。

※本記事は、『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』より一部を抜粋し、再編集しています。

阪神園芸に…ファン同士で…「ありがとう」が繋がる喜び

なぜタイガースファンは「阪神園芸」に感謝の言葉をかけ続けるの...の画像はこちら >>
緑鮮やかで浜風が心地よい野球の聖地・甲子園球場。美しいこの屋外球場を、激しい雨が覆い尽くすとき、球場には巨大なビニールシートが掛けられます。その後、雨が小雨、あるいはすっかりやむと、大勢の手によってシートが畳たたまれ、グラウンド上の水たまりはアッという間に「なかったこと」になる。

そのとき、阪神ファンの多くが決まって呟く、「感謝」の言葉があります。それが、「阪神園芸さん、ありがとう」。

またたく間にグラウンドを整備し、選手がプレーできる状態にしてくれる「阪神園芸」の仕事ぶりは、まさに神業。芸術とも呼べるものです。阪神ファンのほとんどはその価値や素晴らしさを熟知し、たびたび「感謝」の意を示します。
甲子園球場の公式ショップでは、「阪神園芸」と書かれたタオルのほか、マグカップやトートバッグなども発売されているほど。それだけ人気が高い証拠でしょう。

ファン同士で感謝し合う文化

阪神ファンはまた、ファン同士で感謝し合うこともあります。代表例は24年のオフシーズン、チームの支柱である大山悠輔選手が「国内FA」、すなわち他の国内球団と自由に契約を結べる権利(フリーエージェント権)を取得し、FA宣言をしたとき。

一時は「まさか、宿敵ジャイアンツに移籍するのでは?」と大騒ぎになり、私も毎日心配で胃が痛かったのですが……。大山選手は悩んだ挙句、最後の最後でタイガースを選んでくれた。彼は残留した理由の一つとして、「ファン感謝デーのスタンドで、本当に多くの方々に僕の『赤い(推し)タオル』を広げてもらって、すごくうれしかった(から) 」と語りました(日刊スポーツ/24年11月30日掲載)。

じつは「ファン感謝デー(ファン感)」の直前、私たち阪神ファンは、「ファン感に行かれる方、どうか大山選手のタオルを掲げて『行かないでー!』と声を張り上げてください」とお願いし合っていました。まさに、それが報われた形。大山選手のコメントを見聞きした直後、多くの阪神ファンが、現場でタオルを掲げてくれたファン仲間に対し、「本当にありがとう!」と深く感謝を示し合ったのです。

感謝される側になることも

一方で、阪神ファンが「感謝される側」に回ることもあります。

たとえば、25年6月のセ・パ交流戦。私はタイガースの応援にと、初めてファイターズの本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」を訪れたのですが……。試合終了後、とても感動的な出来事に遭遇しました。
球場内のビジョンに、「阪神タイガースファンの皆様へ」で始まるメッセージ、すなわち「私たちは、阪神ファンの熱気や一体感に、いつも尊敬の念を抱いております」「またお越しいただけるよう、努力します、ありがとうございます」といった、阪神ファンへの「感謝」のメッセージが流れたのです。

すると、私と同じく全国から「遠征」してきた阪神ファンは、「あの感謝コメントには、感動したよね~」などと一様に言い合っていました。同時に「こちら(阪神ファン)こそ、こんなに素晴らしい球場で試合を観させてもらって、感謝しかない」との声があちこちから聞こえてきたのを、いまも鮮明に覚えています。

自分だけでなく周りの幸福感を高められる

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感謝という情動が、また別の感謝を呼ぶ……。まさにこれが、情動伝染と呼ばれるものです。またこのとき、「感謝」はされるほうだけでなく、するほうにもポジティブな効果をもたらすことがわかっています。

東京大学大学院で特任研究員を務める伊達洋駆氏(ビジネスリサーチラボ・代表取締役)によれば、マネジメント領域での感謝に関する研究は17年以降、盛んに行なわれるようになった、とのこと。このうち、情動伝染効果はウイルスの伝染に近いイメージで、誰かの感情が周りに、無意識のうちに波及していく、といった概念です。

また、東北大学大学院准教授の細田千尋氏によれば、「感謝しやすい人」は、誰かからいいことをしてもらった際、「自分のためにこんなことをしてくれた!」と、その行為を高く評価する傾向にあり、総じて幸福度も高い(いい意味での「スキーマバイアス」) 、とのこと(「プレジデントオンライン」プレジデント社/20年12月14日掲載)。

そうした人は、おそらく「自分も誰かを助けてあげよう」「感謝しよう」とポジティブな思いを抱いたり、「誰かに感謝できる喜び=幸福感」を実感できたりするからこそ、幸福度が高まりやすいのでしょう。感謝とは縁遠く見える阪神ファンも、阪神園芸や甲子園以外の球場、周囲のファンたちに「ありがとう」と示すことで、自身が感謝できる喜びを感じ、そのことが彼らの幸福感を高めているのかもしれません。

感謝し合うことがストレス軽減につながる

実際に、「感謝する・される」ことによって、「ポジティブな気持ちになり、睡眠改善などのストレス軽減に繋がる」効果も指摘されています。

英国マンチェスター大学の研究によると、感謝の気持ちを抱きやすい(感謝する)人ほど、ぐっすり眠れたという感覚が強く、寝つきも良く、日中の眠気やパフォーマンスの低下が少ない、とのこと。
一方、アイルランド国立大学の研究では、「感謝の介入(感謝の振り返りなど、感謝する行為) 」を3週間行なった人々のあいだで、ストレスとうつ症状の改善が認められ、「幸福度」も高まることが確認されているのです(「プレジデントオンライン」24年12月27日掲載)。

後者の、感謝の振り返りには、「感謝日記」が効果的だともいわれます。先ほどの細田氏によれば、週1回週末だけ、なんらかの感謝を書き出す行為を10週間続けるだけで、ポジティブな効果が得られる、とのこと。皆さんも明日から、いえ今日から、さっそく試してみませんか?

<文/牛窪恵>

【牛窪恵】
世代・トレンド評論家/立教大学大学院客員教授/修士(MBA)。マーケティング会社インフィニティを20余年経営し、大手企業各社と数千人の消費者を取材。その知見から、財務省 財政制度等審議会専門委員や内閣府「経済財政諮問会議」政策コメンテーターなど、数多くの政府委員や研究会メンバーを歴任してきた。阪神タイガースの大ファンで、毎年40試合前後を現地(球場)にて観戦。阪神ファンへの取材経験も多い。推しは森下翔太選手。
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