※本稿は、北野唯我『仕事を好きになる技術』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■「人間関係のストレス」の根源
職場の人間関係に悩み、エネルギーをすり減らしている人の多くは、無意識のうちに一つの大きな過ちを犯しています。
それは、「他人は、自分の思い通りに動くはずだ(あるいは、動くべきだ)」という、根拠のない「過度な期待」を抱いてしまっていることです。
「私がこれだけ丁寧にマニュアルを作って教えたのだから、後輩は次から完璧にこなしてくれるはずだ」
「上司なのだから、部下である私のキャリアをもっと親身になって考えて、適切なフィードバックをくれるべきだ」
「同じ会社の社員なのだから、他部署であっても私たちのプロジェクトに協力的な態度をとるのが当然だ」
こうした期待は、一見するとビジネスパーソンとしての「正論」のように思えます。しかし、現実の生々しいビジネスの現場において、他者があなたの思い描いた「理想の台本」通りに完璧に動いてくれることなど、ほぼ100%あり得ません。
なぜなら、他人はあなたとはまったく違う脳の構造を持ち、違う過去の経験から形成された価値観で生き、違うインセンティブで動いているからです。
■相手をOSの違うパソコンだと思う
パソコンやスマートフォンに例えれば、分かりやすいでしょう。あなたは最新のiOS(Apple)で動いているのに、目の前の同僚はAndroidで、上司は古いWindowsで動いているようなものです。
OS(基本ソフト)がまったく違うのですから、あなたが「このアプリ(常識)を開いてくれ」と指示を出しても、相手の画面ではエラーが起きて動かないのは当然です。
それなのに、「なぜ私の言う通りに動かないんだ!」とパソコンのモニターを叩いて怒っている。これが、人間関係でイライラしている状態の正体です。
あなたが相手に抱いた「こうしてくれるはずだ」という期待は、裏を返せば、相手に対して「感情の借金」を勝手に背負わせている状態だと言えます。
そして、相手がその期待通りに動かなかった(借金を返してくれなかった)とき、あなたは猛烈な「怒り」や「失望」という形で、高い利子をつけてその借金を回収しようとします。
厳しい言い方になりますが、あなたの目に映る相手の「弱み」とは、あなたが勝手に抱いた期待が裏切られた場所に過ぎません。
逆に相手の「強み」とは、あなたが「やって当たり前」と期待通りに受け取ってしまっているため、感謝できていない場所のことなのです。
■相手に対する「期待」を捨てる
人生において、私たちが100%コントロールできるのは「自分の認知」と「自分の行動」だけです。「他人の性格」を変えようとするのは、絶対にコントロールできない変数にエネルギーを注ぎ込む不毛な行為です。
上司の性格を論理で変えようと説得したり、やる気のない後輩のモチベーションを無理やり引き上げようとしたりするのは、明日降る予定の雨に向かって「頼むから晴れてくれ!」と叫び続けているのと同じくらい、自分の才能と時間の無駄遣いだと言えるでしょう。
対人関係をハックし、キャリアを前進させるための第一歩。それは、「他人は自分とは違うOSで動いているという事実を、フラットに受け入れること」です。他者に対する過度な期待を、思い切って手放してください。
最初から「この人は、こういう行動原理と価値観で動くシステムなのだな」とドライに受け止める。この「期待値の初期化」を行うだけで、人間関係のストレスは体感で8割減少するでしょう。
■嫌な奴を攻略する「北極星」の法則
「他人に過度な期待をしてはいけないのは分かりました。でも、それだと職場の人間全員を冷めた目で見るようになって、チームで大きな仕事をする意味がなくなってしまいませんか?」
真面目で優秀なあなたなら、きっとそう感じるでしょう。たしかに、ただ他人に絶望して心の壁を作るだけでは、孤立するだけであり、組織の中でスケールの大きな成果を出すことはできません。
私がお伝えしたいのは、「他人のすべてを諦めて孤独になれ」ということでは決してありません。「他人の『弱み(できないこと)』を潔く諦め、『強み(できること)』だけを徹底的に“当て”にする」という極めてプロフェッショナルなスタンスへの転換です。
これは決して他人を道具として扱うような冷徹な考え方ではなく、お互いのストレスをなくし、強みを活かし合うための「愛のある処世術」なのです。私はこれを、「北極星の法則」と呼んでいます。
昔々、GPSや磁力探知の技術がなかった時代の航海士たちは、真っ暗な夜の海で方角を知るために、常に北の空で輝く「北極星」を目印にして船を進めていました。
航海士は、北極星に対して「もっと明るく光ってくれ」などという無駄な要求(過度な期待)は絶対にしません。
北極星はただそこに在るだけの星であり、航海士はただ「北の方角を知るため」という一点においてのみ、その星の「常に同じ方角で光っている」という揺るぎない特徴を完全に当てにしながら、船を安全に操縦するという自らのミッションを全うしていたのです。
■上司にイラッとした時の対処法
職場の人間関係も、これとまったく同じ構造で捉えてみてください。
たとえば、あなたの上司が「営業力は社内トップクラスで天才的なひらめきがあるが、部下のマネジメントや事務処理は絶望的にルーズで気分屋」だったとします。
普通の人は、この上司の「マネジメントがルーズ(弱み)」という部分にフォーカスし、「上司なんだから、もっとしっかり部下を管理して、事務処理も期限通りにやってくださいよ!」と毎日イライラを募らせます。
この苛立ちの背景には、「上司は部下を完璧に管理するべきだ」という期待があり、その期待が裏切られたことによる失望があります。しかし、北極星の法則をインストールしたあなたは違います。
「○○課長は、マネジメント機能のOSが搭載されていないシステムだ。そこに期待するのは雨乞いと同じだから、もうきれいさっぱり諦めよう。事務処理や進捗管理はこちらで完璧に巻き取ってコントロールすればいいのだ。
その代わり、課長の強みである『天才的な営業力と突破力』を北極星として、自分のプロジェクトを成功させるために徹底的に当てにさせてもらおう」と、前向きに割り切るのです。
■苦手な人に会ったらバリアを張る
自分がどうしても落とせない大型案件の最終プレゼンの時だけ、その上司を引っ張り出してきて、最高のパフォーマンス(クロージング)を発揮してもらう。
そして案件が決まったら「さすが課長ですね! あのクロージングは誰にも真似できません」と心からの敬意を伝える。上司のダメな部分(弱み)は諦め、「営業をクロージングする機能」としてだけ、圧倒的なリスペクトを持って当てにするのです。
後輩に対しても同じです。
「事務処理のミスが多くて何度言っても直らないが、愛嬌だけはあってクライアントからは異常に可愛がられる後輩」がいれば、正確性が求められるデータ入力は絶対に任せず(期待せず)、クライアントとの会食の場や、トラブル時に場を和ませる潤滑油としてだけ、その人の強みを北極星として配置するのです。
同様に、嫌いな人、苦手な人に出会ったら、その人の中にある「たった1つの明確な強み(北極星)」を見つけてください。そして、そこだけを見るようにする。それが、あなたの心の平穏を保つ最強のバリアになります。
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北野 唯我(きたの・ゆいが)
ワンキャリア取締役
兵庫県出身、神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社。ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。現在取締役として人事領域・戦略領域・広報クリエイティブ領域を統括。またテレビ番組や新聞、ビジネス誌などで「職業人生の設計」「組織戦略」の専門家としてコメントを寄せる。著書に『転職の思考法』『オープネス』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)、『分断を生むエジソン』(講談社)、『これから市場価値が上がる人』(ポプラ新書)などがある。がある。
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(ワンキャリア取締役 北野 唯我)

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