インフレでお金の価値が目減りしていく中、どうやって家族の資産を守ればいいのか。ファイナンシャルプランナーのにぐ先生こと、谷口達也さんは「インフレ時代を生きる子どもたちにとって、投資は特別な知識ではなく必須の教養になる。
まずは大人がお金に対する考え方をアップデートする必要がある」という――。(第3回)
※本稿は、にぐ先生(谷口達也)『10歳の子どもには毎週1000円渡しなさい』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■貯金だけでは危ないのはなぜか
今はインフレの時代ですが、「そうはいっても、やはり貯金が一番安全。株みたいに減るものじゃないし」と思っている方のために、ここでもう一度言っておきますね。今の時代、そして、子どもが大人になっていくこれからの時代は「貯金だけで資産を持つのは危ない」という意識が必要です。
なぜ、危ないのかを説明するために、まずは基本のおさらいです。インフレとは、物やサービスの値段が上がること。これまで100円だった物が120円などに値上がりし、100円では買えなくなります。物価が上がるということは、裏を返せば「お金の価値が下がる」ということです。
節約をして100万円貯金しても、物価が上がっていくにつれて、100万円の価値は下がっていきます。わかりやすくいうと、「日本円」の価値が下がっていく時代なのです。物価の上昇については、肌で感じている方が多いと思います。

ニュースでよく聞くインフレ率とは、前年の消費者物価と比べた物価上昇率で、日本銀行は物価の安定的な上昇を持続させるために「インフレ率2%」を目標に掲げています。2025年末は2%台後半~3%台前半で推移していますが、インフレというのはしばらく続くのが通常です。
これからも物価が上がり続けると、同じ金額で買える物の量が減るうえに、現在のような低金利下では、貯金をしても金利がインフレ率にまるで追い付きません。
■1万円の価値が20年後には約6700円に
毎年のインフレ率が今後も2%だと仮定すると、1万円の実質的な価値は、1年後には約9800円、10年後は約8200円、そして、20年後には約6700円と、3分の2近くに下がってしまいます。長い目で見ると、インフレがもたらす日本円の価値への影響は、思ったよりも大きいと感じる方が多いのではないでしょうか? だから「貯金だけでは、資産が減ることになる可能性がある」のです。
インフレの時代は貯金だけでは資産は目減りしていくため、「投資」を資産づくりの選択肢に取り入れ、お金の価値が目減りすることから資産を守る対策が必要になります。投資をして、インフレ率を上回るリターン(収益)を目指すということです。
将来の利益を期待して、金融商品や不動産、企業などにお金を投じることを投資といいますが、簡単にいえば、投資で資産をつくるということは、「お金」を将来的に価値が増すと期待できる「物」に換えて持つというイメージです。
インフレに強い資産には、株式、投資信託があげられます。インフレで物価が上がると、企業の売上や収益が増えやすく、企業の価値が上がって株式1株あたりの価格である「株価」の上昇が期待できます。
■インフレ時代に欠かせない「投資」の知識
投資信託はたくさんの投資家から資金を集め、ファンドマネージャーと呼ばれるプロが運用をして、利益(または損失)を投資家に分配する金融商品です。投資信託なら、プロが運用方針に則り投資する株式や債券などを選んでいるので、何に投資すればいいかがわからない初心者も安心できます。

特に、2024年に大幅改正された新NISAのつみたて投資枠は、限度額内で得た利益が無期限で非課税になる制度で、対象商品は低コストの投資信託が中心のため、少額から始めたい初心者向きと注目されています。ただし、貯金は金融機関が破綻しない限り、基本的に元本割れになることはありません。
株式や投資信託、新NISAを含めて、投資には元本割れのリスクがあるということは、心得ておいてください。リスクがわかったうえで、インフレの時代は貯金だけに偏らず、お金を増やしてバランスをとるために、投資で資産を持つことが大切になるのです。この本は子どもの金融教育をテーマとしているので、必ずしも大人の方に貯金を投資に回すことをすすめているわけではありません。
ですが、子どものおこづかいに「投資」の予算を入れるには、インフレ時代の資産づくりには投資が必要と、まず親世代に納得していただく必要があります。そのためにも、お金のセンスの基礎知識はアップデートしておきたいものです。今まで投資はしてこなかった……という方も、これを機に、子どもと一緒に投資を始めてみるのもおもしろいと思います。
■「株式投資=ギャンブル」ではない
家族が「投資」を敬遠しているケースもよくあります。実際に私のアカデミーでも投資の話をすると、親の方から「私は全然、投資の経験がなくて」「今まで貯金と保険しか、金融資産づくりをしたことがない」といった声をよく聞きます。
個人的な感覚では、「投資=NG」としているのは男性に多いと感じており、なかには「うちは絶対に投資はやらない」と一刀両断で話が終わることも。女性の場合は「経験はなくても勉強してみたい」など柔軟な方が多いのですが、結局父親が許さないからと、おこづかいの予算分けから投資を外すケースもあります。

ですが、家庭での金融教育の有無で、子どものお金のセンスの高さは変わります。親自身は投資に否定的だとしても、子どもに投資のできる環境、機会を作ってあげることで、これからのインフレ時代を生きていくための武器になるはずです。
2015年頃までの株価は、長期的に見ると上昇と下落を繰り返す局面が多く、短期間での値動きが強く意識されていました。そのため、現在40代以上の世代は、株価が上がったら売り、下がったら買うという、「ギャンブル感覚の株式投資」をイメージする方が多いかもしれません。ところが、今の20~30代では、社会人になってから株価が下がった期間はほぼありません。
■保有する期間が長いほど利益が大きくなる
もちろん、銘柄によって下がることや、コロナ禍などで一時的に下落した瞬間はありますが、市場全体の平均株価はずっと上がってきたという印象でしょう。世代によって投資の概念やイメージは違うのです。
インフレ時代を生きていく子どもたちは、「株価はずっと上がり続ける」という印象を持つ世代となる、と予想しています。そんなとき、大人になってから投資を始めるのか、子どもの頃から投資に触れておくのか。後者のほうが「お金に強い」大人になるのではないでしょうか。
金融学で有名なジェレミー・シーゲル氏の著書『株式投資の未来~永続する会社が本当の利益をもたらす』(日経BP社)は、投資家のバイブルといわれています。その中に、過去200年の膨大な金融市場データをもとにした、実質のトータルリターン(投資で得られた総合的な収益)のグラフが出ています。

このうち、株式のグラフに注目しました。多くの方が思い浮かべる株価チャートは、上がったり下がったりしていると思います。ところが、長い目で見ると……実質の株式のトータルリターンは、ずっと上昇を続けているのです。なんと、200年で約60万倍も上がっています。このグラフだけでも、株式は「長く持つほうが強い」とわかりますよね。
■子どもは大人よりも時間を味方にできる
短期で見れば、株価は上がったり下がったりするものですが、子どもには大人よりもずっと長い時間があります。それは、投資の強みになるはずです。
投資の利益が非課税になることで話題のNISAは、個人が安定的な資産を形成することを目的とした、国の税制優遇制度です。
2024年に改正された新NISAでは、投資信託を対象とした「つみたて投資枠」と上場株式を含む「成長投資枠」の2種類が設けられ、併用することで年間360万円まで、生涯で1800万円(成長投資枠は1200万円)までの投資ができるようになりました。
通常、投資で得た利益には約20%の税金(所得税、住民税など)がかかりますが、NISA枠での投資は、「利益に対する税金がゼロ」となります。
そして、2026年以降、早ければ2027年に、0~17歳を対象とした「こどもNISA」(仮称、以下同)を設定する方針が「令和8年度税制改正の大綱」で示されました(2025年12月26日閣議決定)。
施行されれば、子ども名義のNISA口座が開設できるようになります。
対象は投資信託の「つみたて投資枠」に限定され、年間の投資上限は60万円、保有限度額は600万円になる予定です。
■「こどもNISA」を活用するメリット
親や祖父母が投資資金を出した場合でも、子どものNISA口座で運用すれば、得られた利益は非課税になります。また、引き出しは原則子どもが12歳になれば可能となり、18歳になると、大人向けのNISA口座へ自動的に移行される仕組みが想定されています。
「こどもNISA」は、2023年に新規投資が終了した「ジュニアNISA」の後継にあたります。「ジュニアNISA」の年間の投資上限は80万円で、上場株式を含めた幅広い商品を対象としていましたが、原則、子どもが18歳になるまで引き出しができず、非課税期間も5年に限定され、使いにくさが指摘されていました。
施行が待たれる「こどもNISA」は、大人向けの新NISAの「つみたて投資枠」と比べると、投資できる金額は異なりますが、長期の積立投資を前提とした使い勝手という点では、大きな違いはありません。
投資対象は投資信託に限定され、株式は購入できませんが、リスクを抑えた比較的安定した商品が中心となります。そのため、投資初心者にとっては、かえって取り組みやすい制度といえるでしょう。
■投資がより身近なものになる時代が来る
「ジュニアNISA」の終了以来、子どもに投資を体験してもらいたいと思っても、利益が課税されるため、すすめるのが難しいと感じていました。だから、非課税の「こどもNISA」の設定は、親子で投資を始めるきっかけになると期待しています。
「こどもNISA」は小学生だけでなく、中高校生にも使える制度です。私も中学校の金融教育の授業に呼ばれることがありますが、施行したら学校の授業でも取り上げられるようになるでしょう。
国の制度として、未成年でも少額から投資ができるようになるので、子ども自身も「私たちも投資をしていいんだ」という意識が持てるようになるのではないでしょうか。
子どもが「投資っておもしろそう」「やってみたいな」と考えたり、子ども同士の会話でも「投資」というワードが出てくる機会が増えるのではと思っています。

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谷口 達也(たにぐち・たつや)

株式会社マネーシフト代表取締役・ファイナンシャルプランナー

「なにも売らないFP」。1985年、岐阜県生まれ。株式会社マネーシフト代表取締役。大手証券会社を2社経て独立後、現在のFP法人を設立。主に金融教育事業を行っており、大人向けだけではなく、小中学生向けにも「おやこde資産形成アカデミー」という金融教育事業を展開中。全国規模の教育委員会から後援を受けたイベントとなり、オンライン授業で全国を対象に開催。受講者はのべ1万3千人(2024.12)。これまで後援を受けた教育委員会は120自治体を超える。YouTubeチャンネル『【大人のためのFP教室】教えて!にぐ先生!』の登録者は10万人。

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(株式会社マネーシフト代表取締役・ファイナンシャルプランナー 谷口 達也)
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