都道府県別の時価総額トップ企業はどこか。統計データ分析家の本川裕さんは「関東では小売・飲食チェーンのトップ企業が目立つが、関西のように、モノづくりにこだわり世界的なメーカーに成長するような企業を地元から輩出していない」という――。

■都道府県を代表する老舗企業の分布
世界と日本の主要企業の時価総額ランキングとその変化について前回触れたが、今回は、都道府県別の時価総額トップ企業を調べ、勢いのある地域企業の見取り図を紹介しよう。
なお、現代企業の地域分布を紹介する前に、都道府県を代表するような老舗企業の分布について掲げ、現代企業の勢いと共通する地域傾向がないかどうかについても認識を深めたいと思う。
図表1に各都道府県の老舗企業の分布図を作成してみた。もっとも新しい企業でも創業は1865年(慶応元年)と明治維新以前である。すなわち160年以上が経っており、100年以上という老舗企業の定義からすれば、みな本格的な老舗企業である。
日本企業の特徴のひとつは老舗企業が多い点にある。
創業ないし設立から100年以上経っている企業を老舗企業とすると、帝国データバンクの資料によれば、老舗企業は日本に約2万社あり、企業全体の1.6%にのぼっている(2009年)。そのうち200年以上経っている江戸時代以来の老舗企業は938社、300年以上の老舗企業は435社とだんだん少なくなるが、それでもけっこうな数にのぼる。
■日本の中央部ほど古い老舗企業が事業継続
日本最古であるばかりでなく世界最古の老舗企業とされるのは、大阪の「金剛組」であり、何と創業は大化改新以前の元号もまだない578年。現在までに1448年も続いている。
江戸時代までの金剛組は四天王寺のお抱え宮大工として毎年一定の禄を得ていたが、明治維新以後の廃仏毀釈により、四天王寺が寺領を失い、戦後には、金剛組は需要の少なくなった寺社建築ばかりでなく、マンション、オフィスビルなど一般建築も手がけるようになった。金剛組もバブル崩壊の影響を受け、他のゼネコンの支援を受け、債務を切り離して従業員や宮大工を新会社に引き継ぐかたちで存続を図ったという。

日本各地の老舗企業の業種を見ると、最古の老舗企業である金剛組のような建設業はめずらしく、旅館・ホテルや百貨店に加え、清酒、菓子、医薬品、水産練製品のような製造業、あるいは生鮮魚介卸、紙卸といった商家が多い。
変わったところでは、島根の「たなべたたらの里」のように、もともとのたたら製鉄の企業が、時代の変遷で商業等に長らく業種替えしていたが、近年、祖業を復活させ、ひとびとが歴史的遺産を体験したいというニーズにこたえているような例もある。
■虎屋はもともとは京都の御所御用菓子屋
なお、県別に記載した老舗企業は、地元で創業、継業しているケースが大半であるが、ようかんの虎屋のようにもともとは京都で御所御用菓子屋の地位を確立していたのが、御所の東京遷都にともない東京に本拠を移したというような例もある。
また、1566年に滋賀で創業し、蚊帳などの繊維製品を全国に行商していた近江商人の西川甚五郎商店が、江戸に進出して現在の西川産業(東京西川)、京都に出店して現在の京都西川、大阪に出店して現在の西川リビングという企業として活動するようになり、全体として「ふとんの西川」グループを形成しているといったケースもある。
その後、2019年には、グループのうちの西川産業(東京西川)、西川リビング(大阪西川)、京都西川の3社が統合して西川株式会社となった。分布図では祖業の地でなお継業している西川テックスのみを掲げた。
図中の老舗企業を古い順から並べると以下である。
大阪・金剛組(建築工事)578年創業

奈良・菊岡(医薬品小売)1184年創業

長野・佐久ホテル(旅館・ホテル)1428年創業

島根・たなべたたらの里(たたら製鉄)1460年創業

和歌山・駿河屋(練羊羹)1461年創業

図に赤字で記した老舗企業は、江戸時代初期にあたる17世紀以前に創業した企業(うち太字は16世紀以前創業)である。日本列島の多くの身近な地域で非常に古い老舗企業が息づいている。
16世紀以前、すなわち関ケ原の戦い以前に創業の企業は日本列島の中央部に多い。それだけこの地域が歴史的に先行しているとも言えよう。
■老舗が生き残り、ヒット商品を生む例も
この3年ぐらいの状況については、山形の大沼百貨店が廃業したので、別の老舗企業に差し替えざるをえなかったのを除くと、図中の企業については、事業譲渡や赤字克服などの試練を乗り越えながらも老舗ブランドが失われた例はない。

むしろ、多くの老舗企業は、新商品開発、販路拡大などで時代に適応し、ヒットを飛ばしているケースもまれではない。
前述した大阪・金剛組は、中堅ゼネコンの高松コンストラクショングループの傘下に入った後、黒字化を達成。現在は財務基盤も安定し、宮大工の専属集団である「匠会」が中心となって寺社建築に特化した事業を継続しているという。
図中2番目に古いのは奈良市・ならまちの菊岡漢方薬局であるが、24代目当主の菊岡泰政氏が、伝統的な漢方相談のほか、残った漢方薬を活用して開発した自家製スパイスカレー粉の体験や販売でも注目を集めているという。
図中3番目に古いのは長野県佐久市にある日本有数の老舗旅館「佐久ホテル」であるが、現在も伝統を守りつつ、天然温泉や名物の佐久鯉料理、信州牛などを提供する人気の宿として高い評価を得ている。
■勢いのある現代企業の都道府県別の分布
次に、老舗企業から目を転じて、勢いのある現代企業の都道府県別の分布を調べてみよう。
都道府県別のトップ企業を判定する指標としては、以前は国民や地域の消費生活を支える存在として売上高による場合が多かったが、最近では高齢者の資産運用の重要性に鑑み、時価総額による場合が多くなっている。日本全体や世界の企業ランキングが時価総額で行われるようになった影響もあろう。
各県に実質的に本社を置く企業について時価総額トップを判定するのは、ある一時点の時価総額について、本社所在地の属性を含む網羅的な企業リストを参照しなければならないので案外難しい。
ここでは、会社四季報の2021年データでトップ企業を判定したグラフを掲げた(図表2)。最新の状況変化については後段で触れる。
2021年当時の最大の地元トップ企業は、日本のトップ企業でもあった愛知のトヨタ自動車である。

東京のソフトバンクグループがこれに次ぎ、大阪のキーエンス、山口のファーストリテイリング(ユニクロ)、京都の任天堂、千葉のオリエンタルランド(東京ディズニーランド)が続いている。
このほか、地元性が高い企業として、愛知のトヨタ自動車のほか、神奈川の日産自動車、静岡のスズキ、広島のマツダといった自動車メーカーが、まず、目につく。
さらに、山口のファーストリテイリングのほか北海道のニトリ、茨城のケーズホールディング、群馬のワークマン、埼玉のしまむら、といった地元から全国的なチェーン展開がはじまった小売業、製造小売業などが目立っている。
■有名小売・飲食チェーンを生む北関東と埼玉
北関東や埼玉では首都圏における消費人口の巨大な集積を背景に、有力な小売・飲食チェーンが地元から成長している。茨城のケーズHLD、栃木のコジマ、群馬のヤマダHLD、ワークマン、埼玉のしまむらなどである。
特に埼玉では図表3に掲げたように地元で創業し、関東を中心に広域展開した有力小売・飲食チェーンを数多く輩出している。
関東圏のこうした特徴は、中京圏・関西圏の各府県トップ企業が製造業やソフト産業で占められ、小売・飲食の大手企業は登場していないのと比較すると、なおさら、目立っている。
しかし、北関東・埼玉のトップ企業の時価総額は、中京圏のトヨタ自動車は論外だとしても、関西圏における、京都の任天堂(または最近トップとなっている村田製作所)、大阪のキーエンス、兵庫のシスメックス(または最近トップとなっているアシックス)などの時価総額規模と比較するといかにも小さい。
つまり、北関東・埼玉で小売・飲食チェーンのトップ企業が目立つということは、逆に言えば、関西のように、モノづくりにこだわり世界的なメーカーに成長するような企業を地元から輩出していないことの裏返しだとも考えられる。
北関東・埼玉で創業した世界的メーカーとしては栃木・太田市のスバル、茨城・日立市の日立製作所があるが、いずれも東京が本社であり、地元性は関西企業ほどでない。
■西日本企業には実力ある企業が多い
関西地域の典型は京都である。図表4に京都を代表する大手メーカーを掲げた。
村田製作所と島津製作所は、もともと仏具商だった。仏具商出身が2社もあるというのも京都らしい。名の通った企業が多く、下位の企業でも時価総額で多くの県のトップ企業を上回っている。
首都である東京に本社をおく企業は東京出身でない場合も多いので除いて考えるとして、関東と関西の対比は、むしろ、東日本と西日本の地域としての成熟度の対比ともいえる。埼玉以北で山口のファーストリテイリングのような世界企業が登場するのはいつになるだろうか。
そのほか、図録を眺め渡すと、メーカーなどで目立ったトップ企業がない場合、地元電力会社や地元銀行がトップ企業となっている場合も多い。特に東北や四国・九州でこの傾向が目立っている。
■AI・半導体ブームが地域トップ企業に影響
図表2は2021年当時の状況を示しているが、2026年半ばの現時点における変更点を図表5に掲げた。
東京の企業は全国動向を反映しているが、ソフトバンクグループが6月1日にトヨタ自動車を抜いて日本一になったのが話題を呼んだあと、株価の動向がさらに変わりキオクシアHLD(元東芝メモリ)が日本一となっている。キオクシアHLDの時価総額は今や何と50兆円を超えている。
最近の時価総額の変動はAI・半導体ブームの影響によるところが大きい。東京の首位変更もそうだが、神奈川のレザーテック、京都の村田製作所、鹿児島のマルマエへのトップ企業交代にもそれが認められる。

京都の村田製作所など、2021年当時の時価総額は6兆円程度だったのが、今や20兆円を越える大躍進である。
また、経営陣による自社買収(MBO)で上場廃止となった結果、トップ企業が交代したかたちとなった例が岡山のベネッセHDと佐賀の久光製薬で見られる。
浮き沈みの激しい実業企業に対して、地元銀行は比較的安定しているので、岩手、茨城、群馬、三重、佐賀で地元銀行がトップに変更となっている。茨城の場合、県境を越えた2行が合併したフィナンシャル・グループへの変更である。青森でも青森銀行とみちのく銀行という2行の合併で名称が変わっている。
その他、都道府県の中で唯一、上場企業が不在だった長崎で、ハウステンボスの管理会社が上場し、トップとなった点も見逃せない。
■老舗企業の古さ、現代企業の勢い、ともに西日本優位
当記事では、老舗企業と現代企業の都道府県分布の状況を見てきた。両者に共通する特徴としては何が挙げられるだろうか。
老舗企業の分布を調べたところ、上で触れた通り、日本列島の中央部ほど古い老舗企業が事業を継続しているという特徴が浮かび上がった。東北・北海道や九州では、戦国・室町時代以前から続くような老舗企業は稀なのに、近畿地方や中四国ではそうした企業がけっこう多いのである。
これは西日本の企業のほうが事業継承の点で粘り強いということではなく、むしろ、日本史をさかのぼれば、やはり関西が政治だけでなく、人口集積や経済活動の中心として栄えていたため、のちに老舗企業となるような商売が多く生まれた名残りと考えられる。
それでは、現代ではどうであろう。

関西の大企業の多くが首都東京に本社を移している関係で東京のトップ企業が日本を代表する企業を兼ねる傾向があるので、東京を本社とする企業を除いて見なければならない。すると、東京一極集中の傾向が強まり、地方経済の地盤沈下が嘆かれているが、都道府県別のトップ企業の状況は、案外、西日本の地元企業の方がグローバル企業として飛躍しているケースが多いことが分かる。
例えば、北関東・埼玉には日本の消費生活をリードするような小売・飲食のチャーンが多く誕生し、地域のトップ企業にもなっているが、時価総額の規模では、京都のハイテク企業群や山口のファーストリテイリング(ユニクロ)のようにグローバル企業として躍進している西日本の企業の時価総額と比較するとかなり見劣りがする。
すなわち老舗企業の古さでも現代企業の威勢のよさでも、東京というより関西や西日本の企業に優位性が認められるのである。
これは、やはり、政治経済だけでなく文化や住民生活においても歴史の古い西日本のほうが成熟度の点で勝っており、それが反映した結果であるように思えてならない。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)

統計探偵/統計データ分析家

東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『統計で問い直す はずれ値だらけの日本人』(星海社新書)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)
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