熱中症になったときの水分補給に最適なのは経口補水液だが、すぐに手に入らない場合はどうしたらいいか。小児科医の森戸やすみさんは「水と塩と砂糖があれば自宅で作ることもできるので、ぜひ配合を知っておいてほしい」という――。

■熱中症のよくある原因と予防方法
いよいよ熱中症のハイシーズンがやってきました。もしかしたら、熱中症が心配になるのは、真夏だと思っている人もいるもしれません。でも、熱中症は、まだ体が暑さに慣れていない5~6月頃から増え始めるので、すでに注意が必要な時期です。
熱中症になると、大人の場合は集中力が低下したり、頭痛や目眩がしたり、吐き気がしたり、筋肉痛になったりします。子どもの場合は、自分の体調をうまく表現できないため、「つかれた」「おなかがいたい」「きもちわるい」などと言ったり、ぼーっとする、口数が少なくなる、元気がなくなる、食欲が低下するなど、いつもと様子が違う、という場合も熱中症かもしれません。事前に、どんなふうになったら注意が必要かをお話しておくといいでしょう。最近、私は『きけん!ねっちゅうしょうにちゅうい』(汐文社)という絵本を監修しましたが、そういう絵本や本などを使って教えるのもいいですね。
熱中症の原因は、体が熱くなりすぎて、汗による体温調節が追いつかなくなること。また、大量の汗が出ることで、体の水分と塩分が失われることも原因の一つです。ですから、熱中症予防には、なるべく暑い環境を避け、水分をこまめにとり、塩分をとることが大切です。
■普段から塩分を多めにとるのはNG
ただし、日本人は普段から塩分を摂りすぎているので、ほどよくとる「適塩」がおすすめです。2026年6月に日本高血圧学会が、「減塩しながら酷暑を乗り切る!!熱中症を防ぐ6か条」を発表しています。
熱中症予防のために、健康な人が普段から梅干しや塩飴、経口補水液を飲むなどして塩分摂取を増やす必要はありません。というより、増やさないほうがいいでしょう。
水分補給はたっぷりを心がけてください。頻繁に飲むのはカフェインや糖分が過剰にならない飲み物(水や麦茶など)がいいでしょう。
日常生活で起こる熱中症(非労作性熱中症)は、高齢者や持病のある人に多く、喉の渇きを感じにくいことが原因です。そのため、1日3食をきちんと食べられていれば、特別な塩分補給は必要ありません。暑さを感じにくくなっている人もいるので、クーラーなどを利用して涼しい環境にし、水分をしっかりとります。目安として1日1.2リットル程度の飲み物を何回かに分けて少しずつ、喉が渇く前に飲むのがいいですね。
一方、激しい運動や仕事で起こる熱中症(労作性熱中症)は、暑さのせいで汗を大量にかくことによって、体内の水分と塩分が急激に失われることが原因です。その際には1日3回の食事ができていたとしても、水分と塩分の両方をしっかり補給する必要があります。
■自宅での「経口補水液」の作り方
汗を大量にかいて熱中症になったときには、市販のOS-1などの「経口補水液」、または医療機関で処方される「ソリタ-T配合顆粒2号」による水分・電解質補給が有効です。どちらもナトリウムを中心とした失われやすい電解質がバランスよく含まれていて、体内に吸収されやすい糖分濃度になっています。

すぐに市販の経口補水液が手に入らないとき、医療機関に行けないときは、自宅にある材料で作ることも可能です。水1L+砂糖40g+塩3gというのが基本で、これにレモン果汁などを加えると飲みやすくなります。
塩分補給が重要とはいえ、ナトリウム濃度が高すぎるとしょっぱくて飲めなかったり、高張になって吸収が悪くなったりします。逆にナトリウム濃度が低すぎると水に近くなり、経口補水液としての効果が落ちます。ブドウ糖も同様で、飲みやすさを重視して糖分を増やすと浸透圧が上がって吸収率が落ちてしまいますから、分量の比率を必ず守りましょう。また、冷蔵庫で保管し、なるべく早く飲み切ってください。
■乳幼児には何を飲ませるべきか
ちなみに乳児の場合も、熱中症予防のために普段から塩分を多く摂らせたり、経口補水液を飲ませたりする必要はありません。離乳食開始前の子は、母乳や育児用ミルクを頻繁に与えることが大切です。離乳食開始後の子は、母乳やミルク以外にも、お水やお茶を飲ませて予防しましょう。母乳やミルクの回数を増やしても構いません。
熱中症が疑われる際には、乳幼児は特に悪化しやすいので医療機関を受診することをおすすめします。経口補水液を与える際には、乳児用経口補水液を探さなくても一般的な経口補水液で大丈夫。
乳幼児でも、成人でも、高齢者でも細胞外液の組成は同じだからです。
また、「子どもの場合は経口補水液ではなく、リンゴジュースでいい」と聞いたことがある人もいるかもしれません。これはカナダ・カルガリー大学の小児科で、軽症の胃腸炎の場合に<経口補水液を与えた群>と<2倍希釈のリンゴジュース+牛乳やスポーツ飲料を与えた群>を比較したところ、後者の方が治療がうまくいったという論文を基にした説です。しかし、熱中症では塩分補給が重要なので、薄めたリンゴジュースではなく、塩分の入った飲料にしましょう。
ただ、いずれにしても、市販の経口補水液はナトリウム、ブドウ糖、カリウム、クエン酸などが調整されているので、手に入るならこちらのほうがいいでしょう。手作りの経口補水液と違って、粉末やペットボトルの経口補水液は保存性も高いといえます。食中毒や感染症による脱水時にも役立ちます。
■スポーツドリンクではダメな理由
もしかしたら、熱中症時にもスポーツドリンクがいいと思っている人もいるかもしれません。でも、スポーツドリンクは塩分が少なく糖分は多く、体内への水分吸収率が経口補水液よりも低いため、熱中症時の水分+塩分補給には不適切です。
体内で水分が不足すると血中ナトリウム濃度が上がり、喉の渇きを感じます。水を飲むことで血中ナトリウム濃度は元に戻ります。一方、水やお茶のような塩分を含まない飲み物を大量に飲み続けたり、大量の発汗後に水ばかり補給したりすると、血中ナトリウム濃度が下がります。
ナトリウムが少なくなっても、水分不足のときの口渇のような強い欲求は起こりません。体はADH(抗利尿ホルモン)の分泌を抑えて尿の量を増やします。
つまり、余分な水を体外へ排泄することで、血中ナトリウム濃度を正常に戻そうとするのです。低ナトリウム血症は軽症では症状がないこともありますが、そのまま進行すると脳浮腫が起こり、頭痛、吐き気、倦怠感が現れ、さらに重症化すると意識障害やけいれんを起こすことがあります。こういう理由で、水分と塩分が急速に失われた場合は、その両方が一度にバランスよく摂れる経口補水液の方が、水やお茶、スポーツ飲料や清涼飲料水よりも優れているのです。
また、特に乳幼児において、日頃からスポーツ飲料やイオン飲料を「ミルクよりも健康にいいのではないか」「栄養価が高いのではないか」「水分補給に最適」と誤認し、乳児が体重増加不良と低ナトリウム血症で入院した事例が何例もあるので注意が必要です。スポーツ飲料は、少し大きくなってから「清涼飲料水(ジュース)」の一つとして飲ませるにとどめましょう。
■症状がひどい場合は必ず医療機関へ
というわけで、誰かが熱中症になったら、すぐに涼しい部屋へ移動させ、経口補水液を飲ませましょう。軽度なら水分は水やお茶、清涼飲料水でもいいですし、おやつとしてお煎餅などの塩分が入っているものを食べるのもいいですね。中等症、つまり頭痛やめまいがしたり、吐き気がしたりしてつらいときには、経口補水液を飲むか医療機関にかかりましょう。
熱中症による頭痛がひどいときは、市販の鎮痛薬を飲めば、頭痛を和らげることができます。ただ、熱中症の場合、体温が上昇することで脱水や循環不全などが起こった結果、頭痛がするもの。
鎮痛薬は根本的な治療にならないうえ、NSAIDs(エヌセイズ)は腎血流量を減らすので飲まないほうがいいでしょう。どうしても飲むならアセトアミノフェンがいいですが、いずれにしても水分と塩分の摂取が優先です。また、暑い中、頭痛と倦怠感のある人がアセトアミノフェンを飲むことによって少し楽になり、スポーツや作業を続けるのは危険なのでやめましょう。
涼しい環境で、経口補水液を飲んでもよくならない場合は、大人なら内科、子どもなら小児科を速やかに受診してください。熱中症が進行すると意識障害、多臓器不全になり、亡くなることがあります。毎年、熱中症による死亡が報道されますが、ほとんどが高齢者です。子どもの場合は亡くならなくても体調悪化が早く、重篤になりやすいので気をつけましょう。意識がない、呼びかけに反応が少ないなどの場合は、最初から氷水で冷やしながら救急車を呼んでください。
熱中症は、正しい知識があれば予防でき、万一なってしまっても重症化を防ぐことのできる病気です。「熱中症かな?」と思ったら、早めに涼しい部屋で休む、経口補水液を飲む、と覚えておいてください。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)

小児科専門医

1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。
医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)
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