世帯年収は1500万円程度あるにもかかわらず貯蓄がまったく増えない。そんな悩みを抱えて相談に来た58歳夫婦の家計を見すると、原因はすぐにわかった。
FP横山光昭さんが家計を食いつぶした1つの費目を1年半かけて粘り強く削りに削ると黒字転換に成功した――。
■月収61万円でも月11万円以上の赤字
今回は、西日本在住の笠間平三さん(仮名・58歳・会社員)と妻・明子さん(仮名・58歳・パート)からのご相談です。長男21歳、長女18歳、次男16歳と暮らす5人家族で、世帯の手取り月収は61万円(夫55万円、妻6万円)。
「収入が低いわけではないのに、お金が全然貯まらないんです。原因は生命保険だとはわかっているんですが、何をどう整理すればいいのか、さっぱりわからなくて……」と、平三さん。
家計を拝見すると、毎月11万500円の赤字を出しているにもかかわらず、月換算で16万5000円もの保険料を支払っていました。年払いの保険があるため、支払い期日が近づくたびに口座のお金をかき集めているというのですから、かなり切迫した状態です。
■「断るのも悪いかな」と気づけば13本
家計の緩さはたしかにあります。しかしそれ以上に目を引いたのは、保険の多さでした。加入先の一覧をいただくと、A4用紙が数枚にもなります。どういった経緯で加入されたのかを伺うと、ほぼすべてが知り合いや親戚からの紹介でした。
友人から外貨建て保険、元上司からがん保険、妻の友人(保険外交員)から個人年金保険や終身保険、親戚から学資保険――。

「断るのも悪いかなと思って、気づいたら13本になっていました」(平三さん)
収入が高いためボーナスも含めれば払えてしまい、なんとなく断れないまま契約を重ねてきたのです。こうしたケースは特に知り合いが多く人間関係が濃厚な地域でたまにお見かけします。義理の兄弟から、親戚など、身近な人からの誘いや頼まれごとが重なりやすい。押しに弱い性格もあるでしょうが、不安を煽られ無駄に多数の保障に加入してしまう方もいます。収入が高いと払えてしまうからこそ、断り切れないという落とし穴もあります。
■解約は加入よりはるかに難しい
問題は、加入より解約のほうがはるかに難しいことです。意を決してサポートセンターに解約の電話をすると担当者に連絡が行き、引き留められます。担当者には家も家族構成も連絡先も知られている。定期的な訪問もあるし、勧めてくれた方との人間関係もある。そういった弱みや情が、解約に踏み出す気持ちを鈍らせます。
ボーナスが出ると年払い分を一括払いし、時にはあらゆる口座からお金をかき集めていることが異常だという自覚はある。保険貧乏ゆえに貯蓄はわずか280万円。
老後資金はおろか、長女(18歳)と次男(16歳)の大学費用も危うい。58歳にして老後が迫った時点でようやく「このままではまずい」と、問題に向き合うようになり、私どもの事務所へご相談にいらっしゃったというわけです。
「保障は最低限の掛け捨て、貯蓄は投資で」
こうしたケースに正論を話しても、感情が追いつかないことは百も承知です。言うは易く行うは難しで、話を聞いた翌日に「分かりました。じゃあ全部やめます」とはなりません。人間はないところから積み上げるより、たくさんついているものを減らすときのほうが、ネガティブな心理が働くもの。頭では理解できても、減らす不安と「解約直後に大病したら」という気持ちが重なって、なかなか動けない。
そこで、まずは保険の考え方そのものをお伝えすることから始めました。例えば医療保険は、病気やケガで入院や手術など給付条件を満たさなければ給付金は受け取れませんが、貯金や投資で増やしたお金なら給付条件はなく、自由に使えます。
家計のリスクヘッジは保険と貯蓄の両輪で考えるべきであり、保険の保障は必要最低限の掛け捨てで抑え、将来への貯蓄は投資で増やしていくほうが、資産の流動性も高く、将来の自由度がまるで違ってくるというお話もしました。
貯蓄型の保険については「保険で貯めるのと投資は何が違うのか」という理解が必要ですし、「解約後に何かあったらどうしよう」という不安を解消するプロセスが必要なのです。
ご夫婦と「これに対してどう思いますか?」とキャッチボールを重ね、納得していただくのを根気強く待ちながら、少しずつ整理を進めました。
最終的に家計の保険料を月計13万5000円減らすのに要したのは、1年6カ月です。
かくして最終的に残した保険は4本。夫婦それぞれのがん保険、夫の死亡保障、次男の学資保険です。月の保険料は16万5000円から3万円に大きく削ることができました。
■「あの13万5000円を投資に回していたら」
読者の中には、こんな疑問が頭に浮かぶ方もいらっしゃるかもしれません。
「毎月払い込んでいた保険料が月13万5000円も減った。もしそのお金で投資していたら、いくらになっていたのだろうか?」
試算しましょう。月13万5000円を利回り4%で10年間運用すると、元本1620万円に対して360万円ほど上乗せされ、1980万円近くになります。一方、終身保険や外貨建て保険など貯蓄目的の保険で将来的に受け取れるお金は笠間さんの場合は約1000万円。保険には保障も入るため一概に比較はできませんが、貯める手段の差の違いは実感していただけるかと思います。ただ、投資をギャンブルだと感じて不安が強い方はその限りではありません。ですが、現状ではお金を貯め増やすことにおいては、投資の方が効率が良いのです。

そもそも保険は、加入者が損する確率が高く、企業が得するようにできています。医療には、公的な高額療養費制度があり、保険対象の医療や薬ならば自己負担限度額で済みます。笠間さんの世帯月収(月61万円)であれば月の上限は17万円程度、標準的な収入の健康保険加入者であれば月8万円程度に収められます(※2026年8月からは上限額が段階的に引き上げ)。その自己負担額を払うのも厳しい、となれば医療保険に入る価値はあるかもしれませんが、そうではなく、ある程度の貯金があれば医療保険に入る必要はない、というのが個人的な考えです。
一方で、タクシードライバーなど身体が資本の歩合制の仕事をされている方の医療保険や、一家の大黒柱が倒れた際の死亡保障、保険適用外の費用がかさみがちながん保険については、加入する意義があると考えています。
笠間さんのケースでも、次男が大学を卒業するまであと6年ほどあるため、その間の死亡保障は残しました。
大切なのは保険と投資それぞれの役割を正しく理解した上で、自分たちに合った選択をすることです。
■保険解約時に「言い負かされそう」な人へ
「解約するとなると担当者に引き留められそうで怖い」、「義理があり解約しづらい」という方も多くいらっしゃいます。正論で戦える方は、「貯蓄が目的なら投資のほうが効率的」「(保険商品の仕組みは)保障と貯蓄の二本立てとおっしゃいますが、保障は要らないので投資でお金を増やしたい」とはっきり伝えるのが有効です。
ただ、それが言いにくい方には、義理人情を逆手に取る手もあります。「甥っ子が保険会社に入ったので、そちらから入らないといけなくて」と言えば、担当者も引き下がることが多いものです。「夫がどうしても反対していて」「私には決定権がないので」と家族を盾にするのも一つの手。
正面からぶつからずとも、うまく場を収める方法はあります。
■月約7万円の黒字転換、NISAで老後資金を
現在、笠間さん夫婦の家計は黒字に転換しています。毎月6万9500円の余剰が生まれ、うち6万6000円をNISA(夫婦で3万3000円ずつ)、残り3500円を現金貯蓄に回しています。定年は60歳で退職金2000万円の見込みもあり、そこまでにしっかり積み上げていく計画です。ボーナスも以前は保険の年払いに消えていた分が手元に残るようになり、貯蓄も500万円まで増えてきました。
「あの支払い期日が近づいてくる緊張感、保険料のためにお金をかき集めているむなしさがなくなって、本当に気持ちが楽になりました。こんなに違うものなんですね」と、平三さん。妻の明子さんも「16万5000円の保険料が寿命を縮めていたかもしれない」と振り返ります。
保険をやめても、貯蓄が積み上がれば不安は消えていきます。保険の役割を正しく理解して最低限に絞る――それだけで、家計はここまで変わるのです。

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横山 光昭(よこやま・みつあき)

家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表

お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万6000件を突破。
書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は90万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は171冊、累計380万部となる。

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桜田 容子
ライター

明治学院大学法学部を卒業後、男性向け週刊誌、女性向け週刊誌などで取材執筆活動を続け、気付けばライター歴十数年目に突入。にもかかわらず、外見は全然ライターっぽく見られない。趣味はエアロビとロックンロールと花見など。

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(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭、ライター 桜田 容子)
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