※本稿は、水野操『思考を150%言語化するAI文章術』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■仕事が速い人は、いきなり書き出さない
長い文章を書こうとするとき、多くの人は書き出しでつまずく。最初の一文を書いては消し、書いては消しを繰り返すうちに時間だけがすぎていくこともあるだろう。
あるいは、書いたはいいが文章の流れが悪かったり、全体のつじつまが合わなかったりすることもある。最悪の場合、「いろいろ書いてはいるが、何を言いたいのかわからない」という謎の文章ができてしまう。
この苦しみから抜け出すには、「文章のよしあしは、書き出す前の『構成(アウトライン)』で9割決まる」という事実を知っておく必要がある。
この最も頭を使う、面倒な構成づくりこそ、AIが天才的な能力を発揮する領域である。仕事が速い人は、いきなり書き出すようなことはしない。まずAIに完璧な骨組みをつくらせ、そこに肉づけをしていくのだ。
プロのライターやコンサルタントは、どのような順序で論を展開し、どこで事例を出し、どう結論づけるかという構成を事前につくる。執筆に取りかかるのはそれが固まってからで、いきなり書き始めるのは目的地も決めずに大海原にこぎ出すようなものだ。
通常、この構成づくりには高度な論理的思考力を要するが、AIは世界中の膨大な文章データを読み込んでいるので、「論理的に破綻のない構造」のパターンを熟知している。構成づくりに関しては人間よりはるかに優秀だ。
プロンプト○○に関する報告書の構成案をつくって。ターゲットは役員で、××という結論に着地するようにしたい
このように指示すれば、AIは瞬時に、序論から結論に至るまでの完璧な目次案を提示してくれる。論理の飛躍も重複もない、整然とした骨組みが一瞬でできあがる。
自分でゼロから設計図を引くのではなく、AIに骨組みをつくらせることは手抜きではない。もし優秀な人間の部下がいたら、あなたも同じことを指示するはずだ。
■「AI9割:人間1割」の分業でいい
構成ができたら、次はいよいよ本文だ。ここで私が推奨するのは、「AI9割:人間1割」という比率での分業だ。
まず構成に基づいて、各パートのドラフトも書かせよう。「この構成に沿って、3000文字程度で各章の本文を書いて。」などと指示を出せば、AIは即座にそれなりの文章を仕上げてくれる。
まずは、これをたたき台としよう。
多くの人はAIの文章を見て「ありきたりだ」「魂がない」などと批判するが、AIがつくるたたき台は60点でいい。ここで必要なのはあくまで種(シード)だからだ。
AIが書いたたたき台を読んでいると、「これは自分が言いたかったことだ」と気づくことがある。頭の中でモヤがかかっていた考えが、初めて輪郭を持って現れる瞬間だ。
さらには「自分ではここまで考えていなかったが、AIが提示したこの視点も正しい」と感じることもある。AIは単なる代筆者ではなく、あなたの思考を引き出し、ときにはあなた自身が気づいていなかった考えまで言語化してくれるのだ。
■無機質だったAIに人間味をプラス
まずは全体の9割をAIにつくらせたら、残りの1割はあなたの出番だ。AIがつくった無難な文章に対し、あなたにしか書けない以下のような要素をトッピングしていく。
● 体験談(Experience)
「実は先週の会議で……」といった一次情報
● 感情(Emotion)
「悔しかった」「感動した」といった生身の感情
● 独自の視点(Perspective)
一般論ではない主観的な意見
AIの論理的に正しい骨組みと堅実なテキストの隙間に、あなたの生々しさや熱い思いを注入するのだ。すると、無機質だったAIの文章が、急に生き生きとした「あなたの文章」へと変貌する。
骨格づくりと文章作成の9割はAIがやり、最後の1割の仕上げを人間がやって文章に命を吹き込む。
「AIに丸投げすると、どこかで聞いた一般論をなぞったような文書にしかならない」
このような不満を持つ人には、この「最後の1割」の要素が欠けているにすぎない。
この「9対1」スタイルは、ゼロからイチを生み出すという最もストレスフルな作業がないので、メンタルが圧倒的に楽である。
たとえそれが30点、40点の出来でも、目の前にたたき台があるのは非常に大きな安心材料である。すでに書かれている文章を直すことのハードルは、イチから書くよりはるかに低いからだ。
まずはAIに「○○というテーマで、構成案を三つ考えてみて」と投げかけるところから、あなたの新しい執筆ライフが始まる。
■AI時代には「読めないこと」が致命的な欠陥に
これまでの説明から明らかになったことがある。AI時代には書けないことより、「読めないこと」が致命的な欠陥となるのだ。誰が作成した文章であれ、評価できなければOKを出すことも、修正の指示を出すこともできない。
ネットスラングに「TL;DR(Too Long; Didn't Read=長すぎて読まない)」という言葉がある。
SNSや倍速動画に慣れた私たちは、長い文章をじっくり咀嚼する体力を失い、少しでも長いと「要するに何?」と結論だけを急いで求めるようになった。
プライベートならそれでも問題は起こらないかもしれないが、この悪癖を仕事に持ち込んではいけない。
AIとの対話は一方的な命令で成り立つものではなく、キャッチボールである。あなたが投げたボール(プロンプト)に対し、AIはそれなりの重量があるボール(生成物)を投げ返してくる。このボールをしっかり捕球できるか、つまり読み解くことができるかが、仕事の成否を分ける。
時間がなかったり読むのが面倒だったりすると、ついAIが投げてきたボールを斜め読みして、「じゃあそれで進めて」などと安易に返答しがちだ。だが、文章を読みもしないでOKを出すのはトラブルの元だ。
というのも、AIはときおり「Aというリスクがありますが、B案で進めますか?」というように、文中に懸念点を含めた重要な確認を求めてくることがある。
また、AIの文章にときおり潜む論理の飛躍やウソ(ハルシネーション)を見抜くには、AIの言葉を正確に理解し、文脈と照らし合わせる読解力が不可欠だ。
普段、要約された文章ばかりを読んで読解力をおろそかにしていれば、AIの手綱を握ってビジネスを前に進めることなどできない。
■親友や最愛のパートナーからの手紙を思い
AIを活用していい文章をつくりたいなら、常に読む力を養う必要がある。書く労力をAIに委譲して楽になった分、あまったエネルギーを「読むこと」、すなわち監督の役割であるチェックと判断に全集中させなければならない。
それには、AIが出してきた構成案や文章を、親友や最愛のパートナーからの手紙だと思って読むといい。大切な人からの手紙なら、斜め読みせず一字一句噛み締めるように読み、真意を理解しようとするはずだ。
AIに対してもそのくらいの真剣さで向き合えば、一見滑らかな文章に潜む論理の飛躍や事実誤認に気づくことができる。また、「なるほど、こういう視点もあったか」と隠れたヒントを見つけられるかもしれない。
こうした違和感やヒントを拾い上げ、磨き上げることこそが、私たち人間に残された最後の、そして最も尊い仕事なのである。
■「目的」をセットすると出力が劇的に変わる
本稿の締めくくりに、私たちが陥りがちな手段と目的の取り違えという問題について伝える。文章作成におけるAIの活用で最も重要なのは、常に「何のために書くのか」という原点に立ち返ることだ。
ビジネス文書であれば、そのゴールはただ一つ、「読んだ相手が、こちらの期待通りに行動してくれること」。これに尽きる。
メールを送る目的は感動を与えることではなく、「返信をもらうこと」や「承認を得ること」。プレゼンの目的はデザインセンスの自慢ではなく、「商品(もしくはサービス)を採用してもらうこと」。報告書の目的は上司を感心させることではなく、「正しい判断を促すこと」にある。
ところが、私たちはしばしばこのゴールを見失う。
回りくどくて何が言いたいのか判然としないメール。
最悪の場合、「面倒だからあとで読もう」と放置され、忘れ去られる。それではどんなに時間をかけても価値はゼロだ。手段(書くこと)が目的化してしまう悪例である。
■「動かすために書く」ためのプロンプト
最短距離でゴールにたどりつくには、AIへのプロンプトに必ず目的をセットすることが重要だ。単に「○○のメールを書いて」ではなく、そこに魂(目的)を込める。
・このメールの目的は、相手に○○してもらうことです
・このメールの目的は、怒っている相手を鎮め、再度交渉のテーブルについてもらうことです
・この企画書の目的は、予算に厳しい役員に投資対効果が高いことを納得させ、承認印を押させることです
このように、相手にどう動いてほしいかというゴールを明確に言語化し、AIに伝える。すると、AIの出力は劇的に変わる。単に整った文章ではなく、相手を動かすための「心理的なフック」を探し、「構成」や「論理展開」を提案してくれるようになる。
とりあえず書くのではなく、「動かすために書く」。この意識をプロンプトに込めるだけで、あなたの文章は大きく変わる。
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水野 操(みずの・みさお)
ニコラデザイン・アンド・テクノロジー 代表
mfabrica代表。ニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表取締役。1990年代のはじめから、CAD/CAE/PLMの業界に携わり、大手PLMベンダーや外資系コンサルティング会社で製造業の支援に従事。2004年にニコラデザイン・アンド・テクノロジーを設立し、独自製品の開発やCAD/CAE/PLMの導入支援を推進。近年はAIエージェントを日常業務に活用するとともに、生成AIを組み込んだ自社プロダクトの開発にも取り組んでいる。
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(ニコラデザイン・アンド・テクノロジー 代表 水野 操)

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