マンション購入時に確認すべき点はどこか。「不動産Gメン」として情報発信している滝島一統さんは「多くのマンションでは理事会の議論が見えにくく、住民が気づいたときには方針が決まっている。
問題は意思決定の構造にある」という――。(第1回)
※本稿は、滝島一統『その家、買ってはいけない』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■分厚い管理規約、読んでいますか?
修繕積立金の問題も、配管の問題も、エレベーターの問題も、すべては管理組合という組織を通じて処理される。しかしこの管理組合の実態を、購入前に詳しく調べる人はほとんどいない。管理組合とはマンションを運営する組織で、毎月住民から集める管理費を原資に動き、修繕積立金を管理する。
150戸のマンションで月に修繕積立金2万円を徴収すれば、年間3600万円規模の予算になる。理事というのはその予算と方針をすべて管理する立場であり、固定された理事会メンバーが自分たちに都合のいい運営を続けているところも珍しくない。ところが多くの住民は管理組合に無関心で、町内の自治会のような感覚で捉えている。
「修繕について話し合うから集まってください」という案内が来ても、面倒だからと欠席する。平日の昼間に開催されることも多く、仕事が忙しい30代・40代の人間が参加するのは難しい。200~300戸ほどのマンションでも、理事会に積極的に関わるのは5~10人程度だ。その限られた人たちが、数百人の住民全員の資産の方向性を決めてしまう。
問題をさらに深刻にしているのが、管理規約の空白だ。
「管理規約」はマンションの運営に関わる重要な書類だが、購入する人のほとんどは読まない。間取りと設備と金額は念入りにチェックしたとしても、管理規約は分厚い冊子で専門用語も多く、買ったらそのままファイルに入れて保管することが多い。
■知らない間に値上げされる「修繕積立金」
ところがこの管理規約に、理事長の選任方法や任期についての規定がないケースが多くある。規定がなければ、理事長を選ぶのは現理事長だ。同じ人物が何十年も理事長を務め続けることが現実に起きている。理事の選出も規定がなければ理事長が選ぶことになり、理事会は仲間内で固められていく。
新しい住民が理事会に加わろうとしても、長年の固定メンバーの前では物理的にも心理的にも入り込めない。反対意見が出ることはほとんどなく、「今度、修繕積立金を上げます。賛成の人は……、はい、決議終了」という形で、住民が知らないうちに物事が決まっていく。
なぜ突然通知が届くのか――それは、理事会の構造上、一般住民には事前に情報が届かないからだ。修繕積立金の値上げは、仲間で固めた理事会の中では紛糾しないまま決まり、結果だけが住民に通知される。
「金額が適正かどうかもわからない」というのが多くの住民の正直な実感だろう。理事会が「ブラックボックス状態」になっているマンションも決して珍しくないのだ。
こうした構造の中で、理事長の立場を私的に利用するケースが起きる。理事長は管理組合の個人情報にアクセスできる立場だ。修繕積立金を滞納している住民も把握している。その情報を自分の利益のために活用することもできてしまう。
■陰で私腹を肥やす悪徳理事長の手口
たとえば、自分が懇意にしている不動産業者にその情報を流して、マンションの売却を持ちかけてもらう。修繕積立金を滞納している住民はお金に困っていると考えられるから、売却に応じる可能性は高い。それで売却が成立すれば、不動産業者から理事長の懐にバックマージンが入る、という寸法だ。
また、修繕工事の発注先を決める際に、業者から謝礼を受け取るケースも後を絶たない。本来4000万円で済む工事を5000万円で発注し、差額の一部が謝礼として理事長の手に渡る。これを外部から確認する手段はほとんどない。
小さな不正が見過ごされる環境では、やがて行為はエスカレートする。発見リスクの低さと金銭的誘因が重なることで、不正は構造的に拡大していく。
こうした問題が積み重なっていくと、管理組合は正常に機能しなくなっていく。理事会が仲間内で固まり、住民の意見が届かない。修繕の判断も発注も不透明なまま進む。そうしたずさんな管理が続いた結果、管理会社から「契約を更新しない」と言われることがある。
住民や外部に向けては、「管理費が足りないから管理会社が撤退した」と説明されることが多いが、実態は必ずしもそうではない。マンション管理は毎月安定した収入が入るうえ実務もそれほど多くはなく、管理会社にとって手放しがたい仕事だ。それをわざわざ放棄するということは、管理組合の対応に問題がある場合も少なくない。
■銀行から敬遠され、不動産価値が下がる
理事長にまともな話が通じない、管理会社に対して細かなクレームが絶えない――「お金の問題ではなく、人間の問題」という場合が多いのが実態だ。管理会社が撤退したマンションは、管理組合による自主管理に移行する。自主管理という選択肢が一概に悪いわけではなく、実際に適切に運営されているマンションも存在する。

しかし問題なのは、銀行や不動産業者が「自主管理=やばい物件」という目で見ることだ。何か問題があるマンションというレッテルが貼られるため、自主管理のマンションには融資をしない銀行もある。融資がつかないということは、買い手は現金で買える人に限られるため、価格は下がらざるを得なくなる。
こうして、管理会社から断られて自主管理になったマンションは、業界内でも「あそこは注意したほうがいい」との情報が出回っていく。
管理が機能せず、修繕も滞(とどこお)り続ければ、マンションはどうなるのか。
その前に一つ、多くの人が抱く疑問に答えておきたい。「マンションはいったい何年住み続けることができるのか」という疑問だ。私の見立てでは、日本のマンションの?体自体は、適切に維持管理すれば100年でも200年でも持つ。
■頑丈な建物なのに価値が下がるワケ
日本の建築基準はオーバースペックといえるほど厳しく、阪神・淡路大震災でも、報道では倒壊したビルや高速道路が何度も映し出され、地震が来れば鉄筋コンクリート造でも崩れるという印象を持っている方も多いと思うが、実際には鉄筋コンクリートのマンション本体が倒壊したケースはごく一部だった。
燃えたのは木造密集住宅地であり、マンションの軀体は地震にも相当な強度を持っている。1981年の建築基準法改正以降に建てられた「新耐震」のマンションであれば、震度6強から7の大地震でも倒壊しないように設計されている。では何が持たないのか?
防水・給排水管・内装の設備類だ。
これらを定期的に修繕さえすれば、軀体は長く使い続けられる。にもかかわらず日本でマンションの建て替えが進むのは、軀体の限界ではなく別の理由による。日本の住宅ローンは建物の築年数に応じて融資評価が下がる仕組みになっており、一定の築年数を超えると住宅ローンが組みにくくなる。
■建て替えでも解決できないマンションの壁
ローンが組めなければ買い手が絞られて物件の流動性が低下する。「設備さえ直せばまだまだ使える建物を、融資の仕組みが壊す方向に誘導している」――これが現実だ。建て直したほうが経済的にはプラスになるから、国としても住宅をなるべく建て直す方向に持っていきたい、という意向もあるだろう。
そうした事情を踏まえたうえで、建て替えという選択肢を見てみよう。これが容易ではない。
建て替えには現行法で区分所有者の5分の4以上の賛成が必要だ。2025年に改正法が成立し、条件によっては4分の3以上の賛成でも可能だが(2026年4月に施行)、4分の3への緩和は耐震性不足など一定の要件を満たす場合に限られる。
仮に4分の3が適用されたとしても、4分の1を超える反対があれば話は進まない。200戸のマンションなら50人以上の反対で止まる。
なぜ反対が出るのか。建て替えを決議してから竣工まで10年程度はかかるのが一般的だ。
建物を壊す工事が始まれば、住民は仮住まいへの転居を余儀なくされる。高齢になってからの引越しは体への負担も大きく、仮住まいの手配も自分でしなければならない。自分たちが生きている間さえ持ってくれればいい、という高齢者もいるから、反対する住民は必ず出る。
■建て替えか修繕かで泥沼裁判になるケースも
条件の良いケースでも合意は難しい。東京・西新宿の築50年近いあるマンションは、再開発区域にあり、地権者として再開発後のタワーマンションに等価交換できるという好条件だった(再開発組合との査定額が同じ場合。小規模マンション向けの低層の小さいマンションも建築される予定)。
しかし、それでも竣工は当初予定の2032年より遅れる見通しだという。賛成派と反対派がもめれば、好条件の案件でさえ何年も停滞する。一方、建て替えも修繕もできずに膠着(こうちゃく)状態に陥っているケースもある。
私が管理する東京・渋谷区の分譲マンションがその例だ。建て直す派と修繕する派が真っ二つに割れ、裁判に発展し、現状、何もできない状態になっている。給排水管が老朽化し、上水道も下水道も使えない状態が3年以上続いている。
電気は使えてエレベーターも動いているため、現在は倉庫として使われている。一等地にある分譲マンションが、住居ではなく倉庫として貸し出されている例もあるのだ。合意が得られない限り、こうした状態はいつまでも続く。

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滝島 一統(たきしま・かずのり)

不動産インフルエンサー/株式会社光文堂インターナショナル代表

1976年、東京都生まれ。明治大学商学部卒業後、ミサワホーム入社。25歳の時に渋谷区初台に不動産会社光文堂インターナショナルを設立。2011年より海外不動産事業にも進出。2022年6月、YouTubeチャンネル「不動産Gメン滝島」をスタート。不動産業者に騙されないための情報、物件の見方など、ユーザー目線の情報をコワモテで語る動画が人気を集め、登録者数70万人を突破した。毎回、不動産の知識がない人が損しないための情報を発信している、不動産業界ナンバーワンのインフルエンサー。

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(不動産インフルエンサー/株式会社光文堂インターナショナル代表 滝島 一統)
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