各国の大使や外交官が集うレセプションの実態はどうなっているか。元公安捜査官の勝丸円覚さんは「大きなレセプションの会場には、必ずといっていいほど米国をはじめいろんな国のインテリジェンス(諜報)機関の人たちが姿を見せる。
見ようによっては、『スパイの社交場』のような光景が繰り広げられることもよくあった」という――。
※本稿は、勝丸円覚『警視庁公安部外事課』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■年100回以上のレセプションに出席
ほとんどの国の大使館は年に一度、友好親善や情報発信を目的にナショナル・デーのレセプションを開いている。
ナショナル・デーとは独立、建国、革命など国家の記念日のことで、日本に大使館を置いているすべての国が自国のナショナル・デーを外務省に1つずつ届け出ている。
毎年、当日、またはこの日の前後などにレセプションを開くのが一般的だ。
このほか、たとえばギリシャ大使の離任レセプション、ブータン首相の歓迎レセプションのように、ナショナル・デー以外のレセプションも頻繁に開かれている。バングラデシュのナショナル・デーは3月の独立記念日だが、12月にも戦勝記念日のお祝いを開く。ポーランドは5月の憲法記念日のほか11月の独立(戦勝)記念日に武官主催のパーティーをする。
私はこうした小規模のパーティーも含めて行けるものにはすべて顔を出すことにしていたので、昼と夜のダブルヘッダー、トリプルヘッダーなんてこともよくあった。年間で100回以上のレセプションやパーティーに出席していた。
■「スパイの社交場」のような光景
なかなか会えない国の大使や外交官と顔つなぎできる貴重な機会なので、というのが最大の理由だったが、もう1つ、情報通の米国のCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)の駐在員らと会って情報交換するのも目的の1つだった。
大きなレセプションの会場には、必ずといっていいほど米国をはじめいろんな国のインテリジェンス(諜報)機関の人たちが姿を見せるのだ。

見ようによっては、「スパイの社交場」のような光景が繰り広げられることもよくあった。映画さながらのシチュエーションだ。
ひと口にレセプションと言っても規模や内容はさまざまだ。
国の名誉や威信をかけて、帝国ホテル、ホテルオークラ、ホテルニューオータニなど超一流ホテルの大宴会場に千人規模の来賓を招いて祝宴を開く国もあれば、経費節減のため大使館や大使公邸、小規模のレストランを借り切るなどしてパーティーを開く国もある。韓国、シンガポール、タイ、サウジアラビア、カタールなどは前者で、毎年千人規模だった。
規模の大小にかかわらず、会場では民族衣装や芸能、音楽、ダンスが披露されたりして、大使館ならではの文化に触れることができる。
■招待状なしでパーティーにまぎれ込む人たち
もう1つ、レセプションで忘れてはならないのは、お国自慢の料理だろう。
高級ホテルは衛生管理上、料理の持ち込みを許さないことが多いので、たとえばポーランドの場合、都内にあるポーランド料理店がホテルの厨房にレシピを提供して、ホテルの調理スタッフと本国の料理人のコラボによるお国の料理を提供していた。
このように日本のシェフによって再現された異国の料理を味わえる機会はそう滅多にない。レセプションは自国の食文化を紹介する機会でもあるので、料理だけでなく、ワインやビールなど本国の飲み物も会場でふるまわれることが多い。
このため、料金を払ってでも参加したいという人も結構いるそうだが、時には「パーティー・クラッシャー」と呼ばれる迷惑な人たちが来ることもあった。
パーティー・クラッシャーは招待状なしでパーティー会場にまぎれ込んでしまう人たちのことだ。
私は会場警備についての相談を受ける立場だったので、こういう連中をどうやって締め出すかで頭を悩ませた。
たとえば招待状を出したのは500人なのに、入場者が700人を超えてしまうと、料理があっという間になくなる。
これは大使館にとってたいへん不名誉なことなので、なんとかしてほしいと頼まれるのだ。
受付で招待状を厳密にチェックしても、トイレに行って戻ってきたような顔をして入ってきてしまう人がいる。
■大使と撮った写真をビジネス活用する輩も
あるいは、入り口の外で人のよさそうな大使を見つけるや、「大使、こちらですよ」と知り合いのようなふりをして声をかけ、そのまま大使一行と一緒に入場してしまう“常連”もいた。
そういう人たちの目当てはおいしい料理や華やかな雰囲気を味わうことなのだろうが、中には会場で各国の大使や来賓の著名人をつかまえては握手するところを写真や動画に収めてSNSにアップするという輩もいた。
そんな一人が、某宗教団体の職員を務める韓国人のA。
Aは外事課なみの情報収集力で、大使館主催のパーティーが行なわれることを聞きつけ、大使と握手やハグしている写真や動画を連れの女性に撮らせ、それをSNSにアップしていた。
宗教の勧誘に使っていたわけではなく、単に「オレは各国の大使と知り合いなんだ」と自慢したいだけなのだが、一緒に撮られた大使は、後でみな腹をたてていた。
日本人の男Bも大使との写真や動画を撮りたがるのだが、Bの場合、それを自分が関わっている語学学校や知人の経営コンサルタントなどのホームページにアップして、ビジネスに直結させていた。
こういう連中への対策としては、受付で招待状と引き換えに花を渡し、花を胸につけていない人は再入場を認めないというシステムにするのが一般的だが、常連のパーティー・クラッシャーの顔を覚えた人を受付に配置して入場を断るということもあった。
■外交官たちは「日本に来られてラッキー」の声
ある国の大使は、常連の顔を覚えてしまい、出席した他国のレセプション会場でそいつを見かけると、さっそく主催者にご注進していた。
自国の料理を散々食い荒らされて、よほど腹に据えかねていたようだ。
料理といえば、大使公邸の晩餐会などで腕を振るう公邸料理人の腕前も忘れてはならない。
私も親しくなった大使の公邸に招かれてディナーやランチをふるまわれたことがあるが、どの料理も日本人の口に合うよう見事に味つけされていた。
公邸には日本の政財界の要人など年配の人を招くことが多いので、自国の食文化を押しつけるよりも食べやすさを優先させているのだろう。
公邸料理人は本国で選抜されて外交使節団に帯同してくるシェフたちで、厨房という舞台裏で外交の檜舞台を裏から支えている人たちなのだ。
レセプション会場は男女の出会いの場となることも多いようだ。
独身で赴任した外交官の中には男女を問わず、日本で配偶者と出会って連れて帰っていくというパターンが結構あるらしい。
外交官たちに日本という赴任地についてどう思うか聞いてみると、「日本に来られてラッキー」という声が圧倒的に多い。
安全さ、清潔さ、観光名所の豊富さなど理由はいろいろあるが、「気立てがよくて可愛い」と評判の日本女性も人気の理由の1つだ。
■日本人女性と結婚する各国の大使たち
私の在任当時では、トルコの大使の奥さんが日本人女性だった。一等書記官として日本に赴任した時に結婚し、本国に戻った後、今度は大使となって奥さんを帯同して日本に戻ってきていた。
ハンガリー大使もこれとまったく同じパターンで、奥さんが日本人だから日本語がペラペラ。

中南米のP国大使は引退した後、日本に住みついたが、この人の奥さんもやはり日本人だった。
当時のジョージア大使の場合はちょっと違い、本国で離婚を経験した後、子息を連れて日本に赴任した際、東京のあるホテルの女性従業員とめぐり会って再婚した。
出会いの経緯については私もくわしく知らないが、出席したどこかの国のレセプション会場が出会いの場となったようだ。
それまでジョージアのナショナル・デーのレセプションは別のホテルで毎年開かれていたが、この翌年から大使夫人が勤めていたホテルで開かれるようになったのは当然のなりゆきだろう。
■選挙のたびに多数の死者が出る南アジアの国
ちなみに豆知識だが、日本に来た大使や外交官の配偶者が日本人だった場合、配偶者が日本国籍のままだと外交特権は与えられない。
配偶者が相手国の国籍になっている場合は、外交官と同じ特権が与えられる。
レセプション会場で毎年のように殴り合いの喧嘩騒ぎが起こるという困った国もあった。
南アジアのある国では、与党と野党が激しく対立し、選挙のたびに多数の死者が出る。日本で暮らすこの国の人たちのコミュニティも、対立の図式を鏡のように反映していた。
毎年12月の独立記念日のレセプションは大使館で開かれた。
この日ばかりは与党支持者も野党支持者も分け隔てなく、来たい人が大使館に集って一緒にお祝いをするのが伝統なのだが、政治談議好きな国民性ゆえに、人が集まると議論があちこちで始まるのだ。
やがて、口論がもみ合いになり、そして殴り合いが起き、壁の絵の額装が叩き割られたりして、管轄の警察署が呼ばれて騒ぎを収めねばならなくなるというのが毎年恒例のことになっていた。

来賓もいる場でこんな醜態をさらすのは大使としても面目ないことだ。
そこで、ある年、大使は私たちの力を借りて、もめごとの種を排除することにした。
大使館の入り口に職員と警察官を配置して、前年のレセプションで騒ぎを起こした連中を中に入れないようにする作戦をとったのだ。
■間に入った警察官まで胸倉をつかまれて
ところが、入り口に配置された職員たちに大使の方針がきちんと徹底されていなかったことで、かえって混乱を招いてしまった。
さっそく「中に入れろ」「入れない」の小競り合いが始まり、間に入った警察官まで胸倉をつかまれる事態となったのだ。
激しやすい人たちを抑えるのは難しい。
レセプションというと、きらびやかなパーティー外交の表舞台を想像する人も多いと思うが、お国事情はさまざまなのだ。

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勝丸 円覚(かつまる・えんかく)

元公安捜査官

1990年代半ばに警視庁に入庁し、2000年代はじめから公安・外事分野で経験を積む。数年前に退職し、現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活動を行う。TBS系ドラマ『VIVANT』では公安監修を担当。著書に、『警視庁公安部外事課』(光文社)、『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』(実業之日本社)、『警視庁公安捜査官 スパイハンターの知られざるリアル』(幻冬舎新書)などがある。

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(元公安捜査官 勝丸 円覚)
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