物価が上昇する中、どうやって資産を守ればいいのか。経済評論家の上念司さんは「インフレが起きたとき、最初に動くのは資産価格であり、次に物価、そして最後に動くのが賃金と指摘されている。
つまり、給与所得だけに依存している人は一番損することになる」という――。
本稿は、上念司『高市政権は日本経済を救えるか』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■賃金が上がるのはいちばん最後
ここからは視点を一歩進めて、「資産」をどう守るかという問題を考えます。結論から言えば、インフレ時代においては、「資産を持つか、持たないか」が家計の将来を決定的に分けることになります。
まず重要なのは、インフレの波及の順番です。この点について、米国イェール大学の浜田宏一名誉教授は非常に重要な指摘をしています。
金融政策の変更は、まず資産市場に影響し、その後に実体経済へと波及する、というものです。具体的には、金融緩和や財政政策の変更が行われると、最初に動くのは株価、為替、金利といった金融市場です。その後、企業の価格設定や物価に影響が及び、最後に賃金が動きます。
つまり、順番としては、
株・為替・金利 → 物価 → 賃金
となります。
■「何もしない人」は損をするだけ
この順序は極めて重要です。なぜなら、同じインフレ環境でも、「どの段階で関与しているか」によって、受け取る恩恵がまったく異なるからです。

金融資産を持っている人は、最初の段階、つまり株価や資産価格の上昇の恩恵を受けます。一方で、給与所得だけに依存している人は、最後に賃金が上がるまで恩恵を受けることができません。しかも、その頃にはすでに物価が上がっているため、実質的な利益は小さくなりがちです。
この構造を理解すると、インフレ時代において「何もしない」という選択が、実は最も不利であることが分かります。現金だけを保有している場合、資産価格の上昇の恩恵を受けることなく、物価上昇の影響だけを受けることになるからです。
■運用益が非課税になるNISA制度
では、株式はどのような役割を果たすのでしょうか。
株式は企業の利益に連動するため、インフレ環境では名目売上や利益の増加を通じて、株価が上昇しやすい傾向があります。これは単なる理論ではなく、実証的にも確認されています。
実際、日本でもデフレからインフレへの転換とともに、企業の価格転嫁が進み、利益率が改善し、株価が上昇しています。
ここでNISAの重要性が浮かび上がります。NISAは、株式や投資信託の運用益が非課税となる制度です。通常であれば約20%の税金がかかる利益を、そのまま受け取ることができます。
これは、インフレ環境において資産形成の効率を大きく高める制度です。
とはいえ、株式投資は必ず儲かるというものではありません。その点をインフレ率ごとに整理して説明します。
■「株価上昇+賃上げ」二重のメリット
まず、インフレ率が2~4%で安定する場合です。この環境では、企業収益は安定的に増加し、株価も長期的に上昇する可能性が高いと考えられます。
このとき、金融資産を持っている人は、最初の段階で資産価格の上昇の恩恵を受け、その後の賃上げによってさらに所得が増えるという二重のメリットを享受できます。NISAを活用した長期投資は、この環境では極めて有効な戦略となります。
次に、インフレ率が5~9%に達する場合です。この場合、いずれ将来に金融政策の引き締めが強まり、株価の変動は大きくなります。しかし重要なのは、この局面でも最初に動くのは資産市場であるという点です。実際、2022年の米国では、インフレと利上げによって株価が一時的に下落しましたが、その後のインフレ鈍化とともに回復しました。
このような局面では、短期的な値動きに振り回されず、長期的な視点で資産を保有し続けることが重要になります。
NISAは長期投資を前提とした制度であり、このような環境でも有効です。
最後に、インフレ率が10%を超える場合です。この段階では、金融市場そのものが不安定化し、株価も大きく乱高下します。トルコやアルゼンチンでは、株価が名目では上昇しても、通貨安とインフレによって実質的な価値は大きく毀損されるケースが確認されています。
このような環境では、株式であっても完全な防御にはなりません。
■給与所得だけに依存していてはいけない
要は、インフレが暴走したとしても、いつか2~4%のマイルドなインフレに戻れば株価は必ず回復するということです。そして、その状況が続けば株価の上昇はインフレ率を上回る可能性が高い。しかし、問題は1970~80年代の南米のように恒常的に二桁どころか三桁のインフレが続くような連戦連敗の経済失政が続くこともあるということです。
インフレ期の株式投資の正否も、やはり政策次第。高市政権の経済政策によってインフレ率はどこまで上がるか予想するのは自由です。メディアや左派政党が批判するように本当にものすごいインフレになるなら、給料を普通預金にしまい込んでいてはいけませんね。彼らは言行一致しているでしょうか?
それでもなお重要なのは、順序です。
インフレが起きたとき、最初に動くのは資産価格であり、最後に動くのが賃金です。したがって、給与所得だけに依存している場合、恩恵を受けるのは常に最後になります。そしてその頃には、物価上昇の影響がすでに広がっています。
■「現金だけ」は安全に見えるが…
ここから導かれる結論は明確です。
インフレ時代においては、「給料を待つ」のではなく、「資産を持つ」こと!
現金だけを持つことは、安全なように見えて極めて危険。むしろ、最も大きなリスクを取っている状態です。一方で、株式などの金融資産を適切に保有することで、経済の変化の最初の波に乗ることができます。
もちろん、株式投資は万能ではありません。しかし、インフレという構造の中で考えたとき、何もしないことが最も不利であることは明らかです。
NISAは、そのための「入り口」として設計された制度です。非課税という仕組みを通じて、資産形成の効率を高め、個人がインフレ環境に対応する手段を提供しています。
■個別株投資とインデックス投資の違い
ここまでの議論を踏まえると、「では具体的に何をすれば良いのか」という疑問が生まれるでしょう。
その答えはシンプルです。株式投資を行う場合、個別株ではなく、インデックスファンドを中心に据えることをお勧めします。
個別株投資は、企業ごとの業績や経営判断、競争環境など、ミクロの要因に大きく左右されます。これは専門的な知識や継続的な情報収集を必要とし、多くの人にとって再現性の高い方法とは言えません。
一方、インデックスファンドは市場全体に分散投資する仕組みであり、個別企業のリスクを抑えながら、経済全体の成長を取り込むことができます。インフレ環境において企業全体の売上や利益が伸びるのであれば、その恩恵を広く受けることができるのがインデックス投資の強みです。
■投資額の目安は「手取りの2割」
さらに重要なのが、投資のタイミングです。相場の上下を予測して売買することは、プロであっても極めて困難です。そこで有効なのが、ドルコスト平均法です。これは毎月一定額を継続的に投資する方法であり、価格が高いときには少なく、安いときには多く購入することになります。その結果、平均取得単価が平準化され、相場変動のリスクを抑えることができます。
具体的な目安としては、手取り収入の2割程度を毎月投資に回すことを一つの基準とすると良いでしょう。
これは無理のない範囲で資産形成を継続するための現実的なラインです。重要なのは、短期的な値動きに一喜一憂することではなく、長期にわたって積み立てを継続することです。
インフレ時代においては、「いつ始めるか」よりも「続けること」の方が重要です。市場は短期的には大きく変動しますが、長期的には経済成長を反映して拡大していきます。
インデックスファンドとドルコスト平均法の組み合わせは、この長期的な成長を着実に取り込むための、最もシンプルで再現性の高い方法です。

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上念 司(じょうねん・つかさ)

経済評論家

1969年、東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の日本最古の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一教授に師事し、薫陶を受ける。金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開している。

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(経済評論家 上念 司)
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