天皇皇后両陛下がオランダとベルギーを公式訪問され、6月26日に帰国された。皇室研究家で神道学者の高森明勅さんは「いずれの国でも、国王の第一子の長女が次代の王位継承者となっている。
そして天皇陛下は、晩餐会でのおことばで、オランダでもベルギーでも、必ずご長女の敬宮殿下に言及しておられた。この事実は見逃せない」という――。
■「次の世代への橋渡し」
天皇皇后両陛下は6月13日から26日までオランダ、ベルギーを国賓として歴訪された。皇室と両国の王室とのご親交は深く、手厚いおもてなしを受け、意義深いご訪問となった。
両陛下を歓迎して行われた両国での晩餐会では、次代の王位継承者である国王の長女など、国王の子どもたちも出席していた。
陛下は、両国の王室の未来を担う国王の子どもたちとも触れ合う機会を得られたことについて、ご歴訪のご感想の中で次のように述べておられた。
「(両国の)次の世代への橋渡しができたのではないかと思っております」
このご感想に接して、心ある日本人であれば、ひとしく同じ不安を抱いたのではないだろうか。
わが国の皇室の「次の世代」は果たしてどうなるか、と。
オランダではカタリナ・アマリア王女、ベルギーではエリザベート王女がそれぞれ国王の“第一子”として、次代の王位継承者という地位が確定している。
一方、日本ではどうか。
■秋篠宮さまご自身の意思
天皇皇后陛下にはご長女の敬宮(としのみや)(愛子内親王)殿下がおられる。にもかかわらず、一夫一婦制なのに「男系男子」限定という、歴史上前例がなく、国際的にもほぼ類例を見ない(例外は人口約4万人のミニ国家・リヒテンシュタインのみ)、欠陥ルールがある。
それが是正されないままだ。そのため現状では、敬宮殿下はあらかじめ皇位継承のラインから除外されている。
その結果として、「次の世代」ではなく天皇陛下と同世代の秋篠宮殿下が、傍系の“皇嗣”として暫定的に継承順位が第1位とされている。だが、年齢的に実際に即位されることは考えにくい。ご本人も即位するつもりがないことをすでに明らかにしておられる(朝日新聞デジタル、平成31年[2019年]4月20日配信)。
令和になっても、「秋篠宮」という傍系の宮家であることを表示する宮号を、自ら望んでそのまま維持された。直系の皇嗣として次代の天皇となられることが確定している「皇太子」と類似の称号も辞退された。相対的・暫定的な位置づけにとどまる「皇嗣」という一般的な呼称を名乗っておられる。
これらは、当事者のご意思と無関係に内閣の助言と承認によって行われた前代未聞のセレモニー「立皇嗣の礼」とは違って、ご本人の意思を示す事実だ。
■晩餐会で愛子さまに言及
今回のご歴訪で重い意味をもつ晩餐会での天皇陛下のおことばでは、オランダでもベルギーでも、必ずご長女の敬宮殿下に言及しておられた。敬宮殿下が、天皇ご一家に欠かせない大切な存在である事実が、改めて浮き彫りになった。
天皇陛下のご発言によって、オランダ、ベルギーの人々には、今回はご一緒されていなくても、両陛下の直系の皇女として敬宮殿下の存在感が、強く印象づけられたはずだ。
実際に、両国の次の「女王」になる王女方から敬宮殿下の近況を尋ねられたり、「よろしく」という伝言を預かったりされた事実を、陛下ご自身が明かしておられる。
ベルギーの晩餐会では「4世代にわたるご縁の近しさを感じています」とおっしゃって、日本とベルギーにおける直系継承の流れを取り上げられた。とくに、次代の女王たるエリザベート王女と敬宮殿下を並べられたのは、お生まれが同年という文脈ながら、意味深長だ。
政治に関わる発言が制約されている中で、敬宮殿下が昭和天皇から上皇陛下、天皇陛下へとつながる皇位継承の流れを受けて、その「次の世代」に位置づけられるべきことを、示唆されているようにも受け取れる。
■平和の尊さを次の世代へ
ご歴訪の日程の途中、6月23日は先の大戦で沖縄における組織的な戦闘が終結した「沖縄県慰霊の日」にあたっていた。この日、両陛下はベルギーにご滞在中だった。それでも例年通り、現地で黙祷を捧げられた。
同日、皇居の御所では、敬宮殿下が同じく黙祷をされている。敬宮殿下は両陛下と遠く離れていても、お気持ちを一つにしておられたことが伝わる。
毎年、この日に黙祷をされることが知られているのは、上皇上皇后両陛下を除くと天皇ご一家だけだ。
今年の天皇誕生日に際しての記者会見で、天皇陛下は「戦争の記憶と平和の尊さを次の世代へ引き継いでいく役割を(自分たちと同じように)愛子にも担ってほしい」と語っておられた。そのお気持ちは、このように国民から見えにくいところでも、すでに敬宮殿下によって着実に受け止められている。

■天皇陛下の危惧
天皇陛下はご出発前(6月11日)に、皇室典範の改正をめぐる政府・国会での議論が国民の期待を裏切るものにならないように釘を差す、異例のご発言をされていた。
「皇室の在り方の基本は、国民の幸福を常に願い、国民と苦楽を共にすることだと考えており、こうした皇族数の確保の在り方についての議論においても、国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでいます」
このご発言は、政治の場での議論に対して、陛下がいかに深い不安と危惧を抱かれているかを示す。多くの国民も陛下のご真意を察知した。
しかし残念ながら、高市内閣は陛下が危惧された通り、およそ「国民の理解」からかけ離れた、皇室制度を破壊するに近い変革を企てようとしている。
その全貌は、6月30日に閣議決定された皇室典範の「改正案」に示されている。
■問題だらけの改正案
改正案によれば、敬宮殿下をはじめとする内親王や女王方は婚姻後も、皇族の身分を引き続き保持される。これまで未婚の女性皇族は、婚姻とともに一律に皇籍を離脱される制度だった。それと比べて、一見、歓迎すべき変更のようだ。
だが、そうではない。何と皇室の中で、婚姻後の内親王・女王方“だけ”が一般国民と同じように、住民登録を義務付けられる(改正案第4条)。
これは配偶者やお子さまが、男性皇族なら同じ皇族なのとは異なり、内親王・女王の場合だけ「国民」とされるからだ。近代以降、「家族は同じ身分」とされるのに対して、夫婦も親子も身分が違う前代未聞の“異例の家族”を強制されることを意味する。

その一方で、親の代からすでに一般人なのに、旧宮家系の民間男性は血筋・家柄=門地(もんち)だけを根拠として、ほかの国民には禁止されている皇族との養子縁組を例外的に認め、皇族との婚姻を介さないで特権的に皇族の身分を取得できるようにする(改正案第1条)。
このプランに対しては、かねて憲法(第14条)が禁止する「門地による差別」に該当する疑いが指摘されている。違憲訴訟を準備する動きも複数ある。
■皇室の「聖域」性を崩す
皇室典範は昭和22年(1947年)に制定されて以来、実質的な本則の改正はこれまでなかった。昭和24年(1949年)に「宮内府」から「宮内庁」に変更された時に、それに対応する技術的な改正があっただけだ。ほかは、平成29年(2017年)の退位特例法の制定に際して、それを根拠づける規定が附則に加えられたにとどまる。
もし今回、皇室典範が改正されたら、制定後初の本格的な改正になる。しかしそれは、これまで皇室典範が大切にしてきた原則そのものを、根底から崩してしまいかねない中身になっている。
それは天皇・皇室が「国民統合の象徴」であられるために欠かせない、皇室の「聖域」性であり、政治的野望や経済的打算などが渦巻く俗世間と皇室との間の、厳格な“線引き”だ。
これは、まさに今の天皇ご一家によって体現されている皇室の高貴な精神が、代々受け継がれるための大切な防御壁になってきた。単なる血筋の継承だけでなく、「国民と苦楽を共にする」という精神のたしかな受け継ぎがあってこそ、国民の中から皇室への敬愛の気持ちも自然に生まれる。
その「聖域」性を、政府は意図的に壊そうとしているようにしか、見えない。
しかも、当事者でいらっしゃる皇室の方々のご意向を汲むためには、法案化に際して宮内庁と密接に連携することが欠かせないはずなのに、ほとんど蚊帳の外におくという横暴さだ。
■異なる身分が混在する家族
まず、内親王・女王の配偶者やお子さまの身分はどうなるか。
メディアは「(皇族か国民か)明記されていない」などと報じていた。しかし改正案では、それらの方々が皇族の身分を取得するルールはとくに設けられない。ならば、ありえないことながら「国民」とされる。
直系の皇女でいらっしゃる敬宮殿下の配偶者やお子さまさえも一般国民とされる。こんな非常識な制度では、皇室と俗世間との明確な区別など至難ではないか。
憲法(第1章)により皇族として非政治性、公正中立性が強く求められる内親王・女王と、憲法(第3章)により国民として政治活動、宗教活動、ビジネス活動などの自由が最大限保障される国民が、“1つの家族”を構成するという制度は明らかに異常だ。
社会通念上、“家族は一体”と見られがちだ。内親王・女王の非政治性・公正中立性と配偶者やお子さまの権利・自由の両立は、そもそも可能なのか。
また、自民党などが反対する夫婦別姓どころか、夫婦も親子も身分が異なる。それによって、家族の絆が損なわれることはないのか。
その手前に、ご結婚そのものを妨げかねない制度設計と言うほかない。
■皇統が途絶える可能性も
天皇の血統(皇統)は、男系=父方の血筋も女系=母方の血筋もともに含む、というのが政府見解であり〔内閣法制局執務資料『憲法関係答弁例集(2)』〕、学界の通説でもある。にもかかわらず、内親王・女王方のお子さまが国民として皇室から除外される制度案だ。
こんなルールだと、現在の皇室の血統は悠仁親王殿下を除いて途絶えてしまう。もし悠仁殿下が「男子を産め」という重圧などのせいでご結婚の機会を得られなかったり、ご結婚されても男子に恵まれなかったりすれば、これまでの皇統はそこで100%断絶することになる。
■公然と行われたペテン
内親王・女王方とは逆に、旧宮家系の民間男性が、皇室の「聖域」性を損ないかねない養子縁組という歴史上まったく前例がないやり方で皇族(「王」という身分)になれば、皇室典範の規定によって配偶者も子どもも皇族(王妃・王)になる。しかも本来なら“皇統に属さない”はずの民間人も、旧宮家系などは政府の解釈では無理やり「皇統に属する」とされている。その結果、養子の子どもが男子なら、現行法を当てはめると皇位継承資格をもってしまう。
森英介衆院議長がつい口を滑らせて、その事実を明らかにした。しかしこの時、森氏は失言として謝罪した。
だが去る6月26日、木原稔内閣官房長官が記者会見で、男子なら皇位継承資格をもつことを明言した。与野党による全体会議で反発を招かないために、政府と議長らが連携してずっと隠してきたトリックが、「立法府の取りまとめ」(6月10日)が13党派のうち7党派の賛成で無理に了承を取り付けた後になって、露見した形だ。立憲民主党の水岡俊一代表がこれを「騙し討ち」と非難したのは当然だ。
改正案(第1条)では養子の子は民間人である実家の血筋によって皇位継承順序が決まると規定している。つまり当然に皇位継承資格をもつことになる。しかし、その資格の根拠が民間人の血筋(!)とは呆れる。
あろうことか、信頼を最も重んずべき皇室をめぐる制度改革において、全政党・会派が一堂に介した会議で、国民も注目する中、公然と詐欺商法まがいのペテンが行われたことになる。
■かつて一蹴されていた養子案を恒久制度化
もともと「養子案」は以前、小泉純一郎内閣当時の有識者会議報告書ですでに一蹴されていた。
「国民の理解と支持、安定性、伝統のいずれの視点から見ても問題点があり、採用することは極めて困難である」と。
加えて、天皇陛下も上皇陛下も不快に思われている事実が、知られている(『文藝春秋』7月号ほか)。
旧宮家系との交流の場であった「菊栄親睦会」の集まりも平成26年(2014年)5月以来、すでに12年間も開かれていない。世代も代わってほとんどよそ者に近い民間人を、婚姻関係もなく皇室に入れるプランなど、違和感が強くて当たり前だろう。
にもかかわらず、政府はそれを恒久制度にするつもりだ。
先の立法府の取りまとめでは、さまざまな難点にかんがみて、「特例法」による例外的な対処を強く示唆していた。それをくつがえして、あえて皇室典範の本則に新しい章(第6章)を設けて、そこに書き込む方針を打ち出した。
■養子の養子の養子…も可能に
養子縁組を恒久制度化すれば、どうなるか。養子が結婚できなかったり、結婚しても男子が生まれなかったりした場合は、その養子もまた民間人から養子を取ることが可能だ。
しかも「皇族数の確保の状況等を勘案」して30年ごとに見直すことも附則に入る(附則第6条)。そうすると、「状況」次第で養子の養子の世代あたりになると、背に腹は代えられないとして、その元民間人の養子にそのまま皇位継承資格を認める変更も視野に入る。
あるいは、養子縁組の対象も「皇室典範による皇族男子であった者」の子孫=旧宮家系の民間男性(改正案第1条)という限定が解除される可能性もある。一般国民の中にも、「現に皇族でない」天皇・皇族の子孫という人物は、旧宮家より今の皇室との男系の血縁が近い皇別摂家系の民間人など、じつは意外に多い。
だから民間人の養子の民間人の養子の民間人の養子……という無限ループも制度上はありえる。しかし、それをやってしまうと俗世間との境界は限りなくアヤフヤになる。
男系男子に固執して「皇室の伝統」を守ると言いながら、皇室を皇室以外の何ものかに変質させる結果を導く。これまで受け継がれてきた高貴な気風が、将来の養子たちによって保たれるとは、考えにくいだろう。
ちなみに私もこれまで指摘してきたが、男系継承はもともとわが国の伝統ではなく、中国文明からの影響によることが、次第に広く知られるようになっている(落合恵美子氏「皇室典範改正で皇室の『中国化』が進む可能性…じつは『父系相続』は『日本古来の伝統』ではなかった』」現代ビジネス6月7日配信など)。
■根本的な解決策は一つしかない
どうしてこんな本末転倒な制度案になるのか。理由はハッキリしている。安定的な皇位継承を目指すという本来の課題から逃げ続けているからだ。
皇族数減少への目先だけの対策という脇道に逸れている。だから混乱を深める。シンプルに本道に戻ればよい。
ならば、皇位継承の安定化を図るためには、どうすべきか。側室不在の一夫一婦制で少子化なのに伝統でもない「男系男子」限定という、皇室典範が抱える構造的な欠陥を是正する。それ以外に方法はない。つまり、女性天皇・女系天皇を認めることしか、根本的な解決策はありえない。
多くの国民は女性天皇に賛成しているし、女系天皇への反対も少ない。何より天皇陛下、上皇陛下は、これまでのご本人の言動や関係者の発言から、男系・女系の区別より「国民と苦楽を共にする」在り方こそが真の「皇室の伝統」とお考えである、と拝察できる(平成17年[2005年]の天皇誕生日の記者会見など)。憲法の「皇位は世襲」という要請に照らしても、一夫一婦制なら男系男子限定ルールはむしろ悪質な阻害要因だ。
だから、次の世代の皇位継承資格者がたったお1方だけという、目の前の皇室の危機を打開するには、女性天皇・女系天皇を認めることが欠かせない。そこに踏み出せば直系優先によって次代は天皇陛下の第一子「愛子天皇」という結論になる。
■「愛子天皇」の希望は失われない
今回の改正案には附則として次の条文が入っている(附則第6条)。
「その施行の状況を踏まえて所要の検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて所要の措置が講ぜられるものとする」
すこぶる曖昧な規定だ。しかし、これによって内親王・女王方の配偶者やお子さまを改めて「皇族」に位置づけ直せる可能性も、ギリギリ残る。
また附帯決議として、「安定的な皇位継承を確保するための方策について、引き継き、検討すること」との文言が盛り込まれることが見込まれる。
もし政府・国会が本気で「検討」すれば、先の結論に行きつくほかない。それを後押しするのは世論の高まりであり、国民の熱意だろう。
もちろん楽観は許されない。しかし、今回の異常ともいうべき改正案が与党などの数の力でそのまま押し切られても、「愛子天皇」への希望は失われない。

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高森 明勅(たかもり・あきのり)

神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録

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(神道学者、皇室研究者 高森 明勅)
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