※本稿は、川島隆太『脳を休める!』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■先進国で「一番寝ていない」日本人
至極当たり前のことと思うかもしれませんが、脳と身体の疲労を改善しリフレッシュする最も適切な方法はしっかりと寝ることです。
しかし現代の日本人は、その「当たり前」が十分にできていません。OECD(経済協力開発機構)の国際比較調査では、日本人の平均睡眠時間は加盟国の中で最も短い水準であることがわかっています。平均すると、日本人の平均睡眠時間は7時間40分で、全体平均と比べても40分以上短いとされています。
とはいえ、これはあくまで平均の数字です。実際には、6時間未満睡眠の人の割合も多く、慢性的な睡眠不足状態にある人が少なくありません。睡眠不足は、単に眠気や疲れがとれないというだけでなく、集中力や判断力、感情のコントロールの低下にもつながります。
■朝スッキリ起きられない人の健康リスク
良い睡眠の定義は、医学的には、睡眠の量(時間)と質(睡眠休養感)とされます。「睡眠休養感」とは、朝、ぐっすりとよく眠れて疲れがとれたと感じる感覚で、主観的なものですが、これが最も睡眠の質を反映していると現在は考えられています。
近年の国の調査では、睡眠休養感が得られていない人たちの割合が年々増えています。
これらのリスクは、睡眠の量が少ない(睡眠時間が短い)ことによっても同様に生じます。当たり前ではありますが、健康な心身を保つために良い睡眠をとることはとても重要です。
まずは以下の項目で、自分の睡眠の質をチェックしてみてください。
□ 睡眠時間(7時間より少なくないか)
□ 日常生活にストレスを感じていないか
□ 就寝直前に食事をしていないか
□ 朝食を食べたか
□ 運動不足になっていないか
□ 歩く速さは落ちていないか
□ なんらかの病気に罹患していないか
■厚労省が示した年代別睡眠時間の目安
睡眠と健康の関係については、SNSに蔓延する「諸説」や自称専門家の発信する情報に惑わされることなく、科学的知見に基づき専門家が作成した、厚生労働省の『健康づくりのための睡眠ガイド』を参照すべきです。本書では令和6年度に出された2023年版を参照します。
同ガイドでは、「睡眠は、健康増進・維持に不可欠な休養活動であり、睡眠が悪化することで、さまざまな疾患の発症リスクが増加し、寿命短縮リスクが高まることが指摘されている。また、必要な睡眠時間には個人差があるとともに、年代によっても変化するなどの特性を踏まえた取組が必要となる」としています。
必要な睡眠時間には個人差があるものの、具体的にどのくらい眠れば良いのかについては、年代ごとの目安が示されています。
■「高齢者は8時間以上床に就かない」
高齢者においては、
・長い床上時間はかえって睡眠の質を低下させ健康リスクとなるため、床上時間が8時間以上にならないことを目安にする
・食生活や運動などの生活習慣や、寝室の睡眠環境を見直し、睡眠休養感を高める
・長い昼寝は夜間の良質な眠りを妨げるため避ける
といったことが推奨されています。
成人に関して推奨されるのは、以下のようなことです。
・適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安とする
・食生活や運動などの生活習慣や、寝室の睡眠環境を見直し、睡眠休養感を高める
・睡眠の不調・睡眠休養感の低下があるときは、病気が潜んでいる可能性に留意する
子どもに関しては、
・小学生は9~12時間、中学・高校生は8~10時間を参考に睡眠時間を確保する
・朝は太陽の光を浴びて、朝食をしっかりとり、日中は運動をして、夜ふかしの習慣化を避ける
としています。
■一番の判断基準は「睡眠休養感」
睡眠の長さでいうと、私はすでに前期高齢者なのですが、あまり推奨されてはいない、中学・高校生向けの8~10時間睡眠を常としていますので、ちょっとどきっとしました。
自分の睡眠が足りているかどうかを判断する最も確かな指標は、「睡眠休養感」です。ぐっすり眠れて疲れがとれたと感じるかどうか。そこがポイントです。
私は、花粉症の季節以外は睡眠休養感がしっかりあるので、たとえ9~10時間であっても、個人差のうちにあり大丈夫と自己判断しています。もし、睡眠休息感が得られていない方は、疲れた脳を休ませるためにも、生活習慣や睡眠環境を変える必要があります。
■「6時間以下」だと認知症リスクが高い
パリ大学研究チームが行った調査では、50代、60代、70代のそれぞれの睡眠時間と認知症について分析すると、どの年代も1日の睡眠時間を7時間とっていた人の認知症発症リスクが一番低く、睡眠時間が6時間以下の人は認知症リスクが一番高いことが示されています。
また、50代、60代から継続して常に睡眠時間が6時間以下の人は、7時間の人に比べて認知症発症のリスクが30%も高いということも明らかになりました。
睡眠は、認知症発症に関連するアミロイドβなどの老廃物を洗い流す役割を担っており、その働きの低下がこうした結果をもたらした原因の一つと考えられます。
実際に、眠っているときには脳の細胞の間隔が広がり、より多くの老廃物を流し出していることが知られています。アメリカのワシントン大学の研究では、なかなか寝つけないなどで睡眠が安定していない人と、しっかり眠れている人のアミロイドβの量を比較した結果、睡眠が安定していない人の脳に溜まるアミロイドβの量は5.6倍になったという報告もあります。
■土日の寝だめは「社会的時差ボケ」を生む
シンガポール国立大学研究チームも、睡眠時間の短い高齢者は脳の老化が早いことを報告しており、睡眠時間の長さと脳の萎縮度が比例することが明らかになっています。こうした結果からも、中年期以降からの睡眠不足は要注意だと考えられます。
ちなみに、休日の寝だめに関しては、いろいろと問題があることを知っておく必要があります。休日の寝だめは、「社会的時差ボケ」などとも呼ばれており、逆にさまざまな悪影響があることがわかっています。
良い睡眠をとるためには、就眠時間と起床時間が毎日ほぼ一定であることが重要です。しかし、休日に起床時間がいつもと異なり遅くなると、睡眠のリズムが乱れます。その結果、頭がぼ~っとしたり、ものごとに集中するのが難しくなったりと、あたかも海外旅行に行ったときのような、いわゆる「時差ボケ」状態になることがわかっています。
また、疫学データでは、寿命が短くなることも指摘されていますので、休日に寝だめをしなくてよいように、平日に十分良質な睡眠をとらなくてはいけません。
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川島 隆太(かわしま・りゅうた)
東北大学加齢医学研究所教授
1959年千葉県生まれ。医学博士。東北大学医学部卒業、同大学院医学研究科修了。スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所助手、講師、所長を経て、現在は同研究所の教授を務める。
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(東北大学加齢医学研究所教授 川島 隆太)

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