仕事ができる人はAIにどんな質問をしているか。データサイエンティストの中村一也さんは「AIから最高の答えを引き出すための『問いを設計する技術』は、これからの時代の個人の生産性を、ひいては判断力を大きく左右する。
優れたプロンプトには、いくつかの基本要素がある」という――。
※本稿は、中村一也『すぐ決められる人がうまくいく』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■ネット検索になくて生成AIにある情報の利点
何かを知りたいときに、質問を投げかけて答えを得る、という点では「生成AI」と「ネット検索」は似ています。
しかし、その根底にある思想と、提供される情報の質は、全くの別物なのです。その違いを、あなたは明確に説明できるでしょうか?
従来のインターネット検索は、「情報のありかを示す地図」のようなものです。あなたがキーワードを投げかけると、検索エンジンはそのキーワードが含まれる可能性が高いウェブサイトのリストをずらりと提示してくれます。
しかし、それらのウェブサイトに書かれている情報の多くは、不特定多数の読者に向けて書かれた画一的なものです。
その中から、本当に自分に必要な情報を見つけ出し、理解し、自分の目的に合わせて編集する、という作業は、私たち人間に委ねられていました。
Excelの関数がまさにそうで、以前の私はExcelで関数がわからないとき、ウェブサイトで関数の使い方を学び、悪戦苦闘しながらその関数を自分の状況に合わせて利用していました。
一方AIは、あなたの問いの意図や背景を汲み取り、「あなたのためだけ」に情報を提供してくれます。
これこそが、「パーソナライゼーション(個々人に合った最適化)」と呼ばれる、生成AIが持つ利点なのです。
■生成AIはオーダーメイドの料理
たとえば、私が「奈良の東大寺の見どころを、小学生の子供に分かりやすく説明したい」と考えたとします。

【インターネット検索の場合】
まず、「東大寺見どころ」と検索します。すると、観光情報サイトや、歴史好きの人が書いたブログ、学術的な論文などが混在して表示されます。
私は、それらの情報を一つ一つ読み解き、小学生には難しすぎる専門用語を避け、子供が興味を持ちそうなエピソード(たとえば、大仏の鼻の穴と同じ大きさの柱の穴をくぐる話など)を自分で選び出し、わかりやすい言葉で説明し直す必要があります。
【生成AIの場合】
AIに対しては、こう指示するだけです。
「あなたは、子供に歴史を教えるのが得意な、小学校の先生です。奈良の東大寺の見どころについて、特に大仏の大きさと、柱の穴の話を中心に、小学生がワクワクするような語り口で、500字で説明してください」
※「大仏の鼻の穴と同じ大きさの柱」については諸説があります
AIは、私の目的を理解し、その目的のためだけに最適化された、世界に一つだけの解説文を、瞬時に生成してくれます。
たとえるなら、検索エンジンが「情報が置かれた棚」であるのに対し、生成AIはその棚から最適な材料を選び出し、あなたの要望に合わせてオーダーメイドの料理を作ってくれる「シェフ」のようなものです。
AIは、あなただけに向けられた、オーダーメイドの答えを生成してくれる強力なパートナーとなってくれます。
だからこそ、あなたがどれだけ具体的で、質の高い「オーダー(問い)」を設計できるかが、重要となるのです。
■AIから最高の答えを引き出す方法
ChatGPTのような生成AIを使ってみて、「なんだ、この程度か」「期待したほど賢くないな」と、がっかりしたことはありませんか?
ChatGPTに質問をしても、当たり障りのない、ありきたりな答えが返ってくる。
そんな経験をした人は、少なくないはずです。
しかし、もし、その「質の低い答え」の原因が、AIの性能ではなく、私たち自身の「問いの質」にあるとしたら、どうでしょう。

AIは、「鏡」のようなものです。
質の低い問いを投げかければ、質の低い答えが返ってくる。逆に、質の高い問いを設計できれば、AIは頼れる思考のパートナーへと変貌します。
この、AIから最高の答えを引き出すための「問いを設計する技術」は、「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれています。
「プロンプト」とは、AIに対する指示や質問のことです。これからの時代は、このプロンプトエンジニアリングの巧拙が、個人の生産性を、ひいては判断力を大きく左右することになります。
優れたプロンプトには、いくつかの基本要素があります。
①命令:AIに何をしてほしいのか、動詞を使って明確に指示する。(例:「以下の文章を、要約してください」)

②文脈:AIが思考するための背景情報や前提条件を与える。(例:「あなたは、ビジネス書の編集者です」)

③データ:AIが処理すべき具体的な情報(文章、数値など)を提供する。

④出力形式:どのような形で答えを返してほしいかを指定する。(例:「箇条書きで」「300字以内で」)
■一通りにしか読めない文章を書けると有利
また、ここで重要なのは、これらの要素を組み合わせてAIが「一通りにしか読めない」ような、具体的で誤解の余地のない指示を出すことです。

やってはいけないことは、「大統領は誰ですか?」のような質問をしてしまうことです。「どの国の大統領か?」ということで複数の解釈ができてしまいます。
「アメリカ大統領は誰ですか?」でも、「いつの時点の」という問題があります。
「2025年の1月時点のアメリカ大統領は誰ですか?」でも、1月は大統領が交代するタイミングであるため、1月は2人の大統領が存在する可能性があります。
そうすると、「2025年1月15日時点のアメリカ大統領は誰ですか?」ではじめて意味を一通りにすることができます。
私は毎年、大量の大学生のレポートを添削していますが、一通りにしか読めないように文章を書くというのは、高度な技術なのだと実感しています。
したがって、この技術を持っている人は、これからの時代を生きていくうえで極めて有利になるはずです。
■AIの能力を引き出す4つのプロンプト技術
また、大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる現代の生成AIの能力を、より引き出すためのプロンプト技術も提案されています。
①ロールプレイング
「あなたは小売業に特化した経験豊富な経営コンサルタントです」のように、AIに役割を与えることで、その役割になりきった専門性の高い回答を引き出せます。
また、役割は人である必要はなく、「あなたはPythonというプログラム言語のコンソール(出力結果画面)として振る舞ってください」のようにもできます。AIに役割を与えるのではなく、「私を気難しい老人と仮定してください」のように自分の役割を設定する、という方法もあります。
②フューショット・プロンプティング(Few-shot prompting)
いくつかの「例(お手本)」を先に見せることで、AIはあなたが求める回答のパターンを学習し、精度が向上します。

【フューショット・プロンプティングの例】以下は中学英語レベルの穴埋め問題の例です。
例1:
問題:(   )you like soccer?
選択肢:①Are ②Do ③Does
答え:②Do
例2:
問題:She(   )to school every day.
選択肢:①go ②goes ③going
答え:②goes
では、同じ形式で新しい問題を一つ作成してください。

ちなみに、例を全く示さずに指示を出すことを「ゼロショット」、例を一つだけ示して指示を出すことを「ワンショット」と言います。
■Googleの研究で判明「正答率を高める指示」
Chain of Thought(CoT、思考の連鎖)
「ステップ・バイ・ステップで考えてください」と指示するだけで、数学などの複雑な問題の正答率が大きく上がることが、Googleの研究などで示されています。
【Chain of Thoughtのプロンプト例】・「渋谷駅前に新しくオープンするタピオカ専門店の1日の売上」を推定してください。客数や客単価などの仮説を立てながら、ステップ・バイ・ステップで考えてください。
・「5年後の日本国内で必要とされる、ドローン宅配サービスのオペレーターの人数」を予測してください。サービスの普及率や利用頻度などの仮説を含め、ステップ・バイ・ステップで考えてください。

Tree of Thoughts(ToT、思考の木)
Chain of Thoughtをさらに発展させ、生成AIに複数の思考経路で回答を生成させ、それぞれの結論を比較します。
複数のアプローチを意図的に用意して比較・評価し、最も妥当な結論を選択する方法として使われます。特に計算や推論の問題などを解かせたいときなどに威力を発揮します。
【Tree of Thoughtsのプロンプト例】あなたは優秀な戦略コンサルタントです。
「日本全国にある郵便ポストの総数」を推定してください。以下のステップに従って、回答を生成してください。
〈ステップ1:3つの異なるアプローチを考える〉
この問題を解くために、全く異なる三つのアプローチを考えて、それぞれ名前をつけてください。(例:人口ベースのアプローチ、面積ベースのアプローチ、郵便局員数ベースのアプローチなど)
〈ステップ2:各アプローチで推定を実行する〉
それぞれのアプローチについて、以下の項目を明確にしながら、推定の思考プロセスをステップ・バイ・ステップで記述してください。
・仮定:推定の前提となる数値(例:日本の人口、世帯数、コンビニの数など)
・論理:その仮定からどのように計算するか
・計算過程:実際の計算式
・結論:そのアプローチで導き出された推定数
〈ステップ3:結果を比較し、最終結論を出す〉
3つのアプローチで導き出された結論を比較検討してください。それぞれの推定値の妥当性を評価し、最も信頼できると考えられる最終的な結論を1つだけ提示してください。その結論を選んだ理由も簡潔に説明してください。

現在の生成AIは、私たちの思考を拡張する強力なパートナーとなりました。そして、AIの能力を最大限に引き出せるかどうかは、私たちの「問いの質」にかかっています。
AIにただ答えを求めるのではなく、AIが最高の答えを出せるような問いを設計すること。これこそが、これからの時代を生き抜くための極めて重要なスキルです。

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中村 一也(なかむら・かずや)

データサイエンティスト

京都大学経済学部卒業。
日本生命保険相互会社にて勤務後、退職。現在、DSE総研代表理事研究所長兼特別主席研究員。AI・機械学習・DXなど先端テクノロジー領域に加えて、生産性を向上させる個人・組織の行動を研究する組織行動学(経営学の一分野)にも精通。データと論文知識をベースとした科学的観点から組織の生産性向上をサポートしている。さまざまな企業・自治体・大学・各種団体にて講師として登壇。著書に『仕事のできる人がやっている減らす習慣』(フォレスト出版)、『7つのゼロ思考 外資系コンサルタントも知らない異次元スピード仕事術』(ぱる出版)、『だから論理少女は嘘をつく ビジネス・就活に効くロジカルシンキングがみにつく』(自由国民社)、『僕が無料の英語マンガで楽にTOEIC900点を取って、映画の英語を字幕なしでリスニングできるワケ』​(扶桑社)がある。

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(データサイエンティスト 中村 一也)
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