正答のない問題にどのように向き合えばいいのか。偏差値35から東大合格した作家の西岡壱誠さんは「本当に考える力がある人は、いったん立ち止まり、仮説を立て、納得できる自分の答えを出すことができる」という――。

※本稿は、西岡壱誠『子どもの地頭が育つ後悔しない子育て』(総合法令)の一部を再編集したものです。
■「すいか」を「西瓜」以外の漢字でどう書く?
学習の本質とは? 学ぶとは、本来「知らないことに向き合うこと」です。答えが見つからないときにどうするか。ここに学びの核心があります。不正解がないクイズを出しますので、挑戦してみてください。
問題 「すいか」の本当の漢字は「西瓜」ですが、あなたなら、「すいか」をどんな漢字で書きますか?
この問題の答えは、なんでもいいのです。
「なぜ、自分はその漢字を選んだか」を考えられれば、正解となります。考える力がある人は、いったん立ち止まることができます。
たとえば、「すいか」は水分の多い果物だと想像した人は、「水果」と答えるかもしれませんし、酔うほどにおいしい夏の食べ物だと想像した人は、「酔夏」と導き出すかもしれません。緑の果物だと考えた人は「翠果」、甘くて吸うような夏の果物だと感じた人は「吸甘」「吸果」「吸夏」など、派生していけます。
答えを、ただ正解として受け入れるだけでなく、「自分ならどう考えるか?」と、自由に想像してみる。そこに、学びの広がりがあります。

「すいか」の独自の漢字は、どれも正解ではなく「納得できる自分の答え」です。
立ち止まり、自分で考え、予想して、仮説を組み立てていく。正解が一つとは限らない問題に向き合い、自分なりの答えを探し続ける力は、子どもが大人になり社会に出てからの仕事の場面でも、人間関係でも、人生の壁にぶつかったときでも、「自分で道をきり拓く力」として活きてきます。
■「飢餓感」が成長に欠かせない
人が成長するうえで欠かせないものは、足りなさを埋めようとするエネルギー「飢餓感」です。「もっとできるはず」「ほかの方法があるはず」と、求める気持ちが自分の思考力を次の段階へと押し上げてくれます。
それは、自分なりのヘンな語呂合わせの覚え方だったり、好きな歌に合わせてリズムよく覚えたり、絵を描いてイメージで覚えたりするなど、独自の勉強法に現れます。
今の子どもたちが学校で受けている学習は、参考書などに最初から完璧な「まとめ」や「要点」が与えられ、“考える余白”が少なくなっています。
思考とは、迷ったり、試したり、失敗したりするなかでしか育ちません。ああでもない、こうでもないと頭のなかで組み立てながら、少しずつ前に進むことが、脳を働かせ、自分で考える力を育てていくのです。
●ポイント 「ない」という“余白”が思考を深める
■東大生の親がしている たった一つのこと
ここまでの話を踏まえて考えてみましょう。どうすれば、子どもの「地頭」がよくなるのでしょうか?
それは、地頭力を向上させようとがんばるよりも、頭を使う場面を日常にどれだけ仕込めるかです。
与えるのではなく、「余白」を残す
東大に合格する子どもたちの親に共通するのは、必要以上に手や口を出さないことです。
むしろ、子どもが失敗したり、悩んだりする時間を尊重し、「自分の頭で考えてもらう」ことを大切にしています。
情報や答えを与えて、知識を詰め込むのではなく、「考える状況」をどれだけ用意してあげられるか。地頭力は、知識の量より思考の濃度で決まります。
食材と料理を例に考えてみましょう。
問題 冷蔵庫に、にんじん、じゃがいも、玉ねぎがあります。どんな料理をつくりますか? ※調味料などは自由に使えるものとする
情報をたくさんもっている人は、たしかに物知りです。ですが、それだけですと“地頭がいい”とはいえません。地頭がいい人は、もっている知識をただ並べるのではなく、「どう使うか」を考えられる人です。
では、「にんじん、じゃがいも、玉ねぎ」からつくれる料理はなんでしょうか?
野菜炒めを思い浮かべたでしょうか? この回答は、ただの知識です。野菜の料理方法を知っているかどうかの問題にすぎません。
にんじん、じゃがいも、玉ねぎであれば、肉はありませんが、肉じゃがやカレー、シチューもつくれます。蒸し野菜、野菜のオーブン焼きもできるでしょう。
ほかにも、じゃがいもをスライスして、油で揚げてポテトチップスにすることもできますし、衣をつけてオニオンリング、にんじんのかき揚げをつくることもできます。
同じ材料でも、全部を一緒に使う必要はありませんし、きり方や調理法、味付けを変えるだけで、まったく違う料理が生まれます。
■東大生の親は答えをすぐに教えない
このプロセスには、ただ知っているだけの段階から一歩進み、自分で考えて工夫する「考える状況」があります。
知っていることを自由自在に組み合わせて、新しいアイデアや答えを導き出せる人が、地頭がいい人と呼ばれます。
知識は材料であり、思考は調理です。自分で工夫する経験がなければ、思考力は育ちません。東大生の親で特に印象的なのは、答えをすぐに教えない姿勢です。
子どもが「この問題わからない」と聞いてきたとき、普通の親であれば解き方を丁寧に教えようとするかもしれませんが、東大生の親は「どう思ったの?」「どこまで自分でやった?」と聞き返すだけで、すぐに答えを提示しようとはしません。
なにかを教えるときにも、「この問題はこう解くんだよ」と教えるのではなく、「この問題、どうやって解くと思う? ヒントはこれだよ」と一度、質問を投げます。そうすることで、子ども自身が主体的に考え始め、自分の力で答えにたどり着く達成感を得られるようになります。
「こうすればいいのか!」「わかった!」という実感は、他人から与えられるのではなく、自分で導き出してこそ深く定着します。“納得”は親からもらうものではなく、子ども自身が自分でつかむものです。

■なんでヘビイチゴという名前がついた?
答えをすぐに教えない姿勢は、勉強だけに限った話ではありません。
散歩中に出会う植物一つをとっても、教育のチャンスがあります。道に生えているヘビイチゴを見かけて、子どもに植物の名前を教えてあげることは簡単ですが、東大生の家庭ではそのようなことはしません。
答えではなく、ひとこと子どもに聞くだけです。
「ヘビとイチゴって不思議だよね。なんでヘビイチゴって名前がついたんだと思う?」
質問を投げかけるだけで、子どもの思考が動き始めます。
「ヘビが食べるのかな?」「イチゴに似てるけど、毒があるから?」「湿ったところに生えてるからヘビが出そうなのかも!」などと、次々に仮説を立て始めるのです。自分で理由を理解できれば、しっかりと記憶にも残ります。
■子どもに「自分で考える習慣」作る距離感
正解にたどり着くことが目的ではありません。親の問いかけで、子どもに「なぜ?」「どうして?」と考える余白を提示しているのです。問いかけ一つで、ただ名前を知るだけの知識が、「思考」と「興味」に変わります。
自分で導き出した答えや発見は、ただの情報ではなく「自分のもの」になります。
困ったときには一緒に考え、応援し、支える。ただし、答えを与えることはしない。
この距離感が、子どもに「自分で考える習慣」をつくっていきます。子どもの頭のなかに、思考の種をまく問いかけを進んでしていきましょう。
●ポイント 子どもに、「考えて」「考えて」「考えて」もらう

----------

西岡 壱誠(にしおか・いっせい)

カルペ・ディエム代表

1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。

----------

(カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)
編集部おすすめ