学習塾業界の勢力図争いが激しさを増しています。不動産デベロッパーのヒューリックが、東京大学受験指導専門塾の「鉄緑会」を買収すると発表しました。
ヒューリックは2024年に個別指導塾「TOMAS」などを運営するリソー教育をTOB(株式公開買付)で連結子会社化しています。
このように、学習塾業界において「不動産デベロッパー」という異業種からの参入が存在感を強めています。その理由を深掘りしていきましょう。

中学生の塾の月謝は「平均4万7069円(東京都)」。「不動産...の画像はこちら >>

利上げで転換期を迎えた不動産開発

ヒューリックは2026年2月竣工の東京駅前「TOFROM YAESU(トフロム八重洲)」などの開発に携わりました。都市部の商業ビルのほか、物流施設、リゾート施設など様々なタイプの不動産開発を手がける企業です。

同社の特徴は、開発した不動産の売却によって多くの利益を稼いでいる点にあります。三菱地所や住友不動産は賃貸に強みを持ち、東京建物は分譲マンション、東急不動産ホールディングスは仲介の比率が高いなど、大手・準大手デベロッパーでも稼ぎ方にはそれぞれのスタイルが存在します。

賃貸や仲介は収益性が安定しやすいものの、資産の売却で利益を得ると、投資家が重視する経営指標ROE(自己資本利益率)は高まる傾向がみられます。実際、野村不動産のROEは8.6%であるのに対し、ヒューリックは12.5%を記録。ただし、現在は日銀が金利を引き上げており、市況が悪化すると、見込んでいた価格で物件が売れなくなる可能性が出てくるなど、リスクの高いビジネスモデルとも言えるのです。

都市部教育市場へ挑むヒューリック

利上げの本格化に伴い、ヒューリックはM&Aを積極的に活用してビジネスモデルを進化させる方針を掲げました。不動産を商社化し、利益成長と企業価値向上を図ろうという狙いです。

2025年4月に開業した施設が「こどもでぱーと」でした。「こどもの教育」と「親の負担軽減」の支援を目指し、学習塾、学童・保育、運動・英語といった習い事教室の常設店舗や、曜日や時間帯ごとに多彩なプログラムを体験できる「こどもでぱーと Studio(スタジオ)」を設置。
子どもを中核とする都市型のビルを開発しました。

子どもの教育と都市部という掛け合わせは、高い成長の潜在性を秘めています。文部科学省の調査によると、私立小学校に通う子どもの2023年の学校外活動費は71万円と、2021年の66万円から増加しました。公立小学校も2023年は25万6000円で、2年で8000円増加しています。

塾などにかける費用は依然として増加傾向にあるのです。

エリアごとのバラつきも存在します。フコク生命によるエリア別中学生の学習塾費用調査によると、1位の東京都は4万7069円だったのに対し、最下位の島根県は1万4000円でした。実に3万3000円以上の大きな差が生じている実態が浮かび上がります。

都市部で教育に特化したビルを開発したヒューリックの試みは、非常に先見性があると言えるでしょう。

スポーツ事業で成長を図るナガセ

学習塾大手は激しい再編を繰り返してきましたが、足元では一定の落ち着きを取り戻しています。四谷大塚や早稲田塾などを買収して業界トップクラスの規模に躍り出たナガセは、スポーツ事業の強化に注力。2024年12月に住友ゴム工業の傘下にあったダンロップスポーツウェルネスを取得しました。

ナガセは2008年のイトマンスイミングスクールの買収によってスポーツ事業に進出。
その後、2022年にブリヂストンスポーツアリーナを子会社化しました。2024年のM&Aによってスポーツ事業での拡大に意欲を見せる姿勢がより一層鮮明になりました。

同社の足元の業績は極めて堅調です。2026年3月期は16.2%の増収、22.9%もの営業増益を達成。ナガセのスポーツ事業はM&Aによって売上高が50.0%増加しました。買収による増収効果を除いても3%超の増収を維持しており、これは小中学生の学習塾事業の成長率を上回る数字です。

一方、スポーツ事業の利益率は3%程度にとどまり、20%に達する小中学生の塾事業には遠く及びません。これは施設の管理や設備投資に多額の費用が発生するためと考えられます。

しかし、会社全体として捉えればスポーツ事業の利益率の低さは本業の収益力を生かしてカバーが可能です。少子高齢化で子どもの数が長期的に減少するのは確実ななか、スポーツ事業がそれに代わる新たな成長促進剤となる可能性を秘めます。

ナガセのビジネスモデルは学習塾が抱える弱点を克服するものとなるのか、コングロマリット・ディスカウントで市場の評価を下げる要因となるのか。今後の注目ポイントと言えます。


AI活用で効率化を進める公文式

業界に大きな一石を投じたのが公文教育研究会です。7月5日に教育スタートアップatama plusを完全子会社化しました。

atama plusは2017年4月創業。AIを活用して一人ひとりに合わせたカリキュラムを作成するAI教材「atama+」は全国4500教室に導入されています。また、「進学個別 atama+塾」のフランチャイズ展開も開始しており、教材の提供にとどまらず学習塾の展開にも注力していました。

atama plusは2024年4月に駿河台学園と資本業務提携を行い、駿河台学園が35.5%の株式を取得。公文による子会社化で資本関係は解消しましたが、提携関係自体は継続する見込みです。

公文はこれまで自前での成長にこだわってきましたが、AIが台頭するなかで効率的に教材を開発するスタートアップを傘下に収めました。教育の質と生産性の向上を同時に図る同社独自の取り組みだと見ることができます。

塾運営の効率化を目指すM&Aの動きは、今後さらに加速する可能性があります。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。
得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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