血糖値上昇を防ぐには何をすればいいか。佐久市立国保浅間総合病院の糖尿病センター長の西森栄太さんは「『ストレスとうまく付き合う力』を身につけ、心が安定すると、結果的に血糖値や体重のコントロールも良くなる。
科学的に効果が確認されているストレス軽減法を紹介する」という――。
※本稿は、西森栄太『2型糖尿病は寛解する!』(新星出版社)の一部を再編集したものです。
■ストレスと血糖上昇の相関関係
糖尿病の治療と聞くと、多くの人は「食事」「運動」「薬」を思い浮かべます。しかし、見落とされがちな、もう一つの重要な要素があります。それが「ストレス」です。
ストレスを感じると、私たちの体は「ストレスホルモン」と呼ばれるアドレナリンやコルチゾールを分泌します。これらのホルモンは血糖値を上昇させる働きがあります。進化の過程において、ストレス=危機(敵から逃げる、飢餓に備えるなど)という状況では、エネルギー源である血糖を高める必要があったためです。
しかし、現代社会のストレスは、仕事の締め切りや人間関係、不安、孤独など「戦う必要のないストレス」が中心です。これらが慢性的に続くと、血糖値のコントロールが難しくなってしまいます。糖尿病のある人では、もともとインスリンの働きが悪くなっている(インスリン抵抗性)ことが多く、ストレスによる血糖上昇がより顕著に表れます。
さらに、ストレスは食行動にも影響します。
イライラや不安を感じると、「甘い物が食べたい」「つい食べ過ぎてしまう」といった行動に結びつくことがあります。これは「情動的摂食」と呼ばれ、ストレス時に食べることで脳が一時的な安心感を得ようとする自然な反応です。
おいしいものを食べたときに幸せな気持ちになるのは、脳内で“幸せホルモン”と呼ばれる物質(セロトニンやドーパミンなど)が分泌され、ストレスが軽減されるためです。
■糖尿病をもつ人はうつ病リスクが約2~3倍に
実際に、糖尿病のある方がストレスや抑うつを抱えている割合は少なくありません。世界的な調査では、糖尿病をもつ人はそうでない人に比べて、うつ病のリスクが約2~3倍になることが示されており、アジア人で2型糖尿病のある人の約30%がうつ病を抱えていると報告されています。
うつ病になると、生活習慣の改善や自己管理が困難になり、結果として血糖コントロールが悪化するという悪循環に陥る可能性もあります。心のケアも、糖尿病治療において大切な柱のひとつなのです。
次に挙げるAさんやBさんのような例は決して珍しくありません。ストレスは血糖値や食生活に大きな影響を与えます。もし似たような状況に心当たりがあれば、早めに医療機関で相談し、心と体の両方をケアする一歩を踏み出してみてください。
Kさん 40代男性

営業職で忙しいKさんは、朝から車で移動が多く、食事は車内や外食ですませることがほとんど。仕事のストレスがたまると、帰宅後に菓子パンなど甘い物で気持ちを落ち着けるのが習慣でした。
帰宅は夜9時過ぎ、深夜2時頃までスマホを見ながら過ごし、睡眠不足も続いていました。健康診断でヘモグロビンA1cは年々上がっていましたが受診せず、ついにヘモグロビンA1cが12%となり、発症から3年後、ようやく病院を訪れました。
Lさん 50代女性

調理師のBさんは、40代で糖尿病を発症。治療を始めたものの、忙しさや気持ちの余裕のなさから、薬の飲み忘れや通院中断を繰り返していました。減量のため入院したものの、思うように体重が減らず気持ちが折れ、「どうせ無理」とあきらめ、ストレスから無茶食いをするようになりました。減った体重もすぐ戻ってしまいました。

■ストレスを和らげる5つの方法
糖尿病の寛解を目指すためには、ストレスとの上手な付き合いが欠かせません。ここでは、科学的に効果が確認されている5つの方法をご紹介します。
①1日1回マインドフルネス瞑想の時間を持つ
ゆっくりと深く呼吸することで、自律神経のバランスが整い、リラックスを司る副交感神経が優位になります。1日5分でも呼吸に集中する時間をつくることで、ストレス軽減や血糖値の安定に良い影響を与えることが知られています。私たちの病院の糖尿病教室でも取り入れています。
②体を動かす(運動によるストレス解消)
ウォーキングや軽い筋トレは、ストレスホルモン(コルチゾールなど)を低下させ、セロトニンやエンドルフィンといった“幸福ホルモン”を増やすことがわかっています。

運動は心身両面に効果のある「薬」なのです。
③誰かと話す・つながる
社会的つながりは、ストレスを和らげる重要な要素です。孤独は慢性的ストレスやうつ状態を引き起こしやすく、糖尿病の自己管理にも悪影響を及ぼします。人とつながることは、精神的な支えとなり、前向きな行動変容を促します。
私たちの病院では、糖尿病のある人同士が集まって食事会をしたり、旅行に一緒に行ったり、また、糖尿病のある人が集まって交流できる「糖尿病カフェ」を開いたりしています(新型コロナで一旦休止中)。
④「自分を責めない」思考のクセをつける(セルフ・コンパッション)
「また失敗した」「自分はダメだ」などと責める思考は、ストレスやうつを悪化させます。
自己批判ではなく、自分にやさしく接する「セルフ・コンパッション(自己への思いやり)」の態度を持つことが、精神的安定と継続的な生活習慣改善に役立ちます。
⑤十分な睡眠をとる
睡眠不足はストレス耐性を下げ、インスリン抵抗性や食欲の乱れを引き起こします。質のよい睡眠は、精神的な安定だけでなく、ホルモンバランスや血糖コントロールの維持にも重要な役割を果たします。
成人であれば、1日7時間以上の睡眠が推奨されており、就寝前のスマートフォンの使用を控えることなども有効です。また、睡眠不足の原因として、睡眠時無呼吸症候群(いびき・無呼吸)やレストレスレッグス症候群(脚のムズムズ)などの病気が隠れている場合もあります。気になる症状があれば、医師に相談してください。

■心が整えば、体も整う
ストレスをゼロにすることはできません。しかし、「ストレスとうまく付き合う力」を身につけることはできます。心が安定すると、生活習慣が整いやすくなり、結果的に血糖値や体重のコントロールも良くなります。これは私たち医療スタッフが、日々の診療の中で患者さんを見ていて実感していることでもあります。
糖尿病の寛解を目指す道のりは、単に血糖値を下げることだけが目的ではありません。
体と心の両方が健やかであることが大切です。ぜひ、ストレスと上手に付き合いながら、無理のない治療を続けていきましょう。

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西森 栄太(にしもり・えいた)

佐久市立国保浅間総合病院 内科部長(糖尿病内科)、糖尿病センター長、地域医療部長

1997年 東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2005年 琉球大学医学部医学科卒業。沖縄県立中部病院での研修を経て、2008年より沖縄県立南部医療センター・こども医療センター附属粟国診療所に勤務。粟国島あぐにじまの島医者としてプライマリ・ケアに従事。2011年から佐久市立国保浅間総合病院に勤務し、糖尿病診療を中心とした地域医療に取り組んでいる。
日本糖尿病学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、 日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医、日本医師会認定産業医。

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(佐久市立国保浅間総合病院 内科部長(糖尿病内科)、糖尿病センター長、地域医療部長 西森 栄太)
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