■「改悪」で帰省を諦めた大学生
「青春18きっぷ」の販売枚数が、2024年度の約42万枚から2025年度の約24万枚へと大きく落ち込んでいたことを、2026年7月17日付記事(「青春18きっぷ離れ」が止まらない…2年で販売数「62万→24万枚」に激減させたJRが選んだ“最悪の選択肢”)で詳しく紹介した。2023年度の約62万枚と比較すると6割減となる。
激減の理由としては、2024年冬季分の販売から、それまでの「期間内の任意の5日間利用」から「連続する3日間または5日間」に利用条件が改められたことが大きいだろう。こうした青春18きっぷの制度変更は、大学生をはじめとした若者のライフスタイルに大きな変化を及ぼしている。
「青春18きっぷの制度変更が行われた2024年の冬休みの話です。夜行バスの運賃や、JRの学割の運賃でも高くて実家に帰省するのをやめたという話はかなり聞きました。JRの経営判断と言われればそうかもしれませんが、青春18きっぷが持ち合わせていた公共性の側面をもう少し考慮していただいてもよかったのではないでしょうか」
こう話すのは、東京都内在住の大学生の佐藤諒真(仮名)さん(24歳)だ。
■学割があっても運賃が重くのしかかる
「制度変更前の2024年夏休みには、鳥取から上京している友人が、鳥取の実家に帰省する前に京都の大学に進学した友人のところに立ち寄ったあとで、残りの青春18きっぷを使って一緒に鳥取まで帰省するという使い方をしていましたが、青春18きっぷの制度変更により、大学生が気楽に旅行できなくなってしまい、旅行や帰省そのものを取りやめてしまうケースが増えたように感じています」(佐藤さん)
佐藤さんの友人のように、東京―鳥取間を東海道本線・山陰本線経由の在来線で移動しようとした場合、通常の運賃は1万780円となる。JRの学割は片道100kmを超える区間を、学生・生徒が利用する場合、各学校が発行する学割証を駅窓口に提出することで、2割引の乗車券が変えるという制度である。
東京―鳥取間は、学割だと8620円で利用できることになるが、これまでの青春18きっぷの手軽さと比較すれば、運賃が高く感じられ、JRの利用を躊躇する大学生が一定数生まれてもおかしくはないだろう。
なお、東京―鳥取間を新幹線と特急列車で移動した場合には片道1万7000円程度、夜行バスの場合は、繁忙期には片道2万円近くにまで高騰することもあるようだ。
■「自由気ままな旅」ができなくなった
利用条件変更前の青春18きっぷは、春・夏・冬の休暇シーズン中の、期間内の任意の5日間、全国のJRの普通列車が乗り放題だった。販売価格は1万2050円で、1日当たりの金額は2410円と元を取りやすかったこともあり、青春18きっぷの販売シーズンになると、とりあえず購入してから使い方を考えるという利用者も多かった。
さらに、複数人での利用を認めていたのも大きな特徴で、前述の大学生のケースでは、まず1回分で東京―京都間を移動し京都で友人と合流。2、3回分で友人と京都―鳥取間を移動し帰省。4、5回分で2人で鳥取―京都間を移動し、同行の友人と京都駅で別れた後、そのまま1人で東京まで乗り続けるという使い方も可能で、利用の自由度が高いことが特徴だった。
しかし、2024年冬の販売分からは、「連続する5日間または3日間用」利用可能なきっぷへとリニューアルされ、従来の販売価格と同じ1万2050円の「連続する5日間用」のきっぷに加え、1万円の「連続する3日間用」のきっぷが新設された。さらに、複数人利用はできなくなった。
大学生の帰省での利用を考えると、長くても5日以内に実家まで往復しなければならないという制約が、青春18きっぷの利用を遠ざける結果になったことが考えられる。
■「+指定席」で夜行列車に乗れた時代
筆者が大学生だった2000年代初頭は、青春18きっぷ全盛期とも言える時代で、販売シーズンが近づくと書店には関連書籍が数多く並んでいた。
さらに、国内各地では快速ムーンライトながら号(東京―大垣間)や快速ムーンライト九州号(京都―博多間)など、青春18きっぷに指定席券(いずれも510円)を追加購入することで乗車できる夜行快速列車が多数運行され、青春18きっぷの旅行者の長距離移動を支えていた。
当時は東北本線の盛岡―青森間や、信越本線の長野―直江津間、北陸本線の直江津―敦賀間もまだJRの路線だったため、青春18きっぷを利用できた。これらの区間は、整備新幹線の並行在来線としてJRから第三セクター鉄道に経営分離され、現在は青春18きっぷの対象外だ。
■札幌から熊本まで日本列島縦断旅行
筆者は大学の夏休み期間中には、必ず青春18きっぷを購入し、まる1カ月間を使って北海道から九州まで各地の路線を巡る「乗り鉄」旅を毎年行っていた。
高校と予備校時代に培った友人が、北海道大学(北海道)から琉球大学(沖縄県)まで全国各地の大学に進学してくれたこともあり、こうした友人宅を回ることで宿の確保に困ることはなく、友人宅を訪問する際には、必ず前の滞在地で購入したお土産を持参していたことから歓迎されていた。
特に思い出深いのは、大学1年生の時に実行した札幌から熊本までの青春18きっぷによる21日間の日本列島縦断旅行だ。
札幌から東京までは順調だったが、京都経由で博多まで行く途中、大型台風の直撃によって列車が運行停止するというトラブルに見舞われた。そのため、甲府での1泊予定が3泊に延び、京都での2泊予定を1泊に切り詰めるなど、途中で工夫を凝らしながら当初の帰宅日に何とか間に合わせることになった。
東京を出発した日は、2001年8月20日。台風11号が日本列島に迫り、いつ列車が止まるか分からない中で、中央本線に乗り山梨県甲府市の友人宅を目指すことにした。その後、甲府到着の翌日に台風が紀伊半島に上陸したことから、結果的に甲府で4日間足止めを食らうことになった。
■甲府→京都→夜行列車で博多へ
それでも8月22日には、甲府の天候が回復したことから友人のクルマで、「ほったらかし温泉」や桃園などの山梨観光を楽しんだのち京都に向かうことができた。山梨の桃園では京都の友人用に段ボールひと箱分の桃を購入した。
8月23日には、甲府からまる1日をかけて京都に向かい、段ボールひと箱分の桃を宿泊費代わりとして友人宅に1泊する。そして、京都観光を楽しんだのち、京都駅から博多行の夜行快速列車のムーンライト九州号に乗車し、翌朝九州の地に上陸した。
当時、夏休みや冬休みの繁忙期シーズンには京都駅から、九州の博多駅や、四国の高知駅や松山駅に向かうムーンライトという夜行の快速列車群が運行されていた。いずれも寝台車の連結はなく座席が主体の列車ではあったものの、これらの列車を活用すれば翌朝、九州や四国の地に降り立つことが可能だった。
■21日間にかかった移動費は2万5000円
特に、ムーンライト九州号には最後尾にガラス張りの展望車が連結されており、展望区画はフリースペースとなっていた。成人したばかりの筆者にとっては、夜行列車の最後尾から去り行く風景を眺めながら、真夜中の旅人のサロンとして見知らぬもの同士でお酒を酌み交わし、鉄道談議に花を咲かせたことは一生の思い出となっている。
早朝に到着した本州最西端の下関駅では、長時間停車するので、ムーンライト九州号の乗客はホームにある洗面所で、歯磨きや洗顔をしていたことも2000年代初頭の鉄道旅行風景だった。
この21日間の日本列島縦断旅行(札幌~熊本)にかかった移動費は約2万5000円。当時、5日用で1万1500円だった青春18きっぷは、京都で2枚目を買い足したほか、ムーンライト九州号の指定席券などの追加購入分を含む合計額だ。
筆者は、現在、経済ジャーナリストとして、経済誌などに記事の寄稿をいただける機会を得ているが、こうしたジャーナリストの視点の基礎を築いたのは、徹底した青春18きっぷの放浪旅により、日本各地をくまなく見聞してきたことにある。
青春18きっぷによる各駅停車の旅では、新幹線や飛行機では見落としがちな、日本の細かい文化や風土、産業構造に触れることができた点が大きな学びとなった。
■ただの「安く乗れる乗車券」ではない
例えば、東京から九州方面に向かう際には、列車の車内で交わされる日常会話の方言の変化から、それぞれの地域の空気感を感じ取ることができた。東北方面に向かう際には福島県から岩手県にかけての東北本線の車窓風景の大半が水田地帯となることから、日本が瑞穂の国であることを体感できたし、北陸方面を旅した時には、富山県内の北陸本線の車窓からレンコンが水田で栽培されるということを初めて知った。
さらに、山陰方面を旅した時には、鳥取市内の山陰本線の車窓から市街地に鎮座する鳥取三洋電機の工場を目にしたことで、地方での企業誘致と雇用対策の関係性について考えるヒントを得ることができた。
青春18きっぷは、単に普通列車に安く乗れる企画乗車券ではなかった。
時間だけはあるが、お金はない大学生が、日本という国を自分の目で見て歩き、地域の文化や産業、人々の暮らしに触れるための「学びの切符」でもあった。
制度変更によって失われたのは利用者数だけではない。若者が日本各地を旅し、地域を知り、人と出会い、自らの価値観を広げる機会もまた、小さくなってしまったのではないだろうか。
販売枚数が2年で約62万枚から約24万枚へと大きく落ち込んだという事実は、単なる人気低下ではなく、そうした時代の変化を映し出しているように思えてならない。
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櫛田 泉(くしだ・せん)
経済ジャーナリスト
1981年北海道生まれ。札幌光星高等学校、小樽商科大学商学部卒、同大学院商学研究科経営管理修士(MBA)コース修了。大手IT会社の新規事業開発部を経て、北海道岩内町のブランド茶漬け「伝統の漁師めし・岩内鰊和次郎」をプロデュース。現在、合同会社いわない前浜市場CEOを務める。BSフジサンデードキュメンタリー「今こそ鉄路を活かせ!地方創生への再出発」番組監修。
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(経済ジャーナリスト 櫛田 泉)

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