社員が辞める会社と、辞めない会社の違いは何か。自動車販売店などをチェーン展開する「カーベル」は入社1年後の離職率を60%から8%まで減らした。
伊藤一正代表取締役は「明るいブラック企業になるために取り組んだことが3つある」という――。
※本稿は、伊藤一正『悩んだら、「好きか大好きか」で動け! 創業以来20期連続黒字、年商92億円社長が経営の“決め技”を公開』(ワニ・プラス)の一部を再編集したものです。
■朝礼と昼礼で「30秒プレゼン」
ここからは、カーベルが「ブラック企業」であると自ら証明したいと思います。
ブラックの極み① 朝礼と昼礼は恐怖と歓喜
朝礼と昼礼は毎日行います。朝礼は9時から9時半までたっぷり。昼礼は13時から最大15分。
司会進行は全社員による日替わり制。そして、恐怖の時間は突然訪れます。「GWの過ごし方」「私の週末について」「ボーナスの使い道」「気になるニュース」「最近のハッピーやムカついたこと」などの問いを突然突きつけられるのです。
当てられた社員は30秒で面白おかしく答えるのがルール。子どもさんが大学進学や結婚するという回答が出ると、全員から拍手喝采。いつ何時当てられてもユーモアたっぷりに30秒でプレゼンできる。
プレゼン馬鹿な会社らしい取り組みだと思います。
世の中的には人前で話すことを「恐怖の時間」だと思う人もいるでしょうし、実際プライベート干渉のギリギリのラインだと思いますが、全社員がベラベラ喋って、朝と昼みんな笑顔になる。カーベルでは恐怖の時間が歓喜の時間になるのです。
■20時以降も会社に残るとペナルティ
ブラックの極み② 20時を超えたら「電気代自腹」
当社の終業時間は18時。残業は最大20時までと決めていて、20時になったら完全に会社をクローズします。深夜残業は会社として認めていません。
残業自体も許可制で、残業申請を出さないと残れない。
もし20時以降に残っていたらペナルティが発生し、「電気代として10分につき200円払え」と言っています。
■ボーナス「-1万円」で喫煙者が激減
ブラックの極み③ 昇格には「腕立て」が必須
当社の昇格規定は2カ月間が対象。その2カ月間で昇格条件6項目が設定されます。その内容は直属の上司が設定しますが、昇格対象が男性社員の場合は6項目の中に必ず、【毎週○曜日 昼礼後「腕立て伏せ30回」】が設定されます。
ですから、毎週その日が来ると私と昇格対象者、直属の上司、それに加えて腕立てをしたい男性社員たち、合計10名前後で腕立て伏せが始まります。

ブラックの極み④ 喫煙者はボーナス減額
当社の場合、喫煙者は部長までは昇格できますが、執行役員と取締役には昇格できないルールがあります。
また、喫煙者は夏と冬のボーナスから1万円減額。もちろん入社前に伝えています。これは当社が考える「健康経営」の具体策です。その効果があったのか、13名いた喫煙者が2名に減りました。
以前、ある刑事さんに聞いた話ですが「タバコを吸ったことがない人で、大麻や覚醒剤に手を出す人はいない」そうです。それを聞いた私は、「タバコは体に悪いだけでなく、喫煙者は犯罪予備軍」という解釈をしました。
この制度が社員に健康をもたらし、犯罪予備軍の撲滅にもなればと思っています。
■社長の勇姿を応援しない社員は…
ブラックの極み⑤ プロレス観戦に来ない社員をチェック
当社は社長が現役プロレスラーだけではなく、社内に「プロレス部」があります。そんな一般企業は当社だけかもしれませんが、さらにプロレス部にはプロレス部長が存在し、毎年、年間20試合前後のスケジュール管理、集客、物販に注力しています。さらにプロレス部長は、社員が何回応援観戦に来たか、密かにチェックもしています。
プロレス応援観戦が年間0回の社員は私から嫌みを言われます。

ブラックの極み⑥ ボーナスカット
精一杯やって目標未達や失敗ならボーナスカットになりませんが、有言不実行やルール違反、飲食の席での悪態など仲間を不愉快にした者は、ボーナスを10~50%カットします。
ブラックの極み⑦ 社内恋愛禁止
当社は仕切りなしの社内ワンフロア。また、転勤させる支店もありません。誰と誰が付き合っているなど気を遣うのも正直ストレスです。よって「社内恋愛は禁止」としていますが、社内恋愛で2組も結婚しています。
当社は社員もブラックです。
■目指すは「明るいブラック企業」
今のご時世、ブラック企業は存在自体がご法度と言われます。あらゆるハラスメントは処罰の対象とされ、健全な企業が称賛される。そのためなんでもかんでもホワイトにしようとしますが、私は「ブラック企業も悪くない」とあえて伝えたいのです。
起業した時は24時間365日働く、その気概なくして会社経営の成功などあり得ないと思っていましたし、そのまま変わらずやってきました。
もちろん「パワハラやセクハラをしていい」と言っているわけではありません。
会社で全社員が一丸となって必死に働いていれば、時にはサービス残業が避けられなかったり、上司から厳しい言葉が飛んでくることがあったりするかもしれない。
しかし、品行方正にキレイ事ばかりしていたら、会社のオリジナリティなんてすぐ消えてなくなります。
早朝出勤、サービス残業、休日出社はありますが、労働紛争がなく、離職率が低く、社員が元気で、月曜日の朝が楽しみになるマネジメントに尽力するほうが価値は高いと思います。そんな「明るいブラック企業」創りにギアチェンジしませんか?
■男性社員にアルマーニの靴下を贈呈
カーベルではかつて入社後1年間での離職率が60%もありましたが、現在は8%です。カーベルが離職率を下げ、明るいブラック企業になるために取り組んだことが3つあります。
1つ目は「会社(社長)が社員をおもてなし」、2つ目は「社内表彰」、3つ目は「間違った福利厚生」です。
会社(社長)が社員をおもてなし
私は一番先におもてなしをすべき相手は社員だと考えます。そこで、私が考え抜いた当社のおもてなし制度を紹介します。
・お誕生日賞:毎月月初に朝礼で実施。お誕生日の男性社員には冷温の肌着各1枚と靴下3足、女性にはクッキーをプレゼントし、全社員でバースデーソングを大合唱
・永年勤続表彰:3年・5年・7年・10年・15年(年数×1万円)を朝礼で現金支給
・4月1日新年度賞:新卒の入社式と同時に開催。男性社員にはその年のラッキーカラーのネクタイ、女性にはスイーツを贈呈
・ボウリング大会:毎年8月最終土曜日開催。社員、子ども、奥様旦那様、彼氏彼女参加OK。上位表彰、懇親パーティーまで全額会社払い
・クリスマスパーティー:提携企業もご家族も参加するホテルでのイベント。
男性にはアルマーニの靴下、女性にはシャンパンや季節商品をプレゼント
■「社長賞」は年3回、1~5万円
・男性社員の奥様にプレゼント:出張が多い当社の男性社員は必然的に家を留守にする日が多い。奥様の理解や協力があってこそ良い仕事ができると思い、毎年クリスマスに奥様へプレゼントを贈ります
・限定車当選金:メーカーの台数限定車に個人名義で申し込んでもらい、当選すれば代金は当社が払い、「当選に感謝」の意味合いで1台につき5万~10万円の当選金を支給しています
・社長賞:毎年4月、7月、12月に仕事の成果に関係なく「頑張っている」と感じる社員に1万~5万円を支給しています
仕事の成果だけではなく、存在そのものに感謝する。言葉と気持ちでそれを伝える場を創ることを大切にしています。
誕生日、母の日、父の日、敬老の日など、記念日に大切な人に贈り物をするのは人類普遍の文化。私にとって社員は大切な人なのです。
■社員が社員を称えるイベントだらけ
社内表彰
会社ではなく社員が社員を表彰する制度があるのが、当社の特徴の1つです。
・VIP賞:毎月一番頑張った人と一番頑張ったチームを全社員が無記名で投票。最多票の人とチームがVIP賞となります。個人には5000円、チームには1人1万円以内で食事会をプレゼント
・ありがとう賞:年4回開催。日頃の言動や姿勢、成果に対し、「ありがとう」とカードに記載し、社内ポストに投函。1位から3位までを表彰
・衝撃画像コンテスト:毎年3月に開催。日頃から街中や出先で面白画像や目を引く看板を撮影し、エレベーター前に貼り出します。
当社にいらっしゃるすべてのお客様、ビルの清掃員さん、毎日当社にいらっしゃるヤクルトレディさんにも投票してもらい1位から3位までを表彰
・川柳コンテスト:毎年6月に開催。若い社員は川柳を知らないから、5・7・5ではなく、8・4・6とかで書いてくるのも面白い。エレベーター前に貼り出し、衝撃画像と同様の審査で1位から3位までを表彰
・読書ワードコンテスト:毎年9月に開催。カーベル図書館、約1000冊の中から本を読み、印象に残ったキーワードを発表。1位から3位までを表彰
・AI画像コンテスト:2026年スタート、年3回開催。AIを全員が活用できるようになることが目的。1回目のテーマは「肉と私」。衝撃画像と同じ審査で1位から3位までを表彰
このように、カーベルには毎月イベントがありますが、イベントに一度も参加しない社員はいません。20年の歴史で1人もいないです。採用の段階でイベント多彩企業であることを伝えていますし、そういう「空気感」が好きそうな人を採用しているからです。
実際、イベント好きや体育会系の人材がこのような社内表彰やイベントを楽しんでくれ、毎回盛り上がっています。
■借金、慰謝料、ローン頭金を立て替え
カーベルの「間違った福利厚生」
福利厚生って何でしょう?
インターネットで検索すると、福利厚生とは「企業が賃金や労働時間以外で、従業員とその家族の生活安定や健康維持のために提供する金銭・物品・サービスの総称です」と記載されています。それに対して、私の解釈だと「社員が困っていたら助けること(=「→YESカーベル」)」になります。その実例を紹介します。
ある日、誰も頼んでいないのにお寿司屋さんから8人前の出前が届きました。社内がザワザワしていると1人だけ下を向いて震えている社員がいます。すぐ別室に連れていき事情聴取開始。サラ金へ返済できてないことに対する嫌がらせだと判明しました。金額確認すると380万円→YESカーベル。翌週カーベルが借金全額立て替え払いで一件落着。
仕事中に何度も離席し携帯でコソコソ喋っている役職者を発見。別室にて事情聴取開始。離婚の慰謝料で揉めていることが判明しました。金額確認すると400万円→YESカーベル。カーベルが慰謝料全額立て替え払いで一件落着。
役職者の1人から「相談があります」と言われ別室へ。「一軒家を買いたいので頭金120万貸してください」→YESカーベル。幸せな一軒家生活スタート。
■合同結婚披露宴も全額会社もち
「東京都中央区の野球トーナメントに出場したいです。ベスト4は確実です。ユニフォームなど一式85万円、全額会社払いでお願いします」→YESカーベル。6年連続1回戦負け。♡野球部出身の方、採用しますのでご応募ください。
結婚式を挙げてない役職者が2名いることが判明しました。私の感覚では子どもが大きくなった時に、親の結婚式の写真がないことがどうも納得いかない。なぜ結婚式を挙げないのか2組に事情聴取開始。「お金がない」「バツイチだから恥ずかしい」と理由が判明→YESカーベル。カーベルが2組の合同結婚披露宴を開催。全額会社払い。
■「社長が守ってくれる」安心感
先に触れたように、カーベルはかつて入社後1年間での離職率が60%もありました。実力主義であっても、さすがに酷い数字だと自分でも思います。
しかし、先述の自考自成スタイル、おもてなし、社内表彰、間違った福利厚生による独自の社風で離職率を8%台まで下げることができました。
これは自然にそうなったわけではなく、すべてが工夫と仕掛けの賜物です。
いわゆるホワイト企業がやっていることではなく、どちらかと言うと、ブラック企業だと指摘されても言い訳ができないような、泥臭いことしかしてきませんでした。私が心掛けたのは、
「社員を大切にする」

「伊藤社長は恐いけど何があっても守ってくれる」
そんな安心感をベースにした社長と社員の人間関係の構築とチーム創り。これが小さくても強い会社創りに欠かせない基盤だと思います。
「ブラック企業」と言われるかもしれない厳しさや泥臭さを超えた先にこそ、本当の強さが宿ると私は信じています。
当社の実例が、皆さんの会社を「明るいブラック企業」「小さくても強い会社」にするヒントになれば幸いです。

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伊藤 一正(いとう・かずまさ)

カーベル代表取締役

1970年、愛媛県出身。小学時代は給食委員長。中学時代は奉仕委員長。高校時代は生徒会長。専門学校時代は卒業生総代。家電営業マン時代はレコードビルダー。オニキス(自動車販売フランチャイズ展開)時代は取締役。2006年、株式会社カーベルを設立し、代表取締役に就任。2016年、メキシコにてプロレスデビュー、東久邇宮文化褒賞受賞、後楽園ホールにて国内プロレスデビュー。2024年、タレントのスギちゃんとダブルワイルドを結成しCDデビュー。2026年4~9月は自身のラジオ番組『隔週カーベル伊藤』(TOKYOFM/JFNネット38局ネット放送)を放送(隔週土曜日16:52~16:53)。カーベル伊藤YouTubeも定期的に配信中。また「伊藤タイム」として講演も展開している。ホワイトから明るいブラック企業創りに尽力中……

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(カーベル代表取締役 伊藤 一正)
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