※本稿は、和田秀樹『脳が若返る思考の自由』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■新しい体験や冒険が前頭葉の老化予防に効く
もしあなたが仕事にせよ、私生活にせよ、意欲の低下を自覚しているのなら、前頭葉の老化を疑ってもよいかもしれません。
前頭葉の老化を自覚した際にそれを防ぐ方法として、意欲を無理に出すとかは難しいでしょう。アンガーコントロールなどのテクニックは、試す必要があるかもしれません。
それ以上に前頭葉を鍛えると思われるものは、想定外の体験を増やすことです。これが前頭葉を使うことになるからです。
行きつけの店しか行かなくなったとすると、いろいろと新しい店を開拓してみましょう。知らない店に入ると、メニューにしても、店の人とのやりとりにしても新しい体験ができるのですから。
あるいは、いつも話し相手が決まっているような場合だと、新しい習い事を始めたり、新しいボランティアのサークルに入るなりして、ふだんとは違う話し相手を探してみることです。
ふだんとは違う文脈やリアクションを経験すると、前頭葉が刺激されることになります。
同じ著者の本ばかり読む人の場合は、まだ読んだことはないけれど、気になっているタイトルの別の著者の本を試してみるのもいいでしょう。
予想した筋書きとは違う話になっていれば、意外性を体験できるので前頭葉を働かせることになるわけです。
あるいは、スーパーで見たことも食べたこともない食材を見つけたら、それを使って初めての料理にチャレンジするというのもいいでしょう。
レシピを考えたり、調べたり、作ってみたら味が違っていたという体験が、前頭葉を刺激するのです。
■口に出さなければ、何を考えても自由
これまでの自分の知識や考え方を変えてもいいという心づもりがないと、この手の前頭葉のトレーニングはできません。
旧来の自分の殻を押し破って、あれこれと自分の知らない世界に飛び込んでいく、あれこれと自分の思考の枠からはずれてみる。
冒険ができることで前頭葉の老化予防ができるわけですが、これこそがまさに思考の解放です。
思考を解放して、自分が常識と思っていたことの呪縛(じゅばく)から解き放たれたときに、自分でも思いもよらなかった発想が生まれます。
思考に、こんなはずはないとか、聞いたことがないとか、こんなことを考えるとみんなにバカにされるというようなブレーキをかけるのをやめるのです。
口に出さなければ、何を考えても自由です。
そうすることで前頭葉が元気になると、意欲がわいてきて、身体や頭を使うことになるので、それだけ老化が遅くなるのです。
もちろん、あえてこのような自分の常識からはずれたことを発信してもいいでしょうし、本当に試してみたらなおいいでしょう。
そのほうが前頭葉への強い刺激になります。
このように、思考の解放が老化予防につながるわけです。
■養老孟司がタバコをスパスパ吸う理由
一般的に、人間というのは歳をとるほど、旧来の考え方にしがみつき、思考の枠が狭くなっていくものとされています。
そのため年寄りの話は押しつけがましいとか、説教じみているとか、昔の自慢話が多いと言われるわけです。
確かに、思考の自由のない年寄りの話はウザいというのは、私にもわかります。
いっぽうで、長い人生経験から、こちらが想像のつかない意見を言われる方もいます。
私が尊敬する養老孟司先生の口ぐせは、「世の中、理屈通りじゃないから」です。
理屈通りでないと思われているためか、タバコもスパスパ吸います(今はやめたそうですが)。
長い人生経験で、理屈通りにいかないことをたびたび経験しているから、この言葉には重みがあります。
AIの時代には、理屈通りの答えはすぐに用意されます。
むしろ、理屈通りでない答えが自分の長い人生経験から出せる、高齢者の話に価値があるように思えます。
これまで30年以上も、経済学者の理屈通りに経済政策をやってきたのに、日本だけ景気が悪い、経済成長がないというのは、むしろ日本人には理屈通りの経済政策が合わないことを示唆しているのではないでしょうか?
■高齢者の人生経験を指針にする
ここで、高度経済成長期を知っている高齢者なら、別の発想ができるかもしれません。
「あのころは、税金が高かったけど、経費が使い放題だったから、『税金でもっていかれるくらいだったら』と金を使ったもんだ」みたいな話ができるかもしれません(これは私の考えでもありますが)。
だとすると、増税して経費を認めたほうが消費が増え、景気がよくなるというような「暴論」は高齢者こそ言えるかもしれません。
さらに、最高税率と経済成長率は正の相関にある(これは事実です。因果関係はありませんが、相関関係はあります)という数字の裏づけがあるとなお強いことになります。
今の理屈通りの経済政策より、高齢者の人生経験から出た経済政策のほうがあてになるかもしれないのです。
このように人生経験が豊富だと、それだけ自分の思い通りに好きなことが言える強みがあるのです。
たとえば、タバコは脳にいいという話もあり、ニコチンには認知症予防の効果があるとさえされています。
また、若いころは(中高年までは)確かにタバコは身体に悪いのでしょうが、私が勤めていた高齢者専門の総合病院に併設された老人ホームの追跡調査では、喫煙者も非喫煙者も生存曲線は変わりませんでした。タバコを吸ってもホームに入る年齢まで生き延びてきた人の場合、タバコが身体に悪いかどうかはわからないのです。
■理屈ばかりをこねる若者に媚びる必要はない
80代後半になってタバコを吸い続け、なお頭もクリアな養老先生のような人が「タバコは身体に悪いと言うが、個人差があるだろう? 私はタバコに強い体質のようだ。しかもタバコのおかげでちっともボケていないよ」と言えば、誰も反論できないでしょう(それでも反論する、養老先生よりずっと若い医者もいるでしょうが)。
歳をとるほど思考の自由は得られるし、言いたいことも言える。
理屈ばかりをこねる若者に媚(こ)びる必要はない、のは確かなことだと私は信じています。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)

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