全国にある学校には、それぞれ異なる教育理念や課題があります。私たちFCEは、「7つの習慣J®」を単に導入いただくのではなく、その学校らしい教育の実現に向けて先生方と対話を重ね、学校ごとの文化に合わせて育てていくことを大切にしてきました。
その歩みを象徴する学校の一つが、山形県鶴岡市の羽黒高等学校です。約18年前、「7つの習慣J®」の導入をきっかけに始まった取り組みは、担当者が代わりながらも学校とFCEが伴走を続け、今では学校文化の一つとして根付いています。
山形県鶴岡市にある羽黒高等学校は、普通科3コース・工業科3学科を有する総合高校です。各科コースの特色に応じた主体的かつ探究的な学びは、充実した学校生活はもちろん主体的な進路活動にも活かされ、近年数多くの運動部・文化部が全国レベルでの実績を重ねています。
羽黒高等学校では学校教育活動を通じて地域社会に貢献し、少子化が加速する山形県において、多くの高校が定員確保という課題に直面する中、多くの中学生や保護者から選ばれ続けています。
その背景にあるのが、建学の精神である「產學一軆(さんがくいったい)」。創設者・秋元正雄先生により工業高校として創立された当初から受け継がれてきたこの言葉は、13年ほど前に新たな意味を与えられました。そして時を同じくして導入した「7つの習慣J®」とともに、「人」を育てる文化として学校全体に深く根付いていったのです。そこには、単なる教育プログラムの導入にとどまらない、建学の精神を時代の変化に合わせて再定義し、「選ばれる学校」から「選ばれ続ける学校」を目指してきた13年の挑戦がありました。
この18年間、FCE側も一人の担当者だけではありませんでした。担当者が代わりながらも、「学校の理念を理解し、ともに育てていく」という姿勢は受け継がれ、現在は新保がその役割を担っています。
今回は、男子バスケットボール部監督として30年以上生徒たちと向き合い、「7つの習慣J®」導入の立役者となった齋藤仁副校長に、担当の新保氏がこれまでの歩みとこれからの展望を伺いました。
羽黒高等学校 齋藤仁副校長
「この学校には変化が必要だ」――人口減少の時代を見据えた18年前の決断
羽黒高等学校が「7つの習慣J®」を導入したのは、まだ教育現場における人間教育やアクティブ・ラーニングの導入が珍しかった時代でした。『7つの習慣』といえば、ビジネスパーソン向けの研修や自己啓発書のイメージが強かった頃です。
このプログラムの導入を強く提案した一人が、齋藤副校長でした。ご自身、大学卒業の頃から、書籍『7つの習慣』を愛読していたと言います。
新保氏:「今から18年前というと、教育現場で『7つの習慣』を導入するケースは珍しかったと思います。齋藤副校長がこのプログラムに出会い、導入を決められたきっかけは何だったのでしょうか?」
齋藤副校長:「若い頃から、スポーツの指導でも人生でも、うまくいっている人、成功している人には共通する『物事のとらえ方や考え方』があると感じていました。そんな折に、『7つの習慣』の考え方を授業として導入している学校があるという情報を耳にしたんです」
すぐに現地へ視察に赴いた齋藤副校長は、そこで目にした生徒たちの姿に大きな衝撃を受けました。
齋藤副校長:「驚きましたね。生徒たちが今何をすべきかを自ら考え、生き生きと行動していたんです。現地の先生からも『プログラムを始めてから、生徒たちの学校生活が劇的に落ち着き、前向きになった』という話を伺いました。その瞬間、こう感じました。『このプログラムは、今の、そしてこれからの羽黒高等学校に絶対に必要だ』と」
羽黒高等学校は導入当時、決して生徒募集に苦戦していたわけではありませんでした。しかし、齋藤副校長の視線は10年、20年先の未来を見据えていました。
新保氏:「当時はまだ少子化の危機感も今ほど叫ばれていなかった時代ですよね。そのタイミングで、なぜそこまで先の未来を見据えて導入へと踏み切れたのでしょうか?」
齋藤副校長:「当時はまだ子どもの数が一定数いました。しかし、日本全体で必ず人口減少の時代がやってくる。そのとき、ただ『勉強ができる』『スポーツが強い』というだけで、本当に生徒や保護者から選ばれ続ける学校であり続けられるのだろうか。そんなことをよく考えていました。どんなに社会が変わっても、自ら考え、自ら行動し、自分の人生を切り拓いていける力を生徒たちに身につけてもらいたい。その力こそが、これからの時代を生きていく上での土台になると考えていたんです。
そして、その人づくりを実現するための一つの方法として、「7つの習慣J®」には大きな可能性があると信じていました」
学校の外観・約18年前
教育理念「產學一軆」と『7つの習慣』が重なった瞬間
齋藤副校長が導入を確信したもう一つの大きな理由は、羽黒高等学校が創設以来大切にしてきた建学の精神にありました。
同校の教育理念は「產學一軆(さんがくいったい)」。学校と社会(産業界)が手を取り合い、社会で実際に活躍できる豊かな人間を育てるという考え方です。
新保氏:「学校独自の『教育理念』と、外部プログラムである『7つの習慣』を融合させることに、難しさは感じませんでしたか?」
齋藤副校長:「実は、創設者である秋元正雄先生の生き方や、残された数々の言葉を振り返ると、不思議なほど『7つの習慣』の哲学と一致しているんです。
本校では教育理念を、あえて旧字体の『產學一軆』と表記しています。
かつては、工業人の育成を主とした意味で「産学一体」という表記を用いていましたが、13年前にその意味を再定義しました。
創立当初から変わらず社会に出て活躍できる『人』を育てることこそが、本校教育の原点なのです。
そう考えたとき、世界中で読み継がれているベストセラー『7つの習慣』をベースとした人間教育は、現代の教育現場において『產學一軆』、つまり『社会を生き抜く人を育てる』という本校の建学の精神を最も体現しやすいアプローチでした。
『7つの習慣』は、私たちが創立以来ずっと大切にしてきた『產學一軆』の精神を、現代の若者にも伝わる言葉に翻訳し、体系的に届けるための画期的なツールだったのです」
羽黒高等学校が教育理念を再定義した際、中心に据えられたのは「人」であり、主体性の発揮でした。
学校文化になるまでの、地道な積み重ね
理想を掲げてスタートしたものの、「7つの習慣J®」導入の道のりは決して平坦なものではありませんでした。
新保氏:「今では『7つの習慣』が学校の文化として深く浸透していますが、導入初年度はどのような反応があったのでしょうか?当時の空気感を教えてください」
齋藤副校長:「正直に申し上げて、導入当初は、すべての教員がすぐにその意義を理解できたわけではありません。前例も少なく、新しい取り組みだったこともあり、「どのような効果があるのか」「限られた授業時間の中でどのような価値を生み出せるのか」といった声も聞かれました。」
初年度、ファシリテーター資格取得のための研修に参加したのはわずか2名。周囲からの理解が十分に得られているとは言えない状況から、授業づくりが始まりました。
「7つの習慣J®」生徒用テキスト
齋藤副校長:「研修に参加した最初の2名の先生方は、本当に、苦労をされたと思います。羽黒高等学校の生徒たちの状況をじっくり見つめ、どうすれば生徒たちの心に届くか、コースごとに内容を工夫し、カスタマイズしながら、地道に1回ずつ授業を積み上げ、決してあきらめませんでした。」
学校を変える一番の方法は、「ファシリテーターを増やすこと」だった
周囲の懐疑的な目を、信頼へと変えていった要因は何だったのでしょうか。齋藤副校長が明かしたアプローチは、「授業を一部の『特別な先生』だけのものにしない」という徹底した巻き込みの仕組みでした。
同校では、「7つの習慣J®」の授業を、ファシリテーター教員と担任教員の「ティーム・ティーチング(複数の教員で授業を行うこと)」で実施。授業中、担任教員もクラスの生徒たちと一緒に席に座り、同じワークに取り組み、ともに学びを深めました。
すると、現場の教職員の間に、少しずつ、しかし、劇的な変化が起こり始めます。
新保氏:「周囲の先生方を巻き込んで仲間を増やしていくために、どのような工夫をされたのですか?」
齋藤副校長:「担任の先生方がTTの立場で授業を一緒に受けているうちに、担任の先生方の目の色が変わってきました。『この授業、生徒たちがすごく良い表情をするな』『自分もファシリテーターになって、この授業を自分の手でやってみたい』と。」
学校を本気で変えたいと思ったとき、効果的な方法は実はとてもシンプルです。それは、外から指示を出すのではなく、学内の『ファシリテーター(体現者・推進者)を増やすこと』です」
1年目はわずか2人。翌年にはまた数人、その次の年にも数人。急激な変化ではありません。しかし、その価値に気づいた教員たちがバトンを渡していくようにして、着実に仲間が増えていきました。
そして18年が経った現在、羽黒高等学校では約30名の教員がファシリテーターの資格を取得しました。それはごく一部の取り組みではなく、学校全体を支える分厚い土台となっていました。
「最初は生徒のために始めた。でも、気づけば教員自身が変わっていた」
18年という歳月を振り返り、齋藤副校長が深く実感しているのは「変わったのは生徒だけではない」ということです。
新保氏:「生徒たちへのアプローチとして始めた取り組みが、教職員の皆様、ひいては学校の体質そのものにまで好影響を与えたのですね」
齋藤副校長:「最初は『生徒のため』と思って必死に導入したプログラムでした。しかし今振り返ると、最も大きな影響を受け、変化を遂げたのは、私たち教員だったのではないかと思います。」
この考え方の変化は、齋藤副校長が30年以上率いる男子バスケットボール部をはじめ、同校の部活動の現場にも深く根付いています。
例えば、部活動では、かつては思うような結果が出なかった時に『なぜこんなことをしたんだ!』『どうしてできなかったのか』と、過去の失敗やその原因を追及しがちでした。しかし今では、『どうしたらできるようになると思う?』『次に向けた最善の選択は何だろう?』と、未来志向の『ポジティブな問い』を投げかける指導に自然と変わっていきました」
齋藤副校長:「部活動の指導でも、私はずっと『できない理由を探すんじゃない。できる方法を探そう』と言い続けています。これはまさに、『7つの習慣』で言う『第1の習慣:主体的である』そのものです。置かれた環境や他人のせいにせず、自分の『影響の輪(自分ができること)』に集中する。この共通言語ができたことで、生徒も指導者も、困難にぶつかったときの粘り強さが変わっていきました」
現在担当している新保は、
「羽黒高校様では『7つの習慣J®』を教えることが目的ではなく、『產學一軆』という学校の理念をどう子どもたちへつないでいくかという視点で先生方と対話を重ねています。だからこそ、18年間続いてきたのだと思います」
と話します。
「子どもたちの行動は変わり、結果も変わる」一人の教え子が証明した歩み
齋藤副校長には、18年の中で、今も深く心に残る教え子がいます。
中学時代は無名の選手で、強豪校からのスカウトといった華々しい出来事もありませんでした。しかし羽黒高等学校入学後、その生徒は「7つの習慣J®」の影響を受け、そこで学んだ「主体性」を発揮し、努力を重ねていきました。その結果、高校では初の全国大会への切符を手にします。大学進学後はキャプテンを務め、卒業後プロバスケットボール選手としてのキャリアを歩むまでになりました。
そして、プロを引退したある日。
「先生、僕の夢はバスケットボールのプロ選手になることと、教員になることです。プロを引退して、今度は教員として頑張ろうと思っています。」
新保氏:「高校時代に「7つの習慣J ®」で培った主体性を手に、自分の道を切り拓いて戻ってきたのですね」
齋藤副校長:「彼は今、羽黒高等学校の教員として教壇に立ち、女子バスケットボール部の監督を務めています。
私は30年以上生徒たちの成長を見続けてきて、確信を持って言えることがあります。それは、『子どもたちの考え方(パラダイム)は変わる』ということです。考え方が変われば、日々の行動が変わる。行動が変われば、習慣が変わる。そして最後には、誰もが想像しなかったような素晴らしい結果(人生)へと繋がっていく。彼がその生きた証拠になってくれました」
齋藤副校長と教え子の現教員
18年経った今、それは「授業」ではなく、当たり前に息づく「文化」になった
現在の羽黒高等学校において、「7つの習慣J®」はもはやカリキュラムの中の「特別な授業」ではありません。
教室の片隅、 熱気を帯びた部活動のコート、職員室内など、学校の様々な場所で、
「どうしたらできるだろう?」 「まず、自分にできる一歩は何だろう?」
そんな前向きな言葉が聞こえてきます。
理解する人も少なかった18年前の小さな一歩。それは、関わる人々の情熱と地道な実践によって、長い時間をかけて学校を支える強固な「共通言語」となり、羽黒高等学校の「学校文化」へと育っていきました。
2017年竣工の新校舎 photo susumu KOSHIMIZU©
新保氏:「18年間継続できた秘訣と、これからの羽黒高等学校が目指すビジョンを教えてください」
齋藤副校長:「羽黒高等学校の挑戦は、これからも止まりません。「7つの習慣J ®」の資格の有無に関わらず、すべての教職員が同じ価値観を共有し、生徒たちと向き合うこと。
その姿を通して、生徒たちにも自然と考え方が伝わっていくこと。
そんな学校の姿を思い描いています。教員が変われば、生徒も変わります。そして、その生徒たちが社会に出ていきます。そうやって、良い循環をつくっていきたいんです。そのためにも、教員育成の仕組みとして、『7つの習慣』の考え方を取り入れ始めています。来年度からは、教員育成の人事制度の中に、『7つの習慣』の要素を取り入れることを検討しています。
一人のリーダーの熱意に頼るのではなく、学校に関わるすべての人で主体的な人を育てる。それこそが、これからの変化の激しい時代においても、生徒や保護者から『選ばれ続ける学校』であり続けるための私たちの理念です。」
理想の教育を実現する伴走者として
羽黒高校との18年間は、「教材を届ける」のではなく、「学校づくりに伴走する」というFCEの姿勢を私たち自身に教えてくれた時間でもありました。
日本全国の学校には、それぞれが大切に受け継いできた建学の精神があり、目指すべき理想の教育があります。羽黒高等学校様にとって、それが「產學一軆」という、「人」を育てる教育理念でした。
私たちFCEが大切にしているのは、「7つの習慣J®」というツールを通して、各学校が本来大切にしてきた想いを形にし、主体的に生きる子どもたちを育てていくことです。そして、その積み重ねによって、時代が変化しても生徒や保護者から選ばれ続ける学校づくりに貢献することこそが、私たちFCEの使命だと考えています。
18年前に蒔かれた小さな種は、今、羽黒高等学校という大地に深く根を張り、大きな大樹へと育っています。
これからの社会を担う子どもたちが、自ら考え、自ら行動し、自分らしい人生を切り拓いていく。そして、そのような人づくりを通して、日本の未来をより明るいものにしていく。
私たちはこれからも、教育に情熱を注ぐすべての学校の皆様とともに、一歩ずつ未来を創り続けてまいります。
※『7つの習慣』及び「7つの習慣J®」はフランクリン・コヴィー・ジャパン社の登録商標です。