しかし、その答えを導き出すためには、単に目的の遺伝子を細胞へ導入するだけでは十分ではありません。
そこで重要な役割を果たすのが、Stable Cell Line―安定細胞、安定発現細胞株 です。
安定細胞株は、目的の遺伝子や制御配列を宿主ゲノムに組み込み、長期間にわたって遺伝子発現やノックアウトを安定して維持するために樹立した細胞モデルです。ヒト細胞や他の動物種での細胞から目的の細胞株を樹立します。安定細胞株を使うと、目的の系が恒常的に維持されます。そのため、プラスミドの一過的遺伝子導入では生じやすい効果のばらつきを抑え、再現性の高い実験を可能にし、基礎研究から創薬研究まで幅広く利用されています。
研究目的に応じた多様な安定細胞モデル
一口に「安定細胞株」といっても、研究目的によって求められる細胞モデルは異なります。遺伝子の機能を解析したいのか、疾患関連変異を再現したいのか、あるいは目的タンパク質を安定的に発現させたいのかによって、最適な遺伝子改変手法は変わります。VectorBuilderでは、こうした多様な研究ニーズに応えるため、目的に応じたさまざまな安定細胞株作製サービスを提供しています。
① 遺伝子ノックアウト細胞株
gRNA/Cas9 RNP複合体(RNP)を用いて目的遺伝子の機能を欠失させた(ノックアウト)細胞株を構築します。ノックアウト細胞と正常細胞の表現型や応答を比較することで、目的遺伝子が細胞内で果たす役割や、細胞機能への影響を明らかにします。
② 遺伝子ノックイン細胞株
RNPと相同組換え修復(HDR)用ドナーテンプレートを用いて目的配列をゲノム上の狙った部位へ導入し、レポーターやタグ付加、配列置換などを行います。
③ 点変異導入細胞株
RNPとHDR用ドナーテンプレートを用いて、標的遺伝子の特定の塩基を、目的の塩基へ置き換えます。例えば、患者で見つかった特定の遺伝子変異を細胞レベルで再現し、疾患の発症メカニズムや薬剤の効果を検証するのに適しています。
④ 遺伝子過剰発現細胞株
目的遺伝子を高いレベルで安定的に発現させるモデルです。一過性の導入によるばらつきを克服し、タンパク質の長期的な機能解析やシグナル伝達の解析を可能にします。VectorBuilderは、豊富な過剰発現細胞の構築実績を活かし、安定した発現と高い再現性を備えた細胞株を構築しています。
⑤ 遺伝子ノックダウン細胞株
shRNAを利用して目的遺伝子の発現量を抑制します。完全に発現を欠失(ノックアウト)させると細胞の生存や増殖に大きな影響を及ぼし、解析が難しくなるような遺伝子の機能評価に適しています。
⑥ Tet誘導性遺伝子発現安定細胞株
テトラサイクリン、もしくはドキシサイクリンなどのテトラサイクリンアナログの添加によって目的遺伝子の発現をON/OFFできるシステムです。ベクターデザインを最適化することで、リーク発現を最小限に抑え、目的遺伝子の発現を高い精度で制御します。細胞増殖への影響が大きい遺伝子の評価や、発現量や発現タイミングを調整しながら機能解析を行いたい場合に適しています。
設計から徹底した品質チェック(QC)まで:ワンストップで支える構築プロセス
研究室で安定細胞株を構築するためには、ベクター設計、遺伝子導入条件の最適化、クローン選択、遺伝子改変・機能検証まで、多くの工程を経る必要があります。
CRISPRゲノム編集(ノックアウト・ノックイン・点変異)の要となるgRNAやベクターの設計は、顧客の希望を聞きながらデザインしています。さらに、ゲノム編集には、gRNA/Cas9 RNP複合体(ノックイン・点変異ではドナーベクターを併用)を用いることで、効率的な遺伝子編集を実施します。ノックダウン細胞株作製では、3種類のshRNAをデザインし、ノックダウン率70%以上を目標として最も優れたノックダウン効果を持つ細胞を選択、増幅します。
完成した安定細胞株は、各サービスで定められた標準的な品質検査(QC check)を実施したうえで納品します。標準品質検査には、無菌試験およびマイコプラズマ検査を実施するほか、受託細胞株の内容に応じて、過剰発現細胞株、ノックダウン細胞株やTet誘導性細胞株ではRT-qPCRによる発現確認、CRISPRを用いたノックアウト・ノックイン・点変異細胞株ではPCRおよびサンガーシークエンスによるゲノム配列確認など、適切な検証を実施しています。
さらに、ウェスタンブロッティングやFACS解析などのタンパク質レベルでの発現解析、NGSによるオフターゲット解析、染色体核型解析、残存レンチウイルス試験などをオプションで追加対応しています。
また、VectorBuilderでは、薬剤選択のみで得られた細胞プール、シングルセルクローニングにより樹立したモノクローナル細胞株のいずれにも対応するほか、自社保有細胞株だけでなく、お客様からご提供いただいた細胞株を用いた細胞株構築も可能です。さらに、ご希望に応じたクローンの選定や、納品クローン数の追加など、研究目的や実験計画に寄り添った柔軟なプランニングが可能です。
安定発現細胞株はどのように活用されているのか
実際に、VectorBuilderが提供する安定発現細胞モデルは、さまざまな生命科学研究の場面で活用されています。
例① 感染症のメカニズムを理解するための細胞モデル
感染症における研究では、感染に関わる宿主因子や病原体関連因子の機能を明らかにするため、目的遺伝子を安定発現または欠失させた細胞モデルが利用されています。例えば、病原体が細胞へ侵入する仕組みを理解するため、受容体タンパク質を細胞の表面に安定発現させた「モデル細胞」が作製されます。
例② タンパク質機能を明らかにするための細胞モデル
生命現象を理解するには、遺伝子配列だけではなく、その遺伝子が作るタンパク質が細胞内でどのように働くのかを知る必要があります。過剰発現細胞や、Tet誘導性細胞、あるいは点変異導入細胞などを組み合わせることで、タンパク質の細胞内局在や動態、他の分子との相互作用を解析し、その機能や役割を明らかにすることができます。
実際、VectorBuilderが作製したTet誘導性細胞株を利用した研究では、恒常的な発現が難しいタンパク質を解析して細胞骨格制御の新たな分子機構が解明されたほか、点変異導入細胞株により酵素活性を変化させたタンパク質を解析した研究では、DNAの複製や修復の鍵となる重要な構造が特定されるなど、がんや遺伝性疾患の理解へとつながる画期的な基礎研究を後押ししています。
例③ スクリーニング評価用細胞モデル
ライブラリーを用いた網羅的なスクリーニングでは、多数の候補を同じ条件で比較できる、再現性の高い細胞モデルを使用することが重要です。例えば、特定の細胞応答に応じて蛍光タンパク質を発現する安定発現細胞株を用いることで、有効なサンプルを視覚的かつ定量的に評価することができます。
VectorBuilder作製の安定発現細胞株においても、リンパ腫の治療薬候補となる抗体探索研究のために、蛍光タンパク質を安定発現させた細胞が活用されました。がん細胞が免疫細胞に分解される様子を正確に追跡・数値化できたことで、治療への応用が期待される有望な抗体候補の選定に繋がっています。
このような研究事例が示すように、安定発現細胞株は研究テーマを問わず幅広い生命科学研究に利用され、新たな知見を得るための有用な実験モデルとして活用されています。
生命科学研究を支える「再現可能な実験モデル」へ
生命科学研究において重要なのは、単に遺伝子を導入することではなく、その後の細胞応答を正確に評価し、再現性をもって新たな知見へとつなげることです。安定発現細胞株は、研究者が立てた仮説を確かなデータで実証し、生命現象の理解やタンパク質機能の解明といった基礎研究から、疾患メカニズムの解明、創薬研究までを幅広く支える重要な研究基盤となっています。
VectorBuilderは、研究者一人ひとりの研究目的に応じた細胞モデルの作製方法の提案から樹立、検証まで一貫して支援することで、研究者が本来注力すべき「新しい発見」に集中できる環境づくりを目指しています。
再現性を担保する細胞モデルは、研究のスピードと精度を大きく引き上げます。VectorBuilderは、遺伝子デリバリーの技術革新を通じて、基礎研究から創薬の現場まで、生命科学研究のさらなる発展に貢献していきます。
VectorBuilderについて
VectorBuilderは、遺伝子デリバリー技術のグローバルリーダーです。世界中の数千に及ぶ研究室やバイオテクノロジー企業、製薬企業にとって信頼できるパートナーとして、基礎研究から臨床応用に至るまで、遺伝子デリバリー技術の設計、開発、最適化をワンストップで提供しています。同社の受賞歴ある革新的プラットフォーム「Vector Design Studio」により、研究者はカスタムベクターをオンライン上で容易に設計・発注でき、研究室におけるベクターのクローニングやパッケージングといった定型業務の負担を軽減し、限られた時間をより独創的な研究活動に振り向けることが可能になります。さらに、VectorBuilderは、ハイスループットのベクター生産能力、豊富なベクターおよびコンポーネントのストック、高度なAAVキャプシドエンジニアリング能力を含む1対1のCROサービス、ならびに最先端のcGMP製造施設を備えています。最先端の研究開発とCDMO製造能力を兼ね備えたVectorBuilderのチームは、効果的な遺伝子デリバリー技術を提供し、ライフサイエンス研究および遺伝子医療のための新たなツール開発を支援しています。