北中米ワールドカップでベスト32に終わった日本代表は、大会後の監督人事で前例のない決断を下した。森保一監督との契約を半年だけ延長し、アジアカップ終了後に大岩剛監督へ引き継ぐという異例の体制だ。

実はJFAは今年3月の時点で、ワールドカップ限りでの退任を森保監督に伝え、外国人監督の招聘も模索していた。しかし、その構想は頓挫し、方針は大きく転換する。なぜ一度は退任を決めた指揮官に再び託したのか。宮本恒靖会長、山本昌邦技術委員長らの発言をたどりながら、日本代表の新体制が固まるまでの舞台裏と、その決断が抱える課題を読み解く。

(文・本文写真=藤江直人、トップ写真=アフロ)

「ワールドカップまで」の方針が覆った2カ月

日本代表と日本サッカー協会(JFA)は森保一監督によって救われた。

前例のない形が承認され、発表に至った日本代表の次期監督問題は、まさにこの一文に集約される。

JFAは7月23日に都内で開いた理事会で、ベスト32で敗退したFIFAワールドカップ北中米大会まで、歴代最多となる2期8年にわたって日本代表を率いた森保監督の続投を承認した。

しかし、任期はわずか半年。来年1月から2月にかけてサウジアラビアで開催されるアジアカップ終了後に退任し、ロサンゼルス五輪出場を目指す年代別代表の大岩剛監督が兼任監督として就任。任期はスペイン、ポルトガル、モロッコなどで共催される4年後の次回ワールドカップまでとなる。

一夜明けた24日には都内のホテルで記者会見が開催された。出席したのはJFAの宮本恒靖会長、山本昌邦技術委員長、そして森保監督の3人。次期監督に決まった大岩氏は不在で、JFAはアジアカップ終了後にあらためて大岩監督の就任会見の場を設けるとしている。

その会見で驚くべき事実が判明した。北中米大会を約3カ月後に控えた今年3月の時点で、宮本会長は北中米大会限りでの契約満了を森保監督に告げていたと、次のように明かしている。

「ワールドカップ以降の(日本代表の)監督をどのようにしていくのかを以前からしっかり考えてきたなかで、森保さんともコミュニケーションを取ってきました。そのなかで今年の3月ごろに、森保さんには『ワールドカップまででお願いしたい』といったんお伝えしました」

しかし、わずか2カ月後に状況が180度変わった。宮本会長が続ける。

「5月にもう一度、森保さんと話をする機会を作り、そこで『アジアカップまでやってもらう可能性はありますか』とお伝えしました。それが今回のタイムラインになります」

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外国人監督構想と、消えたプラン

約2カ月の間に何があったのか。宮本会長は外国人監督を招聘する可能性を探っていた。

「次期監督については、日本人に限らず幅広い候補のなかから検討する必要があると考えて、そのような動きもしてきました。リストをもとに議論した時期もあります」

リストには母国オーストラリア代表やJ1の横浜F・マリノス、プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーの監督を務め、当時フリーだったアンジェ・ポステコグルー氏の名があったとされる。

しかし、ザルツブルクやバイエル・レバークーゼン、PSV、ベンフィカなどの監督を歴任し、昨秋からJリーグのグローバルフットボールアドバイザーを務めているドイツ出身のロジャー・シュミット氏とともに、具体的なオファーに至る前にプランは立ち消えとなったという。

森保監督の年俸が約1億6000万円とされる一方で、実績のある外国人監督だと桁が一つ増える。今月初めにポルトガル代表のレジェンド、クリスティアーノ・ロナウドが所属するサウジアラビアのアル・ナスル監督に就任したポステコグルー氏の年俸は20億円超と報じられている。

監督以外に行動を共にする腹心のコーチ陣やスタッフたちも加わり、人件費の総額はさらに膨らむ。北中米大会出場に伴う代表関連の移送及び輸送コストなどの増加もあり、2026年度予算で約31億円の巨額赤字を報告しているJFAとしては、対象を日本人に絞る以外に選択肢はなかった。

さらに宮本会長は「新しい空気も必要だと考えました」と振り返る。森保監督に代わり、代表チームに新しい風を吹かせられるのは誰なのか。日本人指導者を見わたしたときに候補として名前が挙がった一人が、2024年のパリ五輪でU-23日本代表を率い、参加各国が招集している最大3枠のオーバーエイジ(OA)枠を行使せずにベスト8進出を果たした大岩監督だった。

しかし、現在はU-21代表監督として、2028年のロサンゼルス五輪出場を目指す大岩氏は9月から10月にかけて開催される、愛知・名古屋アジア競技大会への準備を進めている。時期は未定だが、ロサンゼルス五輪予選を兼ねたAFC U-23アジアカップも待っている。

兼任監督としてすぐに始動できない状況を受けて、森保監督へ契約延長が打診された。

「バトンを継承するのが重要になると考えたときに、少し時間を作って、日本代表がこれまで積み上げてきた組織力やチームを取り巻くさまざまなものを繋いでもらうような、そういう時間も必要であると考えました。それが(来年の)アジアカップまでの期間となります」

森保監督が受け入れた「半年続投」の理由

アジアカップまでの約半年間で、日本代表は最大で13試合を戦う。その間に森保監督から大岩監督へバトンタッチさせるプランを示した宮本会長は、さらにこう続けている。

「今大会もそうだったように、FIFAランキングが上にあるか下にあるかでワールドカップの戦い方はかなり違ってくる。その意味で公式戦のアジアカップで勝ち、少しでもFIFAランキングを上げることが重要になってくる。

アジアで結果を出せる監督は誰なのか、という観点を重要視した結果、アジアカップでは森保さんに(アジアでの)強さを発揮してもらって優勝をお願いしたい。大岩さんには年内は、U-21日本代表監督の活動に集中してもらうのが大事だと考えました」

一度は契約満了に伴う退任を告げながらも、事情が変わったからと森保監督に短期の契約延長を、しかも北中米大会の開幕直前に打診したのはあまりにも敬意を欠く行動だと言わざるをえない。

オファーを固辞しても不思議ではない状況下で、森保監督はどのような思いを抱いたのか。

「契約延長のオファーをいただき、私自身としては本当にありがたく思っています。そして、私がやらなければいけないミッションを考えると身の引き締まる思いになります。契約期間内にしっかりと結果を出して、次へのよきバトンタッチになるようにベストを尽くしていきたい。契約期間が4年なのか、1年なのか、半年なのかといろいろあると思いますが、いわゆる雇い側と雇われ側との間のシンプルな答えかな、と思っています。与えられた契約期間のなかで日本代表の勝利のために、それが日本サッカーの発展になる、という思いをもって全力を尽くしていきたい」

オファーを受諾した理由をこう語った森保監督は、宮本会長との関係にも言及した。

「宮本会長が真っ直ぐ向き合ってくれて、判断が変わった点を含めて、勇気をもってその時々の思いを伝えてくれた。会長と監督という関係ではありますが、人として向き合ってもらえたなかで、日本サッカーを発展させるという部分でまったく同じ思いをもっていると感じました」

最悪の場合、日本代表監督が不在になる事態を招きかねなかった宮本会長とJFAは、冒頭で記したように森保監督の寛大さや度量の深さ、そして日本サッカー界へ抱く深い愛に救われた。

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大岩監督への継承と、兼任体制が抱える課題

一方でナショナルチームダイレクターを兼任する山本技術委員長は自身の経験から、アンダーカテゴリーの代表チームとA代表の監督を兼任していく過程で生じるメリットを説いた。

山本委員長は1998年9月に発足したトルシエジャパンでコーチに就任。フランス出身のフィリップ・トルシエ監督が1999年3月のワールドユース選手権(現FIFA U-20ワールドカップ)で準優勝したU-20代表、2000年のシドニー五輪でベスト8入りしたU-23代表でもコーチを務めた。

迎えた2002年のワールドカップ日韓共催大会を、山本委員長はこう振り返っている。

「2002年のワールドカップでは、1999年のワールドユースに出場した選手たちがわずか3年で同じ監督のもとで鍛えあげられ、ワールドカップ初勝利を届けてくれました。私自身も3チームでコーチを担当させてもらいましたが、このくらいのスピード感をもっていかないとワールドカップの頂点には近づけない。できないことを話すよりも、どうすればできるのかを考えていきたい」

森保監督も2021年8月までは、東京五輪で4位になった年代別代表の監督を兼任。東京五輪で主軸を担った選手の多くがA代表として、カタール、北中米両大会のピッチに立っている。

翻ってパリ五輪出場組はどうなのか。鈴木彩艶や鈴木唯人らパリ五輪世代の選手こそ北中米大会代表に名を連ねたが、実際にパリ五輪本大会に出場した選手は一人もメンバー入りしていない。山本技術委員長は22日に行われた技術委員会後のブリーフィングで、A代表の現状に対して「危機感もあります」とこう続けている。

「森保監督が継続的に育ててきた東京五輪世代からの選手の伸びに対して、パリ五輪本大会に出場した選手たちがA代表に入ってきていない。しっかりと競争ができて、下からどんどん突き上げていけるような若い選手を育てていかなければいけないと感じている」

その意味でパリ五輪に続き、ロサンゼルス五輪世代も率いる大岩監督にA代表の世代交代を加速させる仕事も託す。しかし、トルシエ、森保両兼任監督とは決定的に異なる点がある。

トルシエ監督はワールドカップ共催国として、森保監督はオリンピック開催国として、ともにアジア予選を経ずに出場できた。

対照的に大岩監督は2つのカテゴリーでアジア予選を戦わなければいけない。しかもロサンゼルス五輪の男子サッカーの出場枠は、従来の「3.5」から「2」に削減されている。

最悪の場合、ロサンゼルス五輪出場を逃す事態も起こりうる。そのときに監督を兼任するA代表へ、さまざまな影響が及びかねない。仮定の質問に対して宮本会長はこう答えている。

「そういった(五輪出場を逃す)ケースがないように、我々としてはいろいろな意味でサポートしていく。もしうまくいかなかったときであっても(大岩監督への)信頼は変わりません」

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異例人事は、日本代表の未来につながるのか

アジアカップがどのような結果になろうと、その後に2つのアジア予選を戦う大岩監督には身体、メンタル両面でさまざまなプレッシャーがかかる。期待通りに4大会ぶり5度目の優勝を果たせば前任者との比較が、頂点に立てなければ世代交代に加えてチームの再建を望む声が高まる。

さらに宮本会長から「アジアで結果を出せる」と太鼓判を押された森保監督は、実はアジアカップで結果を残していない。2019年大会は決勝でカタール代表に完敗し、2024年大会では準々決勝でイラン代表に逆転負けを喫した。ともに戦い方を変えてきた相手に最後まで対応できなかった。

采配合戦で後塵を拝する展開は、ブラジル代表との北中米大会ラウンド32の後半でも再現された。

さらに大岩監督のもとで直近大会まで連覇しているAFC U-23アジアカップにおいて、森保監督は2018年大会でベスト8、2020年大会ではグループステージ最下位でともに敗退している。

続投に対して森保監督が見せた男気を含めた人柄のよさとは別に、こうした点を踏まえれば森保監督へ半年間の契約延長をオファーした理由は残念ながら十分な説得力を伴っていない。外国人監督の招聘路線で頓挫した背景も加味すれば、むしろ後付け感が色濃く伝わってきたと言っていい。

1時間を超えた会見では、何度も柔和な笑顔を浮かべた中央の森保監督とは対照的に、左右に座った山本技術委員長と宮本会長は最後まで厳しい表情を崩さなかった。ひな壇で鮮明になったギャップが、方針が迷走した末にたどり着いた、苦肉かつ異例の代表監督人事を象徴していた。

<了>

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