4人組バンド・yutoriが、3月にリリースしたミニアルバム『心の微熱』を携えたワンマンツアー<Bless you!>の国内ファイナルを、2026年6月7日(日)に神奈川・KT Zepp Yokohamaにて開催した。自身最大キャパシティの会場でありながら、一切のディスタンスを感じさせず、従来の「弱さや孤独」を原動力にしたスタイルから、「あなた一人のために音楽を鳴らす」という力強い覚悟へと進化した、記念碑的な一夜の模様をレポートする。


【画像】yutori、KT Zepp Yokohama公演(全15枚)

この肉体に宿した普段は意識しない36.5℃を、実感するのはいつだろう。例えば、母親の手がひんやりと気持ちよかった風邪をひいた日、満員電車にギュウギュウに詰め込まれた朝、あの人と抱き合って眠りについた夜も該当するだろうか。2026年6月7日(日)、yutoriが神奈川・KT Zepp Yokohamaにて開催したワンマンライブ<Bless you!>。3月にリリースしたミニアルバム『心の微熱』を携え、全国9カ所と台北、ソウルを巡る同ツアーの国内ファイナルとなったこの日、彼らは自身最大キャパシティの会場で、一切のディスタンスを感じない人間くささに満ちた演奏を繰り広げてみせた。

yutoriが無加工の歌で届けた、等身大の温もり、KT Zepp Yokohama公演レポ

佐藤古都子(Vo,Gt)(Photo by Sota Edo)

頭上から垂直に注いだスポットライトが、真っ黒のステージを満月みたいにくり抜いた。佐藤古都子(Vo,Gt)が弾き語りで歌い出した開幕曲は「君と癖」だ。彼女を中心に半径数メートルを切り取る照明は、そのままパーソナルスペースを象徴し、飛躍する旋律にエッジーな歌声を加えながら、期待と嫌いのあわいで揺れ動く情を捉えていく。内田郁也(Gt)と豊田太一(Ba)はさっそくお立ち台へ乗り出し、とにかく生のコミュニケーションを交わさんとしている様子である。

yutoriが無加工の歌で届けた、等身大の温もり、KT Zepp Yokohama公演レポ

内田郁也(Gt)(Photo by Sota Edo)

yutoriが無加工の歌で届けた、等身大の温もり、KT Zepp Yokohama公演レポ

豊田太一(Ba)(Photo by Sota Edo)

驚いたのは、続く「センチメンタル」の直前に投げかけられた「最高の1日にしよう。ついておいで」の一言。というのも、従来yutoriはここまで衒いのないアジテーションを口にしていなかったのではないか。佐藤がアンコールにて「友達はいたけど、家に居場所があんまりなくて。
でも、歌を歌っている時だけは自分を好きになれた。あなたの心の居場所になれますように」と話した通り、もともと彼らは世界からの疎外感と確立されないアイデンティティ、拭いきれない希死念慮といった、人間の弱さを大本に据えてきた。

さらに言えば、決して当初から大舞台を青写真として描いてきたわけではなかっただろう。それゆえ、目まぐるしいステップアップについていくので精一杯な瞬間が訪れたことは想像に難しくないし、前作『Hertzmetre』に「この音が届く距離」というメッセージを託した理由も、yutoriという生き物が大きくなっていく中で誰にどうやって音楽を手渡すのか、という極めてプリミティブなお題と対峙するためだったはずだ。

yutoriが無加工の歌で届けた、等身大の温もり、KT Zepp Yokohama公演レポ

(Photo by Sota Edo)

その上で「ついてこい!」と幾度も言い放つその覚悟たるや、並々のものではない。「ここにいる全員でつくっていこうと思ってます」とミラーボールが回転する中、ハンドワイパーを湧出させた「月と私のかくれんぼ」だって、「横浜、そんなもんじゃないんだろ」というサディスティックな煽りにオーディエンスが熱唱で返答した11曲目「NOT MUSIC」だって、最前線を開拓した上で観客の力を借りていくyutoriのスタイルに直結するものである。

ただ、ここで忘れてはならないのは、己の孤独と歌への探究心を原動力としてきた集団が、君の人生をひっぱりあげるバンドへがらりと生まれ変わったわけではないことだ。むしろ、手を繋ぎ、肩を組み、ユナイトするための意思が増大しているからこそ、その裏側に潜む陰の側面もより深く、濃くなっている。何十キロメートルだろうと最短でぶっ刺すエネルギーと、ゼロ距離でむき出しの感情を掬いあげる筆致の双方が、yutoriのyutoriたる所以になり始めたのだろう。

yutoriが無加工の歌で届けた、等身大の温もり、KT Zepp Yokohama公演レポ

浦山蓮(Dr)(Photo by Sota Edo)

そんな後者の側面を物語っていたのが、モブキャラの視線を投射することで全員が個々の人生の最重要人物であることを伝える「村人A」や、誰かの袖を掴むみたいに佐藤が手を伸ばした「爪色とグラスの縁」といった、押し殺した本音へフィーチャーする歌たちを経た中盤戦。「生活の中には、嬉しいことだけじゃなくて、嫌なことも悲しくなることもあると思います。そんな繰り返しの中にある小さな思い出を、大事にもっていてほしいと思います」と語れば、浦山蓮(Dr)の4カウントを合図に4人のシルエットがオレンジの中へ消えていく。
「生活」だ。慈愛を浸透させたうんと優しい唱法で〈愛されていましたか? 私に問う指折り数えて涙が出る〉と確かにこの手にあった愛情を握りしめれば、冷ややかなアルペジオから「愛してるって嘘ついた」が続く。生々しい言葉で愛を確かめる1曲から、〈愛してるって嘘ついた〉のリフレインで情をぼやかすナンバーへ。嘘と本音を行き来する人間関係の機微を丁寧に捉えたこのひとコマは、誰かが誰かを想い、想われる営みを双方から収めていた。

yutoriが無加工の歌で届けた、等身大の温もり、KT Zepp Yokohama公演レポ

(Photo by Sota Edo)

「これから先もずっと、あなたの前で、あなた一人の前で、歌が歌えますように。これからもyutoriは、あなた一人のために音楽を鳴らします。また帰っておいで」と投下した「スピード」で、情けなさを背負い込んだまま、ヒーローになっていく覚悟を露わにすれば、ラストは「この世の中には色んな人がいて、色んな関わり方をして、色んな感情を覚えて、私はたくさんの経験をしていきたい。それが人生だと思ってるから」と「僕らは孤独だ」を。胸に手を当て、折にフロアを指さしながら、一語一句を噛みしめたアカペラが響き渡っていく。走り出すドラムロールと灯り始めるいくつもの光を添えて、〈僕らは孤独だ〉と一見矛盾した1節が繰り替えされていく。ややもすればシンガロングを加えたっておかしくないアンセミックな1曲だけど、どこまで行っても耳に飛び込んでくるのはyutoriの声だけ。僕と私の肉声を一緒くたにすることなく、最後まで1人きりを維持している。
そう、どんなに寄り添っても、全部は分かち合えないし、思いの丈が100パーセント合致することなんてあり得ない。でも、そんなのは当たり前だとyutoriは知っている。だからこそ、彼らは我々1人1人と視線を交わしにやってきた。だからこそ、彼らは無加工の歌で等身大の温もりを届けてくれたのだ。舞台を降りる直前、佐藤が伝えたこんな一言は、衝動と他者への共感とポツリ流した涙を、つまりは「悲喜交々を抱きしめろ」というエールに聞こえて仕方なかった。「心の熱をお大事に」。

yutori ONEMAN TOUR 2026"Bless you!"@2026.6.7 KT Zepp Yokohama

yutoriが無加工の歌で届けた、等身大の温もり、KT Zepp Yokohama公演レポ


https://kmu.lnk.to/blessyou_setlist
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