8月3日の午後、カロルGはラスベガスに到着したばかりだった。アレジアント・スタジアムで行われる大規模な公演を控え、準備を進めているところだ。ホテルの部屋からZoomにつないだ彼女は、いつものように明るく、快活で、興奮を隠しきれない様子だった。それもそのはず、今の彼女の周りではとにかく多くのことが起きている。現在はツアー「Viajando Por El Mundo Tropitour」の真っ最中で、世界中を駆け巡る途方もない旅を続けている。それだけでも十分すぎるほどだが、さらに8月7日、ファンを驚かせるサプライズ発表を経てアルバム『NO ME ARREPIENTO DE SENTIR TANTO』をリリースした。世界にこの作品を届けられる喜びについて語る彼女は、文字どおり輝いているように見える。
とはいえ、これほど大きなニュースが続いているからというだけではない。いつも明るく、エネルギッシュなその姿こそ、カロルGという人そのものだ。ただし彼女は、昨年の自分がどこか別人のようだったことも率直に認めている。ここ数年は目まぐるしい日々が続いていた。『Tropicoqueta』をリリースし、ラティーナとして初めてコーチェラのヘッドライナーを務めて歴史を作り、パリのクレイジー・ホースからバチカンまで、さまざまな舞台に立った。
「いろんなことが起きている最中に、チームとの予定をたくさんキャンセルした。グラミーの週にみんなに『一度止まらないといけない』って伝えた。それまで、あんなに正直に自分の気持ちを話したことはなかったけど、頭の中がものすごく混乱していること、心の中もものすごく混乱していること、一度立ち止まる必要があることを伝えた」と彼女は話す。「グラミーの翌日にはハワイへ行って、そこで1カ月と2週間くらい過ごした」
普段ならどんなパーティーでも明るい中心にいるコロンビア出身のスターは、一人になりたかった。完全に一人きりで部屋にこもり、ひたすら文章を書き続けた。「ノートに向かって過ごして、歌詞や詩や、いろんなものをたくさん書いた」と彼女は振り返る。「これがアルバムになるとは思っていなかった。でも、音楽はたくさん書き始めていた。だって、アーティストとして、作曲家として、音楽を通してものすごく大きなカタルシスを経験するものだから」。彼女は自分だけの小さく閉ざされた世界を築き、好きなバンドであるシガレッツ・アフター・セックスをはじめ、ザ・マリアス、Latin Mafia、Oklouを聴いて過ごした。
それでも、彼女の調子は戻らなかった。「自分が自分じゃないみたい。まるで別人になったみたい。ものすごく冷たい人間になってしまった。友達とも話したくなかったし、誰とも話したくなかった」。当時、カロルはそんなふうに考えていたという。唯一の助けになったのが、チームが彼女のもとへ届けてくれたファンからの手紙だった。ファンが自分に宛てて書いた言葉を読むうちに、自分が感じていることについて語ってみようという気持ちが湧いてきた。そしてほどなくして彼女はスタジオへ戻り、あふれ出す感情を音楽に注ぎ込んでいった。
その結果として生まれたのが『NO ME ARREPIENTO DE SENTIR TANTO』だ。カロルにとってこれまでで最も無防備で、感情をさらけ出したアルバムとなった。同時に、ポップのさまざまな響きを渡り歩く実験的な作品でもあり、エレクトロニックなプロダクション、胸を締めつけるバラード、そして豪華スターを迎えたスケールの大きな楽曲の間を自在に行き来する。
カロルによれば、アルバム自体は何カ月も前に完成していたという。ただ、それを世に出すには適切なタイミングを待ちたかった。「このアルバムはずっと前から完成していた。でも正直に言うと、個人的な出来事を利用しているようには見せたくなかった。このアルバムが何かのマーケティング・キャンペーンの一部みたいに思われるのも嫌だった。私にとって本当にパーソナルな作品だったから。あまりにも個人的すぎて、リリースする心の準備すらできていないと感じていた」と彼女は語る。しかし今では、自分なりのカタルシスを見つけ、さらにツアーでは毎晩ファンから絶えず温かさを受け取るなかで、ようやく適切なタイミングが来たと感じるようになった。
「この作品を世に出そうと決めた理由は、ただみんなに、自分が感じることを許してほしいから」とカロルは言う。「このアルバムで伝えたいのは、人生を本当の意味で生きるには、自分の感情ときちんと向き合う必要があるということ。
以下では、カロル自身がアルバムの全曲について解説し、音楽がどのように彼女を癒やし、最終的にもう一度自分自身を取り戻す助けになったのかを語っている。
「Te Llevas To'」
この曲にはいろんな要素が混ざっている。私はタイニーにずっと「これはカオスに聴こえなきゃいけない」って言っていた。当時の私が感じていたのは、混乱のなかから湧き上がってくる怒りだったから。頭の中では、「言いたいことを全部吐き出したいし、プロダクションそのものもカオスに聴こえてほしい」と思っていた。曲は、主人公がすべてを振り返るところから始まる。もうすべては終わっていて、信じる気持ちも、未来も、何も残っていない。起きることは全部起きてしまった。でもそこから、〈あなたがこれを壊したとしても、それでも私に残った素晴らしいものを全部教えてあげる〉という方向へ進んでいく。最初はシンセサイザーから始まって、そこからものすごく激しくて、カオティックなドラムへと展開していく。
「Maybe」
2曲目では、もう少し状況を整理して、何が起きていたのかを説明している。1曲目では怒りを吐き出したけど、2曲目になると、曲を通して物語を語り始めるような感覚がある。そこで出てくるのが「Maybe」。「Maybe」は、〈今度こそあなたを失わない〉という言葉から始めたかった。関係がぎりぎりの状態にあるとき、何百万回となく繰り返されるような言葉だけど、現実にはなかなかそうはいかない。関係はそのたびに少しずつ壊れていくのに、それでも「今度こそ大丈夫。今度こそうまくいく」って思ってしまう。でも結局、もう耐えられないところまで来たら、本当にそれ以上は無理なんだ。この言葉から曲を始めることは、私にとってすごく重要だった。
「Bebiendo Lágrimas」
自分に「もう二度とあんな思いはしたくない。もう絶対に嫌だ。恋愛なんて終わり」と言い聞かせているときの曲。数日前に公開したトレーラーでも言ったけど、ときには何もかも信じられなくなることがある。なぜかと言えば、とりわけ痛みというものは、人生にある共感や優しさみたいなものまで疑わせてしまうから。人は、たった一つの出来事で変わるわけじゃないと思う。人生のなかで少しずつ、少しずつ変わっていく。誰かが何かをきっかけに変わったり、それまでとは違う雰囲気をまとったりすることがある。でも私たちは、その人に何が起きているのか、何を経験しているのか、その人の気持ちを少しでも楽にするために自分たちに何ができるのかを考えないことがある。その代わりに、その人を責めてしまう。だから、この曲で言っているのは、〈恋愛についてはもう限界まで来た。いったん全部葬る。少なくとも今は、自分の平穏を楽しんで、自分自身を楽しんで、一人でいることを楽しむ。自分という人間や、仕事や、友達との時間を楽しむ。今は恋愛に関することを全部閉じ込めてしまったけど、私は穏やかだし、そのほうがいい。今はこうしていたい〉ということ。私は自分にそう言い聞かせていた。これはアルバムのために作ったかなり初期の曲で、もしかしたら最初にできた曲だったかもしれない。
「Ahí」(feat. ドレイク)
これは、もう恋人同士ではなくなって、ほかの人と出会うこともできるようになったときの感覚に近い。でもまずは、自分がちゃんと立ち直るための余白と時間を与えなきゃいけない。だから、「ありがとう。あなたは本当に素晴らしい人。もしかしたら私は、素晴らしい何かを経験するチャンスを自分から手放しているのかもしれない。でも今は無理。ただ、いつか先の未来でそうなることがあるかもしれないから、その可能性は残しておく」という気持ちを歌っている。
この曲を書いたのは12月31日だった。クリスマスはパーティーをしたりして過ごしたわけじゃなくて、コロンビアのグアタペ(Guatapé)という場所へ行った。どちらかというと、静かに過ごすためのリトリートみたいな時間だった。[プロデューサーの]Ovyも一緒に来ていて、彼は家族と、私は自分の家族と過ごしていた。ドレイクがスペイン語で歌うのは昔から本当に素晴らしいと思っていたし、無理に歌っているように聴こえたことが一度もない。それに、以前にも彼とは少しやり取りをしたことがあった。彼がInstagramで連絡をくれて、彼のマッサージ師が私の大ファンだから、動画を送ってほしいと頼まれたことがあった。それで動画を送って、そのあとも、一緒に何かできたらいいよねという話をしていた。でもかなり前のことだったから、この曲ができたときに、そのやり取りを思い出した。デュエットにして、お互いのヴァースが呼応するような形にしようという話になって、それで私は「どうなるかわからないけど、ドレイクがこれをスペイン語で歌ってくれたら最高だな」と思った。
1月の第1週に曲を送ったら、彼はすごく気に入ってくれた。1月8日頃にはバハマで『Iceman』を制作していて、私たちのチームも合流し、3日ほどかけて曲を仕上げていった。発音を手伝うために、私がレコーディングを通して彼をガイドした。スタジオにいたのは、彼と彼のエンジニアと私だけ。ほかには誰もいなかった。私も彼と一緒にブースに入って、「そこはもう少しこういうふうに言って。こう発音するの」って伝えていた。彼にとって発音はすごく重要だったみたいで、ずっと「お願いだから、発音はちゃんとできるようにしたい」と言っていた。仕上がりは素晴らしいものになったと思う。曲の一部がリークされたから、みんな「カロルGが『Iceman』に参加してる」って言っていたし、彼の曲のなかには私の名前が出てくるものもある。このコラボレーションを待っていた人は多かったんじゃないかな。
「Final Feliz」
プロデュースはOklouが手がけたけど、もともとはギターだけの曲だった。Judelineと一緒に書いた曲で、最初は完全にアコースティックだったの。Oklouの音楽は、私の頭や感情を刺激してくれる。彼女はアンビエントな音もたくさん使うし、それが彼女らしいプロダクションにもつながっている。すごく新鮮で、ほかにはない音がする。妹に「この曲があるんだけど、私が思い描いているプロダクションは、彼女なら形にしてくれそうな気がする」って話した。それに、彼女のことをすごく尊敬している。母親になったばかりで、それでもツアーを続けていて、たくさん刺激をもらっている。
「Final Feliz」は、この先どうなるのかが見えているからこそ、自分から相手のもとを離れる決断をするときのことを歌った曲。もっと大きな傷を負うまで待つのではなく、その前に離れることを選ぶ。その瞬間がいちばんつらい。「もうこれは続けられない。このままいったら、どんどん悪くなっていく」ってわかっているから。大切に思っている相手なのに、どうしても一緒にはいられない。その痛みと二つの気持ちが同時にある。〈ハッピーエンドになれたかもしれない。でも、そうはならなかった〉みたいなね。Oklouに曲を送ったら、すぐに私の個人の電話番号を聞いてきた。それで「わあ。正直に言うと驚いた。あなたのこういう一面は今まで聴いたことがなかったし、この曲に参加できるのが本当に楽しみ」ってメッセージをくれた。アルバムのなかでも特に好きな曲の一つ。彼女がこの曲を特別なものにしてくれたし、今でも心に響いている。
「Still」(feat. ブルーノ・マーズ)
英語で音楽を作ることはずっと頭の片隅にあったけど、自分から無理に進めようとしたことは一度もなかった。そして、この曲のほうから私のところへやってきた。英語でこういう曲を歌うというアイデアにはすごくワクワクした。自分自身を変えたいからではなくて、第一言語が英語のファンもたくさんいるから、いつかそういう人たちにも、その人たちの側に立った形で語りかけてみたかった。
ソングライターのIsabelとTomás[LaRosa]がこの曲を送ってくれたとき、すごく不思議な感覚になった。まるで誰かが、まさにそのとき私が経験していたことをそのまま書いたみたいだった。いろんな形にしてみようともしたけど、正直なところ、何かを変える必要があるとは一度も思わなかった。この曲には最初からソウルがあったし、何度も繰り返し聴いて、そのままの形で感じずにはいられなかった。それからブルーノに送った。彼も同じくらい強くこの曲とつながってくれて、参加することを決めてくれた。歌詞はいくつか少し変えて、彼はプロダクションにも参加している。素晴らしいのは、最初から市場を意識して作られた曲ではなかったということ。このアルバムは、自分の感情を解き放つことについての作品。そして、この曲はまさにそれだった。翻訳したり、何かに合わせて作り替えたりするのではなく、私のもとにやってきたそのままの姿を尊重することにした。
正直、ブルーノと一緒に曲を作れたなんて、今でも信じられない。実は昨日もここラスベガスで一緒に過ごしていた。この曲のためにこれから公開するコンテンツを作っていたんだけど、正直に言うと、ものすごく現実離れした感覚がある。レコーディングのために、彼がいた場所まで私が飛んでいったの。彼はツアー中だったから、曲を早く完成させて間に合わせるために、一気に行って帰ってこなきゃいけないような弾丸の旅だった。移動して、彼と2日間一緒に過ごして、スタジオでは彼が私のレコーディングをディレクションしてくれた。またしても、そこにいたのは彼のエンジニアと私のエンジニア、彼と私だけ。ほかには誰もいなかった。私の歌い方や発音を、彼がある意味ディレクションしてくれた。「君のアクセントは残してほしい。でも、言っていることがきちんと伝わるようにはしたい」って。夜7時から翌朝9時までずっとスタジオにいた。
[英語で音楽を作ることには]すごくオープン。でも、ひとつだけやらないと思うのは、腰を据えてアルバム全部を英語で作って、「これが私の英語アルバムです」みたいにすること。大事なのは、その曲が自分にとって正しい曲かどうか。この曲については、本当に心から好きになったということが大きかったし、アルバムに英語の曲を1曲入れて、特定のオーディエンスに向けて語りかけたいと心から思った。たとえば、これからコーチェラへ行ったりして、新しいオーディエンスがいることに気づき始めると、その人たちはスペイン語をまったく話さないかもしれない。もし違う形でつながる機会があるなら、そうしたいと思う。
「Alguien Que Te Amaba」
この曲は最終的に、セレーナ・キンタニーヤの楽曲を手がけてきたソングライター、Pete Astudilloと一緒に制作した。私は「この人と一緒に仕事ができたら最高だな」と思っていた。セレーナが亡くなって以降、彼はほとんどほかのアーティストとは仕事をしていなかった。それだけに、本当に信じられないような展開だった。Edgarと一緒にいたとき、「彼と仕事ができたら夢みたいだよね」と話したら、Edgarが「もう長いこと音楽を作っていないけど、探してみよう。どうなるか見てみよう」と言ってくれた。それで実際に彼を探し出してくれて、「すごく乗り気だよ」と教えてくれた。それは私にとって本当に大きなことだった。彼が心から私のアルバムを聴いてくれたから。
『Trópicoqueta』が私に与えてくれたもののなかで、特に大きかったのがアイデンティティだった。キャリアを始めた頃から、自分がコロンビア人であり、ラティーナであることはずっとはっきり打ち出してきたし、これまで立ってきたステージでも、それをきちんと伝えようとしてきた。でも『Trópicoqueta』を出したことで、ようやく世界にもそれが伝わったように感じた。実際、スペイン語を話さない人たちにも、カロルGがどんなアーティストなのかを、それまで以上に理解してもらえたアルバムだったと思う。『NO ME ARREPIENTO DE SENTIR TANTO』では、もっと親密でオルタナティブなサウンドにしたいという方向性は最初から明確だった。でも同時に、「これこそカロルGだ!」と思わせるようなラテンの響きから、あまり離れすぎたくはなかった。
「MATADORA」
もちろん、「MATADORA」を出したらどんな反応が起きるかは、みんなわかっていた。曲のテーマもそうだし、そのなかで私がどう自分を表現しているかもそう。でも私は、「カロルGはいつだって驚かせてくれる」と思ってもらいたかった。だから、このアルバムで最初に聴いてもらう曲にしたかったんだ。最後のシーンから始まる映画みたいな感じ。今の私はまさに「MATADORA」の気分だけど、数カ月前はそうじゃなかった。もちろん普通の人間だから、調子のいい日もあれば、そうじゃない日もある。でも今は、物事がはっきり見えていて、自分がどうしたいのかもわかっている。穏やかに生きたいし、これからも夢を叶えていきたい。人とつながる機会を持ち続けたいし、外に出て、友達といろんなことをしたい。今日の私は、まさにこの曲みたいな気分なんだ。
私たちは常に人目にさらされていて、メディアもアーティストの一挙一動を追っているから、どんな報道が出るかはわかっていた。でも実際には、思っていた以上にこの曲はみんなに届いたと感じている。ストリーミングの数字も日に日に伸びているし、この曲を使う人も増えてきた。おしゃれをして出かける準備をしていたり、水着姿だったりする女の子たちの動画も見た。私は、女性のセクシュアリティを肯定できるような曲がすごく好き。そういうものは長いあいだ抑えつけられたり、よくないものとして見られたりしてきたからこそ、女性が自分を美しい、魅力的だ、力強いと感じられる曲を世に出せることが嬉しい。この曲が本当に好きだし、最初に出したことで、みんなも「待って、『MATADORA』みたいな曲が先行曲なのに、アルバムのタイトルは『NO ME ARREPIENTO DE SENTIR TANTO』(=こんなにも深く感じたことを後悔していない)なの?」って思ったはず。それで、アルバムにはほかにどんな曲が入っているんだろうって、さらに楽しみにしてもらえたんじゃないかな。
「For u My lova」
チームのみんながこの曲を大好きなんだ。正直に言うと、トラックリストのどこに置くか、いちばん悩んだ曲でもある。私にとってトラックリストはすごく重要で、ファンがアルバムを最初から最後まで通して聴いたときに、どんな体験をするかを左右するものだから。この曲はサウンドの性格上、なかなかしっくりくる場所がなかった。でも、アルバムには絶対に必要だと思った。自分に起きたことを、それまでとは違う感情の角度から見られるようになった瞬間を表しているから。もう痛みそのものに囚われているわけじゃない。時間が経って、自分なりに理解して、前に進んだあとで、その人のことを思い出しても「ああ、あれは本当に素敵だったな」って、少し前向きに振り返れるようになる。だから、この曲のサウンドもほかの曲より明るい。そういう段階も含めてひとつのプロセスだから、トラックリストには入れたかった。
3曲目に置くことも考えたし、最後の曲にすることも考えた。感情の流れだけで言えば、これが最後の段階にあたるから。でも、ここでいったん気持ちを持ち上げて、そのあとまた深い感情のところへ戻りたかった。この曲もEdgarと一緒に作ったんだけど、スタジオで作っていたときは、本当に部屋のなかに特別な魔法があるような感覚だった。冒頭はオルガンにしたかった。オルガンって、結婚式にも葬式にも使われるでしょう。その二面性も、この曲ではすごく大事な要素だった。それに、みんなにビデオを見てもらうのが待ちきれない。
「Si Lo Ven」
この曲は、アルバムの魂みたいなものだと思う。最後のライブでも歌うことにした。私にとっては本当に、一つひとつの小節、そのすべてにこのアルバムの魂が宿っている。さっき話していたことそのもので、ただ自分に感情をそのまま感じることを許して、それを言葉にする。「ほら、私は強いでしょ」とか、「別に気にしてない」みたいに振る舞うんじゃなくて。そうじゃない。そこに、このアルバムの精神がある。だから、これは強くあろうとすることや、耐え続けることについての作品じゃないんだと決めた。アルバムを聴き終えたときにも、最初にあったその感情をそのまま残したかった。
そうしたかった理由はいくつかある。まず、私はまだ完全に立ち直ったとは思っていない。うまくやれていないと言いたいわけじゃない。でも、まだ誰かと人生をともにする準備もできていないし、新しい経験に自分を開く準備もできていない。そう考えると、やっぱり私はまだ癒やしの途中にいるんだと思う。まだそのプロセスのなかにいる。だから、まったく違う気持ちでアルバムを終わらせることはできなかった。私自身が、まだそこまでたどり着いていないから。
「Bby Wow」(feat. Judeline、Rusowsky)
クラブで踊れる曲が必要だと思った。でも、ただ踊れるだけじゃなくて、ちゃんと感情もある曲にしたかった。じゃあ、失恋したままクラブにいたらどうなるのか。結局、頭に浮かぶのは相手のことばかりで、「この曲をあの人と一緒に踊れたらいいのに」って思う。
最初のバージョンは私一人で歌っていた。でもライブでやるなら、もっといろんな人と一緒にステージで歌って、少しパーティーみたいな雰囲気にしたいと思った。それでRusowskyが思い浮かんで、Judelineにも「この曲に参加しない?」って声をかけた。このアルバムではJudelineとかなり一緒に制作した。彼女が愛について歌うのを聴いていると、女性が感じる痛みがどれほど深いものなのか、男性は理解しきれていないんじゃないかと思わされる。彼女には特別なものがあって、どんな感情もものすごく強く伝わってくる。「Is God Good or Just Powerful?」という曲があるんだけど、1分半くらいしかない本当に短い曲で、歌っているのもヴァースとコーラスが一つずつくらい。それなのに、「どうしたらヴァースとコーラスだけで、こんなにたくさんのことを伝えられるんだろう?」って驚かされて。
だから、このアルバムでは絶対に彼女と一緒に曲を書きたいと思った。お互いのチームが連絡を取り合って、私が新しい音楽を作っていると伝えたら、彼女はロサンゼルスまで来てくれた。1週間くらい一緒に過ごしたんだけど、すごくいい時間だった。最初にしたのは、まず座って話すこと。「今の私がどんな状況にいて、どんな気持ちなのか、少し話すね」って。実は二人とも、ほとんど同じようなことを経験している最中だった。それがすごくよかったし、最初から気持ちが通じ合っていた。「二人ともここにいて、ほとんど同じことを感じているんだから、きっと特別な形で自然に曲が生まれる」って思った。スタジオには3日か4日くらい入って、このアルバムには収録されていない曲もいくつか一緒に作った。
「Con Quién Andará?」
「Con Quién Andará?」も、このアルバムの核になる曲の一つ。自分の部屋で一人きりになって、頭の中で延々と自分に問いかける。「あの人は今どうしてるんだろう? 何をしてるんだろう?」って。そういうことを、長いあいだ毎日のように、それも一日のうち何時間も考えてしまう。だから「Con Quién Andará?」は、このアルバムの感情そのものに触れている曲なんだ。みんながベッドに寝転んで天井を見つめながらアルバムを最後まで聴いたときに、私があの頃ずっと抱えていた感情を、そのまま持ち帰ってほしい。ときどき「そんなに引きずらないほうがいいよ」「そういう曲は聴かないほうがいいよ」って言われるけど、私はそう思わない。むしろ、それこそが失恋しているときの醍醐味だと思う。ベッドに入って、自分では言葉にできない気持ちを音楽に代わりに語ってもらう。あれ以上のものはない。
楽しみにしていることの一つが、ファンのみんなにライブで会うこと。まだツアー中の今、このアルバムをファンのみんなとライブで一緒に体験できるのは、一つのコミュニティみたいな感覚になると思う。誰もがその一員になれるような。『Tropicoqueta』に合わせてオレンジ色の服を着てくる人がいたように、今度は青い服で来る人もいるんじゃないかな。だから本当に楽しみ。コンサートが映画『インサイド・ヘッド』みたいになりそう(笑)。ショーにもこのアルバムのためのセクションを丸ごと加える予定だから、みんなに見てもらうのが待ちきれない。
「Eclipse」
「Eclipse」は、もともとアルバムの最後に置こうと思っていた曲。最後のほうで、聞き取れるかわからないけど、〈神様、私の代わりに彼を見守っていて。私は彼を手放すから〉って歌っている。これは、振り返りながら「うまくはいかなかった。でも、どうしてあんなに特別で、あんなに美しいものだったんだろう」と思いつつ、それでも「もう手放す準備はできている」と言えるようになった瞬間なんだ。
正直、アルバムのリリースを目前にした今は、本当に幸せ。このアルバムが世に出たあとに、きっといろんなことが起きると思うけど、その多くについては、もう自分のなかで折り合いをつけられた気がする。それに、ファンのみんなから届く手紙を読んできたからこそ、確信していることがある。そこにはすごく個人的なことが書かれていて、今まさにどんな状況にいるのかまで、具体的に打ち明けてくれる。だから、このアルバムが誰かに届くなら、それはきっと届くべき人に届くんだと思う。そう考えると、自分がこれを作ったことにも意味があると感じられる。もしみんなが私の気持ちをわかってくれるなら、私が経験してきたすべてのことにも理由があったんだと思える。そして、その感情をファンのみんなとライブで一緒に分かち合えるのも、一つのコミュニティみたいな体験になると思う。
「Después de Ti」
この曲は、ただ感情を歌ったものというより、自分の足元がなくなってしまったように感じるときのことを描いている。人生ではいろんなことが起きる。ここで言っているのは恋愛だけじゃなくて、さまざまな状況のこと。どうすればいいのかわからない、どこへ向かえばいいのかわからない、自分の人生をどうしたらいいのかも、今抱えている感情をどうすればいいのかもわからない。そんなふうに、自分だけが宙に浮いたまま取り残されているような感覚。周りでは人生がどんどん進んでいくのに、自分の人生だけは動いていない。時間は過ぎているのに、自分はその時間を生きていないように感じる。空を飛んでいるのに、どこにも進んでいない飛行機に乗っているみたいなもの。それが「Después de Ti」なんだ。「あなたがいなくなったあと、私はこんなふうになった。何をすればいいのかわからない。何を言えばいいのかわからない。どう話せばいいのかも、どう自分を表現すればいいのかもわからない。もう何もわからない」って。この曲を最後に置くことにしたのは、すでにみんなが聴いたことのある曲だったこともあるし、「Eclipse」で終わるより、この曲のほうが最後に残したい感情を強くしてくれると思ったから。物語の順番として正しいかどうかより、最後にどんな気持ちを残したいかを優先した。みんなに抱えて帰ってほしかったのは、まさにこの感覚だった。
自分の人生がここまで人目にさらされているというのは、私にとってすごく複雑なこと。でも、その経験から学んだこともある。大事なのは、ほかの人が私をどう思うかではなく、自分が自分自身をどう思うかだということ。周りの人が自分について何を言おうと、そこから自分を守ることはできると思う。でも、自分自身に対する自分の思いからは逃げられない。だからこの数カ月は、自分自身と向き合って、自分が成長するための時間にしてきた。今はすごく一生懸命働いているし、きちんと自分を律している。それに、友達や家族ともちゃんとつながっている。そしてステージに立つと、私と同じように、それぞれの日常を生きているたくさんの人たちに出会う。その人たちは、私が経験していることを本当に理解してくれる。そうすると、「結局、すべてはこのためなんだ」って思える。だから正直、今はすごく調子がいい。今日も、昨日も、この数日も、今週も。でも、ずっとこの状態が続くわけじゃない。私はいつも、幸せはずっと続く状態ではなくて、火花みたいに一瞬一瞬に訪れるものだと言っている。でも、心が穏やかであることはそれとは違う。今の私は、穏やかでいられている。自分自身のことも、自分の人生も、自分が歩んできた物語も、今まわりで起きていることも、すべて受け止められている。だから、これを世界に見せる準備はもうできている。
From Rolling Stone US.


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