【ギャラリー】過去に開催された「GOAT」のライブ写真
REDLINEの終幕から、GOATという新たな挑戦へ
―GOATの第1回と第3回を観ましたが、第3回は観客も出演者も若く、ハードコア寄りの熱量が印象的でした。すでに3回開催され、第4回も発表されています。以前、REDLINEを終える際に「REDLINEに合いそうな新人バンドが少なくなってきた」と話していましたが、GOATを3回やってみて、その認識は変わりましたか?
KTR そうですね。ブッキングの面も含めて、ここが潮時だろうという感覚は正直ありました。
―このイベントを通して、改めて若いバンドと向き合ってきたわけですが、そもそもの出発点はどんなものだったんですか?
KTR もともとREDLINEを始めたのは、僕が20代の頃です。26歳くらいだったと思います。当時出演してくれていたバンドも若かったし、まだ売れていなかった。そこが自分の原点なんです。僕が年齢を重ねてキャリアを積んだとしても、何かを始めるときには、新人だった頃の気持ちでチャレンジしたいと思っています。
どんなコンテンツにするべきかと考えたとき、今の10代や20代前半の子たちは、収入面でもお金に余裕がないし、物価も上がっています。Tシャツ一枚を買うにしても、昔より1500円くらい高くなっている。ライブのチケット代も、コロナ禍を経て、普通の前売り価格が2000~3000円ほど上がってしまっています。音楽はサブスクで気軽に聴けるけれど、ライブに行くためのお金まではない。そういう状況をすごく感じていました。ただ、せっかくいい音楽に出会ったのであれば、ロックやロックバンドの一番の醍醐味は、やっぱりライブじゃないですか。
―なるほど。
KTR 最初は、Zeppのような会場で無料ライブを開催することも考えました。でも、入場収入がない以上、リスクはすべて主催者が背負うことになります。新人バンドを出してZeppを埋めることは到底できないし、REDLINEが終わったとはいえ、GOATはまったく新しいイベントです。お客さんがどう反応してくれるかも分かりませんでした。今の新人バンドは、下北沢SHELTERあたりで150人くらい動員できるかどうか、という段階にいることが多いと思います。その一方で、次のステップとして目指してほしい会場が、僕の中ではSpotify O-WESTでした。O-WESTはキャパシティが最大600人で、普段の自分たちの実力だけでは、なかなか埋められない会場です。そこを無料にして、若いお客さんを集めたらどうなるのか。
ただ、それだけでは、自分の中でまだ物足りなかったんです。もう一つ、何か面白い仕掛けが欲しいと思いました。REDLINEを15年間続け、最後には幕張メッセで開催させてもらいました。新人バンドが憧れてきたであろう先輩バンドとの、夢の共演も実現させようと考えました。GOATに出るような若いバンドは、そうした大きなバンドとは、すぐには共演できないし、大型フェスにもなかなか出演できません。GOATで憧れのバンドと出会い、話を聞いたり、打ち上げでいろいろ話したりする。演奏するだけでなく、ロックバンドとしての考え方や姿勢を学ぶ機会にもなると思いました。かなりカロリーの高い、難しいチャレンジではあります。でも、新人バンド3組に、当日、それも出演直前まで明かさないシークレットゲスト1組を加え、計4組で開催する。それでようやく、自分の中で腑に落ちました。この形なら、何回か続けることでイベントとして馴染んでいく可能性がある。
3回の開催で見えてきた、GOATの手応えと課題
―これまで3回開催され、毎回多くの観客が集まり、盛り上がっています。シークレットゲストというサプライズもある。ある意味では成功していると思いますが、KTRさんはGOATの成功を、どのような数字や変化で判断していますか?
KTR 正直、まだまだではあります。ただ、特に第2回を終えた頃から、若いバンドから僕のところへ直接DMが来るようになりました。まったく知らないバンドからも、「GOATに出たい」と言ってもらうことが増えています。出演してくれたバンドが、自分たちの周囲にGOATのことを自然と広めてくれているんだと思います。このイベントがどういうもので、どんな思いでやっているのかを伝えてくれている。それを知った若いバンドが、「ここに出たら、何かのきっかけになるかもしれない」と思ってくれているんでしょうね。登竜門とまでは言いませんが、若いバンドの間で「GOATに出たい」と思ってもらえるようになり、その数が一気に増えた。それは一つの手応えです。オーディエンスに関しても、応募数が回を追うごとに明らかに増えています。
―無料イベントの場合、予約した人の数と、実際に来場する人の数にはギャップがありますか?
KTR ありますね。無料の場合、自分でチケット代を払うというリスクを背負っていないので、ほかの予定が入ったら行かなくてもいい。一番大きいのは天候です。晴れか雨かによって、来場率はかなり変わります。GOATに限った正確な数字とは別に、一般的な無料ライブでは、雨の場合、当選者の半分くらいが来ないこともあります。
―それほど違うんですね。
KTR 無料ライブの怖さは、参加する権利を簡単に得られてしまうことです。「今日は気分が乗らないから、行かなくていいや」と、簡単に判断できてしまう。お金を払っていないので、観客側にリスクがありません。GOATも、当日になってみるまで、実際の着券率がどのくらいになるのか分かりませんでした。
―出演者のファンが集まるイベントから、GOATというイベントそのものにファンがつく段階へ進んでいる実感はありますか?
KTR ありますね。みんなで作っていっているという感覚があります。GOATには、いろいろな世代の人が応募してくれます。ただ、メインターゲットとして一番観てほしいのは、先ほど話したような、お金に余裕のない10代から20代前半の子たちです。まだ社会人ではない、学生の子たちですね。そういう子たちが新しいバンドを気に入ってくれたとき、普段だったらチケット代がかかるからグッズまで買えないけれど、今日はチケット代がかからなかったから、好きになったバンドのグッズを買ってみようと思える。そういう形へ昇華させたいという思いが強くあります。それによって、バンドの物販売上にもつながります。出演したバンドからは、「いつもよりグッズが売れました。ありがとうございます」と言ってもらえます。若い子たちがバンドに出会い、かっこいいと思って、さらにその子たち自身がバンドを組む。そこまでの動線を作ることを、一番の目標にしています。確実に面白くなってきていますね。ただ、これは続けることで、さらにブーストしていくものだと思っています。今年は年4回、3カ月に1回は最低でも開催しようとしています。来年以降もその意志を崩さず、定期的に開催したい。大変ではありますが、ブッキングも続けていこうと思っています。
JasonAndrew ©GOAT
―第3回の会場でも、KTRさんが普通にフロアにいて、若い観客から直接話しかけられていましたよね。
KTR ありますね。「無料で観させてくれて、ありがとうございます。その分、グッズを買えました」と言ってくれる子もいます。参加者からの投げ銭も、PayPayと現金で受け付けています。そういうイベントのスタイル自体に、これまであまり出会ったことがないようです。単に「無料だからラッキー」ということではなく、「イベントの中身が面白い」と言ってくれる子が、第1回、第2回、第3回と、どんどん増えています。そこは、やってよかったと実感している部分です。
―投げ銭もあるんですね。
KTR あります。第1回は現金だけでやったのですが、若いお客さんは現金をほとんど持っていないんですよ。特にライブへ行くときはそうです。終演後は汗だくですし、近くにATMがあるわけでもありません。携帯一つで投げ銭ができたほうがいいと思い、第2回以降はキャッシュレス決済としてPayPayを導入しました。
―出演者側から見ると、シークレットゲストと直接出会える機会があります。それだけでなく、GOATというブランドを通じて、次のステージにつながる場所でもあると思います。GOATに出演したことで生まれた具体的な変化はありますか?
KTR フォロワーが一気に増えたという話は聞きます。まだ動員が倍になるほどではないにせよ、通常のライブに「GOATを観て来ました」というお客さんが来るようになったバンドも多いようです。GOATがきっかけになって、「次はこのバンドのライブへ行ってみよう」と思ってもらえている。GOATのいいところは、目当てのバンドだけを観て帰るお客さんがほとんどいないことです。普通のイベントなら、たとえシークレットゲストが出たとしても、そのバンドを観たら帰る人が多いと思うんですよ。正直、自分がお客さんだったとしても、「シークレットゲストを観られてラッキー。最後のバンドは知らないから帰ろう」と考えるかもしれない。でも、GOATではそれがほとんどありません。シークレットゲストの後にも新人バンドが1組出演しますが、そこまでしっかり観てくれる。それは、イベントの意図をお客さんが理解してくれているからだと思います。
―第3回でも、シークレットゲストの後に帰る人は、ほとんどいませんでした。
KTR そうなんです。普通の対バンイベントだったら、シークレットゲストを観た時点でお腹いっぱいになって、「もう十分楽しんだから、飲みに行こう」となると思います。それが起きないのは珍しいですよね。シークレットゲストを最後に持ってくる方法もあるとは思います。でも、GOATの特性上、僕はシークレットゲストをトリにはしたくありません。最後のステージは新人バンドに担ってほしい。その思いがあるので、出演順も含めていろいろ考えています。
―今はレーベルやマネージメントの人たちも、早い段階から若い才能を探しています。そうした業界関係者が新しいバンドを探すために訪れるイベントも多いですが、GOATはむしろ、純粋に観客が中心にいる空間であることも特徴だと思います。
KTR そうですね。マネージメントやレーベルの人たちを、こちらから呼び込んでいるわけではありません。ただ、関係者が観に来て、若くて魅力のあるバンドへ声をかけてくれるのであれば、僕としてはまったく問題ありません。僕がGOATに出演させたからといって、全バンドをJMSでマネージメントしようという考えではないんです。そういう目的でイベントをやっているわけではありません。単純に、「このバンドはいい」「このバンドが好きだ」という僕個人の判断でブッキングしています。
GOATに関しては、JMSのことは考えていません。
―GOATでは、観客による写真や動画の撮影も認めていますよね。
KTR そうですね。来てくれたお客さんには、「絶対に拡散しろよ」という気持ちがあります。それも一つの役割だと思っています。
―3回開催してみて、撮影や拡散の効果はどうでしたか?
KTR 結果として、シークレットゲストの映像が、タイムライン上で一番インプレッションを獲得しています。もう少し新人バンドの投稿や映像のインプレッションを増やしたいというのが、今の課題です。次回からは、シークレットゲストは撮影禁止にして、メインの新人3組だけ撮影可能にする。「この3組を広めてくれ」という形へシフトしようかと考えています。気持ちは分かるんです。シークレットゲストの映像を投稿すれば拡散されることを、若い子たちも分かっています。この前のENTHもすごくバズりましたし、普段は撮影禁止のバンドを撮影できるとなれば、そうした映像も撮れてしまう。インプレッションやフォロワーを増やすことを目的にしている人も、全員ではありませんが、少なからずいます。だったら、シークレットゲストは撮影禁止にしたほうが、もう少し若いバンドのためになるのではないか。今はそう考えています。
ENTH ©GOAT
―実際には、シークレットゲスト以外のバンドのライブ映像も撮影され、投稿されていますよね。
KTR もちろんです。オフィシャルでも、必ずダイジェストムービーを公開しています。JMSのチャンネルを通じて、きちんとアウトプットしています。
無料開催を支える仕組みと、若い世代から受け取るもの
―そうした取り組みも含めて、現在はライブのチケット価格が上がり続けています。その中でGOATが無料開催を続けることには、音楽シーンやライブ市場に対するメッセージや問題意識があるのでしょうか?
KTR 僕は、誰もやらないだろうと思うことを常にやりたいタイプなんです。無料で開催しているので、主催者には利益がありません。むしろマイナスです。Monster Energyさんをはじめ、ほかにもスポンサーについてもらっていますが、それでも黒字になるわけではなく、基本的には収支がトントンか赤字です。「そこまでリスクを負ってやる必要はないんじゃないか」というのが、一般的な意見かもしれません。でも、これは未来への投資なんです。僕の中では、若いバンドや観客に対して、今やるべきことだと思っています。REDLINEを通じて長く音楽業界に関わってきた中で、もう一度シーンを作るフェーズに入る。その中でも、最も大事な部分だと思っているので、今のところ無料という方針を崩すつもりはありません。どれだけ赤字になっても、「ほかで稼げばいいじゃん」という感覚ですね。
―なるほど。若い世代の観客が、知らないアーティストを試しに観る機会は、以前より減っていると思いますか?
KTR 減っているんじゃないですかね。同じ系統のアーティストを集めたほうが、集客しやすいですから。REDLINEでは、基本的に異種格闘技戦のようなブッキングをやってきました。でも、ロックバンドとラッパーを組み合わせたとき、それぞれの単独公演には動員力があっても、一つのイベントにすると、集客が大きく減ることがある。それは肌で感じてきました。ジャンルの異なるアーティストが交わる機会は、相当減っていると思います。ただ、GOATは必ずしも異種格闘技戦でなければいけないわけではありません。ジャンルが混ざっていてもいいし、ある程度まとまりがあってもいい。そこに変なレギュレーションやルールは設けていません。それよりも、定期的に開催することを軸にしています。
―1000円や2000円といった低価格ではなく、完全無料にすることで、初めて越えられる壁があるのでしょうか?
KTR あります。ただ、詳しく言えば、現状は本当の意味で完全無料ではないんですよ。プレイガイドの手数料や発券料として、お客さんは630円を払っています。実際のところは、お金がかかっているんです。僕は、それもなくしたいと思っています。プレイガイドにも少し汗をかいてほしいというか。GOATのコンセプトを、関わっている人たちにも提示していきたいので、そこは今後、プレイガイドとも話していきたいポイントですね。
―無料チケットでも、プレイガイドを通すとそれほど手数料がかかるんですね。そうした既得権益的な部分も、ハードルとしてあるわけですね。
KTR ありますね。ただ、イベンターやO-WESTを運営している人たちにも、費用を極限まで抑えてもらっています。イベンターの手数料についても、ボランティアに近い形で協力してもらっている。そこは本当に感謝しています。
―それは、これまで培ってきた関係性があってこそですよね。
KTR そうですね。乗り込みで入ってくれるPAの管理チームがいるのですが、昔から一緒にやってきたチームなので、一日無償で協力してくれることもあります。もちろん、そこには今後、何かしらの形で返していきたい。いろいろな人の気持ちによって、イベントが成り立っているという感覚ですね。
―協賛以外にも、無料開催を継続するため、配信や映像など、チケット以外の収益モデルを広げていきたいという考えはありますか?
KTR GOATをビジネスにしようとするなら、物理的にライブハウスのキャパシティを上げなければ難しいと思います。O-WESTで開催する限りは、今の状態を続けていくことになる。基本的には、これからもO-WESTで開催していきます。ただ、アニバーサリーのようなタイミングでは、スペシャルな形もできると思っています。
―これまでGOATに出演したバンドが一堂に集まれば、ストーリーとしても美しいですよね。
KTR これまで出てくれたバンドが全員集まり、そこへ新しいバンドも加わる。それを無料で観られたら、さすがに狂っていますよね(笑)。もう、いい加減やばいと思います。
―KTRさんは、若いアーティストやバンドをキュレーションし、広く紹介する立場にいます。一方で、選ぶ側の価値観が固定化すると、新しい才能を見落としてしまう可能性もあります。自身の審美眼を更新するという意味も、GOATにはあるのでしょうか?
KTR あります。もちろんあります。これまで一緒に歩んできたバンドも、僕と一緒に年齢を重ねています。結婚して子どもがいるメンバーも増え、ライフスタイルも変わってきました。もちろん、そのバンドはそのバンドで、今もかっこいいんです。ただ、僕個人のアイデンティティとしては、カルチャーは新人や若い人たちが作っていくものだと思っています。キャリアを重ね、ブランディングが完成している人たちだけで、新しいカルチャーを作るのはなかなか難しい。それよりも、まだ本当に勢いだけで活動しているようなバンドを集め、そこからカルチャーを作っていく。そのほうが、今後の若い人たちを巻き込むロックの力や、ロックカルチャーにつながると思っています。だから基本的には、新人や若いバンドを常に念頭に置くようにしています。
View From The Soyuz ©GOAT
―そうした若いバンドと接することで、KTRさん自身も更新されている感覚はありますか?
KTR ありますね。10代となれば、極端に言えば、自分の息子でもおかしくないくらいの年齢です。そういう子たちと日常生活の中で話す機会は、なかなかないじゃないですか。所属バンドのメンバーとは接しますが、僕は頻繁に飲み歩くタイプでもありません。普通に暮らしている10代の子たちと話す機会は少ないんです。だから、自分のイベントの打ち上げで彼らと話したり、今、若い子たちの間でどんなカルチャーが流行っているのかを聞いたりすることが、すごく大きなインプットになります。SNSの使い方も、彼らは上手いんですよ。自分たちで、かなりマーケティングしている。普通に「どうやっているの?」と聞くこともあります。そこから学ぶべきことを自分なりに消化しています。すごく面白いですね。
TEAM GOATが育てる、次世代の音楽人
―GOATのウェブサイトでは、若いスタッフを募る「TEAM GOAT」の取り組みも行っています。彼らとやり取りする中で、「そんな見方があるのか」「そんなアイデアがあるのか」と気づかされることもありますか?
KTR ありますね。そもそもTEAM GOATを発足したのは、アーティストを育成するだけではなく、裏方も育てなければいけないと思ったからです。裏方を目指す場合、音楽の専門学校へ進むのが基本的な流れだと思います。大学へ進学するのと同じような感覚ですよね。僕自身が専門学校についてあまり詳しくないから、そう思うのかもしれません。ただ、それでも実践形式のほうが、はるかに学ぶ速度が速いのではないかと考えました。だったら、KTRスクールのような感覚でTEAM GOATを募集してみようと。現在は6人いて、基本的にはボランティアスタッフとして参加しています。
彼らには、イベントの裏側を一通り手伝ってもらっています。各セクションがどのように動くのか、一日のライブがどのように作られていくのか、ブッキングをどう進めるのか、僕がどういう考えで出演者を選んでいるのか。そうしたことをすべて教えています。それは、専門学校ではなかなか学べないことだと思うんです。専門学校では、座学や基本的な型を学ぶことが中心だと思います。でも、僕にとって座学は、「あとでChatGPTに聞いてみて」というくらいの感覚なんですよ。ChatGPTにも出てこないようなことを教えるのが、TEAM GOATだと思っています。彼らもそこで学びながら、最近はTEAM GOATとして、自分たちでイベントを開催するようになっています。すごくいい経験になっていると思いますね。TEAM GOATに集まっているのは、将来マネージャーになりたい人、アーティストとして食べていきたい人、レーベルをやってみたい人、REDLINEのようなイベントを作ってみたい人たちです。要するに、将来、音楽に関わって生きていきたい人たちですね。年齢は大体18歳から20歳くらいで、全員学生です。基本的に社会人は入れていません。
―彼らが自主的にイベントを開催するときも、TEAM GOATという名前を掲げているのですか?
KTR 掲げています。「TEAM GOAT presents」という形ですね。下北沢の小さなライブハウスで、GOATと同じようなルールというか、入場無料で、自分たちでブッキングしてイベントを開催しています。赤字になった分については、僕が負担します。さすがに学生なので。
―ブッキングをどう進めるのかも、KTRさんが教えているんですね。
KTR 教えています。今の子たちは、好きなバンドのライブには行くけれど、その場で出演交渉はしないんですよ。基本的には、InstagramのDMでブッキングしてしまう。僕はそういうブッキングの仕方をほとんどやったことがなかったので、最初はあまりピンときませんでした。だから、「呼びたいバンドのライブへ実際に行って、自分から熱い思いをきちんとアーティスト本人に伝えなさい」と教えています。前回のイベントでは、全員がその教えどおりに動いていました。自分たちが呼びたいバンドのライブへみんなで行き、その場で「出演してください」とお願いしていました。結果的に、4組すべてきちんとブッキングできていました。
―すごいですね。
KTR 普通に「すごいな」と思いましたね。みんな、すごくキラキラしていましたね。若い熱気があって、汗をかきながら動き回っていて。すごくよかったです。GOATでは、バンドの育成とは別のテーマとして、裏方の育成も進めています。バンドだけではなく、裏方にも夢を持ってもらう。その二つを同時進行させる、ダブルミーニングのような形でGOATをやっています。表に立つ人たちだけではない。裏方も絶対に必要です。
―最初にどう声をかけるのか、その思いをどう伝えるのかという部分まで教えている。
KTR 教えています。
―出演料の交渉などもですか?
KTR そうですね。ギャラの話が来たら、どういう形で対応すればいいのかも教えています。あとは、一日の振る舞い方ですね。アーティストやライブハウスのスタッフと、どのようにコミュニケーションを取るのか。GOATの現場に来て、一日僕の動きを見ていれば、そうしたことは自然とインプットされると思います。
―3カ月に一度GOATを開催すれば、そのたびに実習の機会があるということですね。
KTR 実習です。
挑戦を続ける美学と、裏方にも光を当てる「GOAT AWARD」構想
―GOATを3回開催し、若いバンドやTEAM GOATのメンバーと関わってきた中で、KTRさん自身が変わったと感じる部分はありますか?
KTR そうですね。REDLINEが終わったことで、自分の仕事におけるフェーズ1が一区切りしたような感覚があったんです。少しゆっくりしようかなと思っていました。でも、足を止めずに動き続けることが自分らしさなんだと、改めて認識しました。やっぱり、挑戦することはすごく楽しい。一番しんどいことに取り組むのが、一番好きなんですよ。もちろん、GOAT自体は楽しんでやっています。ただ、先ほど話したように、無料開催だから収益面の心配があることも含めて、一つの挑戦です。もう一度、20代に戻ったような感覚もあります。何かをやり続けることが自分の美学なんだと再認識させてもらったので、もう一度きちんと気を引き締めてやっていこうという考えになりました。REDLINEが終わったあとは、半年くらい休むのかなと思っていたんです。でも、まだそういう状態にはなれない。性分なんでしょうね。
―REDLINEをやっていた頃は、シーンを引っ張っていく責任感や、「こうあるべきだ」という考えも強かったと思います。GOATを始めたことで、力の入れ方やイベントとの向き合い方に変化はありましたか?
KTR ありましたね。会場が幕張メッセであろうと、Spotify O-WESTであろうと、やること自体は変わりません。ただ、向き合い方は違います。GOATでは、若いバンドを育てることや、若い裏方を育てることを意識しています。自分がキャリアを重ねたうえで向き合っているイベントなので、REDLINEを始めた頃とは、だいぶ違いますね。もちろん、当時のような若々しさはもうないですけど(笑)。今は、自分のキャリアの中でできることを使って、若い人たちをブーストしてあげたいという感覚です。それが音楽業界のためにもなり、一つの形になればいいと思っています。
今、MUSIC AWARDS JAPANのような賞があるじゃないですか。日本のグラミー賞のようなものだと思います。アーティストやエンジニアが評価される、すごく素敵な賞だと思うんです。ただ、僕としては、マネージャーやマーチャンダイズを仕切っている人たちも、売り上げやアーティストの活動にかなり貢献していると思っています。そこは、もっと拾われるべきなんじゃないかと。たとえば「GOAT AWARD」のような賞を自分の名義で開催する。一般社団法人を作り、自分が事務局長になって、若手のマネージャーや物販担当、A&Rなどを評価するんです。自分がやってきたような仕事は、なかなか評価されにくいんですよ。MUSIC AWARDS JAPANにも、マネージャーを表彰する賞はないじゃないですか。MUSIC AWARDS JAPANは、エンジニアや音作りに関わる人、ライブ空間を作る人など、作品やエンターテインメントに直接関わる人たちへ向けた賞だと思います。僕は、もう少し現場寄りの賞を立ち上げようかなと思っています。
―それはいいですね。
KTR まだ分からないですけど、たとえば年間グランプリになった人が賞金1000万円をもらえるとなったら、夢があると思うんですよ。そうすれば、その子たちもやりがいを感じられる。音楽業界を目指す人の裾野も広がっていくと思います。せっかくGOATで若手を育成しているので、今頑張っているマネージャーや、物販を仕切っている人、音楽を売るために動いているA&Rを評価する場も、今後は作って広げていきたいと思っています。
―GOATを継続しているからこそ、そうした取り組みにも名前や活動を展開できますよね。
KTR そうですね。GOATは良い意味で本当に使いやすい名前なんですよ。いろいろなところにフィットするというか。
―まさに、REDLINEという名前の使い方にも通じますね。
KTR そうですね。より多角的に視野を広げて、GOATという名前で、いろいろなことに挑戦していこうと思っています。いずれは、GOATに出てくれたメンバーだけで幕張メッセをやりたいですね。それが夢です。REDLINEの出演者とは一組も重ならず、今の若いバンドだけで、一日に2万5000人を集める。それができたら、かっこいいなと思います。
主催者のKTR
「ロック」の輪郭を広げるブッキングと、第4回のスピンオフ
―GOATのラインナップを見ると、ラウドロックやハードコア、エモ/オルタナティブ、クラブカルチャーとの接点など、さまざまなジャンルが混在していることも特徴ですよね。
KTR そうですね。ラウドやパンクだけに限定してしまうと、定期的に開催していくうちに、出演候補が物理的にいなくなってしまうと思うんです。僕自身、パンクやラウドだけではなく、ギターロックも好きですし、ヒップホップも好きです。ただ、「ロック」という形にはこだわりたい。ラッパーだけを出演させるようなイベントにすることは、一切考えていません。基本的には、ロックバンドという形を崩さずに、ジャンルをどんどん広げていこうと思っています。ただ、やっぱり一番難しいのはシークレットゲストです。本当にブッキングが難しい。GOATは基本的に、シークレットゲストから先に決めていくんですよ。
―そうなんですね。
KTR まずシークレットゲストを決めて、それに合う新人バンドを3組探していく形です。そうしないと、スケジュールが合わなかったり、予定が重複したりするので。まずシークレットゲスト側と日程を交渉させてもらって、そこへ新人バンドのスケジュールを合わせていきます。
―シークレットゲスト側からすれば、ほかに誰が出演するかは、あまり関係ないのでしょうか?
KTR まったく関係ないですね。「ほかに誰が出るんですか?」と、一度も聞かれたことがありません。
―むしろ、当日の楽しみになっているというか。「こういうバンドを出しているんだな」と。
KTR そこはバンドとの信頼関係で成り立っているというか。
―第3回もそうでしたが、バンド編成でありながらサンプラーを鳴らす人がいたり、MCがいたりと、表現の形がすごく自由でした。若い世代にとっては、バンド、ラッパー、DJといった区分が、以前ほど重要ではなくなっているのでしょうか?
KTR むしろ、昔に戻ったんじゃないですかね。往年のミクスチャー・サウンドやラップコアのようなバンドが増えてきています。リンプ・ビズキットのように、ラップがあって、シャウトもあるバンドですね。昔はそういうバンドがたくさんいましたが、その令和版のようなバンドが増えてきている気がします。第3回の出演者で言えば、ReVERSE BOYZが近いと思います。彼らは、もう少し治安の悪いハードコアですけど(笑)。そういうバンドが増えてきて、リバイバル感があるのも面白いと思いましたね。
ReVERSE BOYZ ©GOAT
―第4回は9月1日に開催されますが、今回のラインナップは、これまでとは少し違う印象があります。
KTR 9月は少しスピンオフなんですよ。
―そうなんですね。
KTR 今回の出演者は、それぞれすでにキャリアがあるんです。AFTERVOIDは、Crossfaithでキャリアを積んできたKenta Koieが、ソロプロジェクトとして新しく始めたものです。現在、Crossfaithは活動休止中ですが、AFTERVOIDとしては新人。ただし、Crossfaithでのキャリアはあります。JUBEEも、ラッパーとしてかなり長いキャリアがあります。ただ、最近はJUBEE & DA RAP ROCKERSというフルバンドセットで活動している。今後、バンドセットでの活動を展開していきたいという考えもあったし、JUBEE自身にも、ロックシーンで活動していきたいという意志がある。つまり、キャリアはあるけれど、この形では新人ということですね。JUBEE & DA RAP ROCKERSは、固定メンバーによるバンド名というより、ロックとヒップホップ双方のアーティストが集まる集合体として位置づけられています。
SATOHは、もともとREDLINEの最後の年にも出演してくれました。僕が出会ったときには新人だったんですけど、知名度が上がるタイミングが、僕の予想よりもかなり早かった。今ではSpotify O-EASTくらいの会場なら十分に成立するような存在になっています。僕の中では新人という感覚が残っていますが、お客さんからすれば、「全然新人じゃないだろう」という感じだと思うんです。そういう意味で、第4回はスピンオフとして捉えてもらえるといいかもしれません。12月開催の第5回からは、また従来の形に戻します。たまには息抜きということで。ただ、今回もシークレットゲストは出演します。
―第4回も、先にシークレットゲストを決めてから、ほかの3組を当てはめていったのでしょうか?
KTR そうです。同じやり方で当てはめていきました。次の第5回が、今年最後ですね。Spotify O-WESTで開催します。第5回は、新人バンドを集めた、いつものスタイルに戻します。かなりハードなラインナップでやろうと思っています。来年からは、メロディックパンクや、これまで取り上げてこなかった3ピースのメロディックバンド、ギターロック、日本語詞のギターロックバンドなども、どんどん出演させていけたらと思っています。
―面白いですね。現状は、ハードな音楽のイベントとしてブランドが形成されているところもありますよね。
KTR 分かりやすいですよね。僕に対するパブリックイメージも、おそらく「KTR=パンク、ラウド」という感じだと思います。今年は9月を含めて4回開催することになるので、来年くらいからは、一度ギターロックなども取り上げていこうかなと考えています。そうすれば、お客さんもいい意味で入れ替わってくれると思うんです。
―そうですね。
KTR その集合体として、どこかのタイミングでスペシャルイベントを開催できたら、という感じですね。
5年後、10年後のカルチャーへ――「顔の見える主催者」であり続ける
―昔は、KTRさんみたいな強烈な個性を持った個人主催のライブイベントがたくさんありましたよね。「あの人がやっているイベントだから行く」というような。
KTR ありましたよね。でも今は、イベントが集合体になってしまっているというか、会社名義で開催されるものが増えていますよね。
―あとは、バンド主催のイベントですよね。
KTR バンド名義のイベントは、今話したような一人称のイベントだと思うんです。主催者の顔が見えるし、どんなキャラクターなのかも分かる。どういう思想を持ってブッキングし、イベントを開催しているのかを、みんなが理解できるから楽しいんでしょうね。僕も裏方ではありますが、そういう形にしたいと思っています。顔が見えず、何をしたいのかも分からないまま、ブッキングだけがだらだらと豪華なイベントは、もう終わりだと思います。最近、SNSなどでも時々見ませんか。おそらく動員が見込めなかったから、イベントを突然中止するようなケースが。
―結構ありますね。
KTR 増えてきましたよね。イベント興行全体の売り上げは、すごく伸びているらしいんです。イベントを開催する人も増えている。音楽業界の中でも、イベント興行が一番儲かる、マネタイズにつながると考えられて、お金を持っている企業が投資する。でも、うまくいかないですよね。「お客さんが集まらないから中止します」というのは、もうバッドエンドじゃないですか。そういうケースが最近、すごく増えている気がします。
―テレビ局をはじめ、いろいろな企業がイベントをやりたがりますからね。
KTR そうですね。だから、「どのフェスもブッキングが同じじゃないか」とか、「ロックフェスなのにアイドルを出すな」といった論争が起きやすいんじゃないですか。それは、主催者の顔が見えていないからです。主催者の思想が分からないので、観客も言いたい放題になってしまう。出演するアーティストがかわいそうですよね。どんなイベントであっても、アーティストはそのイベントに賛同したうえで出演するわけじゃないですか。
―もう少し長い時間軸で考えたとき、5年後、10年後にどのような変化が生まれていたら、「GOATをやってよかった」と思えますか?
KTR トレンドの変化は、すごく激しいですよね。ただ、そのトレンドが変化する一歩手前の世代が、今GOATに出てくれているバンドだと思うんです。今出演している子たちが、10年後にはトレンドの中心になっている可能性も十分にある。先見の明というほどではありませんが、今の若い子たちが持っている種が、5年後、10年後に旋風を巻き起こすための芽になると思っています。そこが楽しみですね。そういう意味でも、GOATという旗を掲げて、5年、10年と続けてみたいという気持ちはあります。もちろん、GOATだけではなく、いろいろなイベントをやっていくつもりです。ただ、一つの名前を掲げて継続的にやっていきたいと思っているイベントは、今のところGOAT以外にはありません。単発でやりたい企画は、ほかにもいくつかありますけど。
―そこまで見据えて無料イベントを開催していることが、すごいと思います。ほかに、そこまで考えてイベントを作っている人は、あまりいない気がします。
KTR そもそも、この業界には表に立つ裏方が少ないんですよ。メディアに出たがらないというか。そういう意味では、自分自身がメディアになることも、新しい軸の一つだと思って7年前にYouTubeを始めました。自分が表に出て、自分名義のイベントを自分でプロモーションしていく。なるべく自分自身でメディアを担うことも、GOATの一つの姿勢です。GOATには、オフィシャルのSNSアカウントがありません。自分のアカウントでGOATの告知をしています。そこはREDLINEとは違う点ですね。主催者の顔が、よりはっきり見えるようにしているんです。来てくれるお客さんにも、出演してくれるバンドにも。オフィシャルアカウントは、誰が動かしているのか分からないじゃないですか。中の人が何人もいるかもしれない。GOATでは、それをやめてみようと思いました。オフィシャルアカウントは作らず、「自分が主催者で、すべての責任を持ちます」ということを明確にする。そのほうが、お客さんも安心して来られると思うんです。顔の見えるイベントであることは、今後、より大事になると思っています。
KTR pre.「GOAT」Ⅳ
2026年9月1日(火)Spotify O-WESTOPEN 17:30 / START 18:30
出演:AFTERVOID、JUBEE & DA RAP ROCKERS、SATOH、SECRET GUEST
料金:無料(入場時別途ドリンク代)
https://goat-web.net/


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