3月15日、サファリ・ラリー・ケニア最終日で、勝田貴元(トヨタ)がWRC初優勝。日本人ドライバーの制覇は故・篠塚建次郎氏以来で、34年ぶり2人目の快挙
WRC最高峰クラスで日本人史上初の2連勝!!一気にシリーズの主役へと躍り出た勝田貴元(たかもと)。
* * *
【快挙ではない。歴史的な事件だ!】――FIA(国際自動車連盟)が主催し、市販車をベースに公道で争われる世界最高峰のモータースポーツ、それがWRC(世界ラリー選手権)です。いよいよ第7戦「ラリージャパン2026」(5月28~31日/愛知県・岐阜県)が開催目前となりました。
そこで今回は、ABEMAでWRC無料生中継のメイン解説を務め、本誌でもおなじみの自動車研究家・山本シンヤ氏に話をお聞きします。ズバリ、最大の見どころは?
山本 問答無用で、今年のラリージャパンの主役は勝田貴元選手。何しろ3月の第3戦サファリ・ラリー・ケニアで総合優勝。"世界一過酷"と呼ばれるあのサファリで、です。有力ドライバーが次々と脱落する中での勝利でした。
――山本さんは現地で取材されていたんですか?
山本 僕はラリーの裾野であるラリーチャレンジ(ラリチャレ)の取材を終え、ホテルでライブ中継を見ていたんですが、正直、感動でひとり泣きましたね。
――サファリ・ラリーでの総合優勝は1995年の藤本吉郎選手以来、日本人として31年ぶりの快挙。さらにWRC総合優勝となると、92年の篠塚建次郎選手以来34年ぶりとなります。
山本 藤本選手が勝った当時のサファリは、WRCに正式に組み込まれていなかったので、少し表現が複雑になります。ただ、いずれにしても勝田選手にとってはこれがWRC初優勝でした。
――歴史的快挙であると。
山本 これまで何度も序盤でいい位置につけながら、アクシデントで脱落する悔しさを味わってきました。その長い挑戦の末に手にした"重たい1勝"だったと思いますね。
GRヤリス・ラリー1が宙を舞う。長年トップカテゴリーで戦い続けてきた勝田が、過酷なサバイバルラリーをねじ伏せにかかる
――しかも、勝田選手の勢いは止まりませんでした。
山本 続く第4戦クロアチアでも総合優勝。最終日の最終SS(スペシャルステージ)でトップを走っていた選手がアクシデントに見舞われ、結果的に勝利する形でしたが、そもそも2位を死守し続けていなければ起きなかった結果ですよね。
――粘りに粘っていました。
山本 これで日本人初となるWRC最高峰クラスでの2連勝。さらにポイントリーダーにも浮上しました。
日本人ドライバーが名実共にシリーズの中心に立っている。これは快挙というよりも、"歴史的な事件"。このニュースを大きく扱わないメディアがあったら、僕はメディアじゃないと思います(笑)。
――ここまでを振り返ると、勝田選手はかなり異色のキャリアの持ち主です。
山本 祖父も父もラリードライバーという家系ですが、本人は最初からサーキット育ち。11歳でカートを始め、18歳でFCJ(フォーミュラチャレンジ・ジャパン)王者、20歳で全日本F3ランキング2位。純粋なスピードに関しては、最初から一級品でした。
モータースポーツ界を揺るがす歴史的瞬間を刻んだ勝田。コックピットに収まるや否や、視線は完全にバトルモード。そこに迷いは一切ない
――ラリー転向は2015年ですか?
山本 正式に公表したのはその年ですが、実はラリーデビューは12年の新城ラリーです。このとき一緒にラリーデビューしたのが、"モリゾウ"ことトヨタの豊田章男現会長です。
――あ、そうなんですか!
山本 その後13年、14年にもスポット参戦し、クラス優勝も経験。
――そこからのキャリアは?
山本 18年にWRC2初優勝、19年に最高峰クラスへ昇格。21年にはサファリで27年ぶりとなる日本人2位表彰台、22年は年間ランキング5位。派手さはないけれど、確実に階段を上ってきた選手ですね。
サファリ・ラリー・ケニアでは悪路と泥濘路でライバルが脱落していく中、勝田は持ち前の冷静さと堅実な走りでトラブルを回避し、首位を手にした
――そして今年、ついに花開いたわけですか?
山本 僕は長年取材してきましたが、実はこれまでも何度も勝利のチャンスはありました。ただ、いい位置にいながらアクシデントで脱落することが多かった。それでも彼は常にポジティブで、自分を信じ続けた。その積み重ねが、今年一気に結果として表れたと感じています。
――技術、判断力、メンタルがすべて噛み合った状態?
山本 そうですね。豊田氏が「努力して結果が出なくても"経験"は残る」と語っていたとおり、まさにその経験が今につながっている。ちなみに「努力して結果が出ると"自信"になる」とも言っていますが、勝田選手は今、まさにそのフェーズにいます。
――好循環が生まれていると。
山本 ただ、ラリーはドライバーひとりの競技ではありません。コドライバー、エンジニア、メカニックを含めた総合力が問われる。
4月12日、クロアチア・ラリー。泥や岩が牙をむき、強豪が次々と脱落するサバイバルの中、勝田は走りを高次元でコントロールした
――なるほど。
山本 その点、勝田選手は人望が厚い。チーム内はもちろん、ライバルチームのドライバーからも慕われ、「タカのためなら」と思わせる力があるんです。
――となると、ラリージャパンは特別な一戦になります。
山本 はい。"34年ぶりの日本人ウイナー"として迎える母国ラウンドですから。昨年は速さを見せながらも不運がありましたが、今年は立場が違う。
――そうですね。
山本 勝田選手の目標はただひとつ。
――大会そのものも進化しているそうですね。
山本 今年は秋から春開催に移行し、オープニングセレモニーが初めて名古屋中心部で行なわれます。
名古屋城周辺をWRCマシンが全開で駆け抜ける。その光景は、日本ラリー史にとって象徴的なシーンになるはず。競技としてもイベントとしても、記憶に残る大会になってほしい。
クロアチア・ラリー制覇。勝田は前戦からの連勝でランキング首位へ。いずれも日本人初、その走りで歴史を塗り替え、いざ母国凱旋
――つまり、舞台は整った?
山本 あとは"主役"が何を見せるかだと思います。
――山本さんは現地で取材されるんですよね?
山本 今年もABEMAで無料生中継の解説を担当しますが、スタジオは東京なんです(苦笑)。なので、競技前に現地でしっかりインプットしてきます!
●山本シンヤ Shinya YAMAMOTO
自動車研究家。
写真提供/TOYOTA GAZOO Racing



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