去る6月11日、公正取引委員会が、マンション大規模修繕工事をめぐる談合を認定し、長谷工リフォームや清水建設子会社など38社に排除措置命令を出す方針を固めた。課徴金は計16億円にのぼる。
関東地方の複数マンションを対象に、工事価格や受注者を事前に調整していたとされる。
国土交通省によれば、築40年超のマンションは現在約148.5万戸。2043年にはその数が約3.4倍の463.8万戸に達すると予測されている。全国704万戸超のストックに対し、実際に建て替えられた実績は2025年3月時点でわずか323件だという。老朽化したマンションで何が起きているのか。

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マンションが直面する 「2つの老い」。法改正も追い風にはならず……

修繕工事を巡って業者が談合に走る背景には、マンション大規模修繕という「巨大な市場」があるが、大きな別の問題もあって、マンション再生コンサルタントの山本侑介氏はこれを「2つの老い」と表現する。

「建物の老朽化と住民の高齢化が同時進行しており、築40年超マンションに住む世帯主のうち70歳以上が約半数を占めています。修繕積立金を建築資材の高騰に合わせて2~3倍にしたくても、年金暮らしの高齢者には払えない。修繕したくても金が集まらない。そういう現場が増えています」

設備配管が室内を通る古い構造では、そもそも修繕自体が困難なケースも少なくない。漏水が起きても保険では賄いきれず、部分補修だけでやり過ごす「延命処置」が常態化しているマンションは珍しくない。


建て替えに必要な合意形成のハードルも高い。区分所有法では原則として区分所有者と議決権の各5分の4(80%)以上の賛成が必要だ。2026年4月施行の法改正で、耐震性不足など一定の客観的事由がある場合に限り4分の3(75%)に緩和されたが、現実はなかなか動かない。

「建て替えの話を持ち出すと、地上げ屋が来たと思われるんです。まず修繕の限界を理解してもらうところから始めて、そこから建て替えの選択肢が視野に入る。合意形成まで早くて5~6年、検討開始から20年かかるマンションもあります」

好立地なら建て替え後に戸数を増やして保留床を売却し、事業費を賄うスキームが成り立つ。だが郊外ではデベロッパーも採算が合わず参入しない。建て替えすら「選択肢に入らない」物件が全国に大量に存在しているのが現実だ。法改正は追い風ではあるが、それで動くのは好立地の物件だけという現実は変わっていない。これが全国の高経年マンションの大多数が直面している「詰んだ状況」の正体だ。

廊下で全裸の老人、エレベーターには謎の水たまり

廊下に全裸の老人、エレベーターに尿…“住人のいる廃墟”と化す老朽マンションの惨状。修繕も建て替えも進まないワケ
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約500世帯を管理している不動産コンサルタントの大島海氏は「古い物件と高齢住民は比例する」と話す。

たとえば騒音トラブルでは、高齢者は一日中家にいるため生活音に敏感になり、隣の若者の来客を「契約違反だ」として管理会社に内容証明を送りつけてくることもある。

また、「猫の鳴き声がうるさい」と言い続け、両隣と上下の部屋を調査した結果、誰もペットを飼っていなかったということも……。


「登記簿謄本でオーナーの住所を調べて直接、内容証明を送りつけてくるんです。若い頃に頭の回転が速かった人がそのようにしてくるので、始末が悪い。横浜の築60年アパートでは、高齢男性が全裸で廊下に寝転がっているのですが、声をかけても会話が成立しない。警察も半笑いで『どうにもなりませんね』といって帰っていくんです」

また、廊下が「トイレ状態」になることがある。エレベーターに「小便禁止」の張り紙がある物件があるが、「張り紙があるということは、過去にそういう事案があったということ。高齢の生活保護受給者が入居している階では、正直よくあります」と大島氏は言う。

孤独死が「当たり前」になりつつある物件も増えている。遺品の引き取りを求めても遺族が対応することは稀だ。管理会社としては多額の原状回復費が発生するが、補填の仕組みはほぼない。

「入居者も、管理会社も高齢。以前88歳の方が一人でやられていた管理会社を引き継いだら、事務所に現金と書類が山積みになっていました」(大島氏)

理事会を牛耳られ、管理費を使い込まれる

廊下に全裸の老人、エレベーターに尿…“住人のいる廃墟”と化す老朽マンションの惨状。修繕も建て替えも進まないワケ
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悩まされているのは管理者側だけではない。理事会を占拠する「老害」に困り果てているのが首都圏のマンションに住む河合さん(50代男性・仮名)。


「住民の大半は理事会の会合にすら参加せず、『理事会に全て委任します』という紙をポストに投函するだけ。出席して裏で示し合わせた数人組がいれば採択を簡単に牛耳れる。それを利用しているのが、うちのマンションに巣食う老害グループです。最初は蛍光灯のLED化という小さな案件でした。当時の理事会長でグループのリーダー格だったA氏が大手3社の見積もりを取ったうえで、『知り合いの方が安くできる』と3社より少し低い額を後出しで提示してきたんです。コストダウンになるんだからとすんなり通り、工事も一応無事に終わりました」

問題はその後に行われた「管理会社の再検討」。費用が高かった大手管理会社を外し、A氏の身内企業が管理会社に収まってしまった。

「以来、設備交換から小規模修繕まで、『知り合いが見積もりより少し安くできる』という手法で全て身内へ受注させる流れになっていきました」

さらに、A氏反対派だった理事会メンバーに“悲劇”が降りかかった。

「丁寧に手入れしていた庭に、ハトの餌が撒かれるようになったんです。朝から鳩が押し寄せ、洗濯物は汚され……。結局こちらが折れ、老害グループの独壇場に。そして今は大きな問題にはなっていませんが、近く大規模修繕が控えているんです。
今の流れのまま身内の小さな企業が受注し続けるかと思うと不安で、引っ越しも本格的に考え始めています」

そんな中、稀に管理費と修繕積立が合わせて5000円ほどという破格の物件が存在する。管理費と修繕積立が異常に安い物件は、管理会社が介入していない「自主管理物件」だが、実態はほぼ無管理だ。

住民の木下さん(60代男性・仮名)は「理事会もろくに開かれないので、みんな『自分がやらなくていいなら』と全権委任してしまっていたのは反省しています」としながら、次のように語る。

「そこにひょっこり現れたのが、善意の顔をした老害Bです。Bはマンションの掃除やゴミ片づけなど目に見えることをこれ見よがしにこなすので、住民から感謝されたりもしていた。しかし、Bの死後に管理を引き継ぐため不動産会社が口座残高を確認すると、数百円しかなかったそうです。遺族に請求しようにも相続放棄されて終わりました」

後継の管理会社が仕方なく管理費と修繕積立を緊急値上げすると、今度は年金暮らしの高齢住民が滞納し始め、「管理もしてないくせに払えるか」「なんで気づかなかったんだ」などと逆上したという。

こうした「住人のいる廃墟」は今後も増え続けるるのだろうか……。

【山本侑介氏】
マンション再生コンサルタント。一級建築士事務所、AK建築設計代表。関西を中心に、これまでに年間45棟以上、累計300棟以上の分譲マンションの大規模修繕と修繕コストの削減、再生を手掛ける

【大島 海氏】
不動産コンサルタント。地方銀行にて個人融資業務に従事した後、不動産業務を開始。
宅地建物取引士、D-Relife代表。マンションの管理代行ほか、古民家民泊運営のコンサルなども行う

<取材・文/週刊SPA!編集部 イラスト/子原こう>
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