なぜ、世界と戦うトップアスリートが、マルチに仕事をする道を選んだのか。独自のキャリアを歩む彼女の思いや今後の目標について話を聞いた。
ホテルの料理人からフットサルの世界へ
松本さんがサッカーを始めたきっかけは、通っていた幼稚園のサッカークラブだった。もともとは体操教室に通っていたそうだが、次第に「サッカーをやりたい」と思うようになり、気づけばのめり込んでいたという。「中学・高校時代は学校の部活ではなく、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースU-18というクラブチームに所属し、サッカー一筋の生活を送っていました。当時はプロになることを夢見て、『なでしこジャパンに入りたい』というのを目標に、日々サッカーに打ち込んでいましたね」(松本さん、以下同)
ただ、高校3年生で全国大会への出場を果たしたのを最後に、一度サッカーに区切りをつけた。調理師免許を取得するため専門学校へ進学。卒業後はホテルに就職し、料理人としてのキャリアを歩んでいたある日、転機が訪れる。
「フットサルチームの監督をしている知人から『ちょっと遊びに来ない?』と声をかけてもらったことがきっかけで、少しずつフットサルをやるようになりました。
ホテルで働いていたこともあり、頻繁には行けなかったのですが、少しずつボールを蹴る時間が増えるうちに、『やっぱり楽しいな』という気持ちが強くなっていきました。そこから本格的にフットサルの道へと進むことになったんです」
急遽回ってきた大舞台で、チームを優勝に導く「劇的ゴール」
しかし移籍後の2年間はなかなか結果が出ず、苦悩の日々が続いたというが、「もっとフットサルを深く学びたい」という強い思いから、2021年に現在の「バルドラール浦安ラス・ボニータス」の門を叩いた。
「バルドラール浦安に加入して感じたのは、周囲のレベルの高さでした。
そのため、1年目はなかなか試合に出ることができず、悔しい思いもたくさんしましたが、自分を信じて努力を続けることだけは忘れずに、日々練習に打ち込んでいましたね」
そんななかで大きな転機となったのが、1年目のシーズン終盤に行われたリーグ優勝を懸けたプレーオフだった。
「当時、自分と同じポジションの選手が体調不良となり、急遽私に出番が回ってきたんです。大舞台ということもあって、すごく緊張していたんですが、『このチャンスを絶対に掴みたい』という強い気持ちで試合に臨みました。
その結果、ゴールを決めることができ、チームの優勝にも貢献できたんです。まさにそれまで積み重ねてきた努力が、最高の形で報われた瞬間でした」
輝かしい実績の裏で「三足のわらじ」を履く理由
全日本選手権やアジアカップでの優勝経験のほか、2025年に史上初の開催となった「FIFAフットサル女子ワールドカップ フィリピン2025」では日本代表に選出されるなど、一気に才能を開花させたのだ。
その一方で、現在はフットサル選手に加え、フリーランスでスポーツアパレルブランド「punto(プント)」の企画・運営、企業の採用広報という「三足のわらじ」を履いているという。
なぜ、日本代表に選ばれるだけの実力があるのにもかかわらず、マルチに活動しているのだろうか。
松本さんは、「フットサル選手として競技を続けながら、SNSでの発信を地道に積み重ねてきたことが、活動の幅を広げるきっかけになった」とし、次のように理由を語る。
そこから競技活動だけに枠をはめず、フットサル以外の分野にも挑戦したいと考えるようになり、活動の幅を広げていきました」
好きなことを続けられるのは当たり前ではない
アパレルブランドの立ち上げの背景には、「スポーツアップサイクル」への深い関心があるという。その現状を知るなかで、松本さんは「本当だったら廃棄されるものに、新たな価値を吹き込む取り組みに強く惹かれた」と話す。
採用広報の仕事では、アスリート採用に力を入れている企業でキャリア支援を担っている。「競技を続けたい一方で将来のキャリアが不安」「競技と仕事をどう両立すればいいかわからない」といった葛藤を抱えるアスリートに対し、多様な働き方やキャリアの選択肢を伝えながら、一人ひとりと向き合っているという。
こうしたなか、フットサル選手というのは、「プロになっても食べていくのが難しい」といわれている。
“好きなことを仕事にしたい”という思いがあるのに対して、現実的には収入面の課題もあるなど、そこには理想と現実のギャップがあるわけだ。
この点について、松本さんはどのように考えているのだろうか。
「好きなことを仕事にするのは簡単ではありませんし、好きなことを続けられること自体が当たり前ではないと思っています。だからこそ、今こうして競技に打ち込める環境への感謝は絶対に忘れたくないですし、その想いを原動力にフットサルに取り組んでいます。
もちろん、競技をやっている以上はプロとしてフットサルだけで食べていけるのが理想です。ただ、現実がそうではない状況のなかでも、『三足のわらじ』を履くことで得られる成長やメリットもたくさんあると実感しています」
さらに競技生活を続けながらも、並行して引退後のキャリアを視野に入れた準備も進めていくそうだ。
好きなことを仕事にし、それを継続することは決して容易ではない。
そうした現実を受け止め、挑戦を続ける姿に、彼女ならではのブレない“生き方”が映し出されているのではないだろうか。
<取材・文/古田島大介>
【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
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