この話を語ってくれた矢内大輝さん(仮名・28歳)によると、学生時代に、商業施設の巡回警備アルバイトで不可解な恐怖体験をしたという。
「その商業施設の警備は、大雑把に分けると、売り場や通路などのお客さん用のエリアと、バックヤード系、それに地下にある駐車場に分かれていました。その地下駐車場での話です」
常時点灯される「謎の立ち入り禁止区画」
地下駐車場は数百台が止まれる広い面積を有していたが、その一角に他とは扱いが異なるエリアがあったのだという。「地下駐車場の奥にある『A-17』という区画だけは、なぜか常に金属製のチェーンが張られていて、立ち入り禁止になっていたんです。一般客はもちろん、施設関係者も立ち入れない場所でした」
ただ、そうしたエリアを設けることは一般的に珍しいことではない。ダクトや点検口があったり、消防車の侵入路になっていたりと、構造上の理由で利用禁止のエリアが設けられることもあるそうだ。
「利用禁止エリアの存在自体はおかしくはないんですが、『A-17』には不可解な点がいくつかあったんです。例えば、日誌です。業務日誌に『A-17、異常なし』とそのエリアだけ個別に書くことが義務付けられていました。ただ、具体的な確認方法はマニュアルにも記載がなく、社員に聞いても『目視で確認して問題なければそれでいい。何かあったら報告するように』としか言われていませんでした」
他にも不可解な点があった。
「駐車場の照明はいくつかのエリアをまとめて消灯できる仕組みでしたが、『A-17』の上部にある照明は個別に切り替えられるようになっていて、常時点灯が義務付けられていたんです。消灯後の真っ暗な駐車場の奥で、そこだけがぽつんと照らされている光景は、正直かなり異様でした」
チェーンを解除したら、強い口調で叱られた
勤務を始めて2カ月ほど経ったある夜、矢内さんが地下駐車場を巡回していた時のこと。「『A-17』のチェーンが外れて、地面に落ちているのを見つけたんです。
翌日、矢内さんは施設の管理担当者から個別に呼び出されたそうです。
「いつもは温厚な担当者が、見たことがないくらい厳しい顔で、『今後は絶対に自分で対処しようとするな! 今後は本部に報告しろ!』と言われました。理由は一切説明されず、なんでそんなに強い口調で言うんだろうと不思議に思いました」
停電時の暗闇に浮かぶのは…
それから数カ月後のある日の夜。激しい雷雨により地域一帯が停電した。この日、巡回警備にあたっていた同僚が異様な光景を目にすることになる。「その日、同僚は懐中電灯を持って地下駐車場を見回っていたんですが、停電で『A-17』の照明も完全に消えていたそうです。何か嫌な予感がしながら、ライトを向けたところ、区画の真ん中あたりに、真っ黒な人型のようなものが立っていたというんです」
それは影が実体化したような姿をしていたという。
「同僚は、恐怖で足がすくみながらもその場から離れて、すぐに上層部へ報告したんですが、社員と共に待機室で待つよう指示を受けたみたいで。その後、深夜にもかかわらず施設の管理責任者が、見慣れない男性数人を連れて足早に現場へやってきたそうです。ただ、同僚は現場に立ち会うことを許されず、地下駐車場で何が行われていたのかは分からずじまいでした」
防犯カメラに映る「同僚の不可解な行動」
数週間後、矢内さんは別件で過去の防犯カメラのバックアップ映像を確認することになった。その際に、あの日の映像も目にすることになった。「停電が復旧した後の映像でした。その映像に地下駐車場の通路をひとりで歩き、『A-17』の方向へゆっくり近づいていく、同僚らしき警備服姿の人物が映っていたんです。その人物は、チェーンを超えて区画の中に入り、同僚が黒い人物が立っているのを見たと言っていた場所まで行くと、そこで呆然と立ちつくしていました。
だが、その時刻は同僚が待機室にいた時間と完全に一致していた。待機室には同僚の他に社員も一緒におり、日誌にも二人ともその時間は一歩も部屋を出ていないと記録されている。
「映像に映っていた同僚らしき人物の映像は変に歪んでいて、不安定な感じでした。普段は人があんな風に映ることはないので、怖くなって途中で止めて上に報告したんです。『確認作業はそれ以上しなくていい。こちらで確認する』と言われたんですが、その後、何の連絡もなく、しばらくした頃にどうなったか報告した社員に聞いてみましたが、知らぬ存ぜぬで報告自体が無かったことになっていました」
警備を外された同僚が残した、謎の言葉
同僚への扱いも不可解だったという。「あの後、同僚は理由も告げられない状態のまま地下駐車場の警備から外されたうえに、日勤への異動を命じられたんです。それからはシフトが減っていき、それからしばらくした頃に『辞めた』と聞かされました」
その同僚とは、プライベートでも遊ぶ間柄だったため、矢内さんは連絡を取ることにしたが……。
「電話をかけても出ず、メッセージを送っても既読スルーされて返信はありませんでした。ただ、しばらくした頃に1回だけ、『あれに関係することとは関わりたくない』というメッセージが届きました。ですが、それっきりです。その後いくら連絡してもつながらず、メッセージも既読にすらならなくなりました……」
禁止事項とされている事柄の中には、我々の理解が及ばない種類のものも存在しているのかもしれない。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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