TBS系「サンデージャポン」やYouTube番組「ReHacQ」でお馴染みの経済思想家・斎藤幸平氏。53万部のベストセラーとなった著書『人新世の「資本論」』(集英社)では「脱成長コミュニズム」を唱え、新たな社会像を提言した。
そんな彼に、過酷な資本主義社会に日々、晒される現役世代の生きるヒントを聞いてみた。

脱成長は「働かなくていい」ではない

「住宅ローンは諸悪の根源」経済思想家・斎藤幸平がバッサリ。タ...の画像はこちら >>
斎藤 SPA!の読者が私の話に興味ありますかね? 扶桑社はフジサンケイグループで右寄りだし、「反社」、反社会主義ではないのですか。

――いえいえ、資本主義社会で擦り減っている斎藤さんと同世代の読者も多いんです。

斎藤 実は私、擦り減ってる感覚がわからないんですよ。

――あれほど多忙なのに?

斎藤 自分でやりたくてやってますから。多忙でも資本主義社会で消耗しているとは必ずしも言えないわけ。

――斎藤さんといえば「脱成長」(※)を唱えられていますが。

斎藤 「脱成長なのに働きすぎだ」とよく茶化されますが、脱成長も社会主義も「働かなくていい」という主張ではありません。資本主義の歯車に巻き込まれず、自分の大切なことに時間を使える社会を目指すものです。やりたいことが多ければ忙しくもなる。逆に、無限の資本増殖のため、意義を見いだせない仕事に人生を費やす今の社会こそ、おかしいとは思いませんか。

――では、ReHacQの高橋プロデューサー(※)からの急な出演オファーにも、意欲的に臨んでいると。

斎藤 まあいつも、そこまで意識高いわけでもないですが(笑)。
とはいえ、ReHacQは立場の違う論客とか視聴者と対話する貴重な機会なので大切にしてます。今はリベラルや左派が嫌われているから、立場の違う人々にリーチして主張を届けないと、ますます弱体化していくから。この間は読売テレビの「そこまで言って委員会NP」(※)に出演しましたけど、そういう場には積極的に出るようにしてます。だって、今は本を書いたって誰も読まないので。社会主義を世に広めるのは大変なんですよ。

「テクノ資本主義」の独裁はすでに目の前

――それでも、斎藤さんの『人新世の「資本論」』は約50万部超のベストセラーです。

斎藤 発売された’20年はコロナ禍で読書する人が多く、エッセンシャルワーカーやSDGsへの関心も高かった。脱成長が時代に響いたのでしょう。でも今はYouTubeすら長く感じ、ショート動画やTikTokを眺め続ける人もいる。GoogleやAppleのようなデジタルプラットフォーマーには、理想的な社会でしょうね。

――コロナ禍以降、デジタルシフトは加速しました。

斎藤 現役世代はリモートワークで仕事と私生活の境目が消え、チャットやオンライン会議に追われている。仕事以外でもSNSやサブスクに時間を奪われ、そこで生まれたデータを基に、さらに利用させるアルゴリズムが磨かれる。
巨大企業に時間と情報を握られる環境を、私はテクノ資本主義(※)と呼んでいます。

――私たちの行動がプラットフォーマーの養分になると。

斎藤 そう。しかも、ジョージ・オーウェルの『1984年』(※)のように強権的な統制や監視に息苦しさを感じるわけでもなく、「いいね」が欲しくて自ら個人情報を差し出し、楽しみながら独裁を支持している。さらにアメリカでは、テック富豪が政治と結びつきました。イーロン・マスクは民主的な手続きを経ず、トランプとの関係からDOGE(政府効率化省)(※)を主導し、政府組織の再編や歳出削減に関与した。日本も決して他人事ではありません。

――政治系のショート動画が選挙に与える影響も問題視されていますね。

斎藤 選挙が完全に操作されているとは言いませんが、収益目的の粗製濫造動画がバンドワゴン効果(※)を生み、結果に影響している。民主主義の根幹である選挙まで、テクノ資本主義に飲み込まれているわけです。問題に気づいても、生活にプラットフォームが入り込みすぎて利用をやめられない。テクノ独裁からの逃げ道も塞がれています。


「AI失業」は社会を変えるチャンス

「住宅ローンは諸悪の根源」経済思想家・斎藤幸平がバッサリ。タワマン購入者も“真の負け組”と語るワケ
「資本主義の歯車に巻き込まれず、自分の大切なことに時間を使う」
――最近は仕事にAIを使うのが一般的になりましたが、「かえって疲れる」という声もあります。

斎藤 AIを道具として使うか、AIに使われるかの違いでしょう。前者は発想や効率化に生かせるけど、後者は思考を委ねて技能を失う。そこに能力格差が生まれ、虚しさにつながるんじゃないですか。

――AIが数秒で出力した資料を、何時間もかけて修正していると虚しくなります。

斎藤 そういう状況をマルクスは疎外(※)と呼びました。本来は道具だった物に使われ、仕事の自律性を失う状態です。私が忙しくても消耗しないのは、自律性を守り、やりたいことに時間を使っているからです。

――では、AIに疎外されている人々は、どうすれば?

斎藤 そんな仕事は辞めるべきでしょ。

――身も蓋もないですね(笑)。

斎藤 AIに疎外される仕事を、人間が担う必要はないということです。コンサルや投資家などのブルシットジョブはどんどん置き換えればいい。一方、農業や配管工などのエッセンシャルワーカーは代替しにくく、もっと評価されるべきです。
アメリカでは配管工の年収も上がっている。そうした仕事を目指す選択肢もあるでしょう。

「住宅ローンは諸悪の根源」経済思想家・斎藤幸平がバッサリ。タワマン購入者も“真の負け組”と語るワケ
舌鋒鋭く現役世代への喝を入れる斎藤氏
――実際には、リスキリングや副業で淘汰されないように足掻き、さらに消耗する人が多数派です。

斎藤 副業は労働時間を増やすだけなので勧めませんが、リスキリング自体は悪くない。問題は、主導権を資本の側が握り、都合のいい技能を労働者に押しつけることです。社会に必要な職業を公的に養成し、例えば農家への転身を支援する職業訓練校を作る。技能を私たちの側に取り戻せれば、AI失業やリスキリングブームは、資本主義に楔を打つ機会になります。

現役世代には期待していない

――ホワイトカラーからエッセンシャルワーカーへの転職には勇気がいります。住宅ローンがあれば返済計画にも影響が出ます。

斎藤 住宅ローンは諸悪の根源ですよ。40年、50年先まで働き続ける契約で、仕事も辞めにくくなる。資産価値の高い物件への集中は、周辺の家賃も押し上げる。
パワーカップルがタワマンを買っても、都内では70平米前後で、子供を育てる空間もない。一見勝ち組でも、資源を消費し、社会の再生産を妨げているという意味では負け組です。

――AI失業に怯え、リスキリングブームに煽られ、住宅ローンに働かされ続ける。現役世代の未来は暗そうです。

斎藤 資本主義は再生産を犠牲にしてでも金儲けをさせるシステムです。NISAやタワマンの含み益で恩恵を受けていても、子供を諦めたり、住宅ローンを50年も抱えてたりする。真の意味では幸福には、なれないですよね。

「住宅ローンは諸悪の根源」経済思想家・斎藤幸平がバッサリ。タワマン購入者も“真の負け組”と語るワケ
「住宅ローンは諸悪の根源ですよ」
――現役世代は、どうすれば資本主義社会の苦しみから抜け出せますか。

斎藤 難しいかもしれません。なぜなら、現役世代は資本主義の常識の中で何が欲しいか、どんな人生を送りたいかまで固めてしまっているじゃないですか。今さら抜け出すのは難しいでしょう。

――打つ手なしですか?

斎藤 すぐには難しいでしょう。
むしろ、社会主義により強く共感するのは、資本主義社会に人生を取り込まれていない人。すなわち、若者と高齢者ですよね。

――アメリカでは社会主義に共感する若者が増えているとは言いますよね。

斎藤 アメリカの格差は日本とは桁違いだし、ハーバードやスタンフォードを出た若者たちも、AIに就職先を奪われている。彼らが「社会主義しかない」と立ち上がるのは自然です。その流れは遅かれ早かれ日本にも来るでしょう。

――現役世代は高市政権の支持率が高く、社会主義には親和性は低そうですが。

斎藤 でも、私は「愛国左翼」を自称しているし、そういう人たちと現状認識が重なる部分はあるんですよ。例えば、参政党支持者が日本の閉塞感や将来不安に怒る点には共感する。ただ、「日本人ファースト」や「強い日本を取り戻す」という解決策には同意しません。

――では、資本主義社会に追い立てられずに生きるアドバイスはありますか。

斎藤 デモに行ってもいいし、労働組合に入ってもいいし、森林保全の運動に参加するのもいいんじゃないですか。要は、資本主義社会の外側に少しでもいいから出ててみ、何らかの活動をすれば良いと思います。それも嫌ならば、没落する社会の中で粛々と崖の向こうに落ちていくしかないのかもしれません。
編集部おすすめ