東大に入れば人生安泰――そんな世間のイメージとは裏腹に、在学中や卒業後の人生で挫折に直面する東大生は少なくない。在学中にうつ病を発症した女性、「東大卒キャリア」へのこだわりから卒業後に転職を繰り返した男性などの告白から、「闇落ちする東大生」の実態を探った。

自身を「弱者男性」と揶揄する元東大男子

「東大卒なのに地方勤務か…」プライドが邪魔して転職4社。“勝...の画像はこちら >>
「自分は、東大のなかの『弱者男性』だと思っています……」

その言葉が藤田優哉さん(仮名・30代前半)の口から飛び出したとき、一瞬耳を疑った。東京大学経済学部を卒業したのち、金融・コンサル企業数社に勤め、現在は金融系企業で正社員として働く藤田さん。端正な顔立ちの既婚者で、世間では「勝ち組」と目されてもおかしくないスペックだ。

一体どこが「弱者」なのかを聞くと、彼は「自分は転職歴も多く、年収も高くはない。一流企業に勤める東大時代の同級生たちのキャリアに見劣りを感じざるを得ません」と言う。

中高一貫校の男子校から、東大に現役合格。順風満帆な人生が傾き始めたきっかけは、就職活動だったと振り返る。

「成績は振るわず、サークル活動にも熱心に取り組んでこなかった。官庁、民間を絞らずに最大手企業の募集に飛びついた結果、企業研究もできず、面接では何十社と落とされました」

大手の金融系企業に入社した後も、「東大卒」のプライドはついてまわった。

「新卒入社後、地方配属となったのですが『東大出て地方勤務か……』と感じました。本社勤務になっても、人事評価が芳しくなく、昇進ができなかった。『これは東大卒のキャリアではない』とどこかで思ってしまい、転職を決めました」

その後も転職を繰り返し、今勤めている会社で4社目。自分の人生をどこで誤ったのか、「東大ダルマT」という名前でnote記事を発信している。


「メディアに出てくる東大卒業生は、一握りの成功者に偏りがち。人生の過ちをあえて晒すことで、東大だけが人生の選択肢ではないことを伝えたい」と話す。

桜蔭→東大文Ⅰ合格も、司法試験で人生の歯車が狂い始めた元東大女子

「東大卒なのに地方勤務か…」プライドが邪魔して転職4社。“勝ち組”のはずだった元東大生が語る人生の誤算
新倉和花さん。学部卒業時に撮影したもの(写真=本人提供)
「東大卒なのに地方勤務か…」プライドが邪魔して転職4社。“勝ち組”のはずだった元東大生が語る人生の誤算
現在の新倉さん。’23年春に日本プロ麻雀協会のプロテストに合格、現在は競技麻雀大会の予選や本戦に出場する
次に紹介する新倉和花さん(28)は、東大在学中にうつ病を発症した過去を持つ。女子御三家の一つ、桜蔭中高の出身で、生徒会副会長も務めた。東大入試本番の数学は満点と、絵に描いたような「負け知らず」の人生だった。

検察官が将来の夢だったことから、文科I類入学と同時に司法試験の予備校にも入学する。しかし、そこでの学習は、受験勉強ほどスムーズには進まなかったという。

「司法試験の勉強は受験勉強と違って、明確な成果が感じにくかった。オンラインの授業動画が毎週9時間分配信されて、ちょっと怠ると雪だるま式に溜まって行ったんです」

大学2年生で司法試験の予備試験を受けるが、不合格。さらに同年の夏には実の父親が末期がんで余命半年と宣告される。

「夜中に眠れず、食欲もなくなり、大学3~4年は1日20時間くらいをベッドの上で過ごしていた。後々心療内科に足を運ぶことになり、そこで『うつ病』と診断を受けました」

学部卒業後は早稲田大学の法科大学院に進学するがやはり勉強に身が入らず、ある日の帰り道にふと、大学院近くの麻雀荘に足を伸ばした。だが、結果的にはそのことが、進路転換のきっかけになった。


「東大卒なのに地方勤務か…」プライドが邪魔して転職4社。“勝ち組”のはずだった元東大生が語る人生の誤算
弟が麻雀漫画に熱中したことがきっかけで、高校時代から家族で麻雀をしていたという新倉さん。その趣味が、勉強に意欲が湧かず「闇落ち」していた自身を救う契機となった(写真:AdobeStock)
「麻雀打ちには、仕事も学歴も関係ない。『法曹になることが人生の全てじゃない』と視野が広がり、大学院を辞める決心がつきました」

今は教育関係の企業に勤めながら、週末に麻雀プロとして活動を行う。「大学に入学するまで思い描いた通りの人生を歩んで来れてしまっていたがゆえに、そこから降りられなかった。だけど離れてみると、今のほうがよっぽど毎日が楽しい」と、晴れやかな表情で過去を振り返る。

「東大卒なのに可愛くない」学歴を武器にしたアイドルを待ち受けていた現実

「東大卒なのに地方勤務か…」プライドが邪魔して転職4社。“勝ち組”のはずだった元東大生が語る人生の誤算
「東大卒なのに地方勤務か…」プライドが邪魔して転職4社。“勝ち組”のはずだった元東大生が語る人生の誤算
2024年9月に行われた「なつぴなつ生誕祭」ライブでのなつぴさん。満面の笑みで歌って踊る姿が輝いていた(撮影=松岡瑛理)
新倉さん同様、平日は会社員として働きながら、週末にはセルフプロデュースのアイドルグループ「学歴の暴力」のメンバーとして活動するのが、なつぴなつさん(30)だ。「東大卒」をフルに活かした人生にも見えるものの、「アイドル活動は、挫折の連続だった」と打ち明ける。

AKB48に憧れ中学生の頃からオーディションを受けるも書類が通らず、学歴という「武器」を求めて東大工学部に入学。修士課程まで進んだのち、地方のTV局に就職し報道記者となった。同時期、「学歴の暴力」としても活動を開始。「メンバー全員が旧帝国大学の卒業生」という異色の経歴で注目を集めたが、その分のバッシングも激しかった。

「ネットでは『東大卒なのに可愛くない』など、見た目への誹謗中傷が多かったです。特に悪質と思われる書き込みに対しては、開示請求も行いました。
職場のチャットでも『東大卒の癖してアイドル活動してる』といった嘲笑的な書き込みがされているのも偶然目にし、心が病みました」

「東大卒なのに地方勤務か…」プライドが邪魔して転職4社。“勝ち組”のはずだった元東大生が語る人生の誤算
取材時のなつぴなつさん
SNSでの「尖り発言」を臆さないキャラクターで、ライブに行けば自分の色のサイリウムが一つも見当たらないときもあり、「人気のなさを感じた」とも打ち明ける。メンバーとも話し合い、「学歴の暴力」としての活動は’27年3月で一時休止することに決めた。現在、次の目標とするのが「結婚」だ。Xで結婚相手を募集し、3人と交際に進んだが、いずれも破局し、結婚相談所で活動している。

「相手に求める条件は『MARCH』以上で年齢プラスマイナス5歳。高卒が悪いとは思いませんが、育ってきた環境が違いすぎて戸惑いはします。学歴へのこだわりが、婚活のハードルを上げている側面があることは否めません」と苦笑いする。

三者のような挫折経験は「能力が高い東大生にこそ起こりがち」と分析するのは、自身も東京大学の卒業生であり、100人以上の東大生に取材を行ってきた教育ライターの布施川天馬氏だ。

「東大入学に限らず、入学後、卒業後と競争は続きます。全てのレースに勝ち、経済的成功を収められるのは卒業生全体の数パーセントですが、成功者ばかりに目を向け、20代以降の人生を『迷走』する方は少なくない印象です」

では「東大卒」の肩書に振り回されないためには、何が必要なのだろうか。

「例えば海外での学会発表歴、受賞歴など学歴以外に拠り所となる『軸』があるかは大きい。それがないと、転職や昇進などで結果が出せないときに『不当な評価を得ている』と感じやすくなるのではないでしょうか」

東大生の多くは、大学入学まで人生を上向きに歩んでいる。
「負け知らず」だからこそ、卒業後の人生で挫折が生まれやすいことは、知られていい。

布施川天馬(ふせがわてんま)
著述家、教育ライター。1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を編み出し、一浪の末東大合格を果たす。著書に最小コストで結果を出すノウハウを体系化した『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』など

<取材・文・撮影/松岡瑛理>

【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san
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