人馬の信頼関係が特に問われる障害レース。それは人と馬だけではない。

新潟ジャンプS・JG3(8月15日、新潟・障害3250メートル)に出走するブラックボイス(牡7歳、父ブラックタイド)の坂口智康騎手=美浦・尾形和幸厩舎=と浅利英明調教師は、特別な思いを胸に重賞初制覇を目指す。

 助手から異例の転身を遂げた障害ジョッキーをサポートすると決めたのは、騎手になる夢をつかめなかった指揮官だった。「若い頃に目指したけど、自分はなれなかった。途中で騎手になった坂口くんを応援したいと思ったし、努力していることも知っていたので」。誰も切り開いてこなかった状況を打破し、騎手デビューした24年の1年後に浅利厩舎が開業すると障害戦は全レースで坂口騎手を起用。言葉通りに全面バックアップ態勢を取っている。

 坂口騎手にとって忘れられない言葉がある。「お互いが助手時代の頃から(浅利師は)馬乗りの技術、調教助手としての業務、人間性において率直にすごい方だなと思っていました。そのような方から『坂口くんの可能性にかけてみたい』と笑顔で言ってもらえたことがすごくうれしかった」と障害の主戦となったエピソードを明かす。恩を最大限に感じているだけに「これだけ依頼をいただいているのに、もう一歩のところでなかなか結果を出せず、申し訳ない思いしかありません」と、11戦でまだ勝利へ導けていない結果を誰よりも悔しがっている。

 1年前に喉を手術したブラックボイスに3走前から騎乗し、5、4、3着と1歩ずつ前進。前走の東京ジャンプSでは、強豪ジューンベロシティなどがいる好メンバーの一戦で健闘した。

「浅利厩舎とノーザンファーム天栄の現場スタッフの皆さんが話し合いながら馬具や調教を工夫してきた結果だと思います」と振り返る坂口騎手は12日に美浦・Wコースの追い切りに騎乗。「先週しっかり負荷をかけた効果もあり、1段上がった感触でした」と上昇ぶりに手応えをつかんでいる。

 コンビ初勝利がお互いの重賞初制覇となれば、これ以上ないドラマチックな結果になる。休日返上で牧場や乗馬クラブに足を運び騎乗技術を高めるなど、上達のための努力をいとわない鞍上の姿を見てきたトレーナーは「研究もしているし、努力もしている。それが報われるとは限らないけど、報われることはしているし、報われるべき」とレース以外の姿勢も評価する。

 坂口騎手は「チャンスがあると言っていただけるようなブラックボイスに乗せていただき、関わる全ての関係者の皆様に感謝したいです。僕が意識することは経験値も実績もあり、競馬を分かっているブラックボイスが気持ち良く走れるように邪魔をしないこと。精いっぱい頑張ります」とレースへの意気込みを話した後には感謝の思いが自然とあふれ出た。「平地経験のない異例の経歴の僕を乗せるのはすごく責任や負担が増えてリスクが高かったと思います。僕を起用し続けてくれている先生の懐の大きさには頭が上がらない。恩返しをしたい先生です」と言葉に力を込めた。

 半弟のロブチェンは皐月賞日本ダービーを制して、種牡馬ワールドプレミアの名声を一気に高めた。

今度は兄が努力を惜しまないジョッキーとそれを支えるトレーナーに脚光が浴びるような走りを見せる。(浅子 祐貴)

編集部おすすめ