サンマルクカフェ小山典孝社長インタビュー
サンマルクカフェは現在、ブランドの転換点を迎えている。
2025年には新業態「サンマルクカフェ&茶」を始動し、アジアのお茶をテーマとした新たなカフェ体験を提案。さらに、創業以来初めてモーニング・ランチセットを刷新した「あさマルクカフェ」「ひるマルクカフェ」を全国展開するなど、時間帯ごとの利用価値向上にも取り組む。
中期経営計画では2029年度370店舗体制を掲げるが、小山典孝社長は「店舗を増やすというより、一度整理した店舗数を元に戻す感覚」と表現する。その背景には、コロナ禍で約100店舗を閉店し、不採算店舗の整理を進めてきた経緯がある。
第二創業期を掲げる同社は、何を変え、何を守ろうとしているのか。小山社長に出店戦略、「サンマルクカフェ&茶」の狙い、商品開発、組織改革、そして現場への思いを聞いた。
小山典孝(こやま・のりたか)氏
日本ケンタッキー・フライド・チキンで商品企画、店舗開発などを歴任。2025年に株式会社サンマルクカフェの代表取締役社長に就任。「第二創業期」を掲げ、ブランド改革を進めている。
2029年度370店舗は「店舗を増やす」のではなく、店舗構成を本来の姿へ戻す
――2029年度370店舗体制という目標を掲げています。
小山社長
370店舗という数字だけを見ると積極出店のように映るかもしれませんが、私たちの感覚としては「店舗を増やす」というより、一度整理した店舗数を元に戻すという考え方です。
コロナ前は400店舗近くありましたが、駅前の固定家賃型の路面店を中心に採算が悪化し、約100店舗を閉店しました。
その結果、不採算店の整理が進む一方で、相対的にショッピングセンター店舗の比率が高くなりました。
現在は整理がおおむね終わり、事業として健全な状態になってきましたので、路面店を再び増やし、店舗構成を元のバランスへ戻していこうという考えです。
年間20店舗程度の純増を積み重ねれば、2029年度370店舗という目標は十分現実的だと考えています。
■路面店は営業時間を自分たちで設計できる。だから伸びしろが大きい
――今後は路面店を中心に出店を進める考えですが、その狙いと、路面店の強みについて教えてください。
小山社長
路面店の強みは、施設の営業時間の制限があるショッピングセンターと違って営業時間を自分たちで決められることです。
例えば朝6時、7時から営業し、通勤客に合わせて店を開けることができます。
夜もまだ伸びしろがあります。サンマルクカフェは昼や午後の利用イメージが強いですが、夕方から夜の時間帯にカフェで少し仕事をしたいという需要もあります。
電源やWi-Fiを設置し、一人席やカウンター席を増やすことで、これまで取り切れていなかった利用シーンも取り込める。そう考えると、路面店にはまだ大きなポテンシャルがあると思っています。
また、過去に出店したことがあるエリアなら、店舗の売上データなどが残っているため、立地の検証がしやすく、新規出店のリスクを抑えられることがあります。
ただ、以前と同じ店を作るだけでは意味がありません。そこで、新たな需要を取り込むため、「サンマルクカフェ&茶」の実験を段階的に進めています。
最初の実験店舗となった「サンマルクカフェ&茶 イオン相模原SC店」では、お茶メニューそのものの需要を検証しました。その成果を踏まえ、「サンマルクカフェ&茶 目黒東口店」と「サンマルクカフェ&茶 新宿御苑前店」では、注文を受けてから調理するサンドイッチをはじめとしたフードやドリンクを組み合わせ、路面店で戦える新たな店舗フォーマットの実証へとステージを進めています。現在は、その初期検証の段階です。
「サンマルクカフェ&茶」で30代女性を開拓 コーヒーを飲まない人も一緒に来店できるブランドへ
2025年に始動した「サンマルクカフェ&茶」は、ブランド改革の象徴ともいえる存在だ。
既存の「サンマルクカフェ」で提供してきたチョコクロやドリンクなど主力商品はそのままに、「黒糖タピオカ凍頂烏龍ミルクティー」や「ジャスミンフルーツティー」といったアジアのお茶や紅茶などのティーメニューを加えている。
小山社長は、「単にお茶を売りたい」のではなく、「来店理由を広げたい」と話す。
■「サンマルクカフェ&茶」は第二の商品資産を育てるブランド
――「サンマルクカフェ&茶」を始めた狙いを教えてください。
小山社長
従来のサンマルクカフェは40~50代女性のお客様が中心でした。もちろん大切なお客様ですが、一方で、新しい世代のお客様を十分取り込めているかという点には課題がありました。
そこで挑戦しているのが「サンマルクカフェ&茶」です。
テスト店舗では30代女性のお客様が増えています。一番大きいのは、コーヒーを飲まない方でも利用しやすくなったことです。
「私はコーヒーが苦手だから行かない」ではなく、「一緒に行こう」と思っていただけるブランドにしたい。
サンマルクカフェにはチョコクロという非常に強い商品資産がありますが、「&茶」はそれに続く第二の商品資産を育てる挑戦でもあります。
販売している商品はアジアンティーや紅茶などティーカテゴリーですが、ブランド名は「&Tea」ではなく「サンマルクカフェ&茶」としました。
「茶」という漢字はアジア圏でも伝わりやすく、日本発ブランドとして海外展開も意識しています。
小山社長によると、今後の路面店は基本的に「サンマルクカフェ&茶」の屋号で展開する方針だという。
イオン相模原SC店でのお茶メニューの需要検証や、目黒東口店、新宿御苑前店で進めてきた路面店フォーマットの実証で得られた知見を取り入れながら、「&茶」をベースとした新たな店舗コンセプトへ進化させていく考えだ。
一方で、従来の「サンマルクカフェ」がなくなるわけではない。370店舗体制では、約4割を「サンマルクカフェ&茶」とし、残る店舗は従来ブランドを維持する方針だ。ただし、従来型店舗についても現在の形をそのまま残すのではなく、売れ筋商品に絞った「高効率タイプ」としていく構想も描いている。
■次に狙うのは子育て世代
――今後さらに取り込みたい客層はありますか。
小山社長
「サンマルクカフェ&茶」で増えている30代のお客様は、お子さんがいる世代でもあります。
子どもをターゲットにしたいというよりも、子ども連れでも利用しやすい店舗づくりを進め、親世代に選ばれる店にしていきたいと考えています。
今秋からキッズメニューも見直し、来年に向けて実験を進めていきます。お茶だけではなく、利用シーンそのものを広げていきたいですね。
■「あさマルクカフェ」「ひるマルクカフェ」で利用シーンを広げる
ブランド改革は店舗フォーマットだけではない。今年4月からは時間帯別施策として「あさマルクカフェ」(390円~)「ひるマルクカフェ」(550円~)を開始した。さらに、毎月30日にチョコクロ9個が30%オフになる「サンマルクカフェの日」もスタートしている。
――新しい販促施策の手応えはいかがですか。
小山社長
「あさマルクカフェ」は対象店舗がまだ限られていますが、セット率は予定通り上がっています。昼についても初動としては悪くありません。
これまではドリンクだけ利用されていたお客様にも、ホットサンドやチョコクロ、エッグタルトなどを一緒に楽しんでいただきたい。
コンビニで昼食を買っても500円では難しい時代です。なので500円台からランチメニューがあることをもっと伝えていきたいですね。
「サンマルクカフェの日」も当初は「チョコクロ9個は多いのでは」という声がありました。
静岡の店舗では、高校生3人がチョコクロ1箱をシェアしている様子も見られました。私たちはテイクアウト需要を想定していましたが、お客様自身が新しい利用方法を作ってくださる。
ブランドは企業だけで作るものではなく、お客様と一緒に育っていくものなんだと改めて感じました。
「変えること」が目的ではない
就任から約1年。小山社長は、この1年を「現状を見つめ直し、足元を固める一年だった」と振り返る。
サンマルクカフェは約10年にわたり、大きなブランド転換を行わず、不採算店舗の整理を進めながら事業を維持してきた。その結果、新規出店や新たな挑戦を経験する社員が限られ、組織全体としては「守り」に軸足を置く空気が強まっていたという。
だからこそ、小山社長が最初に取り組んだのは、新しい施策を次々に打ち出すことではなく、現場の声に耳を傾け、社員が再び挑戦できる土台を整えることだった。
――改革を進める上で大切にしている考え方は。
小山社長
私は何か特別な改革をしたという認識はありません。
この一年で取り組んできたのは、外食企業として本来大切にすべきことをもう一度見つめ直し、「そこまでやらなくてもいい」「自分たちの仕事ではない」と、いつの間にか線を引いてしまっていた部分にも改めて向き合うことでした。
例えば、サンマルクカフェの看板商品であるチョコクロです。
「定番だから変えてはいけない」という空気も一部にはありました。しかし、大切なのは今のお客様のニーズに合わせて価値を高め続けることです。変えること自体が目的ではありません。
従業員が「従来の方が良い」と自信を持って言えるものは守り、改善すべきものはためらわずに見直す。その積み重ねが、ブランドを長く支持していただくための土台になると考えています。
■挑戦したい人が、組織を前へ動かす
そうした組織づくりの象徴として始めたのが、マーケティングや商品開発などの新たな部門への社内公募制度だ。
従来のように会社が異動を決めるのではなく、「挑戦したい人」に自ら手を挙げてもらう方式を採用した。
小山社長
守りの経営から攻めへ転じるには、これまでとは違う発想やスキルも必要になります。ただ、それは外から人を連れてくるだけではなく、社内にも必ず原石があると思っていました。
そこで、マーケティングや商品開発を強化する際には、「やってみたい人は手を挙げてください」と募集しました。
実際に昨年の社内公募では多くの応募がありました。営業や店長として現場で経験を積んできた社員も、自ら希望して挑戦しています。
現場が大変だから本部へ行きたい、ということではなく、「この仕事をやりたい」という意思を持った人が集まってくれたことが、とても大きかったですね。
私は、一人のリーダーが組織を引っ張るよりも、意欲のある人たちが先頭集団となり、その輪が少しずつ広がっていく組織の方が強いと思っています。
だから私は、一人で引っ張るというよりも、みんなで前へ進む組織をつくりたいと考えています。
■「答えは現場にある」
インタビューを通じて印象的だったのは、「答えは現場にある」という現場主義の考え方だ。
――小山社長は現場を重視されていることが伝わってきました。
小山社長
私はオンラインで話を聞くよりも、実際に店舗へ足を運ぶことを大切にしています。
もちろん分析データも見ますし、営業レポートにも目を通します。ただ、それだけでは分からないことがあります。
店舗へ行くのは、レポートを確認するためではなく、自分の仮説を確かめるためです。レポートだけでは把握しきれない現場の実態も少なくありません。
神奈川県内では同じ店舗へ何度も足を運んでいます。同じ店を見続けると、小さな変化が見えてきます。例えば、ポスターの位置が変わっているだけでも、「現場で何か変化があったのではないか」と新たな仮説が生まれます。
――実際に現場に足を運ぶことで、なにか判断を変えたことはありますか。
大阪で「サンマルクカフェ&茶」の実験店を新規出店した際、営業側から「オペレーションが大変なのでメニューを減らした方がいいのではないか」という声があり、私自身もそう考えたことがありました。
ところが実際に店舗を訪れると、現場のスタッフからは「もう慣れました」「今メニューを変えられる方が困ります」という声が返ってきました。
その言葉を受けて、メニューはそのまま続けることにしました。実験店ですから、最初は全部やってみないと何が売れるか分かりません。結果として売れ筋とそうでない商品も見えてきましたし、改めて「答えは現場にある」と感じました。
■KFCで学んだ「ピープルビジネス」
――日本ケンタッキー・フライド・チキンでの経験は、現在の経営にどのように生かされていますか。
小山社長
私の考え方の大半は、KFC時代に培われたものです。一番大きいのは「人」の考え方です。
KFCでは「ピープルビジネス」という言葉を大切にしていました。「人」なくして事業は成り立ちません。これは今も変わりません。
ただ、サンマルクカフェにも今まで積み上げてきた歴史や文化があります。だからトップダウンで全てを一気に変えるのではなく、実験店で成功事例を作り、それを横展開していく。
時間はかかりますが、その方が最終的には強い組織になると思っています。
「第二創業期」の入り口に立つ
――最後に、この変革期をどう位置付けていますか。
小山社長
今年は第二創業期の入り口です。店舗数もようやく減少から微増へ転じました。無理やり店舗を出店すれば店舗数は増えますが、店舗数至上主義にはなりたくない。閉まらない店をどうやって作るかということが大事で、そのためには人がすごく大事です。人の成長には時間が必要なので、長期的な目で見ています。後から振り返ったとき、「ここがV字回復の起点だった」と言われる一年にしたいと思っています。
もちろん楽な道ではありません。難しい選択も続きます。
それでも今年は、成長軌道へ乗る最初の一年だと考えています。
コロナ禍で約100店舗を閉店し、守りの経営を続けてきたサンマルクカフェ。その再成長を支えるのは、「サンマルクカフェ&茶」や時間帯別施策といった新たな挑戦だけではない。
現場に足を運び、社員の声に耳を傾け、人が育つ仕組みを整えながら、「閉まらない店」を一つずつ積み上げていく――。小山社長が掲げる「第二創業期」の本質は、店舗数の拡大ではなく、持続的に成長できるブランドづくりにある。
サンマルクカフェは今、新たな成長ステージへの一歩を踏み出している。









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