二カ月前、5月29日、世界初の完全養殖ウナギのかば焼きの販売が始まり話題になりました。今日は、ウナギの完全養殖成功までの、謎に挑んだ長い道のりのお話です。

ウナギは、天然での生態のほとんどのことが分かっていないと言われますからね。

どういうメカニズムで卵が育って産卵するのかは全く不明!!

完全養殖するためには、まずは卵を取る必要があるわけですが、例えばメダカは飼っていると、お腹が大きくなって産卵します。しかし、ウナギは人の飼育下では、卵が大きくなったことがなかった。当然産卵もしない。卵のもとになるものは持ってるはずのに・・・。

卵が無ければ完全養殖は始まりません。ただ、2009年に東大などの研究チームが、日本からおよそ2500キロ離れたマリアナ海溝で、二ホンウナギが産卵しているのを突き止めました。これで卵の謎の解明に向かったのかと思ったのですが・・・。

完全養殖ウナギの卵期の担当者、水産技術研究所の主任研究員、樋口健太郎さんのお話です。

国立研究開発法人「水産研究・教育機構」 樋口健太郎さん

「日本の川からマリアナ海溝までどういうルートで泳いで行くのかとか、その間にどういうメカニズムで卵が発達して産卵してるのかっていうのは、現時点においても全く不明です。

一般的には卵を産ませるには、卵を産んでくれるのに適した環境にしてあげるっていう方法と、卵を成長させるのに必要なホルモンだったりを投与してあげて、人為的にそれを促進するっていう方法と大きく分けて二つあるんですけれども、天然のウナギの生態っていうのが、全く未知だったので、人為的に成熟を促進させるっていうアプローチを取って、で、実際に作ったホルモンを週に一回、二カ月くらい投与を続けると、きちんと卵が成熟して、きちんと産卵に至ったというのが、これまでの研究の成果になってます。

ホルモンで成熟をコントロールできるっていうことは、つまり卵を計画的に取れるっていうことなんですよ。それは、今までおっきいハードルだった反面、解決できたからこそ、逆に今はアドバンテージになってるっていうことですね。」

どこで卵を産むかは分かりましたが、その生態については、今もって全くの謎なので、天然の環境を再現するのは無理と考え、別の方法で研究しました。

卵を成長させるホルモンを、ウナギから採取して増やして、それを投与することで、ついに、お腹の中で卵が育ち、産卵したのです!

これにより、この日にシラスウナギが欲しいという要望に合わせることも可能に!

完全養殖ウナギ 謎に挑んだ40年!の画像はこちら >>
<翌日が採卵日という親ウナギ 上から見てもお腹の辺りが卵で太くなっています(水産研究所南伊豆庁舎にて撮影)>
完全養殖ウナギ 謎に挑んだ40年!
<ふ化して5日目の仔魚 ほそ~い!小さい!水の流れに漂うように身を任せています(水産研究所南伊豆庁舎にて撮影)>
完全養殖ウナギ 謎に挑んだ40年!
<この水槽に5日目の仔魚がたっっくさん入っています!(水産研究所南伊豆庁舎にて撮影)>

マリアナ海溝でふ化して、日本沿岸に着いた時はシラスウナギ。その間は何もかもが謎!!

卵を取ることが出来るようになったので、次のステージ。

卵がふ化して赤ちゃんウナギが生まれます。これを仔魚と言います。稚魚は子ども、仔魚は赤ちゃん。みなさんご存知のシラスウナギからが稚魚です。

この仔魚からシラスウナギまでの担当、水産技術研究所主任研究員、里見正隆さんのお話です。

国立研究開発法人「水産研究・教育機構」 里見正隆さん

「マリアナ海溝で産まれましてふ化しました。で、海に放出されて黒潮に乗って日本とか台湾とか、ご存知のシラス(ウナギ)の状態になって来るわけですが、この間、一緒に付いて泳いでる人いないので、何を食べてるか、どこの深さが好きとか全く分からないわけなんですね。だから、どのくらいの温度が良いのかとか潮の流れがとかっていうのは実験出来るわけなんですよね。で、エサも同様に実験したわけですよね。

これ、何を食べればいいのかなと。

片っ端から思いつくモノあげてたと思うんですけども、30年くらい前ですかね、たまたまですけど、アブラツノザメというサメの卵をバラシてあげると寄ってって食べたと。これでやっと育てられるという段階まで到達したんですね。ただ、その後300日かかるわけですから、研究ではどんなに高いエサでもどんなに入手困難でもそれで良いわけですけど、量産が必要。ですからエサの開発も必要になってくると。それが達成できたので、年間に何万匹っていう生産が可能になったわけですね。」

ふ化に成功しても、今度はエサも分からなかったんです!

片っ端から試して、たまたま見つけたのがアブラツノザメの卵を細かくしたもの。これに、栄養素を足して第一号のエサが完成。しかし、希少だし高い。そこで、今ではアブラツノザメではなく、鶏卵に栄養素を足して、量産用のエサを完成させています。

完全養殖ウナギ 謎に挑んだ40年!
<ふ化45日水槽のエサやり まだ小さいので柔らかめの粘度のエサです(水産研究所南伊豆庁舎にて撮影)>
完全養殖ウナギ 謎に挑んだ40年!
<ふ化200日水槽のエサやり ずいぶん固めになりました エサを食べる仔魚が見えますか?(水産研究所南伊豆庁舎にて撮影)>

また、この仔魚の状態から、数日でガラッとシラスウナギっぽい形に変態するのですが、これも謎。

最初は、300日でも400日でもただ大きくなるだけでちっとも変態しない日々が続きました。変態が早かった親同士をかけ合わせたり、エサ止めしたり試行錯誤していま、200日くらいでなんとか変態してくれるようになってきています。しかし自然では逆算すると150日くらいとみられ、まだまだ、分からないことだらけ、ということでした。

完全養殖ウナギ 謎に挑んだ40年!
<ふ化45日目の仔魚 少し大きくなりましたね!(水産研究所南伊豆庁舎にて撮影)>
完全養殖ウナギ 謎に挑んだ40年!
<ふ化200日の仔魚 柳の葉のように平らでひらひらとした形になります まもなく変態する時期です(水産研究所南伊豆庁舎にて撮影)>
完全養殖ウナギ 謎に挑んだ40年!
<こちらがシラスウナギ シュッと細くなり、ウナギっぽいニョロニョロした動きもするようになります 写真提供:山田水産>

日本人のウナギ愛に応えるため、日本の食文化を守るため、コスト度外視で頑張ってます!!

とにもかくにも、様々な試行錯誤を経てできたシラスウナギが、世界に誇る養鰻技術で育てられ販売されたわけですが、その反響と今後について。ウナギ養殖・加工大手の山田水産の山田信太郎社長のお話です。

山田水産株式会社 代表取締役 山田信太郎さん

「よく売れたっていうか、もう数少なかったんで瞬殺でしたね。一発ですぐ無くなりました。美味しいですよ(笑)。いやあ正直ここまでとは思ってなかったんですけど、やっぱみなさんウナギに対する期待だとか、ウナギの未来っていうことに非常に興味を持ってくださって、嬉しくもあり、逆に、もっと増やさなきゃいけないなって使命感も感じました。

山田水産としてはですね、数をまず増やすことが大事だと考えてますんで、2028年には10万尾のシラスを世の中に出せるように。今が一万尾なんで、その10倍を作り出すと。あとは、僕たちはやっぱり研究施設ではなくて魚屋なんで、大事なのは人工ふ化した完全養殖のウナギが美味しいかどうかなんですね。なんで、完全養殖の美味しいかば焼きを作るっていうところを、どんどん突き詰めていきたいなと思ってます。

やっぱりウナギに対する愛って日本人すごい強いんですね。丑の日だけじゃなくて、明日大事な仕事があるとか、今日ちょっと疲れたなとかいう時に、じゃあウナギでも食べて元気になるか!って、絶対日本の食文化の中で必要なものなので、これを未来につなげるために、もうコストとか利益とかそういうの考えずに取り組んでるところです。」

今回販売された完全養殖ウナギは5000円前後でしたが、コストに基づいたら数万円になってしまうと山田社長。

しかし、長い研究の成果を、とにかく手に取って食べてほしいと思い、採算度外視で付けた値段だそうです。

完全養殖ウナギ 謎に挑んだ40年!
<こちらが完全養殖ウナギのかば焼き 美味しいですよ!と山田社長>

完全養殖ウナギ、足かけ40年の研究は、まだまだ続きます。

多くの研究者の努力と養殖成功への思いをつないだ研究のバトン、そして養鰻会社のウナギ愛の詰まった「完全養殖ウナギ」。

食べてみたい!!!と思っているのですが、今年の分は完売。来年まで楽しみに待ちたいと思います。

TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』より抜粋)

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