みなさんは、鉄道会社としておなじみの「京急電鉄」が三浦半島に広大な社有林を所有していることをご存知でしょうか? 豊かな自然を守るためスタートした「みうらの森林(もり)プロジェクト」。伐採した木を京急久里浜駅などのベンチや、アオリイカの産卵床として活用するユニークな取り組みとともに、「ゴンチャ ジャパン」などのパートナー企業が参画し、持続可能な取り組みに向けて活動を広げつつあります。
今回は、普段は立ち入ることができない「みうらの森林(もり)ワークデイ」に潜入! 鉄道事業だけではない京急電鉄の“知られざる別の顔”と、三浦半島で進む環境保全の最前線を徹底レポートします。
「みうらの森林(もり)プロジェクト」とは?
京急電鉄は2023年から、三浦半島に保有する約100ヘクタールの社有林を健全に管理・育成し、生物多様性の維持やCO2削減(カーボンニュートラル)を目指す「未来につながる森づくり」を行っています。
50年以上放置されていた森林を、間伐などの管理をしながら再生。間伐材を利活用するとともに、逗子市などを拠点とする親子のための遊びの学校「原っぱ大学」と協働し、子どもも大人も遊びながら関わり合える場を創出。広大なフィールドと社宅の空きスペースを活用した企業研修なども実施。「環境保全を通じ、人と自然が健やかにつながる未来をつくる」ことを目的とし「地域資源を再生し、豊かな体験を生み出し続ける」というビジョンをもとに活動しています。
間伐材はどのように利活用されているの?
社有林が手つかずの状態だった頃は、近隣に接する住宅に枝葉が越境してしまった際など必要に応じて伐採をしていましたが、伐採した木は産業廃棄物扱いとなり、処分をするにもコストがかかっていました。「お金を払って処分していた間伐材をどうにかして活かしたい」という思いが、このプロジェクトに込められています。
みうらの森林(もり)で伐採した間伐材は、薪として活用したり、木質チップとして横須賀バイオマス発電所に売却して地域の電力として活用したり、タンブラーなどを製作して製品化したりと、さまざまな方法で利活用しています。
【活用例1】京急久里浜駅と追浜駅のベンチに
間伐材の一部は、地元工務店に加工や製品化を依頼し「みうらの森林(もり)ベンチ」を製作。京急線の追浜駅の上下ホームや、京急久里浜駅の改札内コンコースに設置しています。
【活用例2】アオリイカの産卵床に
取材時、ワークデイに参加していた三和漁業協同組合 城ヶ島支所長 石橋英樹氏は、城ヶ島沖に生息するアオリイカの産卵床として、みうらの森林(もり)で伐採した木を活用する取り組みを進めています。
近年、地球温暖化により海水温が上昇している影響で、海藻がなくなり海底が砂漠化する「磯焼け」という現象が発生しています。
間伐による森林再生の取り組み
「せっかく手間をかけるのであれば、森林を管理することでよりよい場所にしていきたい」という思いから、林道の整備も進めています。取材時には、京急グループ社員の手づくりだという小道にも遭遇しました。
秦野市森林組合が協力のもと、1年で約100メートルずつ林道の整備を進めているそうで、適切なエリアで間伐を行うことで、鬱蒼としたみうらの森林(もり)に陽光がもたらされるように。人の手を加えることで、人にとって明るく心地よい林道になるのはもちろん、日光と養分を得て草木が健全に成長し、動植物の生息環境も創出します。
2024年「森林共創パートナー事業」をスタート
京急電鉄は2024年11月に第1期森林共創パートナーの募集を開始し、現在は第2期の活動がスタートしています。「みうらの森林(もり)プロジェクト」が目指す「未来につながる森づくり」に共感するパートナー企業とともに、「森づくり」の当事者として森・里山づくりなどに参画。三浦半島の豊かな自然環境へ理解を深め、三浦半島の暮らしと京急電鉄の新たな取り組みが循環していくことを目指しています。
第1期森林共創パートナーとの取り組み
京急電鉄と一緒に森の整備に関わる「第1期森林共創パートナー」として、2024年11月~2025年12月までの1年間、その志に共感してさまざまな業種の4社・延べ321人がプロジェクトに参画。里山再生に貢献する平日の「ワークデイ」と、自由に触れ合う休日の「オープンデイ」を毎月1回、交互に開催してきました。
ゴンチャ ジャパンによる茶畑づくりやアイン保育園によるツリーハウスの設置、三浦観光バスを中心として行うビオトープづくり、イー・エージェンシーの発案による自然農法の畑に向けた土の研究など、さまざまな活動を実施してきました。
四季を通じた活動により、自然とのつながりを学ぶ場となっています。
「みうらの森林(もり)ワークデイ」を体験!
里山再生を楽しみながら試行錯誤できるプログラム「みうらの森林(もり)ワークデイ」に筆者も参加しました。取材時は京急グループ(京急電鉄・京急百貨店・京急不動産・京急開発・三崎観光)から22名、ゴンチャ ジャパンから11名が参加しました。
今日の作業内容を確認
まずは「原っぱ大学」ガクチョーの塚越暁氏から、今日の作業内容について説明を受けました。1日の予定を把握したら、最初の作業に入ります。
焚火の準備でウォーミングアップ
まずは火の準備に取り掛かります。焚火はワークデイの恒例行事。初参加・初対面のメンバーも多いなか、試行錯誤を繰り返しながら共同作業を行い、火を囲むことでコミュニケーションが自然と深まります。
ゴンチャ ジャパンは来月の植樹に向けた準備を
ここからは山に入り、各自作業を開始します。ゴンチャ ジャパンは翌月、1年に一度の社員総会をみうらの森林(もり)で実施する予定。115名の社員が訪れ、100本のお茶の木を植樹することが決まっており、その準備として硬い土を約70センチ掘り起こす作業をメインに行いました。
京急グループは沼の管理に従事
京急グループは、沼の管理に取り掛かりました。堆積した底泥の除去や水草の刈り取りが主な作業。水分をたっぷりと含んだ泥状の土は想像以上に重く、陸に運び出す作業は重労働ですが「いつかは蛍がいるような場所にしたい」という目標を胸に作業を進めます。
ランチタイムは地元の弁当に舌鼓
作業が一段落したところでランチタイム。葉山ひじきのアヒージョごはんや、新玉ねぎと新じゃがのスペイン風オムレツなど、どれもホッとする味わいでした。
労働の後の食事は格別。つかの間の休息を堪能していました。
午後も作業を継続。その成果は?
午後も作業を継続。成果が目に見えて分かると苦労が報われた気持ちになります。
作業終了! 成果報告とともにゴンチャで乾杯!
作業が終わったら、各チームともに成果を報告。実り多い一日となったことを確認した後、恒例行事になりつつあるというゴンチャのドリンクで乾杯! 疲れた体に甘いドリンクが染み渡りました。
「森林共創パートナー」の思い
第一期、第二期と続けて「森林共創パートナー」に参画しているゴンチャ ジャパン。その経緯と活動内容について、ゴンチャ ジャパン ピープル&カルチャー部 葛西康弘氏に話を伺いました。
Q「森林共創パートナー」参画のきっかけは?
代表の角田が原っぱ大学の塚越氏と旧知の縁であったことから「森林共創パートナー事業」の取り組みを知りました。ゴンチャのチャレンジ精神に通じるところがあったため、参画することに。「みうらの森林(もり)にお茶を植えてみよう」という話になりました。
Q実際にお茶づくりを始めてみて、感触は?
通常、お茶の生育には7年ほどの月日が必要ですが、今回はお茶の苗を植えて3年かけて収穫することを目指し、まずは畑づくりを開始しました。2025年5月に苗を植えて、2ヶ月に1回作業をしてきましたが、実は約4分の1が枯れてしまいました。水やりの頻度が足りなかったこと、土壌がお茶づくりに適していなかったことが原因だと考えられるため、今回は肥料を入れて土壌改良を実施。いずれは「みうらの森林(もり)産」のお茶が作れるよう、日々奮闘中です。
Qワークデイには誰が参加している?
ワークデイにはゴンチャの店舗の社員と本部の社員、合わせて約10名が参加しています。希望者に足を運んでもらうとともに、毎月2~3名程度の新入社員が入社しているため、新人には一度体験してもらうようにしています。
「みうらの森林(もり)プロジェクト」のこれから
「みうらの森林(もり)プロジェクト」の実施は、京急グループにどのような効果をもたらしているのでしょうか。今後の展開も含め、京浜急行電鉄 新しい価値共創室 広報担当 佐野泰氏に話を伺いました。
Q「みうらの森林(もり)プロジェクト」を通じて得たものは?
「みうらの森林(もり)プロジェクト」を通じ、森林の管理や間伐材の利活用を行うとともに、社員同士の交流の場としても活用しています。例えば、昨年は総合職の新入社員研修の一環として、みうらの森林(もり)に集合。水鉄砲バトルや宝探しなどで「森林(もり)」を実際に体験してもらった後、みうらの森林(もり)をどのように活用すべきかチームごとにプレゼン・発表してもらいました。社員にとっては配属が決まる直前というタイミングでしたが、和気あいあいと楽しく活動している様子でしたし、同期同士の結束が高まるきっかけになったのではないかと思います。
Qこれからの目標は?
目下の目標は、パートナー企業を増やし、お金のかかる山の維持・管理を持続性のある取り組みとすることです。また、2030年までに、陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようという、国際会議で採択された環境保全目標「30by30」への貢献に向け「自然共生サイト」の認定取得を目指しており、みうらの森林(もり)プロジェクトの活動を通じて情報を蓄積していく計画です。
鬱蒼としていた森に光が差し込み、生き物たちの息吹が戻り始めている「みうらの森林(もり)」。企業が手を取り合い、泥くさくも楽しげに汗を流す姿からは、鉄道会社の枠を超えた地域への深い愛情が感じられました。
普段何気なく利用している駅のベンチや、窓の外に広がる三浦半島の緑。
文・写真:斎藤若菜
鉄道チャンネル編集部
(旅と週末おでかけ!鉄道チャンネル)



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