5月下旬、日本重電大手の中国現地法人に勤務する日本人社員2人が中国東北部の大連市で拘束されていたことが、6月24日に判明しました。日中関係の悪化に加え、中国当局によるレアアース関連の輸出管理強化があるとみられ、邦人拘束リスクのさらなる高まりが懸念されます。
5月下旬、日本重電大手の邦人社員2名が大連で拘束
木原稔官房長官は6月24日午前の記者会見において、「邦人1名を5月18日に国家輸出入禁止貨物密輸罪に抵触した容疑で拘束した旨の通報を同19日に、また別の邦人1名を同25日に同容疑で拘束した旨の通報を同26日に、現地税関当局からそれぞれ受けております」とコメントしました。
木原氏によれば、2人の健康状態には特に問題ないようで、政府としては、邦人保護の観点から適切に対応していくとのスタンスを示しました。日本政府関係者がすでに現地で面会し、安否確認を行っているものと思われます。
原因はレアアースの対外輸出規制への抵触か?
今回、日本企業の社員が拘束された理由として、中国政府が輸出管理を強化しているレアアース(希土類)関連の物品を国外へ持ち出そうとする際の行為が、法令違反と見なされた可能性が指摘されています。
近年、中国が希少・戦略物資であるレアアース関連品目を巡る輸出規制を強化するなどして「武器化」してきた経緯については、本連載でも紹介してきました。そして、中国政府は特に、デュアルユース、すなわち軍民両用の品目に関する輸出規制を、具体的品目のリストアップを含め、大々的に強化してきています。
中国政府にとってのレアアースの輸出規制強化自体は、中国国内、国外を含め、全世界を対象とした国家戦略と言えますが、ここに来て、とりわけ日本への輸出が厳しくなっているのは、昨年10月に発足した高市政権に対する中国側の不満と反発が高まっているからです。
特に、高市早苗首相が11月の国会答弁で、台湾有事が「存立危機事態」になり得るとコメントしたのを受けて、中国側の高市政権へのスタンスは、単なる不満と不信ではなく、制裁措置発動という具体的なアクションにつながっていきました。
それが、今年1月6日のデュアルユース品目を巡る対日輸出規制、および2月24日に発表したデュアルユース品目に関する「禁輸リスト」(20社)と「監視リスト」(20社)の公表です。
今回の一件は、中国政府としてただでさえレアアース関連物資の輸出規制を強化し、手続きや取り締まりを厳格にしている状況に、日本への制裁措置が具体的に顕在化していく中で、発生したと見るべきです。要するに、単なる個別の案件ではなく、「起こるべくして起こった」は言い過ぎかもしれないですが、切実な背景が作用した結果と見るべきです。
輸出入を巡る密輸罪との罪名が中国の税関当局から日本政府へ通報されたとのことですから、本件は一刑事事件として扱われ、数年の実刑判決が下る可能性もあるでしょう。
【参照記事】
中国がレアアース磁石を禁輸した「背景」には何があるか?
「禁輸」巡る中国のレアアース戦略。貿易戦争と外交カード
中国が新年早々に電撃発表、レアアース対日禁輸はあるか?
中国が新たな対日禁輸措置を発動、その中身と影響は?
「邦人拘束リスク」の不透明な上昇に要注意。五つの要素
私は日本企業が対中ビジネスを展開する上で、特に習近平政権・新時代の中国市場という観点から見た場合、「邦人拘束リスク」を特に警戒し、然るべき準備と対策を取るべきだという立場で、分析をお届けしてきました。
中国では2014年に『反スパイ法』が制定され、その後2023年に改正されました。この期間、17名の日本人が同法違反で中国当局に拘束され、うち11名に実刑判決が下りました。「国家安全」を何よりも重視し、経済活動や市場原理は、この国家安全という「傘」の下で実施されるべきだというのが、習近平政権のかたくななスタンスです。
われわれとしては、中国と付き合う以上、それを好むか好まないかにかかわらず、それを前提として動いていく以外に方法はありません。
今回の案件については、『反スパイ法』ではなく、輸出入に関係する『密輸罪』とのことですが、拘束は拘束です。日本企業やその駐在員、出張者にとって「邦人拘束リスク」は対中ビジネスにとって深刻なリスクと認識され始めて一定期間がたちましたが、今回の一件は、そのリスクが一層不透明になっている現状を物語っていると言えるでしょう。
スパイ行為をすることだけが、拘束の理由ではないということです。今回の一件を受けて私も認識を新たにしましたが、現地で事業を行う日本企業、現地に赴く日本人が特に気を付けるべき事象・キーワードが五つあると考えています。
(1)サプライチェーン関連
中国政府は外国企業の中国におけるサプライチェーン周りの動向を、従来以上に国家安全に危害を与え得るという観点から注視しています。
(2)レアアース関連
中国政府は、有限な物資であるレアアース関連の品目を特に警戒しています。採掘、精製、化工、輸出、および関連データや技術、人材の海外移転などを含めてです。
(3)対外輸出関連
今回の一件とも関連しますが、対外輸出を巡る手続きが合法的に行われているかに関する審査が一層厳格になっています。
(4)情報調査活動関連
中国現地における市場調査、企業デューデリジェンス、実地調査などが、従来以上に監視され、それが中国の安全に危害を与えると判断される可能性が高まっています。
(5)軍事関連施設・区域関連
軍事関連施設・区域に(意図的かどうかはともかく)侵入したり、周囲で写真撮影をしたりしていると、その場で現行犯逮捕となる可能性が高まっています。
以上、(1)~(5)はいずれも拘束リスクにつながる、それを高め得る要因となると私は考えています。やはり、ビジネスをするにしても、身の安全以上に大事なことはないですから、中国で事業展開する日本企業、およびその関係者は、従来以上に多角的な視点で、拘束されないためにはどうすればいいかを考え、対策を練っていく必要があるでしょう。
(加藤 嘉一)

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